FAIRY TAIL ―継ぎ接ぎのS級魔導士― 作:七草空斗
クローバーの町、地方ギルドマスター連盟の定例会会場。
この会場内では
その一角に、
「あらぁヴェルクちゃんじゃない。そんな端にいないで、もっとこっちに来ればいいのにぃ」
キャミソールに化粧を施した、このふくよかな男――
ちなみに、男である。
「あぁボブさん、お気遣いありがとうございます。でも今回はただの使いなので、ここで十分ですよ」
はにかみながら話すこの男――
「相変わらず謙虚ねぇ、全然中に居てもいいのに。にしても……ヴェルクちゃんもイケメンに育っちゃってぇ。うちのギルドに欲しいくらいだわぁ」
「はは、買いかぶりですよ。お宅の一夜さんたちの方がずっと華がありますし」
「んもう、そういうとこが上手いのよねぇ」
「そんな事ないですよ」
ボブは満足げに笑う。
「ちっちゃいころから可愛かったのに、ずっとお顔隠しちゃって。せっかくのイケメンなんだから、もったいないわよぉ」
「ははっ、そうですか? こんな傷だらけな顔、人に見せるようなものでもないですし」
軽い会話が続いていたその時、会場入口の方で空気がわずかに動いた。
二人の注意が自然とそちらへ向く。
「ポッポーッ」
軽い鳴き声とともに、手紙を咥えた鳥が二人の前に舞い降りた。
ヴェルクは自然な動作でそれを受け取り、差出人に目を通す。
「……ミラからですね。マスター宛てです」
裏面を確認しながらそう告げると、そのまま手紙をマカロフの元へと持っていく。
「マスター、ミラから手紙です」
「ん? おぉ、すまんのぉ」
他のギルドマスターと談笑していたマカロフが顔を上げる。
ヴェルクは軽く頭を下げると、その場の邪魔にならない位置へ戻った。
椅子に腰を下ろし、静かに様子を見守る。
マカロフが封を開けると、手紙は魔法映像としてミラジェーンの姿を映し出した。
周囲のマスターたちが感嘆の声を上げる中、マカロフは得意げにそれを見せびらかしている。
「ほぉ……!!!」
だが、読み進めるほどに顔色が悪くなる。
遠くて詳細は聞こえなかったが、「あのエルザとナツとグレイがチームを組んだ」という言葉だけは届いた。
次の瞬間、マカロフはテーブルに突っ伏すように崩れ落ちた。
「マスター、大丈夫ですか?」
放心するマカロフを起こし、苦笑いしながら問いかける。
「エルザたちがチームを組んだと聞こえたのですが……何かあったんですか?」
「う~む。えらいことになったのぉ、奴らがチームを組んだら本当に町1つ潰しかねん」
「否定しづらい組み合わせですね……」
ヴェルクは小さく息を吐き、納得したように頷いた。
ギルド内でも一、二を争う荒くれ者のナツとグレイ。
そこにエルザが加われば、もはや災害に近い。
「うむ、定例会は今日終わるし明日には帰れる。それまで何も起こらなければいいんじゃが……」
「……まぁ、無理でしょうね。あの三人が一緒なんですよ?」
しっかり者のエルザ単体ならともかく、ナツとグレイが揃えば惨状は目に見えている。
「うむ……。心配じゃ」
マカロフは深くため息をつき、肩を落とした。
三人が生み出すであろう始末書の山を考えてか、マカロフの背中がより小さく見えた。
「なんだったら、三人の行き先を探してきましょうか?」
ヴェルクは少しだけ表情を和らげると、軽く提案する。
「うむ。頼めるか、ヴェルク」
「了解です。見つけ次第、すぐ連絡を入れます」
一礼すると、椅子に掛けていたローブを着直し会場の外へ向かった。
扉を抜けたところで通信用ラクリマを取り出し、ギルドへ連絡を入れる。
「……ん、繋がったかな。お疲れ様、ミラ」
ラクリマの光が安定すると、そこには
「ヴェル、お疲れ様。ちゃんと会場に着けたかしら?」
柔らかな笑みを浮かべるミラに、ヴェルクは肩の力を抜いて応じる。
「問題なくね。クローバーの町にいるよ。薬もちゃんとマスターに渡してきた」
「良かったわ。まったく、マスターったらお薬を忘れちゃうんだもの。ありがとうねヴェル」
「気にしないで。偶々僕も会話を聞いてたし、それより――さっきマスターと手紙を見たんだけど」
少しだけ表情を改める。
「エルザたちがチームを組んだって話、本当?」
「そうなのよ! エルザが依頼から戻ってきて、それでね……」
ミラが嬉しそうに経緯を話してくれる。
どうやら変な噂を耳にしたエルザが、その対応のために二人を連れ出したらしい。
「なるほどね……。で、エルザたちは駅に向かったんだね?」
「えぇ。そうみたいよ」
「分かった。情報ありがとう、ミラ。また何かあれば連絡する」
「ええ、気をつけてね」
通信が途切れ、ラクリマの光が消える。
静寂が戻ると、風の音だけが耳に残った。
