オーバーロードに宝石の導きを   作:万歳!

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第4話 家族

 目の前ではなのはの家族たちが自分と戦う意思を固めつつある。なのはを守るために。いい家族だ。なのはが何か言おうとしているが、止められている。戦うつもりはない。

 

「待って欲しい! 戦う意思はない! 私はモモン・ザ・ダークウォリアーという者だ! 事情を説明させてくれ! ユーノ、手伝ってくれ!」

 

 ここは一人で押し切る場面ではない。信頼を得ているユーノに任せる。その方が説得力は遥かに高い。案の定、混乱はさらに続いた。フェレットのユーノが喋る。

 

「えっと、皆さん! 落ち着いてください!! 事情を説明させてください!!」

 

「――ユーノがしゃべった!!??」

 

 当然、高町家はそちらにも驚く。

 

(……予想以上に混乱しているな)

 

 そして全員を静めたのは、桃子だった。

 

「みんな、静かにしなさい!!」

 

 一喝。

 

 それだけで一家が落ち着く。

 

(……この人が、この家の中心なんだな)

 

 自然とそう理解できた。リビングへ案内される途中、モモンガはわざと靴を履いたまま上がろうとした。当然、止められる。

 

(よし)

 

 目的通り。この世界の常識を知らない、異世界人らしさを自然に演出できた。知らないから間違えた。その印象を植え付けられれば十分だった。

 

 そして事情説明。

 

 できる限り事実だけを話す。嘘は最小限。その方が破綻しない。

 

「……話は分かりました。確かになのはは魔法を使っている。ではあなたは何者ですか?」

 

(来たか)

 

 一番重要な質問。

 

「私は世界から世界を飛び回り旅をしている。一応、冒険者です」

 

 できるだけ自然に。たっち・みーなら堂々と答える。自分もそうする。疑われる様子はない。さらに信用を得るため、アイテムボックスから一本の剣を取り出した。

 

(これなら惜しくない)

 

 ナザリックの秘宝ではない。

 

 それでも、能力を考えれば、リアルの世界では十分すぎる価値を持つ。士郎が剣を見た瞬間、目の色が変わる。剣士だからこそ、本物の武器は一目で見抜いたのだろう。息を吐きながら自分に返してくる。

 

「見事な剣です」

 

 その評価に、少しだけ嬉しくなる。ゲーム時代、アイテムを集めるのは好きだった。その集めたアイテムを褒められるのは嬉しい

 

「お近づきのしるしです。どうぞ受け取ってください」

 

「いや、こんな高価なものを頂くわけには――」

 

「――御覧の通り、私は常識に疎いのです。常識を教えてもらう対価として不足ですか?」

 

「いや、それぐらいならお教えしますよ」

 

 信用は金では買えない。だが、誠意は形にできる。そのつもりだった。案の定、断られる。そこも予想通り。高町家の人たちならそうする。だから対価を要求する。

 

 一般常識を。

 

 普通に教えてくれそうになっているので追撃をする。

 

 

 この世界で生活する知識。その方が自分には遥かに価値があった。そして兜を外す。一瞬。高町家全員とユーノ息を呑んだ。

 

(成功)

 

 傷へ視線が集まる。素顔ではなく傷。狙い通りだった。桃子も、美由希も、なのはも、傷を見て表情を曇らせる。だが漢達は違った。

 

 戦士? 剣士だからだろう。

 

「ユーノ君、魔法でモモンさんの傷を治せないの?」

 

 なのはが静かにユーノへ傷を治せないのかと問いかける。それに自分は大声で叫ぶ。

 

「何を言うんだなのは!! これは私の冒険の結果だ! それを治療するなんてとんでもない!」

 

 半分は演技。半分は本音。

 

 演技なのは、この傷が魔法の厳格で作られた偽物ということも。本音なのは、この魔法が確かにあのユグドラシルでの冒険の結果だということ。

 

 そして士郎さんが言った。

 

「ああ。確かにその気持ちは分かります……私にも傷がありますので」

 

「分かってくれますか? 普段は兜で隠していますが、やはりこの傷は勲章ですので無くしたくないんですよ……」

 

 士郎とは話が合うかもしれない。価値観がユグドラシルに近い気がする。何かスポーツいや古武術でもやってるのかもしれない。この人なら信用できると思う。少しだけ肩の力が抜ける。

 

「とはいえ、この傷で顔を隠さないのもTPOに会わないでしょうし……ユーノ君。君は幻影魔法を使えるか?」

 

「えっと、高等なのは使えませんが……傷を隠すだけなら」

 

 ユーノへ幻影魔法を頼み、この世界を旅するための問題を一つずつ無くしていく風に見せかける。

 

「とりあえず食事にしよう。モモンさんにも振舞いますよ」

 

 一番困る提案だった。自分はアンデッド。食事はできない。断る方法も考えている。

 

「いや、それは遠慮しておきます。私はアイテムで飲食や睡眠をしなくても生存できるようにしているので……」

 

「それは!! ……凄いアイテムですね。でも少しぐらい……」

 

(いや、本当に食べられませんから!!)

