オーバーロードに宝石の導きを   作:万歳!

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第3話 旅の冒険者

(待て待て……)

 

 思考が急停止する。

 

 そして次の瞬間、モモンガは自らの迂闊さに呆れた。

 

(ジュエルシードと似たような願いを叶えるアイテムを、俺は持ってるじゃないか!!)

 

 何故今まで思い付かなかった。未知のアーティファクトばかりに意識が向いていたせいで、自分自身の資産を見落としていた。

 

 モモンガは静かにアイテムボックスを開く。無数に並ぶ自分自身の財産。その中から慎重に一つの指輪を取り出した。超位魔法、『星に願いを』を三回発動できる貴重なマジックアイテム。

 

 ゲーム時代では入手するだけして使わなかった最強の課金アイテムの一つだった。掌に乗せた指輪を眺めながら考える。この指輪は、アバターそのものを書き換えられるのだろうか。

 

「……ユグドラシルの魔法体系がそのまま続いているなら」

 

 答えは、おそらく否。そもそも、ユグドラシルのままならいくつか提示された願いを叶えるに過ぎない。もしそれが変化していて、本当にどんな願いでもかなえられるようになっていたとしても……。

 

 ユグドラシルでは職業レベルと種族レベルによって存在そのものが定義されている。アンデッドである自分を人間へ変える。

 

 それは超位魔法の範囲を超えている可能性が高い。仮に自分を人間にするなら、世界級(ワールド)アイテムが必要ではないだろうか? 試してみる価値はゼロではないが……失敗したときの損失が大きい。

 

 ゲームバランスを考えても、人間化するような魔法は存在しなかった。

 

(なら、この用途では使用できない)

 

 仮説を一つ切り捨てる。だが、それで終わりではない。

 

 別の利用法ならどうだ。

 

「例えば……情報を教えてくれる人物のところへ案内してくれ、とか」

 

 願いの解釈次第では可能かもしれない。自分自身を変えるのではなく、状況を変える願い。あるいは情報そのものを得る願い。

 

 指輪の仕様がゲームのままなら無理かもしれない。しかし、この世界では仕様そのものが変化している可能性も否定できない。

 

 そう考えながらモモンガは指輪を見る。

 

「ふむ……」

 

 指輪を眺めながら静かに頷く。これは一つの選択肢にはなる。

 

 だが――。

 

「問題は、超位魔法一回分と釣り合うだけの情報が手に入るかだな……」

 

 リソース管理。それはギルドマスターだった頃から染み付いた癖だった。一度使えば戻らない。その一回を無駄にしてしまえば、後で必要になった時に後悔する。

 

 未知の世界では尚更だった。

 

(……指輪を使うのは最後の手段だ)

 

 そう結論付ける。まずは自分自身で調査できるところまで調査する。その上で必要なら切り札を切る。それが最も合理的だった。

 

 となれば。

 

(とりあえずは、なのはとユーノを追跡しよう)

 

 ストーキングという言葉が頭をよぎり、自分でも少しだけ罪悪感を覚える。情報収集とはいえ、年端もいかない少女を尾行している事実は変わらない。

 

(全てが終わったら二人には何か詫びをしよう)

 

 心の中で手を合わせる。

 

(だから心の中のたっちさん。許してください)

 

 きっと「正面から事情を説明しろ」と叱られるだろう。もっとも、それができる状況ではないからこそ苦労しているのだが。

 

 そんなことを考えている間に、ジュエルシードに取り憑かれた生物は封印された。

 

 戦闘は終了。

 

 改めて一連の流れを思い返す。

 

(それにしても、本当に魔法少女のアニメに使えそうだな……)

 

 変身。

 

 杖。

 

 光。

 

 可愛らしい衣装。

 

 どこを取っても映像作品の演出そのものだった。

 

(まさか、本当に魔法少女の世界とか……)

 

 あり得ない。そう切り捨てようとして、すぐに思い直す。ゲームキャラクターの姿で過去へ転移している自分が、その「あり得ない」の象徴だった。

 

(ペロロンチーノさんなら死ぬほど喜びそうだな)

 

 目を輝かせながら設定資料を集め始める親友の姿が自然と浮かぶ。少しだけ笑みがこぼれた気がした。ユーノの話では世界は数多く存在するらしい。

 

