今回はとある3人の静かな宴のお話。
明日も午前、午後に一話ずつ投稿します。
ここは瀞霊廷、貴族街の京楽邸の門の前。
「......」
「......」
そこでは白髪の美少女の様な少年と、巨大で肌が黒い男が無言で見つめ合っていた。
「おや、珍しいお客さんだ」
そうこうしている内に門が開き家主である京楽春水が顔を出す。
「......京楽総隊長、お招きいただきありがとうございます」
「いいよいいよ、間街くん、そんなに畏まらなくて」
「......そう?」
「うん。で君はどうしたのかな?茶渡くん」
「......約束を果たしに来た」
「約束?」
「昔、酒を飲もうと言ってくれた」
「あぁ......!」
京楽は少し目を丸くして、それから嬉しそうに笑う。
「君、本当に覚えてたんだねぇ」
「約束だからな」
「今日は間街くんもいるんだけど、構わないかい?」
「......問題ない」
「初めまして。間街白亜」
「茶渡泰虎だ」
「......自己紹介も終わったし、上がりなよ」
京楽の後を追って茶渡と白亜は京楽邸へと入っていく。
3人は縁側に腰掛けゆっくりと酒を傾ける。
「間街くん、そのお猪口、本当に綺麗だねぇ」
「虚弾で作った切子硝子です」
「......器用だな」
「普通そこで驚かないの?」
「なんなら最近黒棺で作った漆器の盃もあります」
「......綺麗だな」
「......お土産にどう?」
「......嬉しいが、俺より空鶴さんに似合いそうだ」
「......なら、後で木箱に詰めておく」
「......良いのか?」
「......構わない」
「ありがたい」
「いや、話進めないで、黒棺であることを指摘しよう?」
「茶渡くん、お酒どうだい?」
「......悪くない」
「総隊長。この日本酒、美しい」
「二人とも感想が短すぎない?」
「この美しさの前では長い感想は却って蛇足」
「......確かに」
「え〜、僕としてはもうちょい長い感想が聞きたいけどなぁ」
静かにゆっくりと、しかし、静寂というほど悲しくなく、少し温かな時間が過ぎる。
そんな中、酒が回ったからか白亜はボソリと茶渡に言う。
「......私は元十刃だ」
「そうか。今は違うのだろ」
「......そう」
「いやぁ、茶渡くんって本当にいい男だねぇ」
「......総隊長、この切子硝子にもお酒注いで良い?」
ふと、白亜が水色と緑色の切子硝子で出来たお猪口を手に持って京楽に尋ねる。
「ん?それって......。2人もお酒好きだったのかい?」
京楽はそのお猪口から感じる霊圧で誰の虚弾で出来ているかを理解し、白亜に聞き返す。そんな京楽に白亜は水色のお猪口を持っている方の手を上げながら答える。
「こっちはよく飲んでた。まあ、洋酒が多かったけど。こっちは......茶渡泰虎のお陰で約束を思い出した」
「...ん?」
静かに話を聞いていた茶渡が首をかしげる。
「『いつか、アイツみたいに酒を飲もうぜ』って、約束した。......彼女は半身であるスタークが美しくお酒を傾けている姿に憧れていただけかもしれないけど」
「へぇ~、あの子が......ならちょっと待って」
そう言って京楽は席を立ち、何処かへ行ってしまう。
「あったあった。コレにもお酒、注ごうか」
京楽はそう言って持って来た白磁に二匹の金魚が描かれている盃と白亜が出したお猪口にお酒を注ぐ。
「...アイツは身体が弱かったから偶にしか一緒に飲めなかったけど、その時はこの盃をよく使ってたからさ」
「...そうか」
「...そう」
お酒の入った3つの器を縁側に並べて置く。
「あ。でも、浮竹がいたらリリネットちゃんの飲酒を止めるかな?」
「…リリネットが泣く」
「...それは流石に可哀想だ」
「はははっ。なら、今回は目を瞑って、一緒に楽しんでもらうかな」
京楽の言葉に白磁の盃に入ったお酒が1つの波紋を作った。
「今日は、お酒の減りが多い気がするねぇ」
「……そうかもしれない」
「……賑やかだった」
「いやいや、君たち二人ともほとんど喋ってないじゃない」
元旅禍・元総隊長・元十刃そんな奇妙な巡り合わせの3人の酒を傾ける音が闇夜に溶けて行く。
器に注がれたお酒の揺れる波紋だけが、その夜の宴を知っていた。