BLEACH『未来奇譚篇』   作:春囃子風

21 / 23

今回はある少女の過去回です。

今日は別の『BLEACH』のクロスオーバー小説を新規で投稿予定です。
タイトル:BLEACH 『伊豆事変』

コチラの次話は明日投稿予定です。



Playing The Slacker――怠惰と成す

 

ある少女の話をしよう。

 

彼女の生前は「幽霊が見える」ことを気持ち悪がられ両親に捨てられ、そこをとある研究者に拉致られ、実験体となった。

実験の目的は「ホロウに対抗できる強い戦士を手軽に作れるように」「多くの同胞死神が命を落とさないように」。

安易に手に入る霊圧が高い人間の子共を材料に、仲間の死を減らすための研究を行なっていた。

研究の責任者の名前を『禍根条灘羅かこんじょうなだら』と言い、修多羅千手丸しゅたらせんじゅまるくろつちマユリが所属していた研究チームのメンバーの一人だった。

彼は、涅マユリの人造死神のデータとザエルアポロの人造大虚メノスのデータ、そして、由嶌欧許ゆしまおうこのモッドソウルのデータを使用する方法を考えた。

やり方として、元々霊力の高い生きた人間の魂魄に亡くなった隊長格の霊圧ないし魂魄の欠片を流し込み改造することで、魂魄自体を強化させようとしたのである。

しかし、他人の魂魄、しかも隊長格の強大な霊圧に、幼い、それも人間の魂魄が耐えられるはずも無く、この実験で全ての被験者が一度死に、多くの者の魂魄が拒絶反応による魂魄消滅を起こす事となった。

この時、余りにも多くの魂魄が魂魄消滅を起こしたことが不幸中の幸いと言えるのかもしれない。

瀞霊廷の技術開発局がその反応をキャッチしたのだ。事態を知った護廷十三隊の介入により研究にいた研究員と灘羅は切り捨てられることとなる。

件の少女は運良く魂魄消滅を免れ死神に転生しており、当時総隊長だった京楽春水きょうらくしゅんすいに保護されたという。

 

 

 

 

 

 

瀞霊廷・技術開発局

 

「…霊王の欠片?」

 

阿近あこんから話を聞いていた京楽春水が訝しげな声を上げる。

 

「ええ。彼女が今回の実験で魂魄消滅をしなかったのは、どうやら彼女の中にある霊王の欠片、『霊王の海馬』によると思われます」

 

「……その言い方からすると欠片のお陰と言うよりはその海馬の何かしらの作用のお陰なのかな?」

 

「そうです。『霊王の海馬』の力はどうやら『定着』らしく、普通は相容れることのない他人の魂魄を自身の魂魄に定着させ、変化させたものと思われます。そう、まるで“最初からそうだったかのように”」

 

「…………それは、「別人になる」ってことで良いのかな?」

 

「…難しいところですね。実際、彼女は人間だった頃の記憶がありませんし、あの研究所にあったデータを見る限り、髪と瞳の色が現在の色に変化したとのことですので。魂魄に何かしらの変化があったと見ています」

 

研究所から回収したデータには黒髪黒目が実験後、白髪と黄緑掛かった黄土色の瞳に成ったと書いていた。そのデータを見ながら京楽は呟く。

 

「そっか。……ところで、髪と瞳の色からもしかしてって思ったんだけど、……流し込まれた他人の魂魄って、浮竹うきたけのかい?」

 

「……ええ、十三番隊の浮竹元隊長のモノです」

 

阿近の答えを聞いて京楽は編笠を深くかぶる。

 

「……モッドソウルの発案をした浮竹の魂魄が使われるとは」

 

「……」

 

「はぁ、何とも皮肉だねぇ」

 

「……浮竹隊長の魂魄との融合率については、今後も検査が必要です」

 

「阿近くん」

 

「はい」

 

「この子、まだ名前もないんだろう?」

 

「ええ。記憶もありませんから」

 

「だったら……」

 

京楽は眠っている少女を見る。

 

「この子、僕が育てるよ」

 

 

 

 

 

 

一番隊舎

 

「それで、京楽。この娘の名前、どうするん?」

 

一番隊舎に書類を提出しに来た八番隊隊長の矢胴丸やどうまるリサが京楽に質問を投げかける。

 

「ん〜、そうだねぇ。ねえ、君」

 

「…………」

 

京楽は膝を折り、隣にいる少女と同じ目線にして、優しく彼女に話かける。

 

