ソラは星を超えるか?   作:アキヴィリ-マイフレンド

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天才クラブは理系が多そうなので文系の哲学者的なキャラがいるといいなって


1:哲学者の来訪

 

 

 宇宙ステーション・ヘルタ

 

 静寂だけが支配する研究区画で、無数のスクリーンが青白い光を放っていた。その中央で、ヘルタは腕を組みながら演算結果を眺めている

 

 「また、誤差」

 

 無機質な声が研究室に響く

 

 「開拓の運命だけ、演算結果が安定しない」

 

 隣でデータを確認していたルアン・メェイが静かに答えた

 

 「分岐の収束率は九十八・七三パーセント、しかし最後の選択だけが毎回異なります」

 

 「演算能力の問題じゃない」

 

 ヘルタは画面を指で弾く

 

 「何か、理論そのものが足りない」

 

 その時、自動ドアが静かに開いた

 

 規則正しい足音

 

 研究員でもなければ、宇宙ステーションの職員でもない。長いコートを纏った青年が部屋へ入ってくる。年齢は十代半ばほどにしか見えない

 

 しかし、その灰色の瞳だけは何百年もの歴史を見てきたような静けさを宿していた

 

 穏やかな声だった

 

 「招待ありがとう、ヘルタ」

 

 ヘルタは一瞥だけ向ける

 

 「遅かったね」

 

 「少し寄り道をしてきた」

 

 「あなたらしい理由」

 

 青年は肩を竦める

 

 「知識は目的地より道中で拾うものだから」

 

 ルアン・メェイが小さく微笑んだ

 

 「お久しぶりです、Dr.アンバー」

 

 「ああ、久しぶりだね。ルアン・メェイ」

 

 二人は軽く会釈を交わす。長年共同研究をしてきた者同士らしい、言葉少なな挨拶だった

 

 ヘルタは椅子へ座る

 

 「紹介する必要もないと思うけど。天才クラブ#???、哲学者にして神学者、そして、博識学会を天才クラブ以上に評価する変わり者、Dr.アンバー」

 

 アンバーは苦笑した

 

 「間違ってはいない」

 

 「否定しないね」

 

 「事実だろう?」

 

 そのやり取りに、ルアンが静かに紅茶を口へ運ぶ

 

 「ですが、その価値観には私も興味があります」

 

 「また今度ゆっくり話そう」

 

 アンバーは穏やかに答えた。

 

 その瞬間、研究室の奥で模擬宇宙の転送装置が光を放つ

 

 「終了」

 

 電子音と共に一人の少女が転送されてきた

 

 「あー……疲れた」

 

 大きく伸びをする。灰色の髪、金色の瞳、星。模擬宇宙のテスターであり、星穹列車の開拓者

 

 ヘルタは顔も上げない

 

 「今回も死んだ?」

 

 「三回」

 

 「更新したわね」

 

 「褒められてる?」

 

 アンバーはそのやり取りを静かに眺めていた。星も彼へ気付く

 

 「あれ?見ない人。」

 

 ヘルタが簡潔に紹介する

 

 「Dr.アンバー、今回の共同研究者」

 

 星は軽く頭を下げた

 

 「よろしく」

 

 アンバーはしばらく彼女を見つめる。まるで何かを観察するように、あるいは考えるように、そして静かに笑った

 

 「なるほど」

 

 星は首を傾げる

 

 「何が?」

 

 「君が開拓者(アキヴィリ)か」

 

 「そうだけど?」

 

 「いや、思っていたより普通だった」

 

 アンバーは首を振った

 

 「普通って何?」

 

 「もっと変わった子かと思っていた」

 

 星は少しむっとする

 

 「それ褒めてる?」

 

 「褒めているよ」

 

 ヘルタが肩を竦めた

 

 「彼女は予想よりずっと予測不能」

 

 「それは面白い、愉悦のアッハが目をかけるわけだ」

 

 アンバーはそう言うと、模擬宇宙のデータへ視線を移した

 

 無数の分岐。幾千万もの可能性。星が歩んだ軌跡。その中心だけが、不規則に揺らいでいる。彼は数秒眺めただけで、小さく頷いた

 

 「なるほど」

 

 ヘルタが聞く

 

 「何か分かった?」

 

 「少し」

 

 「教えて」

 

 「わからないことを聞けるのは君の美徳だ。ヘルタ、この演算は間違ってはいない、でも、足りない」

 

 アンバーは画面を見つめたまま言う

 ヘルタの眉が僅かに動く

 

 「何が?」

 

 「視点だ」

 

 ルアン・メェイも興味深そうに彼を見る

 アンバーは静かに続けた

 

 「君たちは星神(アイオーン)を再現しようとしている。そうだろう?」

 

 「ええ」

 

 ヘルタは即答する

 

 「模擬宇宙は星神(アイオーン)の思考や軌跡を再構成するための装置よ」

 

 アンバーは穏やかに頷く

 

 「だから足りない、星神(アイオーン)だけを観測しても意味はない」

 

 研究室が静まり返る。ヘルタが腕を組む

 

 「続けて」

 

 「私はこう考えている」

 

 アンバーは窓の外へ広がる星海を見る

 

 「運命とは行人に歩かれることで初めて意味を持つ。なら観測すべきは星神ではない」

 

 そう言って、彼は星へ視線を向けた

 

 「運命を歩く人間だ」

 

 星は目を丸くした

 

 「私?」

 

 「そうだ。君はアキヴィリではない。しかし、アキヴィリの歩んだ道を歩いている。そこに私は興味がある」

 

 ヘルタは数秒黙り込む。やがて口元を僅かに上げた

 

 「……なるほど、だからあなたを呼んだのかもしれない」

 

 「私を?」

 

 「ええ、私たちは星神を研究していた。でも、あなたは違う。運命そのものを研究している」

 

 アンバーは静かに笑う

 

 「少し違う」

 

 「?」

 

 「私は」

 

 アンバーは少しだけ考え、穏やかな声で答えた

 

 「運命を歩こうとする人類を研究している」

 

 その言葉に、ルアン・メェイは静かに目を閉じた

 

 「……興味深いですね」

 

 ヘルタも珍しく否定しなかった

 星だけが困ったように笑う

 

 「ごめん。難しい話はよく分かんない。」

 

 アンバーは笑った

 

 「それでいい、哲学は答えを知っている人の学問じゃない。問いを持った人の学問だ」

 

 そう言って彼は模擬宇宙の起動装置へ歩き出す

 

 「さて、まずは君たちの宇宙を見せてもらおう」

 

 研究室の照明が少しだけ落ちる。新たなシミュレーションが起動した

 そして四人の思索の旅が、静かに始まる

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