前回のエピローグのようなお話です。
次話は明日投稿予定です。
「腹減ったな。ラーメンでも行くか?」
訓練後、一護がふと、そんなことを呟いた。
「お、いいな」
「私も行こう」
「私も!」
「じゃあ私も!」
その言葉に恋次、ルキア、織姫、苺花が賛成の声を上げる。
「私は帰る」
「砕蜂様も一緒に行きましょう!」
「…………」
「駄目ですか?」
砕蜂が上目遣いに見つめてくる希代を見て、ため息を一つ溢す。
「……行かぬとは言っていない」
「仙太郎、ラーメン行く?」
「…………」
清音の言葉に無視を決め込む仙太郎。
「返事がない。ただの屍のようね」
「生きとるわ!!」
「隊長。帰りますよ」
景博が都依の腕を掴んで連行しようとする。
「え〜、ラーメン行く」
「書類残ってます」
「明日やる」
「昨日も聞きました」
「明日の私ならきっと出来る」
「今日の隊長がやってください」
「ケイちゃんも行こ〜!」
連行されそうな都依の隣にいた熊如が景博を誘う。
「…………行きますけど」
「やったね、とよ姉。ケイちゃんも行くって」
「……はぁ。ですが隊長、参加することと仕事を放置することは別問題です。あとで、しっかり仕事して下さい」
「……………は〜い」
「…間が長いです」
熊如は、今度は解那を誘い、腕を組む。
「解那っちも行こ〜!」
「私は――」
「行こ行こ!」
「八々原副隊長、引っ張らないで……」
「ラーメン好き〜?」
「……嫌いではありません」
「じゃ決まり〜!」
「まだ参加するとは――」
「今日は飲むわよ〜!」
乱菊がニコニコしながら宣言する。そんな乱菊に日番谷が声をかける。
「ラーメン屋だぞ」
「お酒くらいありますよね?」
「俺を見るな、知らん」
「隊長も飲みません?」
「飲まん。お前を置いていくわけにいかねぇだろ」
そんな日番谷に竜貴が溢す。
「日番谷隊長、保護者ですね」
「誰がだ!!」
「…………」
レムはみんなが行くと言ってる光景を見ていた。
「何をしているのかネ?」
「え?」
「さっさとついて行きたまえヨ」
「良いんですか!?」
「君がここに残って何の役に立つというのかネ。それに、隊長・副隊長の趣味趣向を確認できる良い機会だ」
「はい!行ってきます、マユリ様!」
タタタタタ……
みんなの所に駆けていくレムを見ながら阿近が呟く。
「……甘いですね」
「何か言ったかネ?」
「いえ」
――数分後。
「…………」
ゾロゾロゾロゾロゾロゾロ……
「なんで三十七人になってんだよ!?」
「黒崎。念のため聞くけど、浅野くんには連絡したのか?」
「…………」
「黒崎?」
「…………してねえ」
「君は馬鹿なのか?」
「ラーメン食いに行くだけでこんな人数になると思うか!?」
叫ぶ一護に志乃が提案する。
「もう連絡した方がいいんじゃないですか?」
「そうする!」
そう言いながら一護はスマホ型の伝令神機を取り出し、電話をかけるのであった。
ここは『浅野軒』。
瀞霊廷初のラーメン専門店であり百年以上の歴史を持つ老舗である。
「もしもし?」
そこの店主、浅野啓吾は自身のスマホ型の伝令神機の着信に出る。
『啓吾? 俺』
「一護? 珍しいな。どうした?」
『今からラーメン食いに行っていいか?』
「おう、いいぞ。来い来い」
『ちょっと人数多いけど』
「何人?」
『…………三十七』
「…………」
『啓吾?』
「…………一護」
『何だ?』
「お前、“ちょっと”って言葉の意味知ってる?」
『悪かったって!!』
「席はあるけど多いわ!!……何分だ?」
『えっと、二〜三十分くらいか?』
「……はぁ、分かったよ。準備しとく」
『わりぃな』
