FAIRY TAIL ―継ぎ接ぎのS級魔導士―   作:七草空斗

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第1話 妖精の尻尾と模倣者

クローバーの町、地方ギルドマスター連盟の定例会会場。

 

この会場内では青い天馬(ブルーペガサス)四つ首の番犬(クワトロケルベロス)など、近隣ギルドの総長(マスター)たちが顔を揃え、形式的な会合と雑談が交錯している。

 

その一角に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター、マカロフ・ドレアーの姿もある。

 

「あらぁヴェルクちゃんじゃない。そんな端にいないで、もっとこっちに来ればいいのにぃ」

 

キャミソールに化粧を施した、このふくよかな男――青い天馬(ブルーペガサス)のマスター・ボブ。

 

ちなみに、男である。

 

「あぁボブさん、お気遣いありがとうございます。でも今回はただの使いなので、ここで十分ですよ」

 

はにかみながら話すこの男――妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士ヴェルク・ヴァニシュ。今回の定例会には、マスターへの届け物のため同行している。

 

「相変わらず謙虚ねぇ、全然中に居てもいいのに。にしても……ヴェルクちゃんもイケメンに育っちゃってぇ。うちのギルドに欲しいくらいだわぁ」

 

「はは、買いかぶりですよ。お宅の一夜さんたちの方がずっと華がありますし」

 

「んもう、そういうとこが上手いのよねぇ」

 

「そんな事ないですよ」

 

ボブは満足げに笑う。

 

青い天馬(ブルーペガサス)は美形揃いのギルドとして知られ、魔導士である前に“見られること”を意識した者も多い。週刊ソーサラーの誌面を飾ることも珍しくない。

 

「ちっちゃいころから可愛かったのに、ずっとお顔隠しちゃって。せっかくのイケメンなんだから、もったいないわよぉ」

 

「ははっ、そうですか? こんな傷だらけな顔、人に見せるようなものでもないですし」

 

軽い会話が続いていたその時、会場入口の方で空気がわずかに動いた。

 

二人の注意が自然とそちらへ向く。

 

「ポッポーッ」

 

軽い鳴き声とともに、手紙を咥えた鳥が二人の前に舞い降りた。

ヴェルクは自然な動作でそれを受け取り、差出人に目を通す。

 

「……ミラからですね。マスター宛てです」

 

裏面を確認しながらそう告げると、そのまま手紙をマカロフの元へと持っていく。

 

「マスター、ミラから手紙です」

 

「ん? おぉ、すまんのぉ」

 

他のギルドマスターと談笑していたマカロフが顔を上げる。

ヴェルクは軽く頭を下げると、その場の邪魔にならない位置へ戻った。

 

椅子に腰を下ろし、静かに様子を見守る。

 

マカロフが封を開けると、手紙は魔法映像としてミラジェーンの姿を映し出した。

周囲のマスターたちが感嘆の声を上げる中、マカロフは得意げにそれを見せびらかしている。

 

「ほぉ……!!!」

 

だが、読み進めるほどに顔色が悪くなる。

遠くて詳細は聞こえなかったが、「あのエルザとナツとグレイがチームを組んだ」という言葉だけは届いた。

 

次の瞬間、マカロフはテーブルに突っ伏すように崩れ落ちた。

 

「マスター、大丈夫ですか?」

 

放心するマカロフを起こし、苦笑いしながら問いかける。

 

「エルザたちがチームを組んだと聞こえたのですが……何かあったんですか?」

 

「う~む。えらいことになったのぉ、奴らがチームを組んだら本当に町1つ潰しかねん」

 

「否定しづらい組み合わせですね……」

 

ヴェルクは小さく息を吐き、納得したように頷いた。

 

ギルド内でも一、二を争う荒くれ者のナツとグレイ。

そこにエルザが加われば、もはや災害に近い。

 

「うむ、定例会は今日終わるし明日には帰れる。それまで何も起こらなければいいんじゃが……」

 

「……まぁ、無理でしょうね。あの三人が一緒なんですよ?」

 

しっかり者のエルザ単体ならともかく、ナツとグレイが揃えば惨状は目に見えている。

 

