FAIRY TAIL ―継ぎ接ぎのS級魔導士―   作:七草空斗

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第3話 裁判

鉄の森(アイゼンヴァルト)によるギルドマスターを狙ったテロ未遂事件から数日。

 

マグノリアにある『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の前は、いつも以上の人だかりに包まれていた。

 

「うわっ。どうしたの、この人だかりは」

 

仕事を探しにギルドへ向かっていた僕は、その異様な賑わいに足を止めた。

 

「あら、ヴェル。あなたも見物しに来たの?」

 

人混みをかき分けて中心へ辿り着くと、ミラがいつものように柔和な笑みを浮かべて声をかけてくる。

 

「お疲れミラ。見物って……今集まっているやつの?」

「えぇ、ナツとエルザが戦うのよ」

 

いつもと変わらずミラはニコニコしながら、今ギルド前での騒動の原因を教えてくれる。

 

「へぇ、あの二人がね。……そういえば、ナツがエルザに挑むのは久しぶりか」

 

ナツとグレイの喧嘩は日常茶飯事だが、相手がエルザとなると話は別だ。最後にまともにぶつかったのは、何年前のことだっただろうか。

 

「ちょ……ちょっと二人とも、本気なの!?」

 

同じく人混みをかき分け、横からすっと飛び込んできたルーシィが慌てた様子で声を上げた。

 

「本気も本気! 本気でやらねば漢ではない!!!」

 

拳を振り上げ、熱弁を振るうこの大男――ミラジェーンの弟、エルフマンだ。接収(テイクオーバー)の魔法を使う。

 

「エルザは女の子よ!」

 

「ギルド最強クラスの女の子だけどね」

 

困惑するルーシィに僕は苦笑いを浮かべながら答える。

 

「だって、最強チームの二人が激突したら……!」

 

「最強チーム? なんだそりゃ」

 

最強チームというルーシィの言葉に反応したのは、近くにいたグレイだった。

 

「アンタとナツとエルザ! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のスリートップでしょ!」

 

「くだんねぇ。誰がそんなこと言ってんだよ」

 

グレイの冷ややかな一言に、背後でミラが顔を覆って泣く

 

「あ、ミラちゃんだったんだ……」

 

発言主を知ってあたふたするグレイをよそに、僕はそっと彼の肩を叩いた。

 

「おいおいグレイ。ミラを泣かしちゃダメだろ?」

 

「いや、悪かったって! ……だから剣を構えるのをやめろ、な?」

「……あれ、いつの間に」

 

無意識に換装していた剣を放し、換装を解く。

 

「ったく……ミラのことになるとおっかねぇんだから」

 

グレイのぼやきに、僕は「ごめんごめん」と軽く手を振って謝った。

 

「でも、最強って言葉を出すなら、確かにナツやグレイにはまだ早いかな」

 

二人が弱いわけじゃない。けれど、このギルドには彼らを凌駕する魔導士たちが何人もいるのも事実だ。

 

「ナツとグレイの漢気は認めるが、“最強”と言われると黙っておけねぇな。妖精の尻尾(フェアリーテイル)にはまだまだ強者が大勢いるんだ。オレとか」

 

エルフマンが太い腕を振り上げ、吠える。それに呼応するように、近くにいたチーム・シャドウギアの面々も議論に加わってきた。

 

「まぁ、最強の女はエルザで決まりだろうけどさ」

 

「最強の()となると、ミストガンやラクサス、それに……ヴェルクも外せないだろ?」

 

あのオヤジ(・・・・・)も外すわけにはいかねぇよな」

 

レヴィ、ジェット、ドロイの三人が口々に語る名前に反応し、ルーシィが目を丸くした。

 

「えっ!? ヴェルクって、ナツやグレイより強いの!?」

 

「ん、知らなかったのか?」

 

「初耳よ! まさか、あのエルザと同じくらい強いっていうの……!?」

 

驚愕に声を震わせるルーシィに、いつの間にか泣き止んでいたミラが、誇らしげに微笑んだ。

 

「あら知らなかったの? ヴェルもエルザと同じ――妖精の尻尾(フェアリーテイル)に数少ない、S級魔導士の一人なのよ」

 

「あのエルザに勝ったこともあるんだぜ」

 

「あのエルザに!? ナツやグレイが手も足も出ないのに……!」

 

「いや、昔の話だよ。それに本気でやり合ったわけじゃないからね」

 