ヴェルクは一度だけ空を仰ぎ、すぐに視線を正面へ戻す。
「……急いだ方がよさそうだね」
短く呟くと、魔力を巡らせる。
「
背中に光が走り、魔力で構成された翼が展開される。
次の瞬間、ヴェルクは地面を蹴って空へ跳び上がった。
目指すはオシバナ駅。
クローバーの町を発ってから、数十分。
ようやくクローバー渓谷の上空へ差しかかったところで、オシバナ駅へ続く線路の先に異常な魔力反応が見えた。空気が歪み、視認できるほどの熱と風がぶつかり合っている。
スピードを上げて近づく。
だが、強まる突風をまともに受け、一度
線路上へ降り立つと、そのまま現場へ向かって駆け出す。
近づくにつれ、爆炎と轟音がはっきりと聞こえてくる。
「俺がたおしてやるよォオォ!!!!」
聞き覚えのある声と共に炎が勢いを増し、空間に低気圧が発生する。
「火竜の劍角!!!!!」
眼前で、爆炎に弾かれた影が吹き飛んだ。
その向こうから、桜色の髪と竜の鱗模様のマフラーを巻いた少年が姿を見せる。
「ナツ! ハッピー!」
「お、ヴェルクじゃねえか」
「あい、どうしてこんなとこに居るの?」
この男――
青い猫、ハッピーも顔を出す。
「ナツたちが暴れる前に止めろって言われて来たんだよ。で、これ何の戦い?」
視線の先には、地面に転がる魔導士の姿。
「
エリゴールの横にちょこんと座りながらハッピーが簡潔に答える。
「定例会の会場で
「……
ヴェルクは短く繰り返し、眉をわずかに動かす。
その時、オシバナ方面から魔動四輪のエンジン音が近づいてきた。
「ナツ──!!」
後部座席から身を乗り出すサイドテールの金髪少女。
助手席にはグレイ、そして運転席にはエルザが陣取っている。
「お、遅かったじゃねぇか。もう終わったぞ」
「あい」
駆け寄る金髪の少女に対し、ナツとハッピーが気楽に言葉を返す。
「ナツ、あの子と知り合いなの?」
「ん? おぉそういや、お前はルーシィのことをまだ知らなかったな。ルーシィって言うんだ。牛とか蟹とかを呼び出して戦うんだけどよ、意外に強いんだぜ!」
「牛とか蟹? ……
「んいや、星霊魔法って魔法らしいぞ」
「へぇ、星霊魔導士か。今時珍しい魔法だね」
短く納得しつつ、ヴェルクは一歩引いて全体を見渡す。
ナツ、グレイ、ルーシィ、エルザ。
それぞれの魔力の残滓がまだ場に残っていた。
「……よくこれで町が残ったね」
半ば本音を漏らしながら、ヴェルクは呟く。
その後、ルーシィと視線が合う。
「あの、あなたは?」
「あぁ、挨拶が遅れてごめん。僕はヴェルク・ヴァニシュ。ナツから話は聞いたよ、新しい
軽く手を差し出す。
その手を見て、少し緊張したように彼女も手を握り返す。
「はい!ルーシィって言います。これからよろしくお願いします、ヴェルクさん!」
「さん付けじゃなくて良いよ。こちらこそよろしくね、ルーシィ!」
ニコッと笑顔で挨拶を返す彼女と握手を交わす。
その瞬間──
「つーか、上裸にマフラーって変態みたいだぞ」
ナツを指さし、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるグレイ。
だが、当の本人もいつの間にか上半身を完全に晒しており、まさに特大のブーメランが後頭部に突き刺さりそうな光景だった。
「……それを、呼吸するように服を脱ぐグレイが言うのね」
ヴェルクは軽く息を吐き、苦笑する。
だが、その表情には緊張はない。
この二人のいつものやり取りを見ると、ようやく合流できたという安堵だけがあった。
「何はともあれ見事だナツ。これでマスターたちは守られた」
凛とした表情で緋色の髪をなびかせるこの女――エルザ・スカーレット。
到着する前にどれほどの激戦があったのかは分からないが、周囲の地形が変形するほどの戦痕を見れば、事態がようやく収拾したことだけは伝わってきた。
「ひとまず、任務は完了だね。そのままマスターへ報告に行こうか。それに――」
ヴェルクは足元の笛へ視線を落とす。
「この笛の始末についても、マスターの判断を仰いだ方がいいだろうしね」
誰もが安堵し、今後の相談をしながら歩き出そうとした――その時だった。
背後から、猛烈なエンジン音を響かせた一台の魔動四輪が、僕たちの横スレスレを猛スピードで突き抜けていった。
次の瞬間、足元にあったはずの笛が消えている。
「カゲ!」
誰かの鋭い叫びが響く。
振り返るより早く、車上の男が嘲笑を残す。
「油断したな、
掲げられた男の手には、先ほどナツがエリゴールから取り上げたはずの
「あんのヤロォォォ!!!」
ナツが激昂し、その場の空気が爆発するように弾ける。
考えるより先に、全員の体が反射的に地を蹴っていた。
「逃がすか! 追うぞ!!」