「いつまでも『君』じゃ不便だからさ。名前、どうしようか」

 

「……知らない」

 

「そりゃそうだ」

 

「…………」

 

「昔の名前、調べることもできるよ」

 

「……いらない」

 

「そっか」

 

「…………」

 

彼女は少し黙ってからポツンと溢す。

 

「この人」

 

「ん?」

 

「……私の中にいる人」

 

彼女の言葉に京楽の心が僅かに揺らぐが、それを表情に出さず、声も優しいまま、彼女に語りかけるように質問する。

 

「浮竹のこと?」

 

「……うん」

 

「…………」

 

「どんな人だった?」

 

京楽は一瞬表情に困るが、その後、「ん〜」と唸り始める。実際、浮竹と言う人物をしっかり説明しようとすると一日では足りない。

 

「……そうだねぇ」

 

さて、どうしたものかと考え、言葉を紡ぐと、彼女の方から質問してきた。

 

「強かった?」

 

「強かったよ」

 

「偉かった?」

 

「隊長だったからね。でも、」

 

「…………」

 

「そういうのより――」

 

京楽は少し笑いながら彼女を見て言う。

 

「優しい奴だったよ」

 

「…………」

 

「どうしようもないくらいね」

 

京楽の言葉を聞いた彼女は静かにゆっくりと言葉を発す。

 

「…あの、う、浮竹を名乗っちゃダメですか!」

 

「……何故?」

 

京楽は一瞬驚くも、直ぐ様微笑み、彼女に優しく疑問を投げかける。そんな京楽に彼女は拙いながらもはっきりと言う。

 

「……何でかわからないけど、しっくりきたんです。……浮竹を名乗って、良いですか?」

 

彼女の言葉に京楽は腕を組み悩む。が、

 

「ん〜、まあ良いか」

 

「ええんか?」

 

「良いんじゃない?この娘が名乗りたいって言ったんだ。それにーー」

 

リサの問いに京楽はいつものように飄々と答えるが、その後、優しく、それでいて寂しそうな声で言葉を紡ぐ。

 

「浮竹なら『構わないよ。寧ろありがとう』なんて言うと思う」

 

「………」

 

「さて、苗字は『浮竹』で良いとして、あとは名前だよねぇ」

 

「あの、『とより』と言うのはどうでしょう?」

 

ここまで話を聞いていた一番隊副隊長の伊勢七緒いせななおが小さく手を上げて、名前の候補を出す。

 

「『とより』?どう書くん?」

 

「えっと、平仮名で『とより』です」

 

「ふ〜ん。ええやん。可愛いし」

 

リサが賛成する隣で京楽が反対の声を上げる。

 

「七緒ちゃん、それは縛り過ぎじゃない?」

 

「………分かりますか」

 

「まぁね。とよりって漢字で書くと十四にことわりでしょ?」

 

「…はい」

 

「この娘は"浮竹"を名乗るって決めたけどアイツ本人では無いんだよ?」

 

「………はい」

 

京楽が七緒に優しく諭すように言う。それを聞いていたリサが徐に少女へと話かける。

 

「なあ。君はどんな名前がええ?」

 

「リサちゃん?」

 

「………『とより』。可愛いと思う」

 

「ホンマに?もっと可愛い名前や何ならカッコいい名前も考えるで。遠慮はしなくてええで?」

 

「ううん、『とより』が良い」

 

今までより大きな声で少女が言う。

 

「…やって、京楽」

 

「……」

 

「なら、アンタが漢字当てればええやろ。十四に理やのうて、他の意味を持つ『とより』って名前を」

 

リサにそこまで言われ、京楽はしばし考える。そして、

 

「『都依とより』。みやこが依そうと書いて『都依』ってのはどうかな?」

 

「……『都依』。ええんやない?」

 

「はい、良いと思います。ですが、『都が依そう』なんですか?『都に依そう』ではなく?」

 

「……この娘の都は今日から瀞霊廷だからね。『瀞霊廷の為に』じゃなく、『瀞霊廷の皆が依り添ってくれる』ように」

 

「……都依」

 

京楽の言葉に少女が呟く。そして、はっきりと言い放つ。

 

「私の名前は『浮竹都依』」

 

「そうだよ」

 

都依は一つ頷いた後、3人に頭を下げる。

 

「浮竹都依と言います。今日からよろしくお願いします」

 

そんな都依に3人は一瞬、呆気にとられるが直ぐ様気を取り直し代表で京楽が答える。

 

