今までより人間に対し怯えなくなったものの、リウは一護の部屋からは一歩も出ようとはしなかった
リウside
「昨日、またあの夢を見たんだ…」
「!…本当か?」
「うん、でもいままでと違って男の人と話しができた
だけどやっぱり、途中で意識が遠退いてきて…」
朝、一護とルキアが起き学校へ行くまでの僅かな時間、その中でリウは昨夜見た夢の内容を話した
「そうだったのか
…リウ、私達が帰って来たとき、その話をこんどは詳しく教えてくれるか?」
「うん、わかった」
「行ってくる」
「行ってらっしゃい、一護さん、ルキアさん」
学校へ向かう一護とルキアを見送った後、リウは自らの周りに結界を張り、屋根の上に登って昨夜見た夢を思い出そうと目を瞑った
森の中、池のほとり、俺を呼ぶ男の人…
大切な何かを忘れているような、俺は一体何を忘れているんだろう…
『斬魄刀側の世界に行き、名を聞くことで、その力を解放することができる』
ルキアの言葉がリウの頭の中で蘇る
リウはずっと考え続けていたが忘れていることは思い出すことはできず、いつの間にか夕方になっていた
一護side
ん、あそこにいるの龍か?
「ルキア、気付いてるか?」
「屋根の上だろう?...一体何をしておるのだ?」
下校中の二人は、黒崎家から少し離れた道で屋根の上に座っているリウを見つけ立ち止まった
やっぱり気付いてるよな、声かけるか
「おーいリウー、そこで何してんだー」
「お、おい!一護止めんか」
リウに呼びかける一護を、ルキアは止めようとする
「何でだよ」
「おそらく、リウは自らの周りに結界を張っているはずだ
普通の人間には今、リウの姿は見えぬ」
「そうなのか?」
「よく霊圧を探ってみろ」
ルキアに言われ、一護は目を閉じリウに意識を集中する
なるほどな、ルキアの言った通り、霊圧がリウの周りに膜を張ってるみてぇだ
「わかったか?」
「ああ、確かに結界を張ってるな」
「お帰りなさい!一護さん、ルキアさん」
屋根の上にいたリウが二人を見つけたようで、少し大きな声で呼び掛けた
「ただいまリウ」
「ただいま」
一護とルキアは家の前まで歩いてきてから、リウに挨拶を返す
リウは返事を聞くと笑みを浮かべてから、窓枠を掴んで軽やかに一護の部屋へ戻っていった
身軽だな、リウ
ってかよくあそこから中に戻れるな
一護はリウの身軽さに感心していた
ルキアside
一護の部屋に戻り私服に着替えた二人は、朝リウが話した夢の内容を再び聞く
「では、名は聞けなかったのだな?」
「うん、あの人が『時間だな』って言った直後に意識が遠退いて、そのまま…」
「…リウ」
話し終わったリウを一護は呼ぶ、その目は険しいものだった
「何?一護さん」
一護の険しい目に、少し怯えながら返事をする
「そいつは他に何か言ってたか?」
「そういえば…あの人、『そうか…覚えていたのか…』って」
夢の中で、リウに聞こえぬように小さく呟いたはずの男の声は、リウの耳にしっかりと届いていた
「『覚えていたのか』だって?」
「つまりお前は、その男と以前会ったことがあるのか?」
その男の口振りは、まるでリウと以前会っていると言っている様なものだ……一体いつ、会ったのだ?