 ならば、アニメのような世界が実在していても不思議ではない。

 

(……いや、今はそれは横へ置いておこう)

 

 空想より現実。仮説より検証。今優先すべきはそこではない。なのはたちの家は既に把握している。今日はこれ以上尾行する必要はない。

 

 モモンガは山奥へ移動した。人気もなく、人の気配もない。魔法実験を行うには十分な場所だった。

 

「アンデッド作成」

 

 魔力……それともスキルの能力と表現すべきだろうか? とにかくそれが大地へ染み込み、黒い霧が立ち昇る。やがて、その中から巨大な漆黒の騎士が姿を現した。

 

 死の騎士(デス・ナイト)

 

 ユグドラシルでも何度も使用した頼れるアンデッド。

 

「……成功した」

 

 静かに呟く。召喚ではない。作成スキルも正常に機能している。ならば他のスキルも問題なく使える可能性が高い。さらに時間を確認する。

 

 一定時間経過すると、《死の騎士》は光となって消滅した。

 

 その現象までゲームと同じだった。

 

「なら、他の魔法……超位魔法は使わない方がいいだろうな」

 

 むしろただの位階攻撃魔法ですら危険だ。この世界の耐久力が分からない。一発で街一つ吹き飛ばすような事態だけは避けたい。

 

「問題は、この世界にレベルが存在するかだが……」

 

 そこで新たな実験を思いつく。蘇生。もし成功すれば、この世界の死者を救える。上手くいけば宗教を開いて世界でのし上がることもできる……。

 

 同時に魔法体系も検証できる。しかし――。

 

「……いや」

 

 首を横に振る。情報不足。失敗した場合の影響が読めない。

 

 いきなり人間で試すには危険が大きすぎる。

 

(なら、まずは動物だ)

 

 実験は必ず危険度の低い段階から。それもゲーム時代から変わらない基本だった。森を探すと、小動物の死骸は意外なほど早く見つかった。

 

 蘇生のワンドを取り出し、慎重に魔法を発動する。淡い光。そして次の瞬間。死骸は音もなく灰となって崩れ落ちた。第七位階のワンドだからだろうか? 真なる蘇生なら成功したのか?

 

「……ここはゲームと一緒か」

 

 淡々と結果を受け入れる。

 

 第七位階の蘇生魔法では低レベルの対象は蘇生できない。

 

 あるいは蘇生条件を満たしていない。

 

 別の動物の死体を探す。すぐに見つかる。ワンドではなくスタッフで真なる蘇生を発動する。蘇ったようだ。ただし、全快という訳ではなさそうだ。実際に使用するなら、ポーションとの併用が必要かもしれない。

 

 これらの現象から少なくとも、ゲーム時代と似た法則は働いている。

 

「なら、レベルもあるのか? リアルの世界なのにか?」

 

 新たな仮説を記憶へ加える。まだ結論は出さない。検証項目が一つ増えただけだ。

 

(ひとまず、この世界に存在した魔法使いと名乗って、なのはたちを援護するのが最適か?)

 

 積極的に関わるつもりはなかった。だが、彼女たちが命の危険に晒された時くらいは助けよう。尾行したことへの詫びも兼ねて。

 

 それくらいなら、鈴木悟としても納得できる。モンスターの能力は《視覚化》できた。レベル表示こそ存在しないものの、戦闘能力は十分分析可能だった。

 

 近接戦闘でも危険は少ない。

 

 さらに死の騎士(デス・ナイト)を護衛につければ、安全性は大幅に向上する。

 

 実験結果も少しずつ集まってきた。

 

 焦る必要はない。

 

 一歩ずつ。

 

 確実に。

 

「さて……彼女たちは今後どんな風に動くかな」

 

 焦燥ではなく、探求心を胸に抱きながら、モモンガは再び静かな観察者へと戻っていった。

 

 そしてなのはが疲れた休日。被害が出ているな……まさか樹木があれだけ育って被害が出るとは。

 

 ふむ、なのはは自分の責任と思っているようだが……そうだな、ジュエルシードが危険なのは分かった。この世界を守るためにモモンガとして行動すべきか。

 

 だが、どんな立場で関わるべきか……。

 

 ふむ、こういうのはどうだろうか?