「よろしくね。都依ちゃん」

 

この日、一人の少女・浮竹都依が誕生した。

 

 

 

 

 

 

そして、月日は流れる。

 

「都依、新しい漫画。浦原商店うらはらしょうてんから届いたで。一緒に見よ」

 

「見る!」

 

「矢胴丸隊長、都依を仕事をサボる出しに使わないでください」

 

「ええやん、七緒。アンタの小さい頃も絵本読み聞かせたんやし、似たようなもんや」

 

「絵本読み聞かせと漫画を一緒に読むのは違うと思いますが」

 

「同じや。同じ布教活動や」

 

「布教活動?」

 

「せやで、都依。自分の好きを相手にも好きになって貰いたいと思う行動のことや」

 

「へ〜」

 

「良いこと言ってるような雰囲気出してますが仕事してください」

 

 

 

 

 

 

「都依ちゃん。ここの茶屋はね、みたらし団子が美味しいんだ」

 

「そうなの?京楽さん」

 

「そうだよ。……よし、お茶してこう」

 

「こう!」

 

「京楽隊長、この後、用事があります」

 

「大丈夫、大丈夫。四十六室のお偉い様方には待っていてもらおう。娘の為だ。分かってくれるよ、きっと」

 

 

 

 

 

 

「京楽さん!京楽さん!」

 

「ん?どうしたの都依ちゃん」

 

「滅多に入らない現世の2.5次元舞台のチケット手に入れたから一緒に行こう!」

 

「へ〜、今の舞台ってこんな感じなんだね。もちろん良い――」

 

「良くありません。仕事があります」

 

「……七緒ちゃん、ちょっとくらい良いじゃない」

 

「良くありません」

 

「……七緒さん」

 

「なんです?都依」

 

「……七緒さんとリサさんも誘いたかったんだけど、ダメ?」

 

「………総隊長」

 

「何?」

 

「明日からはちゃんと仕事してください」

 

「は〜い」

 

 

 

 

 

 

「都依。アンタ、だらけるなら死覇装から肩出しい」

 

「なんで?」

 

「そっちの方がエロいからや」

 

「なるほど〜」

 

「ちょっ!矢胴丸隊長!都依に変なこと教えないで下さい!!」

 

 

 

 

 

 

「君の冥土蓬莱めいどほうらいが尸魂界の歴史上三振り目となる二刀一対の斬魄刀と成ったのは、他人の魂魄が定着したからだろうネ」

 

「へ〜」

 

「さらにデータによると魂魄にあのザエルアポロが作ったロカ・パラミアの能力データを流し込まれた痕跡がある。君の始解の能力が『理解した技のコピー』なのはそこに由来するヨ」

 

「ほ〜」

 

「……君自身のことだヨ。もう少し驚いたらどうだネ」

 

「え?驚いてますよ?ただ、騒ぐのもコスパ悪いですし」

 

「………五月蝿うるさい反応も煩わしいが静かなのは静かで、面白みがないネ」

 

 

 

 

 

 

「そういえば、都依ちゃんの斬魄刀もそれぞれ名前があるんだよね?」

 

「うん。執事服を着た男装の麗人が『あかざ』で、メイド服を着たショタっ子が『よもぎ』」

 

「へ〜、僕のおはなやおきょうみたいだね」

 

「ね〜」

 

「………魂まで『父親の真似したい娘』みたいになっとるやん」

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで数十年後。

 

「都依。あんた、ウチの代わりに八番隊の隊長やりい」

 

八番隊舎に遊びにきて、仲良くなった熊如ゆゆと遊んでいた都依にリサが言ってきた。

 

「……なんで?」

 

「リサ姉、イキナリ過ぎてマジウケる〜」

 

「卍解使えるやろ」

 

「いや、使えるけど、そうじゃなくて。私、何処の隊にも所属してないよ?」

 

そう、京楽や七緒、リサにいざと言う時の為と死神としての訓練は受けていて、さらに卍解を習得してはいるが、彼女は現在、護廷十三隊に属してはいない。

 

「普通、リサさんの後って副隊長のゆゆなんじゃないの?」

 

「熊如はまだ卍解習得してへんし」

 

「いえ〜い」

 

何故か熊如は誇らしげに笑いながらダブルピースをしている。

 

「……ゆゆは置いといて、こんなぽっと出の人が隊長なんて、他の隊士の人が納得しないんじゃない?」

 

