今回は希代ちゃんのギャグ回です。
次話は来週日曜日に投稿予定です。
早朝。
二番隊、隊舎。室内訓練場。
そこでは二番隊副隊長の大前田希代が正座をし、その前には鍔のない小刀型の自身の斬魄刀『千重垣』を置き、目を瞑り、刃禅にて対話を行なっていた。
大前田家の庭を模した自身の精神世界で希代は真剣な表情で市松人形サイズの長い黒髪のお姫様『千重垣』に言う。
「千重垣様、希代は御卍解様を覚えとうございます」
「………」
「先の射場隊長様の御卍解様、『堰文修武』様内での訓練では檜佐木隊長様の『風死』様の鎖を自力で脱出できませんでした」
「………」
「御卍解様があればどうにかなったとは思っておりませんが、別の突破口への新たな視点を得られたのではと思います」
「………」
「千重垣様。どうか、御卍解様の修行を――」
「様、様、様、様、と何時も言っていますわ!様はいりませんわぁ!!」
千重垣の叫びが木霊した。
「で、ですが千重垣様――」
「またですわ!私は貴女の半身!自分自身に様を付けてる様なものですわ!始解の時ですら、時偶、様を付けていますわ!なんですか『遊びませんか 千重垣様』って!滑稽ですわ!」
千重垣が捲し立てる。その勢いに気圧されながらも希代は千重垣に本題を尋ねる。
「あ、あの!それで御卍解様習得の件は?」
「…………」
「千重垣様?」
「……はあ。………分かりましたわ。ええ、分かりましたわ!しましょう」
千重垣の言葉に希代が輝かんばかりの笑顔を浮かべる。
「本当ですか!」
「ええ。ですから希代――」
千重垣は希代にイタズラっ娘の様な笑みを浮かべる。
「遊びませんか?」
現実世界。本物の大前田邸。その中のある一室の前に希代は立っていた。
「………千重垣様」
『何ですの?』
「何故、三郎兄様のお部屋の探索なのでしょうか?」
そう。この部屋は大前田家の次男、大前田希次郎三郎の自室である。
「希代としてはいくら三郎兄様のお部屋とは言え、本人ご不在時に入るのは如何なものかと。あと、純粋に気持ち悪そうなので入りたくありません」
『言ったではありませんか「遊びませんか?」と。お宝探しですわ!』
「お宝?」
『ええ、希次郎三郎が何かの書物を抱えたまま、キョロキョロしながら自室に入って行くのを見ましたわ』
「それは希代も見ましたけど………その書物がお宝?」
『そうですわ!』
「………ん〜、希代としては三郎兄様の大切な書物など気持ち悪いのですが、弱みは握れますかね」
『そうですわ!それに、貴女は希千代は大好きなのに希次郎三郎は嫌いですわ。嫌いなものから目を反らしていては卍解習得など無理ですわ!』
「なるほど!確かに、気持ち悪いからと三郎兄様から逃げていてもダメですわね!なら、此処は覚悟を決めて!」
スパンっ!