期待を込めた眼差しを向けてくるルーシィに、僕は困ったような苦笑いを返した。

 

話題の飛躍を否定しようとするが、グレイは面白そうに鼻を鳴らし、こともなげに肩をすくめてみせる。

 

「もう、グレイも誤解するような言い方しないでよね?」

 

これ以上ルーシィの期待値を上げられても困る。釘を刺すようにグレイを睨んでみるが、彼はどこ吹く風といった様子で、悪びれもせず言葉を続けた。

 

「そうか? 実際エルザに勝ったのは事実だろ」

 

「……まぁ、確かに勝ちは勝ちだけど。あれを『勝ち』っていうのはねぇ」

 

「一体何があったんだろう。聞きたいような聞きたくないような……」

 

「それよりほら、もう試合が始まるみたいだよ」

 

ルーシィが引き気味に呟くのを流し、話題を切り替えるかのように僕は視線を中央へ戻した。

 

「なんにせよ、面白そうな試合になるな!」

 

期待に胸を躍らせるエルフマンに対し、グレイは冷静というか、むしろ確信めいた口調で鼻を鳴らした。

 

「そうか? 俺にはエルザの圧勝にしか見えねぇぞ」

 

周囲では、そんな彼らの予想を尻目に、カナがちゃっかりと二人の勝敗を肴に賭けを始めている。

 

酒瓶を片手に「さぁさぁ、どっちに賭けるんだい!」と煽る姿は、もはやギルドの日常風景だ。

そんな喧騒を余所に、中央に立つエルザが魔力を高めた。

 

エルザの魔力に呼応するように、その身を包む衣服が眩い光とともに弾け飛んだ。瞬時に換装されたのは、『炎帝の鎧』だ。

 

その名の通り耐火能力に極限まで特化したその鎧があれば、ナツの熾烈な炎も大幅に軽減されるはずだ。不敵な笑みを浮かべるナツと、凛とした佇まいで剣を構えるエルザ。

 

視線がぶつかり、火花が散る。

互いにやる気は満々。久々にいい勝負が見られそうだと、自然に期待が高まる。

 

賭けに興じる連中の声を切り裂くように、マスターの鋭い合図が響き渡った。

 

「始めいっ!!」

 

号令と同時に両者が地を蹴る。ナツが放つ猛烈な烈火をエルザは紙一重の動きでいなしてカウンターを仕掛けた。

 

火花と魔力が激しく散る、一瞬の油断も許されないハイレベルな攻防。

ナツの炎を纏った拳をエルザの鋭い斬撃が弾き飛ばす。

 

決定打を欠いたまま刻々と時間が過ぎ――ついに二人が最大の一撃を叩き込もうと、同時に最短の射程圏内へと踏み込んだ。

 

――その時だった。

 

「そこまでだ」

 

突如として、冷淡な声が熱を帯びた戦場に割って入った。現れたのは、奇妙なカエルのような顔をした、評議院の使者だ。

 

「全員そこを動くな。私は評議院の使者である」

 

沸き立っていたギルドの空気が冷え込んでいく。使者はざわめく周囲を意に介さず続けて事務的な口調で話を進める。

 

「先日の鉄の森(アイゼンヴァルト)テロ事件における器物損壊、及び十一の罪状により――エルザ・スカーレット、並びにヴェルク・ヴァニシュ。両名を逮捕する」

 

「……え、僕?」

 

思わず拍子抜けした声が漏れる。呆然と立ち尽くす僕とエルザを尻目に、使者はただ無機質に「ついて来い」とだけ告げた。

 

 

 突然の逮捕に戸惑いを抱えたまま歩を進め、僕たちは使者の背を追いながら、小声で言葉を交わす。

 

「ねぇエルザ。僕たち、今までにもいろいろな問題を起こしてきたのにさ。なんで今更、このタイミングで逮捕なんだろう」

 

「私にも分からん。……それにヴェルク、お前まで一緒というのが合点がいかない。お前まで逮捕対象にされるほどの責任があるとは思えん」

 

「うん。そこが一番不思議。なんで僕まで……」

 

「静かにしないか。さあ、馬車に乗るんだ」

 

思考を遮るように、使者が無骨な馬車の扉を開き、乗車を促してきた。

 

 言われるままに馬車へ乗車し、揺られること数分。カタカタと車輪が石畳を叩く音を響かせる中、向かいに座った使者がようやく重い口を開いた。

 