そう言ってスマホを切った啓吾は店員の三人に顔を向けて話す。
「団体様が二〜三十分後にご到着です!準備お願いしま〜す!」
「心得た!」
「マジかよ。今、ジャンプが良いとこなのによ」
「おい、啓吾。てめぇ人が良すぎんだろうが」
浅野軒では団体客の受け入れの為に店主と店員三人が忙しなく動き回っていた。
「団体って何人だ?」
「三十七」
「多いな!では座敷を先に整えておこう!」
「俺、厨房な。……なぁ、護廷の奴らが来るってことは朽木兄妹来るのか?」
「え?いや、四大貴族がこんなラーメン屋来るのか?てか、なんかあんの?」
「いや、この前、リサが『ワカメ大使印の特製ワカメ』と『チャッピーナルト』を置いてったから、使おうかなって」
「店主である俺が知らない食材出てきた!?つうか、リサさん何で俺に言わなかったんだよ!?」
「お前がリサとろくに話さなかったからだろ」
「制服のジーパンを自分のだけじゃなく看板娘のまでホットパンツにしようとしたから警戒すんのは当たり前だろう!?」
「おい、啓吾。お冷や用のピッチャー用意しといたぞ。んで、俺は何処やれば良い?」
「ホール頼む。あとチャレンジメニューは今日は一旦――」
「やる」
「……三十七人来るんだぞ?」
「だからだろ」
「稼ぐ気満々じゃねえか」
「当たり前だろ。ほら、喋ってねぇで準備しろ。あと十分ぐらいだぞ」
「なんでお前が店長みたいになってんだよ!?」
「だったら店長が働け」
「働いてるわ!!」
――十数分後
ガララララッ。
「邪魔するぞ」
「お、着いた着いた」
「広いですね〜!」
「酒ある〜?」
「松本!!」
「…………」
啓吾は入口を埋め尽くす死覇装と副腕章、隊長羽織りを着た一団を見て叫んだ。
「分かってたけど多いな!?」
「いや、ほんと悪かったって」
啓吾の叫びに一護が謝る。そんな中、黒い浅野軒Tシャツを着て下にジーパン、下だけの前掛けエプロン、バンダナで頭を覆った筋肉質な巨漢の店員が大声で入店の挨拶を言ってきた。
「いらっしゃいませェ!!」
「おう、円乗寺」
「久しぶりだな、円乗寺」
一護と恋次がそんな巨漢、元八番隊三席・円乗寺辰房に挨拶をする。
「黒崎隊長!阿散井副隊長!本日は大人数でありがとうございます!!」
「こっちこそわりぃな。急にこんなに大勢で押し寄せて」
「いえいえ、構いませぬ!ささ、皆様、空いている席へどうぞ!三十七名様、ご来店です!」
辰房の言葉に各々が好きな席に座って行く。
「てか、朽木総隊長や朽木さんも来たんすね」
「うむ。久しぶりだな、啓吾」
ルキアが啓吾に挨拶を交わす。啓吾はその挨拶に返してから、隣に居た白哉に疑問を投げかける。
「久しぶり。でも、四大貴族がラーメン屋なんかに来て色々大丈夫なの?体裁とか」
「構わぬ。『浅野軒』であれば体裁に問題は無い」
「……一応、断りましたよね?」
「さりとて、事実は変わらぬ」
「そっすか」
啓吾が白哉と会話をしていると厨房から男の声が響く。
「啓吾ー!三十七人分いきなり注文取んなよ!厨房死ぬぞ!」
「分かってるよぉ!」
「…………」
「ん?」
「この声……」
男の声に平子と一護、織姫が既視感を覚えていると、黒い浅野軒Tシャツ姿の星のようなアフロヘアーの男が厨房から顔を覗かせる。
「なんや。羅武やん」
「おう、真子」
「…………」
「何だよ」
「お前も何してんだよ!?」
厨房から顔を出した愛川羅武の存在に一護がツッコむ。
「バイト」
「見りゃ分かる!!」
「まだやっとったん?」
「漫画代かかるからな」
「ん?チャレンジメニュー?」
4人掛けの御座席に座っていたイヅルが壁に貼っている張り紙を見つける。そこには
