FAIRY TAIL ―継ぎ接ぎのS級魔導士― 作:七草空斗
船上で揺られること数時間。
日が沈み始めるころ、水平線の向こうに目的地となる島の全貌が見えてきた。
『
その禍々しい通称を裏切るように、遠目に映る島の姿は拍子抜けするほど静かだった。
僕自身が「悪魔の島」という言葉に身構えていたせいもあるが、それにしても「らしさ」がない。
S級魔導士にわざわざ依頼を送る場所にしては、あまりに普通すぎるように感じた。
「エルザ、僕は先に依頼人のもとに事情を説明しに行ってくるよ」
「了解した。私は船を付けてからナツたちを連れ戻す」
「頼んだ」
舵の近くで島を睨んでいたエルザにそう告げ、僕は『
背中からハッピーと同じ『
背に生えた翼で空を滑り、村を探していると、徐々に辺りは深い闇に包まれていった。
電気のラクリマが普及していないこの孤島では、夜の訪れは一瞬だ。
暗闇の中、島の一部だけが焚き火の灯りによってポツポツと赤く照らされていく。
それと同時に、僕は異様な光景を目の当たりにした。
「……これが悪魔の島。S級の理由か」
村の炎とともに、島を不自然に明るく照らし出している光源があった。
それは頭上に浮かぶ月。
本来なら白く清らかなはずの月光が、おどろおどろしい「紫色」に染まり、島全体を侵食するように降り注いでいるのだ。
月を見上げると、その怪しい光は村とは反対方向にある遺跡へと、吸い込まれるように収束していた。
急遽、方向転換をして遺跡に近づくと耳をかすめるような低く、重い詠唱の声が聞こえてくる。
僕は周囲を警戒し、足音を殺して一度地上に着地した。
「これは、ベリア語……? 月の光を一点に集めているのか。……まさか、
『
かつて、古ぼけた魔導書の片隅で読んだその名を、まさかこんな場所で思い出すことになるとは思わなかった。
これほど大規模な術式を組み、膨大な魔力を注ぎ込んでまで解除したい魔法とは、一体どれほど強固なものなのか。
答えは、考えるまでもなく明白だった。
「……デリオラか」
かつてウルという魔導士によって氷漬けにされたと伝わる、災厄の悪魔。
ここにデリオラを持ち込んだ連中は、この儀式でその氷を溶かそうとしているに違いない。
「先に詠唱だけでも止めておくか……?」
寸でのところまで出かかった魔力を、僕は落ち着ける。……いや、深追いは禁物だ。
まずは村へ行き、依頼主と話をつけなければ。
僕は再び『
「待て! 何者だ!」
村の入り口で着地し、門を開けようとした瞬間に上から鋭い制止の声が飛んだ。
「『
僕がギルドの名を出すと、門の上の男たちは互いに顔を見合わせ、戸惑った様子を見せた。
「何?……紋章を見せろ」
羽織っていたローブを脱ぎ、服を捲って背中に刻まれたエンブレムを月光の下に晒す。
「村長に、月の依頼のことで話があって来ました。通してください」
「……分かった、入れ」
門の上では、門番たちが顔を寄せ合い、ヒソヒソと何やら相談し合っている。
やがて意見がまとまったのか、「少し待っていてください」と短い指示が飛んだ。
重々しい土を引きずる音を立てて、目の前の巨大な門がゆっくりと開かれていく。
その隙間から漏れ出す焚き火の光の中に、一人の住人が姿を現した。だが、そこにいたのは普通の人間ではなかった。
皮膚は硬質化し、異形の角や羽を携えた「悪魔」そのものの体をした村人だった。
「遠いところ、わざわざありがとうございます。今、村長のもとへ案内しますので、付いて来てください」
「……こちらこそ、急な訪問になってしまい申し訳ないです」
互いに軽く会釈を交わし、案内されるままに村の中へと足を踏み入れる。
道中、家々の隙間からこちらを覗く住人たちは、一人残らず悪魔へと変化していた。
「醜い姿でしょう? あの月が出ている間、我々はこの姿になってしまうのです」
初めて見る現象に周りを見渡していると案内役の男が、空に浮かぶ紫の月を悲しげに見上げて説明してくれた。
「あの月が出ている間だけですか……。一つお聞きしたいのですが、月が紫色に光り出したのはいつ頃からになりますか?」
「ええっと、確か3年ほど前からだったと思います」
「なるほど……」