「さて……貴様ら二人を連行した理由だが。魔法界の秩序の保全、そして評議院の活動姿勢の主張と権威を保つため。此度の鉄の森(アイゼンヴァルト)テロ事件における関係者のなかで、上位に立つ二人の形式上の裁判を執り行うことになった」

 

「形式上の逮捕……。つまり、逮捕歴という形だけを残して、実刑は受けないと?」

 

「簡単に言えばそういうことだ」

 

建前こそ立派だが、実際は評議院側の責任問題を外へ逃がしたいだけなのだろう。

 

「……それで、僕まで拘束された理由は何ですか?」

 

言っちゃ悪いけれど、責任転嫁の対象ならエルザだけで十分なはずだ。なのになぜ、わざわざ僕まで拘束したのか。

 

「貴様にはクローバーの定例会場破壊の容疑がある。それに加えて――ジークレイン様からのお呼び出しだ」

 

ジークレイン。若くして評議員に上り詰め、“聖十大魔道”にまで数えられる男と聞いた。

そんなお偉いさんが、なぜ僕のような一魔導士を名指しで呼んだのか。

 

「ジークレイン……」

 

その名が出た瞬間、隣のエルザが急に顔を伏せ、その表情を強張らせた。膝の上で震える拳を握りしめる彼女。

 

二人がどういった関係なのかは知らないが、決して友好的な関係ではないことだけが伝わってくる。

 

「……ヴェルク」

「ん、何? エルザ」

 

しばらくの沈黙の後、エルザが顔を上げ、僕の目を見据えた。

 

「ジークレインには気を付けろ。奴は――"悪"だ」

 

"悪"という、あまりにも直接的で重い言葉。何をもって彼女がそう断じているのか、その真意までは汲み取ることはできなかった。

 

けれど、射抜くようなエルザの視線から、二人の間に拭い去れない何かが存在していることだけは理解できた。

 

「……あぁ、分かった」

 

その真剣さに押されるように、僕ははっきりと、短く答えた。

 

 

 

 

 

評議院、フィオーレ支部。

馬車内から見えるその純白の建物は、政府機関として見劣りしない佇まいだ。

 

馬車を降り、重厚な石造りの廊下を案内されるままに進む。その途中で僕の身柄は別の評議院職員に引き渡され、さらに数分。

 

重厚な一室の前で足を止めた職員が扉をノックした。

 

「ジークレイン様、ヴェルク・ヴァニシュをお連れしました」

「入っていいぞ」

 

中から響いたのは、若々しくも落ち着き払った声だった。扉が開かれ、僕は「失礼します」と一言添えて足を踏み入れた。

 

広い室内。机を挟んで対面したのは、思念体として現れたジークレイン。

 

――だが、その顔を視界に捉えた瞬間。

僕は、わずかに目を見開いた。

 

青い髪。右目付近に刻まれた、赤い刻印。

僕と同年代ほどの、端正な顔立ちの青年。

 

一瞬の間に生じた得体の知れない違和感を、僕は思考の端へ追いやり、そのまま平静を保って席に着く。

 

「それでは、私はこれで」

 

案内してきた職員が退室し、広い部屋には僕とジークレインの二人だけが残された。

静寂が落ちるよりも早く、彼が低く、しかしよく通る声で問いかけてくる。

 

「……私の顔に何か付いていたかな?」

 

「いえ……。若くして評議員を務める方が、想像していたよりもずっと整った顔立ちをされていたので。少し驚いただけですよ」

 

対面に座ったジークレインが、面白そうに口角を上げた。

瞬きひとつの間に見せた反応すら逃さない観察眼。僕は努めて平然と答える。

 

「ははは、それは光栄だ。いや、突然呼び出してすまなかったな。立ち話もなんだ、掛けてくれ」

 

特にこちらを敵視している様子もなく、彼は柔らかな笑みを浮かべて応対する。

 

エルザの警告は忘れていない。だが、その完璧すぎる隙のなさに、僕は適度な警戒心を保ったまま本題を待った。

 

「いえ、とんでもないです。失礼します」

 

促されるまま席に着くと、彼は流れるような仕草で本題を切り出した。

 

「さて、ヴェルク・ヴァニシュ。君を呼んだ理由だが……いや、まずは礼が先だな。先日の鉄の森(アイゼンヴァルト)の件、君たちが動かなければ被害は大きなものになっていた」