『看板娘リルちゃんより多く食え!ラーメン十杯チャレンジ!!勝ったらお代無料!!』と書かれていた。
「……桃源院さん、やってみたら?」
イヅルは隣の席に座わる健啖家である自身の副官、優火に挑戦してはどうかと提案する。
「あ、それ前にやりました」
「そうなんだ」
「ええ、負けました」
「え!?桃源院副隊長が!?」
「それ、本当!?」
前の座席に座っていた花太郎と清音が驚く。
「はい。しかもリルちゃんの方はスープまで飲み干してました」
「醤油三!内一つはチャッピーナルトを追加トッピング!特選ワカメ大使一!味噌二!十一番隊盛り二!浅野軒四!豚骨四!」
辰房が厨房に注文を伝える。
「一気に言うな!!」
「だから一気に注文取るなって言っただろ!!」
盛り付けをしている啓吾に調理している羅武が文句を言う。
「盛り付けしてんだから、取ったの俺じゃねえよ!」
「じゃ誰だよ!」
「辰房か!?」
「いえ、リル殿が!!」
「アイツか!!」
「本人何してんの!!」
「松本副隊長達への生注いでおります!」
「真面目に仕事してるから文句言いづれぇ!!」
「生四お待ちどうさま」
「あ、看板娘ちゃんありがとね〜」
看板娘リルちゃんが乱菊達の席に生ビールを配膳し、カウンターの石田の前に烏龍茶を置く。
「カウンターの人達、注文決まった?」
「つけ麺ってあるん?」
「あるよ」
「ほなそれで」
「私は醤油で!」
「私も斑目三席と同じでお願いします!」
「はいよ」
「啓吾に何時ものって言っといて」
「伝わるのか?」
「大丈夫だろ」
「そうか」
「私は塩にあんこトッピングで」
「……美味いのか?」
「俺は……?」
「なんだよ」
「!?」
平子、志乃、レム、竜貴、織姫の注文を聞いていくリルちゃんを一護が二度見する。
「……リルトット?」
石田が自身の目の前に烏龍茶を置いて注文を聞いていく浅野軒Tシャツ、ジーパン、前掛けエプロン、バンダナで髪を覆っている短い金髪の小柄な美少女、看板娘リルちゃんことリルトット・ランパードの名前を呼ぶ。
「あ?」
「君は何をしているんだ」
「働いてんだよ」
「……生活費か?」
「生活費と飯代」
「そうか」
「何だよ」
「いや。君らしいと思って」
「喧嘩売ってんのか?」
石田の言葉にリルトットは雰囲気だけ不貞腐れる。そんな中、一護が叫ぶ。
「待て石田!なんでお前普通に納得してんだよ!?」
「働いて生活費を得ることの何がおかしいんだ」
「そうじゃなくてこの店のメンツだよ!!」
「塩にあんこってなんだよ」
「織姫だろ」
伝票を見た羅武の呟きに餃子を焼きながら啓吾が答える。
「ああ。…おい、辰房、リル。醤油と特選ワカメ大使、味噌、豚骨、十一番、浅野軒ができたから持っていけ」
「餃子も焼けたからこっちも頼む」
「心得た!」
「おう」
「……てか、啓吾。特選ワカメ大使ラーメンって何だよ?」
「『ワカメ大使印の特製ワカメ』を一袋ふんだんに使った塩ラーメン」
「……ワカメトッピングで良くねえか?」
「さっき一口味見したけどワカメ大使ワカメのうま味が濃いから下の塩ラーメン自体を薄くしてやらないと繊細さが無くなる」
「ああ、なるほど。ケンカするわけか」
「いや、ワカメ大使が全て飲み込む」
「ワカメ大使強ぇな!?」
「特選ワカメ大使ラーメン、醤油ラーメン二つ内一つチャッピーナルトトッピング、十一番隊盛ラーメン、お待ちどうさま」
白哉の前にワカメがコレでもかと乗った塩ラーメン、苺花の前に醤油ラーメン、ルキアの前にチャッピーナルトが乗った醤油ラーメン、恋次の前に野菜・チャーシュー・味玉が山盛りになった所謂二郎系ラーメンが置かれる。