儀式の影響が村全体にまで及んでいるのか、他の外的要因による影響なのか。
思考を巡らせているうちに、他の家よりも一回り大きい建物の前で足が止まった。
「こちらです。どうぞ、お入りください」
中に入ると、他の村人と同じく悪魔の姿に変貌した、年老いた男性が椅子に深く腰掛けていた。
「貴方が村長ですね。不躾な訪問、お許しください。実は、今回ギルドから派遣された魔導士について不手際がありまして、その説明に上がりました」
僕は誠心誠意、事情を説明した。
本来来るべきではなかったナツたちが独断で来てしまったこと。
彼らはエルザが連れ戻すが、その後の依頼については僕が責任を持って引き継ぎ必ず完遂させること。
「……なるほど。そういう事情でしたか。我々は、この月さえ破壊してくだされば、どなたが成し遂げようと文句は言いませぬ」
村長は深く息をつき、僕の申し出を快く受け入れてくれた。
「ありがとうございます。それでは、僕が代わりに責任を持って依頼を遂行させていただきます」
「頼みましたぞ。この村のため、そして……死んでいった者のためにも、よろしくお願いします」
一通り村長と依頼について話し終え、形式を整えた依頼書を懐にしまい込む。
もう一度あの遺跡の様子を探るべく村長宅を後にすると、門の近くからざわざわと村人たちの騒ぎ立てる声が聞こえてきた。
何事かと足を向けると、そこには大勢の村人に囲まれた見覚えのある金髪の女の子と青い猫が一匹。
必死に何かを身振り手振りで説明している。
「やぁルーシィ、それにハッピーも。勝手にS級に来たんだって?」
「え!ヴェルク!?」
その女の子――ルーシィは、弾かれたようにこちらを振り返ると、信じられないものを見たという風に驚嘆の声を上げた。
「勝手にS級クエストに行くなんて、ダメじゃないか」
僕はニコニコとした笑みを絶やさないまま、逃がさないよう二人の元へとゆっくり歩み寄る。
「何でここにヴェルクが!?オイラたちを連れ戻しに来たの!!?」
ハッピーも毛を逆立てて叫ぶ。
「いや、僕は別件でね。普通に依頼で来たんだよ」
僕は二人に、先ほど村長との間で正式に作り直したガルナ島の依頼書を提示した。
「村長と相談して、この依頼は僕が今さっき正式に受け持った。関係ない者は今すぐギルドに戻るんだ」
新たな依頼書を見せ、厳格に帰還を命じる。
だがルーシィは食い下がった。
「いや、ダメよ!すぐには帰れないわ!今この村を消しに敵が攻めてきてるの!」
「敵?」
「あい、今その事を村の人に説明をしてたんだ」
二人から聞いた話を要約すると、事態は想像以上に深刻だった。
グレイの知人だというリオンという氷の造形魔導士が、地下に封じられたデリオラを復活させようとしていること。
そして儀式の邪魔をしたナツたち、さらには依頼主であるこの村を抹殺すべく、三人の部下がこちらへ向かっているという。
「なるほどね、今起こってる状況は分かった」
「でしょ! だから……」
「ダメだ。お前たちはナツたちを見つけ次第、すぐに帰るんだ」
ルーシィの言葉を遮り冷淡に告げる。
正義感から村を守りたいのだろうが、彼女たちにその資格も義務もない。
「もうこの件について君たちが出来ることは何もない。君たちはギルドのルールを破りここまで来た。今できることは、今すぐギルドに戻ることだけだ」
淡々と、突き放すように伝える。だが、ルーシィの瞳は曇らなかった。
「やっぱりダメ!確かに私たち、勝手にS級クエストに来ちゃったけれど……。でも!これから村が襲われるのに、見知らぬ顔して帰れないわ!!」
真っ直ぐな視線が僕を射抜く。しばらくの間、沈黙の中で互いの目を見据え合った。
「……はぁ。分かったよ、僕じゃ君たちを止められないみたいだしね。とりあえず僕からのお説教はこれで終わり。この村に来てる敵を倒すまでは手伝ってもらうよ」
断固とした意志に負け、僕は視線を逸らして折れた。
それを聞いた二人は「え?」と驚いた後、パッと顔を輝かせた。
「ただし、事が終わり次第、二人ともエルザの元へ引き渡す」
「エルザも来てるの!?」
「あぁ。君たち全員ギルドに連れ帰るためにね」
“エルザ”という単語を聞いた瞬間、二人は顔を見合わせ、みるみるうちに青ざめていった。