 

「僕が彼らと協力して皆さんを守れたのは、運が良かっただけですよ」

 

エルザたちは元々鉄の森(アイゼンヴァルト)を追っていたけど、僕に関しては偶然その場に居合わせただけだ。

 

「そんなに謙遜しないでくれ。事実、君たちは多くの命を救った。……もっとも、評議員としては今こうして君たちを裁く側に立っている手前、表立って感謝を示すわけにもいかない。個人としては、少しばかり心苦しいがな」

 

「お気持ちだけで十分です。……評議院にも、評議院の立場があるでしょうから」

 

「その代わり、と言っては何だが……君は悪魔討伐系の依頼を多く受けていると聞いてな。確か、巷では――祓魔師(ヴォルテア)と呼ばれていたか」

 

「あの……その異名は、あんまり好きじゃなくて」

 

呼ばれたその二つ名に、僕は苦笑いを浮かべた。自分はただ仕事として悪魔を討伐しているだけであり、そんな大層な呼ばれ方は誤解を招くだけだ。

 

「そうだったか?それは失礼した。……まぁ、それでだ。悪魔討伐に明るい君の耳には、入れておいてもいい話があってな。君は――『悪魔の(ガルナ)島』のことは知っているか?」

 

悪魔の(ガルナ)島』。そこは呪われているという噂が絶えず、地元の漁師や海賊たちでさえ近寄るのを忌避する場所。

 

「えぇ、噂程度にですが。呪われた島だとか」

 

「あぁ、そのガルナだ。その島に最近、氷漬けにされた巨大な悪魔らしきものが運び込まれたという報告がある」

 

「氷漬けの……悪魔?」

 

喉の奥で、言葉が一瞬だけ引っかかった。

 

氷漬けにされた悪魔。

その響きに、ひとつの名が脳裏をよぎる。

 

「まさか、デリオラですか?」

 

厄災の悪魔――デリオラ。かつてイスバン地方を徹底的に破壊し尽くしたという悪魔。その命はウルと呼ばれる魔導士によって永遠に氷漬けにされたと聞く。

 

一説には、こいつも『呪歌(ララバイ)』と同じく、黒魔導士ゼレフが残したゼレフ書の悪魔だと言われている。

 

「さてな。そこまでは断定できない。ただ、君と同じようにイスバン地方の厄災を連想した者がいるのは事実だ」

 

ジークレインは僅かに溜め息を吐き、困ったように話した。

その表情は、魔法界の秩序を憂う正義の味方のそれに見える。

 

「話は分かりました。ですが……なぜ、僕にそんな話を?」

 

評議院のお偉いさんが、わざわざ一ギルドの魔導士を呼び出してまで打ち明ける話だろうか。

 

それも、エルザが「悪」と断じた男が。

 

何か狙いがあるのではないか。そう思わずにはいられなかった。

 

「礼代わり、とでも思ってくれ。表立って君たちを褒めるわけにもいかないのでね」

 

ジークレインは、何でもないことのように肩をすくめた。

 

「悪魔討伐に明るい君へ、危険な噂をひとつ耳に入れておくくらいは許されるだろう」

 

「……噂、ですか」

 

「そう、噂だ。評議院が正式に動くには、まだ弱い話だよ」

 

ジークレインは穏やかに笑っている。

だが、その視線は笑っていなかった。

 

こちらの言葉ではなく、言葉の前に浮かぶ反応を見ている。そんな気がした。

 

「そろそろ時間のようだ。こちらから招いておいて申し訳ないが、これから裁判の準備があるのでな。話はこの辺りで終わりにさせてもらうよ」

 

「いえ、とんでもないです。貴重な情報をありがとうございました」

 

エルザの言葉は気になるが、情報をくれたことへの感謝だけは伝えておく。

けれど、感謝とは別に、胸の奥には冷たい違和感が残っていた。

 

欲しい情報だけを、欲しい形で差し出されたような感覚。

それでも、無視するには危険すぎる話だった。

 

「なに、この程度の情報、造作もないことだ」

 

フッと不敵な笑みを浮かべるジークレインに、僕は「それでは」と軽く一礼して部屋を後にした。

 

それから数十分後。裁判開始までの時間を潰し、証言台へ続く廊下を移動していると、前方からエルザが歩いてきた。

 

