今回は希代ちゃんの卍解習得修行回です。
次話は来週日曜日に投稿予定です。
昼下がりの二番隊舎の室内訓練場にて、刃禅を組みながら、副隊長の大前田希代は大量の汗をかいていた。
そんな希代に通りがかった砕蜂がふと視線を送りながら呟く。
「……卍解習得、思った以上に難航しているようだな」
「………精神世界でどれほど過酷な修練をしておられるのか」
「………岩奏、いつから居た?」
「……ずっとお隣に」
「……そうか」
三席の岩奏星純の影の薄さに慣れている砕蜂はいつから居たかだけを聞き、また希代へと視線を戻す。
「過酷な修練と言ったが卍解習得とは得てしてそういうものだ」
「やはり、そうなのですね」
「それに、霊圧の乱れは少ない。まだまだかかりそうだな」
「安定しているのは良いことでは?」
「卍解習得ではそうとは言い切れん。なんせ、自身の殻を破る事が前提条件と言っても良い。……霊圧の急激な変化は卍解習得の予兆となるケースが多い」
「なるほど」
「………ぷはぁ!」
砕蜂と岩奏が話していると希代が大きく息を吐き床に寝そべる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……あ、そ、砕蜂様……それ…に、岩奏様も。……はぁ、はぁ、お恥ずかしい…姿を…お見せ……しました…」
「希代、無理に起き上がろうとしなくても良い」
希代は息を整えながら、身体を起こそうとするが砕蜂がそのままで良いと許可を出す。
「はぁ、はぁ、申し訳…ありません」
「かまわん。……が、卍解習得はまだ無理そうだな」
「はい、…今日も、千重垣様に遊ばれてしまいました」
(なるほど。未だに翻弄され続けていると言うことか)
希代の言葉をそう結論付けながら砕蜂は希代に諭すように言う。
「確かに卍解は強力だ。それに、昨今は百年前に比べて習得者も多い。が、卍解を手に入れているから強いなんてことはない。現に百年以上前の更木は卍解無しでも『剣八』を名乗っていた」
「…………」
「………まぁ、アレだ。卍解だけが強くなる道ではない。だからと言って途中で投げ出す事はするな」
「はい!」
砕蜂の言葉に元気に返事をする希代。
「……ところで、岩奏はいつ居なくなった?」
「…いえ、まだおります」
「………ずっとか?」
砕蜂が隣で自己主張をした岩奏を一度見た後、希代へと視線を向けて尋ねる。
「はい。岩奏様なら砕蜂様のずっとお隣におりました」
「……そうか」
希代は二番隊舎を出て、何処へゆくともなく瀞霊廷を歩いていた。
「はぁ」
『ため息ばかり付いてもどうにもなりませんわよ』
希代だけに見える形で精神世界から千重垣が姿を現し、希代の頭に乗る。
「………そうは言いますが千重垣様、希代としては、どうしても焦ってしまいます。今回の鬼ごっこも"遊び"なのでしょ?」
『ええ、遊びですわ。………それを分かっていて精神世界とはいえ全力でやる希代は素晴らしいですわ』
「御卍解様習得の為の試練ではなくても、二番隊副隊長として、いくら自身の斬魄刀様だとしても手は抜きませんよ」
『うんうん。良い心がけですわ』
「………ですが、だからと言って御卍解様習得の予兆どころか修練の"し"の字も見えない今の状況はなんとも歯痒く感じます。……はぁ」
希代はまたしてもため息を付く。そんな希代に声をかける人がいた。
「「希代ちゃ〜ん!」」
「ん?あ、優火様、それに終焉美学様も」
希代に声をかけてきたのは三番隊副隊長の桃源院優火と六番隊副隊長の間街白亜に瓜二つの顔をした金髪碧眼の美少女、終焉美学である。
「あ!千重垣ちゃんもこんにちわ!」
『こんにちわですわ。………貴女一人なのね』
「うん!白亜は六番隊舎で書類整理してる!」
終焉美学が希代の上に乗っている千重垣にも挨拶をする。すると希代と優火から驚きの声が上がる。
「え!?美学様!千重垣様がお見えになるのですか!?」
「え!?いるの!?何処に?とう言うかどんな娘ですか?」
「希代ちゃんの頭の上にお人形サイズの黒髪のお姫様が乗ってるよ」