しかし、リウは首を横に振り言った
「分からない…一体いつどこで会ったのか
そもそも会ったことがあるのかも…何一つ」
「そうか…」
リウはそれきり口を開かず、ただ俯くだけだった
龍side
もう一度リエクに会いに行こう
リエクは婆ちゃんから俺のこと、何か聞いているかもしれない
その日の夜、一護の部屋で食事を終えたリウは自分の周りに結界を張り、再び屋根の上に登っていた
「リウ」
ふと声が聞こえ声のした方を向くと、死神化している一護が毛布を持ってリウから少し離れた所に立っていた
「一護さん、どうかした?」
「どうかした?、じゃねえよ
一声くらい掛けてくれ、心配したんだぞ」
「ごめんなさい、でも少し考えたい事があって…」
苦笑しながら、リウは少し動き一護の座る場所を作る
一護はリウに礼を言うと、毛布を渡してから隣に腰を下ろした
「考えたいこと?」
「俺は、自分のことをほとんど知らない
母さんのことも婆ちゃんのことも…」
「…」
悲しげに話すリウに、一護は何と言えば良いのかわからず無言になる
「だから明日、もう一度リエクに会いに行こうと思って」
リウは無理矢理笑みを作り、そう言って空を見上げた
「なあ、リウ」
「何?一護さん」
リウと同じように空を見上げていた一護が、声をかける
「お前の名前ってどういう字なんだ?」
「…漢字のこと?」
「ああ」
唐突に話題を変えられ少し戸惑ったリウだが、一護が自分を気遣って話を変えてくれたのだと理解すると、笑みを浮かべて答える
「龍」
「は?」
「龍って字を書いてリウって読むんだ」
「そうか…どういう意味なんだ?お前の名前」
「『龍のように強く、誇り高く、仲間を思いやれる人になってほしい』そういう意味でこの名を付けたって母さんは言ってた
でもこの名を考えたのは父さんなんだって…」
「そうか、親父さんが…」
一護はリウの名の意味と名付けたのが父親と聞き呟いた
「…でも、俺は…俺は父さんのことをなにも知らないんだ、顔すらも…」
「何?」
「父さんは俺が生まれる前に死んだんだって、母さん達は言ってた」
「悪い…俺は…」
知らず知らずの内にリウに深入りし過ぎてしまった事を謝る一護に、リウは首を横に振りながら言う
「気にしないで
俺は父さんがどんな人なのかも知らないから…」
リウは気にするなと言いながらも、その表情は悲しげだった
「……龍、もう遅いから戻ろうぜ」
暗い雰囲気をどうにかしようと、一護はリウに部屋へ戻ろうと促す
「うん、そうだね…
そうだ、一護さんの名前の意味も教えて?」
思い付いたように、一護を呼び止めるリウ
既に空中に立っていた一護は少し考える素振りを見せたが、再びリウの隣に腰を下ろして答えた
「俺の名前は『何か一つのものを護り通せるように』
そういう意味で付けたって親父が言ってた」
「一護さんの名前も、お父さんが付けたんだ」
「ああ」
「良い名前だね」
「…サンキューな」
名前を褒められ、少し照れながらも礼を言う一護
それを見てリウは微笑んだ
「戻ろう、一護さん」
「ああ、そうだな」
二人は部屋へ戻り、一護はベットで、リウは壁に背を預けて毛布にくるまり眠りに就いた
???side
龍、我が主よ…
今日はここへは来ないのか…
『龍、お前が悲しめばこの世界に雨が降る
九年前…あの事件があってからこの世界には雨が降り続いている
それがようやく、最近になって雨が降り止んだ…お前があの死神達と出会ったことでお前の心の傷は少しずつ癒えてきている
そして、私の声も届くようになった』
男は虚空に向かい、嬉しそうに言葉を発する
そこにあるものが近づいてきた
『今日は来ないみたいだな』
『…そなたか』
男が声のした方を見ると、一人の男が立っていた
『何の用だ』
男はいきなり現れた男にたずねる
『いや、特に用はない
ただ王は今日は来ていないのかと、そう思っただけだ』
『そうか…』
二人はそれきり言葉を発さず、やがて…
『俺は眠る、王が俺にいつ気付くか楽しみだ』
男はそう言い、闇に溶けるように消えていった
龍、私はお前の力…名を呼ばれるのを、時が来るのを待っている
あの者をお前は受け入れるか、それは分からぬ
…だがきっと、お前は受け入れなくとも奴を…あの者の存在を否定することはないのだろう
夜明け前…
リウside
今日はリエクのところに行かないと…
リウは薄く目を開き辺りを見渡すと、一護の眠る姿が目に入る
そして姿は見えないが、押入れの中でルキアが眠っていることも気配で感じ取っていた
リウは眠っている二人を起こさぬよう、ゆっくりと体をほぐす
ある程度ほぐすと、再び毛布にくるまり今度は浅い眠りの中に意識を落とした
そして、二人が起きそうなのを気配で感じ取ると、自らも意識を覚醒させる
「おはよう、一護さん」
「おぅ…はよ、龍」
挨拶をするリウに、一護は少し寝惚けながらも挨拶を返す
「おはようリウ、やはり一番早いのだな」
「おはようルキアさん、やはりって?」
「いつも我々が起きる前に、お前は起きているだろう?