だが、彼女は先程までとは打って変わって、何やら怪訝で、複雑な表情を浮かべている。

 

「どうしたの? 何かあった?」

「……いや、大丈夫だ」

 

エルザはそれ以上語ろうとせず、硬い表情のまま歩を進める。明らかに普段の彼女とは違う様子だ。

 

そんな様子に気になることはあったが、あまり深く詮索するのも気が引け、僕は何も言わずに法廷へと向かった。

 

エルザと共に形ばかりの裁判を大人しく受け、淡々と審議が進んでいたその時。

突如として背後の扉が吹き飛び、凄まじい爆音が法廷内に響き渡った。

 

「俺が鎧の女魔導士だーーーッ!! 捕まえられるものなら捕まえてみやがれ!!」

 

「ナ、ナツ!?」

 

不意を突かれた驚きと同時に、視界に飛び込んできた光景に言葉を失う。

 

そこには、どこから調達したのか妙に安っぽい赤色のウィッグを被り、不格好な鎧に身を包んだナツが立っていた。そのままの勢いで法廷内を暴れまわる。

 

「オレがエルザだァ!! コラァ!! 何の罪だか言ってみやがれ!!」

 

静粛であるべき法廷は、一瞬にして騒然となった。評議員たちの怒号と混乱が渦巻く中、ナツだけが一人、的外れな格好で吠え続けている。

 

「……まったく」

 

僕は呆れ半分に右手を掲げ、魔法を発動させる。暴走するナツがいる周囲の空間だけをピンポイントに、重力を3倍に跳ね上げた。

 

「ふぎゃっ!?」

 

急激な重力変化に耐えきれず、情けない声を漏らして床に這いつくばるナツ。

 

エルザは騒然とする裁判官たちに向き直り、深々と頭を下げた。

 

「うちの馬鹿が大変ご迷惑をおかけしました……」

 

「うおっ、ぐぎぎ……、体が重……っ!」

 

重力下で必死に立ち上がろうとするナツ。これ以上暴れさせないよう、僕はその脳天へ、手加減しつつも確実な一撃――拳骨を叩き込んで彼を黙らせた。

 

「……三人を牢へ」

 

「も、申し訳ありません」

 

議長の冷ややかな一言により、裁判の中止が宣告された。

ぐったりとしたナツを抱え、僕とエルザは揃って兵士たちに連行されることになった。

 

 

 

 

深い夜、石造りの牢獄に月明かりが差し込む。

 

「んん……、おっ」

 

気絶していたナツが、ようやく意識を取り戻してむくっと起き上がった。

 

「あ、起きた?」

 

「あれ、ここは……?」

 

寝ぼけ眼で辺りをきょろきょろと見回し、鉄格子を見てようやく状況を察したらしい。

 

「牢屋だよ。ナツが暴れたせいで、裁判は中止になってね」

 

「牢屋ぁ!?」

 

驚愕してこちらを向くナツに、隣に座っていたエルザが「はぁ」と深く溜め息を吐き出した。

 

「まったく、お前には呆れて言葉も出ない。……これはただの『儀式』だったんだ」

 

「ぎ、儀式?」

 

「有罪にはなるけど罰則はない。すぐにも帰れたんだ」

 

困惑するナツに、僕は苦笑いを浮かべながら補足する。

 

「なっ!? マジかよ!?」

 

唖然とした表情を浮かべるナツを見て、エルザの口元がわずかに緩んだ。

 

「……だが、嬉しかったぞ」

 

少しだけ頬を染め、慈しむような微笑みをナツに向けるエルザ。

 

「ナツはめちゃくちゃな事をするけど、本当に優しいからね」

「あぁ、そうだな」

 

いつもめちゃくちゃな事をするけれど、その根底にあるのは迷いのない優しさだ。それは、僕も十分に理解している。

 

ふふっと微笑むエルザと、気恥ずかしさからか顔を背けてムッとするナツ。そんなナツを、エルザは愛しそうにその硬い胸へと抱きしめた。

 

 ――ゴチンッ!

 

 静かな牢内に、鎧と頭がぶつかる痛そうな音が響き渡る。

 

「痛ぇっ!!」

 

牢屋の中だというのに、いつもと変わらない賑やかな二人のやり取りに、僕の口からも思わず笑いがこぼれた。

 

「さ、明日にはギルドに戻れる。今日はもう休もうか」

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