 

 心の中で叫びながらも、表面上は苦笑するしかなかった。

 

「いや、本当にもったいないですから! それと本音を言うと昔、冒険を始めたころ、食事が合わなくて体調を崩したことがありまして……それ以来、食事のお誘いは断るようにしてるんです……申し訳ないですが」

 

「……それなら、仕方ないですね」

 

 少しだけ食卓が静かになった。それを嫌ったのか、なのはが言った。

 

「その、モモンさん。もしよかったら何ですが、どんな世界を旅してきた教えてくれませんか?」

 

「ふふふ、自慢話になるかもしれないが、話を聞いてくれるのかい、なのは?」

 

「はい!! ぜひ聞かせてください!!」

 

 そしてなのはは自分の隣座り、冒険を聞かせて欲しいと言ってきた。それに対して、ユーノは士郎たちに囲まれ、矢継ぎ早の質問へ懸命に答えていた。

 

「なのはに危険はないのか」

 

「魔法というものは安全なのか」

 

「これからも戦わなければならないのか」

 

 家族として当然の問いだった。ユーノもそれに誠実に答えている。そして、その答えを聞きながらモモンガは静かに分析する。

 

(ユーノの話を総合する限り……なのははかなり特別な存在らしい)

 

 あれだけの魔法を扱える少女でありながら、まだ初心者。もし彼女がこの世界の平均なら、この世界はユグドラシルに匹敵する危険地帯だ。だが、どうやらそうではない。

 

 ならば少なくとも、この地球という世界に限って言えば、危険度はそれほど高くないのかもしれない。

 

 モモンガは情報を一つずつ整理しながら、静かに次の一手を考え始めていた。

 

☆ ☆ ☆

 

「今の私は一人で冒険を続けているが、一緒に冒険をした仲間がいたんだ」

 

 モモンさんはどこか懐かしそうにそう言った。さっきまでの落ち着いた話し方とは少し違う。まるで、大切な宝物を思い出しているような優しい声だった。

 

「どんな人たちだったんですか?」

 

 思わず身を乗り出してしまう。

 

 モモンさんみたいに強くて優しい人が尊敬する人なら、きっとすごい人なんだと思った。

 

「ふふふ、そうだな。私がお手本にしている、純白の聖騎士。私の信条である、困っている人を助けるのは当たり前……この信念を私に教えてくれた……最高の仲間で友人だった」

 

(純白の……聖騎士)

 

 絵本に出てきそうな人だ。でも、モモンさんが話すその人は、本当にいた人なんだ。そのことが不思議と伝わってくる。きっと、とても尊敬していたんだろう。

 

 だから話すだけで少し嬉しそうなんだ。

 

「それ以外にも、悪であることに括った仲間もいた。その人が悪に括ったのは、悪を滅ぼせるのはより巨大な悪という信念を持っていたからだ」

 

「……何だかそのお二人ぶつかり合いそうですね」

 

 思わず笑ってしまう。何となくだけど、正反対の考え方に聞こえたから。するとモモンさんも小さく笑った。

 

「ああ、実際何度も何度も激突していた。私や他の仲間が止めても、それは続いていた。だけどきっと根底に流れるのは一緒だったと思う。不幸な人を無くしたいというのは……」

 

 そう話すモモンさんは、本当に楽しそうだった。まるで昨日の出来事を話しているみたいに。きっと、その人たちと過ごした時間が大好きだったんだ。

 

「素晴らしい人たちなんですね!! 私も会って――」

 

 その瞬間だった。

 

「――なのは」

 

 お父さんの静かな声。優しいけれど、少しだけ真剣な声だった。どうしてだろう。その一言だけで、胸が少しざわつく。

 

「どうしたのお父さん?」

 

 そう聞くと、お父さんは少しだけモモンさんを見た。モモンさんも、さっきまで浮かべていた穏やかな雰囲気が少しだけ変わっていた。

 

 楽しそうだった目が、どこか遠くを見ている。

 

「いや、士郎さん。気を遣わせてしまったようで……なのは、私の友人たちは皆それぞれの宿命に戦いを挑んで……亡くなったんだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、息が止まりそうになった。

 

(えっ……)

 