だからやはりと言ったのだ」
首を傾げてたずねるリウにルキアは苦笑しながら答えた
少しして、朝食を食べに下へ降りていった二人を、リウは考えながら待っていた
「ほれ、朝飯」
「!…ありがとう」
考えに耽っていたリウの前に一護が朝食を置く
リウは礼を言ってから食べ始めた
「じゃあ行ってくるな」
「行ってくる」
リウが食べ終えたとき二人は学校へ出掛けていった
さて、食べ終わったし俺も行こう
リウは置いておいた靴を履き、結界を張って以前リエクと会った、一高の裏山へと向かった
リウは軽やかに屋根の上や木の枝を使い、人とは思えぬような速度で山へ向かい、着くと直ぐに指笛を吹いた
すると今回は、咆哮をあげずにリエクは静かに舞い降りた
リエクside
今回はどんな用で呼んだのだ?
『どうした?龍』
「リエク……婆ちゃんのことについて聞きたくて、今日は呼んだんだ」
『弥優のことをか?』
「うん」
疑問を浮かべるリエクに、リウは躊躇いながらもうなずいた
『弥優は優しい、優しすぎるとも言える者だった』
リエクは遠い目をしてリウに、リウの祖母…弥優のことを話した
リエクから弥優のことを聞き終えたリウはリエクに礼を言い、リエクに自らの体を預け、眠りに就いた
今だけは、誰であろうとお前の眠りを邪魔させん
それがお前が心を許した者であろうと
リエクはリウの眠りを妨げぬように気を付けながら、リウを自らの翼で包み込んだ
一護side
ふう、とりあえず午前中は何もなかったな
「黒崎くーん」
「ん?…井上か」
一護に声を掛けたのは栗色の長い髪に水色のヘアピンを付けている少女、井上織姫だった
「お昼、皆で食べよう」
「おう、わかった」
織姫の誘いに、一護は屋上に向かった
「遅いぞ、黒崎」
「…一護、何かあったのか?」
一護が屋上に着くと既に何時ものメンバーが揃っており、一護に苦情を言ったのは石田雨竜、疑問を問い掛けたのは茶渡泰虎で、一護からはチャドと呼ばれている
「一護…何かあったのか?」
「別に、何もねえよ」
小声で聞いてくるルキアに一護も小声で返した
その後、昼食を食べ終え午後の授業も終わり、帰ろうと準備していると…
グオオオオォォォォォ!!!
「「「「「!!?」」」」」
突如、不気味な叫び声が力を持つ者の耳に届く
すると一護とルキアが同時に教室から飛び出していった
くそっ!この声…まさかアイツか!?
龍、無事でいてくれ!!
リウside
どうして…どうしてコイツがここに...!
リウは目の前にいる虚を見て、目を見開き恐怖体を震わせていた
グルルルル…!!
リエクはリウを庇うように翼で覆い虚に向かい唸り声を上げている
『小僧、何だその目は
儂がここにおるのがおかしいか?
前に言った筈だ、貴様の心が絶望に染まりきったその時、貴様を喰らうと…
このようなのは予想外だが、貴様はあの死神達を信頼している様だからな
奴等を喰らってから、小僧…貴様を喰らうとしよう』
虚はそう言い目を細めた
「龍ー!!」
「リウ!無事か!!」
「!!」
リウは届いたその声に肩を震わせる
その声は普段は安心するものだか、今は最も聞きたくはない声だったからだ
『ギヒヒ、来たようだな死神共が』
虚が呟いた直後、二つの黒い影がリウとリエクの前に降り立った
「ぁ…一護…さん……ルキア、さん」
普段とはかけ離れた弱々しい声で、リウは目の前に立つ人影を呼ぶ
「大丈夫か?…龍」
「すまぬ、遅くなった」
二人は虚を鋭い目で見据えながら、リウに声をかける
『ククク
わざわざ喰われに来たのか?死神』
「何言ってやがる、俺達はてめえを倒しにきたんだ」
不敵な笑みを浮かべながら、虚は一護とルキアを挑発する
そんな挑発に二人が乗る筈もなく、一護は鋭い視線で虚を睨みながら逆に虚を挑発する
『ハッハッハ
面白い、ならばせいぜい足掻くがいい…無駄だと教えてやろう』
「その余裕が命取りだ」
二人と一体はそう言うとリウの視界から消えた…正確には見えなくなった
一護さん、ルキアさん……死なないで…!
次回は戦闘描写が入ります。