「うむ」
「ありがとうございます!」
「すまぬな」
「……おう。てか、何でお前がここでバイトしてんだよ」
恋次がリルトットに質問を投げかける。
「あ?さっきの聞いてなかったのか?生活費と食費稼ぐためだよ。俺ら滅却師の生き残り組の中でまともに働けるの俺だけだから大変なんだよ。ここ給料と賄い良いし」
「……そりゃ、大変だなって思うけどよ。そうじゃ無くて、何で元星十字騎士団のお前が瀞霊廷で働けてるんだよ」
「許可なら総隊長から貰ってんぞ」
「え!?」
恋次がリルトットの言葉に隣の白哉を見る。
スルルルッ
優雅な所作で麺をすすっていた白哉が何でもないことのように言う。
「先代、京楽春水の時から許可はしている」
「また、俺の知らない情報……」
「落ち込んでないでさっさと食え。伸びるぞ」
リルトットは知らされていないことに落ち込む恋次にそう言って配膳に戻るのだった。
「餃子4人前と浅野軒、十一番隊盛お待たせしました!」
辰房が乱菊、弓親、一角、修兵の前に餃子を置き、更に修兵の前に野菜と玉子の餡が上に掛かっている浅野軒ラーメン、一角の前に十一番隊盛ラーメンをそれぞれ置く。
「あ、円乗寺。生四つ追加で」
「あと、この胡瓜と木耳の中華炒めも頼むよ」
辰房に乱菊と弓親が追加注文をする。
「畏まりました!」
辰房は注文を受けて厨房へと下がって行く。そんな辰房の背中を見ながら修兵が呟く。
「……円乗寺がここで働いてる理由、誰か知ってるか?」
「「知らん(知らない)」」
「本人に聞けば良いんじゃない?ほら、丁度来たわよ」
「お先に生四つお待たせしました!」
「ありがとう。ねぇ、円乗寺。何でアンタここで働いてるの?」
「自分ですか?……そうですね、アレはまだ、自分が八番隊三席だった頃、「自分はこれ以上上には上がれないのか。また、強くなれないのか」と思い悩んでいた時に、ここのラーメンを食べて美味いと思いました」
「………え?それだけ?」
「はい!」
「………」
辰房の言葉に四人が黙っていると、理吉が辰房を呼ぶ。
「すいませ〜ん。追加注文良いですか?」
「はい!今、伺います!では、ごゆっくり!」
そう言って辰房は理吉達の席の注文を取りに行った。そんな中、修兵が三人に聞く。
「……で?何で円乗寺はここで働いてるんだ?」
「「「さあ?」」」
「ご注文伺います!」
理吉達の席で辰房が注文を聞く。
「えっと、餃子を追加で四人前。あと、炒飯一つと取り分け皿お願いします」
「承りました!」
「辰房、後ろ通るぞ」
「おお、リル殿」
「ん、あんがと」
リルトットが辰房の後ろを通り向かいの席に品物を運ぶ。
「浅野軒ラーメン二つに味噌ラーメン、豚骨ラーメン、お待ちどうさま」
佐藤、岩奏の前に浅野軒ラーメン、未里愛の前に味噌ラーメン、仙太郎の前に豚骨ラーメンをそれぞれ置いていく。
「あの」
「ん?何?」
そんな中、未里愛がリルトットに話かける。
「このチャレンジメニューの相手の『看板娘のリルちゃん』って貴女ですか?」
「……ああ、まあ、そうだよ。看板娘ってのは啓吾が勝手に付けたけどね」
「アタシと同じくらいの娘が相手……あの!――」
「赫穂詩さん、辞めといたほうが良いよ」
「え?」
未里愛が何を言おうとしたのかを察して佐藤が止める。
「チャレンジメニューの下、よ〜く見てご覧」
「下?」
そこには
【十杯チャレンジルール】
一、注文できるラーメンは十杯まで!
二、ラーメンの量・トッピングに応じて得点加算!
三、スープは得点外!残してもOK!
四、一杯完食してから次の一杯へ!
十杯終了時、看板娘リルちゃんの得点を超えれば無料!!
負けたら二万円!!