「え、なにそれ、絶対可愛いやつですよね。良い〜な〜。………いや、美学ちゃん、なんで見えるんですか!?」
「そうです!何故、千重垣様のお姿をお見えに!?」
「え?だって私も斬魄刀だよ?」
「「…………そうでした!?」」
当たり前に具象化して、更には持ち主から離れて行動し、食事までしだしている事があるためにスッカリ忘れていた希代と優火。そんな中、千重垣が呟く。
『それにしても、白亜はおりませんのね。……私のことを『知恵ガキ』などと言った罪を償わせるために見えないことを良いことにイタズラしようと思っていましたのに』
「ちょっ!?千重垣様!?」
「……千重垣ちゃんなんて言ったの?」
「白亜に前、揶揄われたから見えない今のうちにイタズラしようとしてたって」
「お〜、希代ちゃんと違ってアグレッシブですね。………あ、でも、希代ちゃんも昔は結構お転婆でしたね」
「優火様!?」
「へ〜。優火ちゃん、詳しいね」
「「幼馴染ですから」」
「お〜!息ぴったり〜!」
美学が二人に拍手を送る。そんな美学に少し気恥ずかしさを覚えながら希代は優火と美学に尋ねる。
「ところで、どうしてお二人がご一緒におられるのですか?」
「あ、私は十番隊に書類を届けに行こうとしてて」
「私も同じ!乱菊さんや日番谷さん、竜貴ちゃんにも会いたくなったから白亜の書類をぶん取って十番隊に届けるところ!」
「「ぶん取って……」」
『やりますわね』
千重垣が美学に賞賛を送った。
そのまま、奇妙な一行は十番隊舎へと向かいながら卍解習得について話していた。
「私の卍解習得時のことですか?」
「はい。どうだったのかな?と」
「ん〜」
優火は希代の質問にどう答えるか数舜考えてから言葉を紡ぐ。
「私の場合は、勇気姫に怒られましたね」
「怒らた!?」
「はい。生き残ることを恐れるな、生きて帰ってきてきて良いんだって、厳しくそれでいて優しく怒られました」
「………屈服させるのではないのですね」
「『屈服』って一言で言っても色々あるよ」
希代の呟いた言葉に美学が答える。
「卍解は私達『斬魄刀を屈服させる事で手に入る』ってよく言われているけど、それは力であったり、生き様だったり、強い思いだったり。でも、実際に必要なのは斬魄刀に"自身を受入れた"って認めさせることなんだよ」
「「"自身を受入れた"と認めさせる……」」
『…………』
「現に白亜自身を私と白亜本人が認めたから卍解へと至ったわけだしね」
「………美学様は間街副隊長様を何処ようにお認めになられたのですか?」
希代が美学に白亜の卍解習得時のことを尋ねる。
「ん〜、白亜の場合は先ず、死神化の感覚を要さんに習ってたからちょっと特殊なんだよねぇ。その上で要さんとギンさんの卍解に食らいつくことで卍解の戦闘力を肌で感じて。そして、私のことを見るようになったのが大きいかな?」
「「見るようになる?」」
「うん、二人も知ってると思うけど白亜は元々破面だからね。破面の斬魄刀は自身の虚の力を刀の形にすることで人型の進化を遂げた訳だから、破面の斬魄刀に意思はないんだよ。だからこそ斬魄刀の意思、自身の半身を受け入れることがかなり難しかったんだ。んで、それを受け入れて、本当の意味で見ることで私も白亜を見て、受け入れて、二人で至った」
「「『……………』」」
「あはは、特殊すぎて参考にならなかったかな?」
美学は自身の話を聞いて静かになった千重垣を含む三人に対して苦笑いを浮かべる。
そうこうしているうちに一行は十番隊舎の前まで来た。すると、
「松本ぉぉぉ!どこ行きやがったぁぁぁぁぁぁ!!」
十番隊舎から日番谷冬獅郎の怒声が響いてきた。
「………乱菊さん、白亜が十番隊の四席の時から変わってないんだねぇ」
「あ、間街副隊長ってそう言えば元十番隊でしたっけ?」
「うん。まぁ、当時は卍解隠してたから私は具象化してなかったけどね」
『………希代』
「はい?」
優火と美学が話している隣で千重垣が希代に話しかける。
『次の遊びが決まりましたわ!』
「え!?」