 亡くなった。

 

 その一言が頭の中で何度も繰り返される。さっきまで楽しそうに話していた人たち。もう誰一人、この世にはいない。

 

 だからモモンさんは一人で旅をしている。そのことにようやく気付いた。

 

「――ごめんなさい」

 

 何を謝ればいいのか分からなかった。でも、謝らずにはいられなかった。きっと私は、モモンさんが一番思い出したくて、一番思い出したくなかったことを聞いてしまった。

 

「謝る必要はない。私が話し出したんだ」

 

 モモンさんはそう言って笑った。でも、その笑顔は少しだけ寂しそうだった。

 

「だけどなのは。私から言えるのは、親友がいつまでも傍にいると思うのは間違いだ。もしかしたら、明日、親友が亡くなるかもしれない……話したいことはたくさんあった。もっと一緒に冒険したかった。それを言えずに俺に残ったのは後悔だけだ」

 

 一つ一つの言葉が胸に響く。その言葉は、誰かから聞いた話じゃない。モモンさん自身が経験した、本当の後悔なんだ。だからこんなにも重い。だからこんなにも悲しい。

 

 私は無意識に、自分の友達の顔を思い浮かべていた。

 

 アリサちゃん。

 

 すずかちゃん。

 

 学校で一緒に笑ってくれる、大切な友達。もし、その二人が明日いなくなったら。そう考えた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。

 

「……私も友達に魔法使いになったことを話すべきなんでしょうか?」

 

 自分でも驚くくらい自然に、その言葉が口からこぼれた。モモンさんなら、答えを知っている気がした。だけどモモンさんは、すぐには答えなかった。

 

 少しだけ考えるように目を閉じ、それから静かに口を開く。

 

「さて、な。ただどんな選択をしても、自分に嘘を付くのをやめるべきだ。ユーノとよく話し合うといい」

 

 それは答えではなかった。でも、不思議と納得できる言葉だった。きっとモモンさんは、自分で決めることの大切さを教えてくれたんだ。私は小さく頷きながら、その言葉を胸の奥へしまい込んだ。

 

☆ ☆ ☆

 

 少しは罪滅ぼしができただろうか。そんな考えが胸をよぎる。なのははまだ子どもだ。

 

 本来なら学校へ通い、友人と笑い、家族と過ごす。それだけで十分な年齢である。それなのに、魔法という秘密を抱え、一人で戦おうとしていた。

 

 秘密を抱える苦しさは、自分にもよく分かる。

 

 ギルドマスターとして仲間の前では弱音を吐かなかったこと。

 

 社会人として会社では本音を押し殺し続けたこと。

 

 そして最後には、誰にも本心を打ち明けられないまま一人になってしまったこと。

 

 ヘロヘロさんに最後まで一緒にいませんかと言えなかったのは心からの後悔だ。少しでも自分が勇気を出していれば……。

 

 だからこそ思う。

 

 少しでも彼女の負担が軽くなってくれればいい、と。そんなことを考えながら、モモンガは鎧を脱ぎ、士郎から借りた服へと袖を通した。

 

 少しだけ大きい。だが、鎧姿より遥かにこの世界へ溶け込める。布越しに自分の腕へ視線を落とす。見えているのは鈴木悟の腕。

 

 しかし、その下に存在するのは骸骨の肉体だった。幻術によって作り出された偽りの姿。下手に触れられないようにしなければ。

 

 肩を叩かれるだけでも危険だ。握手など論外。何気ない日常の触れ合い一つで、自分がアンデッドであることを知られてしまう可能性がある。

 

(……いや)

 

 もし知られたとしても、なのはたちなら受け入れてくれるのではないか。一瞬そんな考えも浮かぶ。あの子たち……あの人たちは心を見てくれるような気がする。

 

 だが、それは甘えだ。期待するべきではない。それに、自分がアンデッドだと知れば、高町家へ余計な危険を招くかもしれない。

 

 正体を明かすのは、本当に最後の最後。

 

 それまでは異世界の冒険者、モモン・ザ・ダークウォリアーでいよう。そして次の日。なのはは友人たちへ事情を説明する決断をしたようだった。

 

(よく決断したな……)

 

 それが正しいかどうかは分からない。だが、自分で決めた。そのこと自体に意味がある。少なくとも何もできなかった自分より偉い。

 

 そして、これ以上は自分が口を挟むべき問題ではない。だから「調査」という名目で、高町家を後にする。街を歩けば、見るもの全てが新鮮だった。

 

 車。

 

 電車。

 

 整備された道路。

 

 ゲームの世界とも、自分が生きていた荒廃した未来とも違う。生きた文明がそこにはあった。そんなことを考えながら歩いていると――。

 

 見てしまった。巨大な猫を。一瞬だけ思考が止まる。

 

(……本当に猫か?)