とルールが書かれている下に
『看板娘記録。十一番隊盛り・麺増量・野菜マシマシ・チャーシューマシマシ・味玉マシマシ×10杯』
と書かれていた。
未里愛はそんな張り紙とリルトットを交互に見て呟いた。
「……何でもありません」
射場と一緒に生ビールとチャーシュー・メンマ・煮卵のおつまみセットで一杯やっていた更木がチャレンジメニューの張り紙を見つめていた。
「……おい、射場」
「何じゃ、更木隊長」
剣八が壁のチャレンジメニューの張り紙を指差す。
「あれ、どうやってやるんだ?」
「「…………」」
射場と味噌ラーメンを食べていた与ウが更木の言葉に顔を見合わせる。そして、与ウが手話で話す。
「あ?おい、輪堂。何が言いてえ?」
「……(ぽん)」
手話が更木に伝わらないことを理解した与ウは数秒考え、拳で掌を打つ思いついたジェスチャーをしてから指先に霊圧を込め、空中に光る指文字を反転文字で書き始めた。
「…器用じゃのぅ」
『更木隊長。今の店員さんの話、聞いてませんでした?』
「聞いてねぇ」
『ほら、あの張り紙の下の方の記録』
与ウの文字に剣八が張り紙に書かれたリルトットの記録を見る。そして、
「へぇ」
ニヤッ
更木は不敵な笑みを浮かべた。
「塩鶏チャーシュー麺、味噌ラーメン白髪ネギ・ネギ油・チャーシュートッピング、激辛メンマラーメン、サンマーメン、お待たせしました!」
辰房が砕蜂の前に塩鶏チャーシュー麺、希代の前に味噌ラーメン、熊如の前に激辛メンマラーメン、解那の前にサンマーメンをそれぞれ置いていく。
「……希代はラーメン屋は初めてだと思ったのだが、トッピングを頼む辺り手慣れてないか?」
砕蜂の疑問に希代が答える。
「あ、希千代お兄様と行ったことがあります。三郎兄様がコソコソと行っていまして、『コソコソしてるから弱みを握れるチャンス』と思って付いて行ったらここの十一番隊盛のアブラマシマシを頼んでました」
「……お前はアブラマシマシとやらを頼まないのか?」
「頼みませんよ。希千代お兄様と同じ物を頼みます」
「……アイツ、油煎餅以外にも脂ぎった物しか食ってないからあんなにテカってると思ってたが、違ったか」
「いえ、お兄様は油煎餅以外は食生活は普通ですよ?……それより、八々原副隊長様のラーメン様がお赤いのですが」
「ん?」
激辛ラーメンを普通に啜っている熊如が答える。
「赤くて可愛っしょ?辛さが五段階で選べてコレは五辛。食べてみる?」
「いらん」
「ご遠慮します」
「私は辛いものが苦手ですので」
「え〜」
「冷やし醤油ラーメン、味噌ラーメン味玉トッピング、浅野軒ラーメン二つ、お待ちどうさま」
リルトットが日番谷の前に冷やし醤油ラーメン、都依の前に味噌ラーメン、景博と竜之介の前に浅野軒ラーメンを置いていく。
「冷やしラーメンなんて物もあるんですね」
「現世じゃ普通にあるらしいぞ」
「「へ〜」」
冷やしラーメンに景博が驚いていると日番谷が説明する。
「看板娘ちゃん、生追加」
「松本!てめぇ、飲み過ぎだ!!」
そんな中、隣の席から生ビールの追加注文をする乱菊の声に日番谷が叫ぶ。
「隊長、安心して下さい。ビールはアルコール度数ってのが日本酒より低いんです。だから七杯目でも問題無いんです」
「問題しか無いだろ!」
日番谷が乱菊の言い訳にツッコむ。
「お〜い。嬢ちゃん、ちょっとええかのぅ」
そんな中、射場がリルトットを呼んだ。
「ほい、前から失礼。嬢ちゃん達の醤油ラーメンお待ち!」
「「ありがとうございます!」」
「んで、平子のつけ麺な。割りスープあるから食い終わったら言ってな」
「分かっとるやん、啓吾」
「竜貴は鶏白湯の梅肉・味玉トッピングだな」
「…現世でよく注文してたやつ、百年くらい経ってるのに本当に覚えてたんだ」
「当たり前だろ。てか、お前、リルに伝わるって言ってただろ」
「ハハッ、わりぃ」
「ったく。……織姫の塩ラーメン、あんこトッピング。……バターとかいる?」
