ソラは星を超えるか?   作:アキヴィリ-マイフレンド

2 / 4
模擬宇宙ならこんなこともできるといいなって思ってる。
あとDr.アンバーはDr.レイシオのこと大好きだと思う


2 :文明とは何か?

 模擬宇宙の演算が始まる

 無数の光粒子が研究室を満たし、星々の誕生と消滅が一瞬のうちに再現されていく。アンバーは腕を組み、その光景を静かに眺めていた

 

 「……見事だ」

 

 ヘルタは鼻を鳴らす

 

 「当然よ」

 

 「模擬宇宙は星神の軌跡だけじゃない。銀河の歴史そのものを演算している」

 

 アンバーは小さく頷く

 

 「だからこそ、美しい」

 

 その言葉にヘルタは少しだけ意外そうな顔をした

 

 「褒めるんだね」

 

 「褒めるとも、学問は美しくあるべきなのだから」

 

 ヘルタは椅子を回転させながら笑う

 

 「あなた、相変わらず哲学者ね」

 

 「職業なのでな」

 

 「面倒な職業」

 

 「否定はしない」

 

 星は二人のやり取りを見て苦笑する

 

 「仲が良いの?」

 

 アンバーは微笑みながら、ヘルタは鼻で笑いながら答える

 

 「悪い」

 

 「良くない」

 

 二人の返答がぴたりと重なった

 ルアン・メェイだけが口元を隠して微笑む

 

 「ですが、お二人とも議論を楽しんでいらっしゃいます」

 

 「まあね」

 

 ヘルタは立ち上がり、巨大なホログラムを表示した

 そこには銀河各地の文明が浮かび上がる

 

 ベロブルグ

 仙舟

 ピノコニー

 オンパロス

 そして名も無き無数の文明

 

 「これ」

 

 ヘルタが言う

 

 「文明の発展速度を演算した結果、天才が現れた文明ほど、技術革新は早い」

 

 星が首を傾げる

 

 「つまり?」

 

 「世界を変えるのは天才ってこと」

 

 ヘルタは当然と言わんばかりに答えた

 

 「蒸気機関、反物質、模擬宇宙、全部、一握りの天才が生み出した」

 

 アンバーは黙って聞いていた。ヘルタは続ける

 

 「だから文明を進歩させるのは天才、私はそう思ってる」

 

 研究室が静まる。アンバーは少しだけ考え、穏やかに口を開いた

 

 「私は違う」

 

 ヘルタは笑う

 

 「知ってる、だから呼んだ」

 

 アンバーはホログラムへ歩み寄る。そこには無数の文明が浮かんでいる。彼は一つの星を指差した

 

 「もし、この文明から天才が一人消えたら、文明は止まるだろうか」

 

 ヘルタは即答した

 

 「遅くなる。でも止まりはしない」

 

 「そう、その通り」

 

 アンバーは頷く

 

「では教師がいなくなったら。記録者がいなくなったら、翻訳者がいなくなったら、子供へ知識を伝える者がいなくなったら」

 

 星がぽつりと言う

 

 「……忘れちゃう」

 

 アンバーは微笑んだ

 

 「その通り」

 

 彼は静かにホログラムを閉じる

 

 「文明とは知識を発見することではない、知識を残すことだ」

 

 ヘルタは腕を組んだ

 

 「でも発見がなければ残せない」

 

 「もちろんだ。それは否定しない」

 

 アンバーは否定しない

 

 「だから天才は偉大だ、しかし」

 

 少しだけ声が柔らかくなる

 

 「文明を千年先まで運ぶのは、名も無き人々なんだ」

 

 ルアン・メェイが静かに尋ねる

 

 「それが博識学会を高く評価する理由ですか」

 

 「ああ、彼らは天才ではない。だが知識を守る。それは文明そのものを守ることでもある」

 

 星は腕を組んだ

 

 「でもさ、先生も天才クラブなんだよね?」

 

 「もちろん、そうだナンバーが虚構歴史学者に削り取られてもそれだけは失わなかった」

 

 「じゃあ何で博識学会なの?」

 

 アンバーは少しだけ笑った

 

 「天才は孤独になりやすい。一人でも研究できるから、だが文明は一人では築けない。だから私は博識学会を尊敬している」

 

 ヘルタが肩をすくめる

 

 「相変わらず凡人に甘いんだね」

 

 アンバーは首を振った

 

 「違う、私は凡人を信じている」

 

 その言葉にルアン・メェイが興味深そうに目を細める

 

 「理由を伺っても?」

 

 アンバーは窓の外を見た。無数の星々、開拓の軌跡、静かに語り始める

 

 「昔、私の故郷には、空を見上げるだけだった時代があった」

 

 星は興味津々で身を乗り出す

 

 「故郷?」

 

 アンバーは頷く

 

 「ある日二人の兄弟が初めて空を越えた。その時、彼らはこう言った」

 

 少しだけ目を閉じる

 

 「── もしも私たち全員が『真実として受け入れられていることは本当に真実だ』という前提で物事に取り組むとしたら、進歩という希望はないだろうと」

 

 研究室は静まり返る。星は小さく呟いた

 

 「……かっこいい、いい言葉」

 

 アンバーは微笑む

 

 「私もそう思う、だから忘れられなかった」

 

 ヘルタが興味深そうに聞く

 

 「その人があなたの文明を変えたの?」

 

 「違う、確かに彼らは変革者だ。しかし、彼らでは変えられない。その一歩を、何億もの人々が受け継いだから文明になった」

 

 ルアン・メェイは静かに紅茶を置く

 

 「生命も似ています。一つの細胞では生命とは呼べません。ですが、それが繋がり、受け継がれることで、一つの生命圏が形作られます」

 

 アンバーは嬉しそうに笑った

 

 「なるほど、だから君とは話が合う」

 

 ヘルタは二人を見ながら呆れたように息をつく

 

 「哲学者と生物学者って、こんなところで意気投合するのね」

 

 「ヘルタ、君も本当は分かっているはずだ」

 

 アンバーが彼女を見る

 

 「何を?」

 

 「模擬宇宙は一人では完成しなかった」

 

 ヘルタは少し黙る

 

 「……そうね。スクリューガムも、ルアンも、スティーブンも、私だけじゃ完成しなかった」

 

 アンバーは静かに頷く

 

 「それが文明だ」

 

 研究室に再び静寂が訪れる

 

 その時、模擬宇宙の演算画面が突然更新された

 

 《新規演算対象:アキヴィリの足跡》

 

 ヘルタが画面を見る

 

「始まるよ、次は開拓。」

 

 アンバーはその表示を見つめながら、小さく呟いた

 

「さて、神を追う者は、何を見るのだろうか」

 

 星はその意味が分からず首を傾げる

 しかしその問いは、次なるシミュレーションの始まりを告げる鐘のように、静かに研究室へ響いていた

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。