 

 魔獣ではない。アンデッドでもない。ただ巨大化した猫。それだけにしか見えない。理解が追いつかない。近くにはなのはたちがいる。

 

 合流した方が情報も集めやすいだろう。

 

 モモンガは再びモモンの姿となり、漆黒の鎧を身にまとい、大剣を背負って高く跳躍した。風を切り裂き、なのはたちのすぐ横へと飛び降りる。

 

 土煙が小さく舞う。

 

 そこにはなのはだけではなく、恭也となのはの友人たちの姿もあった。

 

「ユーノ、これはどういう状況だ」

 

「……多分、ネコの『大きくなりたい』という願いを叶えたんじゃないかと……」

 

「……ジュエルシード。厄介なものだな」

 

 願いの叶え方があまりにも大雑把だ。願いを読み取り、突拍子もない方法で実現する。まるで命令だけを機械的にくみ取り真意を理解せずに実行するプログラムのようだった。

 

(なら、人間に戻りたいという願いも危険か)

 

 肉体だけ人間になるのか。精神だけ変わるのか。あるいは、全く別の形で願いが叶えられるのか。情報が少なすぎる。少なくとも現時点で試すべき代物ではない。

 

(……とりあえずは、今回の事件を解決したら秘境でも見に行くか)

 

 ユーノの話では世界はいくつも存在する。

 

 ならば未知の文明。未知の遺跡。未知の魔法。そういったものを見て回るのも悪くない。その頃には、自分の身の振り方も決まっているかもしれない。

 

 周囲ではなのはの友人たちが、自分と巨大な猫を見比べながら何やら騒いでいる。

 

 まあ無理もない。漆黒の鎧を着た男など、この世界では十分怪しい。だが今は猫が優先だ。その時だった。空気が震えた。

 

(……魔力?)

 

 いや、違う。ユグドラシルの魔法とは感覚が異なる。もっと滑らかで、流れるような魔力。それでも確かに魔法使いが近付いてくる。

 

「ユーノ!?」

 

「はい!! これは、魔導士がいる!? なのは!!」

 

 ユーノの声で確信する。やはり魔導士。

 

 モモンガは即座にアイテムボックスから飛行のペンダントを取り出して装備した。大剣を抜く。二刀流だ。なのはが変身を終えるのを横目で確認する。

 

 直後、巨大な猫へ魔法が撃ち込まれた。猫の身体が揺れる。

 

(目的は猫ではない)

 

 ジュエルシードだ。

 

 ならば、あの攻撃は封印のため。

 

 殺すことが目的ではない。

 

 そう判断した。その隙を逃さず、一気に間合いを詰める。敵へ向かって大剣を振り下ろした。当然のように避けられる。

 

(速い)

 

 身体能力だけでも相当高い。だが、問題はそこではない。相手がどんな魔法を使うのか。それが全く分からないことだった。

 

「……少女、だと?」

 

 体格差を考えれば避けられるのは当然だった。

 

 少女は表情一つ変えずこちらを見る。

 

「申し訳ないけど、ジュエルシードは頂いて行きます」

 

 その一言を聞きながら、モモンガは思考を巡らせる。

 

(引くべきだ)

 

 相手の能力が分からない。戦う理由も分からない。ジュエルシードを渡してでも撤退してもらう方が合理的だ。未知を相手に無理をする愚かさは、ユグドラシルで嫌というほど学んできた。

 

 準備不足で挑んだレイド戦。全滅。そんな経験は一度や二度ではない。だが、その時。一人の男が脳裏へ浮かぶ。純白の鎧をまとった英雄。たっち・みー。

 

(たっちさんならどうする?)

 

 逃げるだろうか。いや。まず相手を知ろうとするはずだ。話し合える相手なら、剣を交える必要はない。そしてもう一人。

 

 ウルベルト。

 

 彼なら相手の目的を探り、利用できるかどうかを見極めるだろう。

 

(なら、まずは交渉だ)

 

 戦うのは、その後でも遅くない。

 

「少女よ! 私はモモン! モモン・ザ・ダークウォリアー! 魔法を放たれたから抵抗したが、君はなぜジュエルシードを集める!? 理由次第では君に協力してもいい!!」

 

「ちょ、モモンさん!!」

 

「黙っていろユーノ!! 私の目的はこの星に危害を加えないためにジュエルシードを集めている! 君の目的は何だ!?」




更新を交互に続けていくのは私には無謀でした。少し投下頻度落ちます
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