「ううん。バターも美味しいけど今回はいいかな。あ、ラー油ある?」
「……後で持ってくる」
「ありがとう!」
「石田の塩タンメン」
「ありがとう、浅野くん」
「んで、一護が辛味噌チャーシューな」
「おう」
啓吾がカウンターの前から注文品を配膳していく。そんな中、リルトットが啓吾に声をかける。
「啓吾、チャレンジ一つだと」
「え?マジ?誰?」
「更木剣八」
「わ〜、マジか」
「チャレンジ?何だそりゃ?」
啓吾とリルトットの会話に一護が質問する。啓吾は一護に張り紙を指差しながら説明する。
「ほら、アレだよ。リルとラーメン十杯大食い対決」
「「はあ!?」」
啓吾の説明に一護と石田の驚愕の声が被った。
「いや、何だよそのチャレンジになってないチャレンジメニュー!?」
「……リルトット、君は了承しているのかい?」
「当たり前だろ。タダでラーメン十杯食えんだぞ。しかも、俺が勝てば賄いで更に十杯食える権利を啓吾から貰えるんだ」
「「更に十杯!?」」
リルトットの説明に一護と石田の驚愕がまた被った。そんな二人をお構いなしにリルトットは啓吾に言う。
「最初の注文は更木剣八も俺と同じ、十一番隊盛の全マシマシだと」
「うわ〜。マジかよ」
「あ、それと啓吾、頼みがあんだけど」
「?」
啓吾が厨房に声をかける。
「羅武ー!」
「聞こえてた!」
「十一番隊盛り全マシマシ二つ!」
「はいよ!」
更木とリルトットはテーブル席に対面する形で座っている。そんな二人を護廷の面々が野次馬のように見ている。
「それにしても更木隊長がこんなイベントに参加するとわなぁ」
「でも、勝負事が好きだし、意外ではないんじゃない?」
十一番隊の一角と弓親がそんな話をしていると、啓吾がラーメンを持って来た。
「ほい、十一番隊盛ラーメン全マシマシお待ちどう!」
啓吾が二人の前に山盛りのラーメンを置く。そして、リルトットの前に追加でおつまみセットと生ビールが置かれた。
「あ?おい、何だそりゃ?」
「ん?ああ、リルの追加注文」
「……てめぇ」
更木がリルトットを睨む。そんな更木に啓吾が声をかける。
「いや、更木さん、コレはハンデとか王者の余裕とかそんなんじゃないから」
「……」
更木は啓吾を無言で睨む。本人的には続けろと言っているのだが、普通の人はビビる。が、啓吾は何事もないかのように続ける。
「ただ、自分的には気に入らないだけだと思うから」
「フェアじゃないとかそんな理由で頼んだんじゃねぇから安心しろよ、更木剣八。まあ、結果的にビールで腹が膨れたって言い訳は効かなくなった訳だけどな」
啓吾の言葉に続けて、リルトットが話し、不敵に笑う。そんなリルトットを見て更木も笑う。
「では、チャレンジメニュー始め!」
啓吾の開始の合図で二人は一気に食べ始める。
「……なんやろなぁ〜。隊長と星十字騎士団がこんな平和な対決してんの、一周回っておもろいわ」
「あ、平子隊長。隊長もやります?」
二人の大食い対決を見ていた平子に乱菊が話しかけてきた。
「やるってチャレンジメニューのことかいな」
「いえいえ、どっちが勝つか賭けてまして、一口百円です」
「賭博かい!?……大穴狙いで更木に五口」
「あ、平子隊長は更木隊長が勝つことは番狂わせだと思ってるんだ」
「当たり前やろ。更木が強いんは斬り合いやぞ。まあ、賭博師として逆張りするんは当たり前やけどな」
そんなことを言っている間に二人とも一杯目を完食していた。そして、リルトットが自分の丼を傾け出した。
ゴクゴクゴクゴク
「……平子隊長。スープって飲み干すんでしたっけ?」
「……いや、スープは得点にならへんって書いてあんな」
一杯目のスープを飲み出すリルトットの隣で更木が自身の丼を傾け出した。
ゴクゴクゴクゴク
「!?ざ、更木隊長!?スープは飲まなくて良いんですよ!?」
そんな更木に一角が叫ぶ。
「あ?コイツは飲んでんだろ?」
「え、いや、確かにそうですが」