「うむ……。心配じゃ」

 

マカロフは深くため息をつき、肩を落とした。

三人が生み出すであろう始末書の山を考えてか、マカロフの背中がより小さく見えた。

 

「なんだったら、三人の行き先を探してきましょうか?」

 

ヴェルクは少しだけ表情を和らげると、軽く提案する。

 

「うむ。頼めるか、ヴェルク」

 

「了解です。見つけ次第、すぐ連絡を入れます」

 

一礼すると、椅子に掛けていたローブを着直し会場の外へ向かった。

扉を抜けたところで通信用ラクリマを取り出し、ギルドへ連絡を入れる。

 

「……ん、繋がったかな。お疲れ様、ミラ」

 

ラクリマの光が安定すると、そこには妖精の尻尾(フェアリーテイル)の事務員であるミラジェーン・ストラウスの姿が映し出された。

 

「ヴェル、お疲れ様。ちゃんと会場に着けたかしら?」

 

柔らかな笑みを浮かべるミラに、ヴェルクは肩の力を抜いて応じる。

 

「問題なくね。クローバーの町にいるよ。薬もちゃんとマスターに渡してきた」

 

「良かったわ。まったく、マスターったらお薬を忘れちゃうんだもの。ありがとうねヴェル」

 

「気にしないで。偶々僕も会話を聞いてたし、それより――さっきマスターと手紙を見たんだけど」

 

少しだけ表情を改める。

 

「エルザたちがチームを組んだって話、本当?」

 

「そうなのよ! エルザが依頼から戻ってきて、それでね……」

 

ミラが嬉しそうに経緯を話してくれる。

どうやら変な噂を耳にしたエルザが、その対応のために二人を連れ出したらしい。

 

「なるほどね……。で、エルザたちは駅に向かったんだね?」

 

「えぇ。そうみたいよ」

 

「分かった。情報ありがとう、ミラ。また何かあれば連絡する」

 

「ええ、気をつけてね」

 

通信が途切れ、ラクリマの光が消える。

静寂が戻ると、風の音だけが耳に残った。

 

ヴェルクは一度だけ空を仰ぎ、すぐに視線を正面へ戻す。

 

「……急いだ方がよさそうだね」

 

短く呟くと、魔力を巡らせる。

 

模倣(ドラフト)――『(エーラ)』」

 

背中に光が走り、魔力で構成された翼が展開される。

次の瞬間、ヴェルクは地面を蹴って空へ跳び上がった。

 

目指すはオシバナ駅。

 

 

 

 

 

クローバーの町を発ってから、数十分。

 

ようやくクローバー渓谷の上空へ差しかかったところで、オシバナ駅へ続く線路の先に異常な魔力反応が見えた。空気が歪み、視認できるほどの熱と風がぶつかり合っている。

 

スピードを上げて近づく。

だが、強まる突風をまともに受け、一度(エーラ)を解いた。

線路上へ降り立つと、そのまま現場へ向かって駆け出す。

 

近づくにつれ、爆炎と轟音がはっきりと聞こえてくる。

 

「俺がたおしてやるよォオォ!!!!」

 

聞き覚えのある声と共に炎が勢いを増し、空間に低気圧が発生する。

 

「火竜の劍角!!!!!」

 

眼前で、爆炎に弾かれた影が吹き飛んだ。

その向こうから、桜色の髪と竜の鱗模様のマフラーを巻いた少年が姿を見せる。

 

「ナツ! ハッピー!」

 

「お、ヴェルクじゃねえか」

「あい、どうしてこんなとこに居るの?」

 

この男――妖精の尻尾(フェアリーテイル)の火の滅竜魔導士、ナツ・ドラグニルだ。

青い猫、ハッピーも顔を出す。

 

「ナツたちが暴れる前に止めろって言われて来たんだよ。で、これ何の戦い?」

 

視線の先には、地面に転がる魔導士の姿。

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)のエリゴールだよ」

 

エリゴールの横にちょこんと座りながらハッピーが簡潔に答える。

 

「定例会の会場で呪歌(ララバイ)を使おうとしてた。それを止めたんだ」

 

「……呪歌(ララバイ)ね」

 