そう言って希代は勢いよく希次郎三郎の部屋の襖を開いた。そして、視界に飛び込んて来たのは――際どい服装の女の子の人形達、現世で言う『フィギュア』が所狭しと飾られている部屋だった。
スーッ
希代は何も言わず襖を閉めた。
『何故閉めましたの!?』
「無理です」
『まだお宝を探しておりませんわ!』
「既に見てはいけないものを大量に発見いたしました」
『ですが、あの棚の奥に書物らしきものが――』
「見たくありません!千重垣様だって嫌でしょう!?希代の半身なのだから!!」
『こういう時だけ半身扱いするのは卑怯ですわ!!』
千重垣と言い争いながら希代は意を決し、もう一度襖を開ける。
スーッ
奥の棚の書物のみを視界にとらえながら。
「見てない……希代は何も見ておりません……」
『右ですわ!』
「右には見たくないものがあります!」
『では左!』
「左にもおります!」
『前!』
「増えました!!」
『足元にも!』
「………この壊れているものはゴミでは?」
千重垣の言葉に足元を見ると、現世から取り寄せたのか、プラモデルがランナーから外され、部品毎に小分け用のケースに入っていた。希代にとっては作りかけに見えず、壊れたものにしか見えなかったらしい。
「三郎兄様は何故ゴミをお集めに?」
『この人形達の様に希次郎三郎にとっては大切なのでは?周りを囲むくらいに』
「何故こんな包囲陣を形成しておりますの?」
希代、フィギュアを敵陣扱い。が、隠密機動だからか声以外は無音である。
『足音』
「消しております」
『気配』
「消しております」
『霊圧』
「抑えております」
『そこまでしますの?』
「三郎兄様の部屋に痕跡を残したくありません」
そして、目的の書物の前に辿り着く。
遠くだと、部屋の惨状に気を取られて気付かなかったがどうやら書物は3冊あったらしい。希代は3冊を手に取り、表示を見る。
"あなたの手で造る!月刊美少女"
"瀞霊廷グラビア『松本乱菊』特装版"
"私の浮竹隊長"
「………」
『お宝ではありませんでしたわね』
「お宝以前に、希代は三郎兄様と兄妹であることが哀しくなってきました!?」
『造るって、……ああ、あの壊れた人形を直す気だったのですわね』
「ああ、なるほどです。……じゃなくて!?」
『希次郎三郎、松本乱菊が好みなのですかね?』
「確かに松本副隊長様は女の希代でもため息が出るほどお美しいですものね。……いや、ですから!?」
『"私の浮竹隊長"………これ、絵本ですか?』
「あ、漫画と言うそうですよ。浮竹隊長様が言っておりました」
『浮竹隊長って、描かれてるこの方、その浮竹隊長ご本人では?……いえ、男性ですわね』
「あ、多分、元十三番隊隊長様の浮竹十四郎様だと思われます」
『ああ、なるほど。……ん?これは………著者名ですわね』
そこには『炬燵清め』と書かれていた。
「『…………ん〜?』」
何故か、著者名に引っかかりを覚える。希代と千重垣。そうこうしていると書物から一枚の紙が落ちた。
「ん?」
『写真ですわ』
その紙――写真を拾い上げて確認する希代と千重垣。そこには小さな黒髪の美少女が四楓院夜一と思われる褐色の美女に頭を撫でられて満面の笑みをこぼしている姿が写されていた。
『………え?砕蜂?』
「…………」
希代は無言でその写真を懐にしまう。
『…え?いや、ちょっと!?希代!?』
「これは危険物です。死人様が出てしまいます」
『……貴女、砕蜂のことそんなに好きでしたっけ?』
「好きですがそうではなく………流石に三郎兄様と言えど妹の上司様に殺されるのは忍びないかな?と思いまして」
『ああ』
そんな時、廊下から足音が聞こえた。
『希代』
「はい」
『誰か来ますわ』
「…………」
『どうします?』
「…………」
『希代?』
「隠密機動副隊長を舐めないでくださいませ」
希代は瞬時に三冊を完全に元の位置へ戻す。そして、落ちているパーツにもフィギュアにも一切触れず、音も立てず、痕跡を消し、入り口から死角となる場所に身を潜める。
スッ
襖が開き、この部屋の主、希次郎三郎本人が入ってくる。
フワッ
「……?」
希次郎三郎が部屋を見回す。が、誰も居ない。
「…………気のせいか」
部屋へと入り希次郎三郎は襖を閉める。そんな希次郎三郎の部屋から離れた塀の屋根に希代は姿勢良く立って見ていた。
『…………』
「…………」
『凄いですわね』
「二番隊副隊長ですので。……で、これで御卍解様の習得に近付きましか?」
『さあ?』
「はい!?」
『最初から言いましたわ。「遊びませんか?」』
また千重垣がイタズラっ娘の様に笑った。