一角の言葉に更木が返す。そんな更木にスープを飲み干したリルトットが話かける。
「斑目一角が言った通り、スープは飲まなくても良いんだぞ」
「安心しろよ。飲みてぇから飲んでるだけだ。まあ、てめぇもスープ飲んだから負けたなんて言い訳は出来なくなっちまったがな」
スープを飲み干した更木がそう言い放ちリルトットに不敵に笑う。
「……上等。…啓吾、二杯目、さっきと同じ。コイツの分も」
今度はリルトットが更木に不敵に笑って言い放つ。
「まさか、逃げねえよな?」
「…ハハハッ」
二杯目のスープまで同時に飲み干し、三杯目を同時に食べ始める。
「……白亜副隊長はあの量食えます?」
「…私は無理。理吉は?」
「いや、俺も無理ですって」
更木とリルトットの食いっぷりを見て白亜と理吉が呟く。そんな中、雛森が配膳された炒飯を取り分け皿四つへと分けていた。
「炒飯分けたよ」
「あ、雛森副隊長、ありがとうございます」
「…ありがとう」
「ありがとう!桃ちゃん!」
「ふふっ、どういたしまして」
五杯目のスープを一杯目と変わらないペースで飲み干していく。
「……赫穂詩さん、どう?やってみる」
「無理です」
八杯目。
周りの全員が静かに見守る中、二人の食べ進める音だけが浅野軒に響く。
十杯目。
二人とも麺・具を完食した。
「――そこまで!得点は……同点!チャレンジは引き分け!」
啓吾がそれを見て引き分け宣言を言うが二人とも聞いてないのか自身の丼を持つ。そして、
ゴクゴクゴクゴク――
コトッ
リルトットが空の丼を置く。
コトッ
僅かな僅差で遅れて剣八も置く。
「……負けだな」
「え?」
「コイツの方が先に全部食い終わった」
そう言って更木は古びたピンクのうさぎシールが貼られた革製の黒い財布を懐から取り出し、二万円を啓吾に渡す。
「いや、更木さん。ルール上は引き分けだから二万円は――」
「俺が負けたっつってんだ。取っとけ」
「……はいよ」
啓吾は更木から二万円を受け取った。
財布に残っている札の端を指で綺麗に直し、懐にしまいながら更木はリルトットに言葉を発する。
「チッ。また来るぞ」
「おう。次も負けねぇぞ」
「……引き分けってどうなるの?」
「知らんがな。胴元お前やろ」
「引き分けの項目作ってないのよ」
そんな乱菊の言葉に修兵と日番谷が言い放つ。
「「賭け自体やめろ」」
「じゃあな、啓吾。美味かったよ、ごちそうさん」
「おう。次に大人数で来る時はもうちょい早めに連絡くれな」
「おう」
そう言って、一護を始めとした護廷十三隊のメンバーが浅野軒を後にする。
「は〜、終わった」
「……ありゃ、来週この漫画休載か。良いとこで焦らすな〜」
一護達が帰った後、啓吾が一息つき、羅武がジャンプを読み始める。そんな啓吾にリルトットが話かける。
「……おい、啓吾。黒崎に人数ちゃんと数えるように言っとけ」
「え?」
「来客数、三十七人じゃなくて三十八人だったぞ」
「は?」
「伝票も三十八人分ある」
「いやいやいや。辰房、入店した時三十七人って数えたよな?」
「はい!」
「じゃあ誰が増えたんだよ!?」
「……あ」
「何?」
そこで辰房があることを思い出す。
「そういえば、雛森副隊長の隣に金髪の少女がおりましたな」
その言葉を聞いて羅武がその人物の名前を言う。
「ああ、美学だろ」
「美学?」
「白亜の斬魄刀」
「…………」
羅武の言葉に啓吾が数秒固まる。
「斬魄刀ってラーメン食うの!?」
「ああ!終焉美学殿でしたか!」
「知ってんの!?」
「何度か瀞霊廷でお見かけしております!」
「斬魄刀が普通に瀞霊廷歩いてんの!?」
啓吾は叫んでいる中でふと、あることに気付く。
「……待て。その斬魄刀の分、金は?」
啓吾の疑問にリルトットが答える。
「間街白亜が二人分払ってったぞ」
「…………」
「悪さもしてねぇ」
「…………」
「じゃあ何も問題ねぇの…か?」
「ねぇんじゃね?」
「いや、なんかあるだろ!!……ないな!?」