「それについてはそうでも無いで。八番隊舎によく遊びに来てるからほとんど顔なじみやし、昔の喜助はぽっと出で十二番隊の隊長になったしな」

 

「……」

 

考え込む都依にリサが続ける。

 

「それに、八番隊は京楽の古巣やし」

 

「ならやっても良いかな」

 

都依、即答だった。

 

 

 

 

 

 

隊長になる方法は主に三つ存在する。

 

一つ、隊首試験に合格する。

主に卍解を披露して実力を示す試験。総隊長を含む3名以上の隊長の立ち会いのもとで行われる。

 

一つ、他の隊長からの推薦を受ける。

3名以上の賛成や、過半数の承認などを得る方法。

 

一つ、現隊長を1対1の対決で倒す。

200人以上の隊員の立会いのもと、現役の隊長と1対1で戦い勝利する方法。

 

都依が取った方法は隊首試験である。

当日。

総隊長の京楽春水を始め、三番隊隊長・鳳橋楼十郎おおとりばしろうじゅうろうことローズ、五番隊隊長・平子真子ひらこしんじ、九番隊隊長・六車拳西むぐるまけんせいの4人が立ち会うこととなった。

 

 

『卍解 冥土蓬莱永劫回帰めいどほうらいえいごうかいき

 

 

「……それで、どのルートが良いですか?」

 

都依の言葉の後、卍解を喰らった4人のうち一番最初に平子が騒ぎ出す。

 

「エグ!?いやいや、「どのルートが良いですか?」やないわ!京楽さん、アンタ育て方間違えてません?!」

 

「素直で良い子なんだよ?」

 

そんな答えをほざく京楽に拳西とローズが返す。

 

「素直ってか、真面目に殺され方を選ばせてるじゃねぇか。悪意がない分たちが悪い」

 

「これで、死神どころか武器を持った殺し合いすら始めて数十年って。なんだろう、悲しくなってくるよね」

 

感想を一通り言った後、平子と拳西が愚痴り出す。

 

「…逆撫さかなで、真っ向から攻略されるんかいな。なんで、逆様の感覚に数秒で馴染めんねん」

 

「俺なんて全て読まれた挙句、攻撃モーションの起点を悉く潰されたんだぞ。しかも最後は断風たちかぜの『殴る斬撃』をコピーしやがった」

 

 

 

 

 

 

都依が隊長に就任した最初の隊首会議。

 

「…………」

 

都依は無言のまま八番隊の隊長羽織りを見つめていた。

 

「なんや、思う所があるん?」

 

「……これ、袖通さないとダメ?」

 

「好きにしたらええ」

 

「じゃあ肩にかける」

 

「都依、いえ、都依隊長!初日くらいちゃんと着てください!!」

 

七緒に注意されている都依を京楽は遠くから見て呟く。

 

「似合ってるよ、都依ちゃん」

 

 

 

 

 

 

現在、八番隊舎

 

「あ〜、今日の分の仕事終わった〜」

 

「はい、お疲れさまです。浮竹隊長」

 

定時の僅か前。景博けいはくに連れ戻された都依が今日の分の仕事を終えて背伸びをしていた。

 

「とよ姉。いつも定時迄に仕事終わるんだからさ、ケイちゃんに連行される前に仕事終わらせれば良いじゃん」

 

「え〜、だって普通に仕事したらモチベのコスパ悪いじゃん」

 

「自分は目覚まし時計か何かですか……」

 

熊如に聞かれた質問に謎の持論で返す都依に景博がツッコむ。

 

「……あ〜、めんど。ちょっと散歩して帰るから」

 

そう言って都依は執務室を後にする。すると、入れ替わるように二番隊の隠密機動の隊士が執務室に飛び込んで来た。

 

「失礼します!八番隊から一番近い流魂街るこんがい大虚メノスが出現!クラスは最下級大虚ギリアンと思われます!」

 

そんな、隠密機動の隊士の伝令に熊如と景博が顔を見合わせる。

 

「……ねぇ、ケイちゃん。さっき、とよ姉「めんど」って言ってたよね?」

 

「……言ってましたね」

 

「仕事終わったのに?」

 

「ええ、仕事終わったのに」

 

「じゃあ、大丈夫か」

 

「はい、大丈夫だと思います」

 

「は?え?」

 

席を立つどころか慌てる素振りを見せない熊如と景博に疑問符しか出ない隊士であった。

 

 

ながおもいは苦痛くつうゆがみ、はかなおもいは希望きぼうちる』

冥土蓬莱めいどほうらい

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。