『松本乱菊を探せですわ!!』
「ええ〜!?」
「え、希代ちゃん、急にどうしたの!?」
希代の叫びに優火が驚く。すると日番谷が十番隊舎から凄い勢いで出て来た。
「あ、シロちゃんさん隊長!」
「シロちゃん言うな!って桃源院!松本見なかったか!?」
「いえ。見てません」
「クソッ!どこ行きやがった!」
「相変わらずですね、日番谷さん」
「美学か。………相変わらずはお前もだと思うが。また散歩か?」
「ううん。書類を届けに来た。あ、竜貴ちゃんにも会いたいから隊舎の中まで持ってくね」
「………お前や間街の爪の垢を煎じて松本に飲ませてやりたい」
「冗談だと思うけど、本当にしないでね?斬魄刀と破面の爪の垢を煎じて死神が飲んだら間違いなく魂魄が死ぬから」
「安心しろ。飲ませる時は四番隊で飲ませる」
「………乱菊さん、そこまでのことしたの?」
「現世駐在中の酒代を経費で落としやがった」
「あ〜、うん。もしかして、お高いお酒に手をだしたの?」
「よくわかるな」
「まぁ、現世駐在中に白亜は給料をトレカに溶かしたし。流石に経費では落とさなかったけど副隊長の給料が飛ぶくらいにはつぎ込んだし、乱菊さんもそうかなって」
「ドンペリとか言うやつダースで開けたらしい」
「わ〜お」
「あの〜」
「ん?大前田か。どうした?」
美学と日番谷の会話が一区切り付いた辺りで希代が手を上げる。
「松本副隊長様の捜索、希代もお手伝いしてよろしいでしょうか?」
「此方としては助かるが良いのか?」
「はい。希代としましては松本副隊長様を探すのが目的ですので」
「松本ではなく探すこと自体が目的のように聞こえるが?」
「はい!そのとおりです」
「………?よく分からんが。まぁ、助かる」
「はい!」
希代の助力宣言を承認する日番谷。その隣で優火が申し訳なさそうにする。
「すみませんが、私は他の仕事もありまして、流石に松本副隊長の探索は手伝えません」
「いや、構わない。寧ろ、他の隊のヤツにそこまで助力してもらうわけにもいかん」
「あ、私は竜貴ちゃんとお喋りしたいからなんなら書類整理くらいは手伝ってるね」
「……そう言えば、間街もそういうところは変な感じに真面目だったな。アイツの斬魄刀ならこの感じも当然か」
そう言って日番谷は希代に向き直る。
「大前田、俺はアイツが行きつけの居酒屋を当たる。お前は化粧品店なんかの女性が行きそうなところを当たってくれ」
「はい!分かりました!」
そう言って、音も無く希代がその場から消えた。
数時間後とある店で希代は松本を発見する。が、その店が現世風のあるものを置いてある店だった。
「松本副隊長様、いくらなんでも、日番谷隊長様を巻くためとはいえ『女性用下着店』は如何なものかと」
「……なんで希代が探しに来てるのよ」
「………此方にも事情がございまして」
松本的に日番谷を巻くために此処に入ったらしいのだが、松本は希代に見つかったからと焦ることなく下着の一組を手に取り自身の身体の前に置く。
「ねぇ、これ、可愛いと思わない?」
かなり攻めた感じの下着である。そして、これが希代にとってはあるものを想起させるきっかけとなった。
『瀞霊廷グラビア『松本乱菊』特装版』
稀次郎三郎の部屋にあったお宝の一冊である。
「………千重垣様、希代はどうすれば良いでしょうか?」
『……希代にはあちらの桃色のものが似合うと思いますわ』
「千重垣!?」
千重垣も松本に乗っかりだした。
「ん〜、これも良いのよねぇ」
『此方もいいですわね』
「あら?良いわねこれ。希代に似合いそう」
松本には千重垣が見えていないし声も聞こえていないはずなのに何故か会話成立しているように見える。
実際、乱菊は希代にも似合いそうなモノを探し始めていたために話が噛み合ったように見えただけなのだが。
『コレ!あと、コレもいいですわね!』
「さぁ、希代。先ずはこれから着てみなさい!」
「い、いやぁぁぁぁぁ!!」
日番谷が見つけ、日番谷の変わりに竜貴が突撃するまで、希代は二人の着せ替え人形になった。