ソラは星を超えるか?   作:アキヴィリ-マイフレンド

9 / 9
ヘルタと丹恒はこれでいいのか?エミュがむずかった。


9: 答えはないんだから

 宇宙ステーション・ヘルタ

 

 共同研究終了から、一か月。

 模擬宇宙は、いつもの静けさを取り戻していた。

 大型演算装置は休むことなく稼働し続け、無数の演算結果が新たな仮説を生み出している。

 何も変わらない日常。

 

 ……そう見えた。

 

 「ヘルタ」

 

 ルアン・メェイが、一冊の電子資料を机へ置く。

 

 「共同研究の整理が終わりました」

 

 ヘルタは資料を受け取り、ぱらぱらとページをめくる。

 

 共同研究報告書。

 執筆者。

 ヘルタ。

 ルアン・メェイ。

 Dr.アンバー。

 

 そして最後のページ。

 そこだけは、研究成果でも演算式でもなかった。

 ただ、一文だけが記されている。

 

 『文明とは、問いを継承する営みである』

 

 ヘルタは思わず笑った。

 

 「最後まで哲学ね」

 

 ルアンも穏やかに微笑む。

 

 「ですが、不思議です。以前より、この研究室が少し広く見えるのです。」

 「……そうね」

 

 ヘルタは窓の外を見る。

 宇宙は何も変わらない。

 星々は静かに瞬いている。

 

 それなのに以前よりも、未知が増えたような気がした。

 

 「厄介な置き土産をしていったものね」

 

 その言葉に、ルアンは静かに頷いた。

 

 「答えではなく、問いを残しました」

 「そうね。だから研究は終わらない」

 

 その頃。

 宇宙ステーションを離れた星穹列車は、新たな星系へ向けて航行していた。

 車内では三月なのかが、いつものように窓へ張り付いている。

 

 「次の星ってどんなところかな!」

 

 丹恒は静かに資料を閉じる。

 

 「到着してからのお楽しみだ」

 

 姫子は紅茶を一口飲み、穏やかに微笑んだ。

 

 「星」

 「なに?」

 「今回は、ずいぶん考え込んでいるわね」

 

 星は窓の外を見つめたまま、小さく笑う

 

 「アンバーに言われたことを思い出してた」

 「アンバー?」

 

 三月なのかが首を傾げる。

 

 「宇宙ステーションで会った哲学者」

 「ああ、あの難しい話ばっかりする人!」

 

 

 車内に笑いが広がる。

 星もつられて笑った。

 

 「うん、でも今なら少し分かる気がする」

 

 窓の外には、まだ誰も訪れたことのない星系が広がっている。

 あの時。

 アンバーは言った。

 

 『開拓とは、未知を知へ変える営みだ』

 

 その意味を、ようやく理解できた気がした。

 未知を恐れないこと。

 答えを急がないこと。

 歩き続けること。

 

 それが開拓。

 

 列車がワープ航路へ入る。

 無数の星が光の線となって流れていく。

 その光景を見ながら、星は静かに呟く。

 

 「アンバー、私はまだ答えを知らない。でも、問いなら、たくさん見つけられそう」

 

 列車は静かに加速する。

 誰も知らない世界へ。

 誰も知らない文明へ。

 誰も知らない未来へ。

 

 その遥か彼方。

 一隻の小型調査艇もまた、別の航路を進んでいた。

 

 船内

 本棚には数冊の古い本。

 机の上には、ルアン・メェイから託された小さな種子。

 端末には、ヘルタから受け取った共同研究データ。

 

 アンバーは静かに航路を確認すると、窓の外へ視線を向ける。

 そこには、名もなき恒星系が輝いていた。

 

 

 「さて」

 

 彼は小さく笑う。

 

 「次の問いを探しに行こう」

 

 調査艇は針路を変え、未知の星系へ向かう。

 その姿を知る者はいない。

 歴史に名を刻むこともないだろう。

 だが、それで構わない。

 文明とは、一人の英雄によって築かれるものではない。

 名もなき旅人が残した無数の問いが積み重なり、いつしか一つの文化となり、一つの歴史となる。

 そして、その歴史の果てで。

 

 また誰かが、新たな問いを抱いて歩き始める。

 宇宙は広い。

 文明は終わらない

 知識にも終着点はない

 

 だからこそ、人は今日も空を見上げる。

 

 遠い昔、とある青い星で、一人の開拓者が月へ向かって歩き出したように。

 

 そして今もまた、星穹列車は星々を結び、一人の哲学者は未知へ向かって旅を続ける。

 その歩みが交わる日が再び訪れるのか、それとも永遠に交わらないのかは、誰にも分からない。

 

 しかし、一つだけ確かなことがある。

 文明は、人が問い続ける限り終わらない。

 

 そして、その問いこそが、宇宙という果てなき書物に記される、新たな一頁なのだから。

 

 願わくば、これからの人類が星に辿り付かんことを。

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