 

☆ ☆ ☆

 

 高町なのはは、自分を責めていた。

 

 あの時、確かにジュエルシードの反応を感じていた。

 

 でも、「気のせいかもしれない」と思ってしまった。

 

 その結果、街に被害が出た。

 

 もしもっと早く動いていたら。

 

 もし勇気を出していたら。

 

 そんな「もし」が頭の中を何度も巡る。

 

 胸が苦しくて、視界まで少し滲んでくる。

 

 それでも立ち止まってはいられない。

 

 ジュエルシードはまだ残っている。

 

 変身し、サーチの魔法を使おうとレイジングハートを握り直した、その時だった。

 

「手こずっているようだな?」

 

 低く落ち着いた男の人の声。

 

 驚いて振り返る。

 

「えっ……」

 

 思わず声が漏れた。

 

 そこに立っていたのは、今まで見たこともない人だった。

 

 全身を漆黒の鎧で包み、背中には大きな剣を二本。

 

 まるで絵本やゲームに出てくる騎士みたい。

 

 だけど、その姿はとても大きくて、近寄り難い迫力がある。

 

(えっ、何者ですか!?)

 

 怖い……とは少し違う。

 

 びっくりした。

 

 そんな気持ちが一番近かった。

 

「私はモモン。モモン・ザ・ダークウォリアー。旅の冒険者だ」

 

 鎧の人は静かな声で名乗った。偉そうでもなく、自慢するような口調でもない。まるで「今日はいい天気だ」と言うくらい自然だった。

 

「……冒険者? えっとモモンさん。あなたは管理局の人間ですか?」

 

 ユーノ君なら知っている人かもしれない。そう思いアイコンタクトをユーノ君にする。そうするとユーノ君が疑問を言葉にしてくれた。

 

 だけど返ってきた答えは予想外だった。

 

「……すまないが私は管理局を知らないな。ただ世界から世界を回って未知の物を見つけるために冒険をしている一人の戦士に過ぎない」

 

(世界から世界を回る……?)

 

 何だかすごいことを言っている。でも、不思議と嘘をついているようには見えなかった。落ち着いた声。堂々とした立ち姿。それに、何より。

 

 怖そうな見た目なのに、話し方はとても優しい。

 

「ああ。そこのマスコット君。すまなかった。君の声は聞こえていたんだが、あまり魔法は得意ではなくてね。探すのに手間取った」

 

「マスコット!? いや、でも。それならあなたも手伝ってくれるんですか?」

 

 ユーノ君が少しだけ慌てている。その様子が少しだけおかしくて、張り詰めていた気持ちがほんの少し軽くなった。

 

「事情は説明してもらうが、子どもだけにさせる事じゃないと思う。それに困っている人を助けるのは当たり前だからな」

 

 その一言に、なのはは思わず顔を上げた。子どもだけにさせることじゃない。その言葉は、まるで胸の奥へ優しく届くようだった。

 

 今日一日、自分が頑張らなきゃ。自分が失敗したから。そう思い続けていた心が、少しだけ軽くなる。

 

「あなたは、優しい人ですね……」

 

 気付けばそんな言葉が口から出ていた。するとモモンさんは少しだけ困ったように笑った気がした。

 

「なに、私はただ尊敬する人物の真似をしているに過ぎない」

 

(尊敬する人……)

 

 きっとその人も、モモンさんみたいに優しい人なんだろう。そんな気がした。その後、ジュエルシードを封印し終えたあとも、モモンさんは驚いたように魔法を見ていた。

 

 本当に管理局の人じゃないんだ。それなのに、自分を責めるより先に励ましてくれる。しかも責任があるのは大人だと言い切ってくれた。今まで誰にも言われなかった言葉だった。

 

「もし君が封印できなければ被害は多くなったかもしれない。そこだけは誇っていい」

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなる。

 

 失敗した。

 

 そう思っていた。

 

 でも、助けられた人もいた。そんな当たり前のことに、自分は気付いていなかった。きっとこの人は、とても強い人なんだ。剣が強いだけじゃない。

 

 人を安心させる強さを持った人なんだ。

 

 だからだろうか。

 

 出会ってまだ少ししか経っていないのに、不思議と「この人が一緒なら大丈夫」。

 