ヴェルクは短く繰り返し、眉をわずかに動かす。

その時、オシバナ方面から魔動四輪のエンジン音が近づいてきた。

 

「ナツ──!!」

 

後部座席から身を乗り出すサイドテールの金髪少女。

助手席にはグレイ、そして運転席にはエルザが陣取っている。

 

「お、遅かったじゃねぇか。もう終わったぞ」

 

「あい」

 

駆け寄る金髪の少女に対し、ナツとハッピーが気楽に言葉を返す。

 

「ナツ、あの子と知り合いなの?」

 

「ん? おぉそういや、お前はルーシィのことをまだ知らなかったな。ルーシィって言うんだ。牛とか蟹とかを呼び出して戦うんだけどよ、意外に強いんだぜ!」

 

「牛とか蟹? ……絵画魔法(ピクトマジック)とか?」

 

「んいや、星霊魔法って魔法らしいぞ」

 

「へぇ、星霊魔導士か。今時珍しい魔法だね」

 

短く納得しつつ、ヴェルクは一歩引いて全体を見渡す。

 

ナツ、グレイ、ルーシィ、エルザ。

それぞれの魔力の残滓がまだ場に残っていた。

 

「……よくこれで町が残ったね」

 

半ば本音を漏らしながら、ヴェルクは呟く。

 

その後、ルーシィと視線が合う。

 

「あの、あなたは?」

 

「あぁ、挨拶が遅れてごめん。僕はヴェルク・ヴァニシュ。ナツから話は聞いたよ、新しいうちのギルド(フェアリーテイル)のメンバーなんだって?」

 

軽く手を差し出す。

その手を見て、少し緊張したように彼女も手を握り返す。

 

「はい!ルーシィって言います。これからよろしくお願いします、ヴェルクさん!」

 

「さん付けじゃなくて良いよ。こちらこそよろしくね、ルーシィ!」

 

ニコッと笑顔で挨拶を返す彼女と握手を交わす。

その瞬間──

 

「つーか、上裸にマフラーって変態みたいだぞ」

 

ナツを指さし、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるグレイ。

 

だが、当の本人もいつの間にか上半身を完全に晒しており、まさに特大のブーメランが後頭部に突き刺さりそうな光景だった。

 

「……それを、呼吸するように服を脱ぐグレイが言うのね」

 

ヴェルクは軽く息を吐き、苦笑する。

 

だが、その表情には緊張はない。

この二人のいつものやり取りを見ると、ようやく合流できたという安堵だけがあった。

 

「何はともあれ見事だナツ。これでマスターたちは守られた」

 

凛とした表情で緋色の髪をなびかせるこの女――エルザ・スカーレット。妖精の尻尾(フェアリーテイル)が誇るS級魔導士であり、ギルド最強の女魔導士だ。

 

到着する前にどれほどの激戦があったのかは分からないが、周囲の地形が変形するほどの戦痕を見れば、事態がようやく収拾したことだけは伝わってきた。

 

「ひとまず、任務は完了だね。そのままマスターへ報告に行こうか。それに――」

 

ヴェルクは足元の笛へ視線を落とす。

 

「この笛の始末についても、マスターの判断を仰いだ方がいいだろうしね」

 

誰もが安堵し、今後の相談をしながら歩き出そうとした――その時だった。

 

背後から、猛烈なエンジン音を響かせた一台の魔動四輪が、僕たちの横スレスレを猛スピードで突き抜けていった。

 

次の瞬間、足元にあったはずの笛が消えている。

 

「カゲ!」

 

誰かの鋭い叫びが響く。

振り返るより早く、車上の男が嘲笑を残す。

 

「油断したな、妖精(ハエ)ども! 笛は、呪歌(ララバイ)はここだ!! ざまあみろ!!」

 

掲げられた男の手には、先ほどナツがエリゴールから取り上げたはずの呪歌(ララバイ)が握られている。

 

「あんのヤロォォォ!!!」

 

ナツが激昂し、その場の空気が爆発するように弾ける。

考えるより先に、全員の体が反射的に地を蹴っていた。

 

「逃がすか! 追うぞ!!」

 

 

 

 

 

 

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