 そんな気持ちが、なのはの胸に芽生え始めていた。

 

☆ ☆ ☆

 

(ふぅ……上手くいった)

 

 内心で安堵の息を吐く。もちろん骸骨の身体である以上、本当に息を吐いたわけではない。気分だけの問題だ。ここまでは予定通り。少なくとも、なのはとユーノには信用してもらえた。とはいえ、気は抜けない。

 

 今の自分はそう『モモン・ザ・ダークウォリアー』という存在しない人物を演じている。主義主張はたっち・みーさんから借りて。

 

 アンデッドの姿が露見すれば、この世界での情報収集は一気に難しくなるだろう。顔を触られたら終わりだ。だからこそ、鈴木悟だった頃の顔を再現し、その上から大量の古傷を作った。

 

 多少不自然でも、「傷を隠すため」兜は顔を隠すためのものと説明できる。むしろ、相手の視線は傷へ向き、素顔そのものには注意が向かなくなる。

 

(……これくらいなら誤魔化せるはずだ)

 

 なのはの家へ向かう際も、アイテムを使って転移を用いた。そのアイテムをなのはに使わせた……。つまり自分の持つアイテムは、普通の人間でも使える。これは大きな手掛かりだ。

 

 徒歩で移動すれば警察に職務質問される可能性がある。この鎧姿では説明が面倒だ。余計な接触は避ける。それが情報収集の基本だった。

 

 残る問題は、高町家との対面。

 

 普通の家庭。

 

 普通の家族。

 

 こういう人たちを相手にする経験は、鈴木悟にはほとんどない。

 

(……とりあえず、俺は冒険者。困っている人を助けるのは当たり前。そう、たっち・みーさんの真似をしているんだ)

 

 何度も頭の中で設定を確認する。

 

 世界を旅する冒険者。

 

 未知を求める旅人。

 

 困っている人を助ける。

 

 嘘ではない。

 

 少なくとも今の自分は、本当に未知の世界を旅している。

 

 そう考えた瞬間。

 

 脳裏に、ナザリック地下大墳墓で自分が演じてさせていた「理想の英雄」の姿が浮かんだ。

 

(…………)

 

 埴輪。

 

 黒歴史。

 

 過去の自分。

 

 急いで思考から追い出す。

 

(違う違う違う! 必要だから冒険者を名乗っているだけだ! 俺は黒歴史を再演しているわけじゃない!)

 

 必死に自分へ言い聞かせる。そう。これは潜入任務。ロールプレイは手段でしかない。決して趣味ではない。

 

 ……多分。

 

「なのは、おかえ……なのは、離れるんだ!!」

 

 扉が開いた瞬間、空気が張り詰めた。

 

 速い。

 

 高町恭也が一瞬で自分に間合いを詰める。

 

 鋭い蹴り。

 

(武術か)

 

 反射的に腕を差し出す。

 

 鈍い衝撃。

 

 だが痛みはない。

 

 鈴木悟だった頃なら骨折していてもおかしくない一撃だった。

 

 しかし今の身体は違う。

 

 筋力も、防御力も、人間とは比較にならない。

 

 軽く受け止めるだけで済んでしまう。

 

(危ない)

 

 思わず力を入れ返しそうになる。

 

 それだけで相手の骨を折る可能性があった。

 

 慎重に。慎重に。今はただの冒険者として振る舞わなければならない。視線を向ければ、美由希はなのはを抱き寄せ、士郎も臨戦態勢へ入っている。

 

(いい家族だ)

 

 誰より先に、なのはを守ろうとしている。

 

 だからこそ。

 

 この家族を敵に回したくはなかった。

 

「待って欲しい! 怪しい者じゃない! 事情を説明させてくれ!!」

 

「どこからどう見ても怪しい者だろうが! 全身金属鎧に大剣を二本も背負っている人間がどこにいるんだ!!」

 

(その通りだ)

 

 内心で頷いてしまう。

 

 客観的に見れば完全に不審者だった。

 

 もっと普通の服を用意しておけばよかったかと思い……事情を説明するにはこの姿の方が良かったはずだと思いなおす。そうすでに賽は投げられたのだ。




明日からはロックマンゼロの方と交互に更新していきます('ω')
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