「で、この後はどうしようとしてたんだい?」
ハッとしたように、ルーシィがこちらへ向き直る。
「敵は
「でもどうやってその犯人を捕まえるのかだね。その三人はおそらく魔導士だし、そう簡単にはいかないよ」
「そうね、こっちは数が多いといっても、戦える魔導士は一人だけだし」
「自分は戦力として数えないんだね……」
ちゃっかり自分を除外しているルーシィに苦笑いしていると、彼女は何かに閃き唐突に鍵を取り出した。
「開け!!処女宮の扉、バルゴ!」
ルーシィが鍵を掲げると同時に、眩い光の中からピンク色のショートヘアに黒の手錠を腕に巻いたメイド服の女性――黄道十二門の一体であるバルゴが静かに出現した。
「お呼びでしょうか、姫」
無表情ながらも忠実な礼を尽くすバルゴに対し、ルーシィは不敵な笑みを浮かべながら耳元で何やら詳細な指示を与える。
「……承知しました。お任せください」
淡々と答えたバルゴは、その場の地面を豆腐でも切るかのような滑らかさで掘り進め、あっという間に地中深くへと姿を消した。
・
・
・
それからしばらくの間、地響きと共に土が盛り上がる音が周囲に響き渡る。
「姫、準備が整いました」
やがて埃一つ立てずに地表へと戻ってきたバルゴが、満足げな表情のルーシィへと完了の報告を入れた。
その背後、村の入り口付近には、何やら「細工」が施された形跡が不自然なほど静かに横たわっていた。
「あのさ、ヴェルク」
「ん? どうした、ハッピー?」
足元でチョンチョンとローブを引っ張るハッピー。
僕はかがんで耳を貸した。
「オイラ、やっぱりルーシィって本当にバカなんじゃないかって思うんだ」
「ハッピー……親しき仲にも、だよ。人にバカなんて言っちゃダメだよ」
「でもさ、入口に落とし穴って……。相当なバカじゃないと引っかからないでしょ」
ハッピーが指さしたのは村の入り口にデカデカと設置された、隠す気があるのか疑わしいレベルの落とし穴だった。
「……ルーシィにも考えがあるんだよ!黄道十二門のバルゴを使ってしたことが落とし穴だけなわけないと思うよ。ほら、穴の中に何か仕掛けてるとか、穴自体が陽動だとか! あとは……えっと、ええっと……」
「やめて!聞こえてるから!!その優しさが一番心に来るから!!」
「え、あ、ごめん」
善意のフォローがトドメの一撃となり、ルーシィが悲鳴を上げる。
「ルーシィさん!何か近づいてきます!!」
門の上の村人が叫んだ。
「門を開けて!」
ルーシィの合図で門が左右に開く。
遠くから土煙を上げて走ってくる人影は門の手前まで来ると、その全貌をあらわにした。
「みんな無事かーー!?」
砂煙の向こうから、聞き慣れた野太い声が響き渡る。
氷の塊を全身に纏ったナツが深い傷を負い意識を失っているグレイを抱え、全力でこちらに向かって走ってきた。
「ちょ、ちょっと待って!止まってー!!」
ルーシィが全身を大きく振り、必死の形相で制止をかける。
その叫びが届いたのか、ナツは落とし穴のわずか手前で猛烈な砂煙を上げながら急ブレーキをかけ、見事にその場で停止してみせた。が――。
「ん、なんだこれ?……うおぅっ!!?」
一度完全に静止したにもかかわらず、わざわざ穴を覗き込んで自ら滑り落ちるバカ一名。
「バカだ……」
「ヴェルク。親しき仲にも、じゃなかったっけ?」
「前言撤回です……」
さっき自分が言ったセリフをそのままハッピーに返され、僕は返す言葉もなかった。
「誰だぁこんな時にのんきに穴掘って遊んでんのは!……ん?おぉ!!?氷が割れた!」
穴の底から文句を垂れていたナツだったが、衝撃で纏っていた氷が砕け散ったことに気づくと、一転して喜びながら這い上がってきた。
「そんなの、ルーシィに決まってるじゃないか」
「そうそう、彼女の力作だよ」
「やっぱりか!……って、ヴェルク!?なんでここに!?」
ようやく僕の存在に気づいたナツは、瞬時に顔を引きつらせた。
文字通り「ゲッ」という擬音が聞こえそうな表情で、気絶しているグレイを盾にするように構え、じりじりと後退りして距離を取る。
「久しぶりだね、ナツ。この島で起こっていることは大体二人から聞いたよ。僕としては、本当なら今すぐにでも君たちをギルドへ送り返したいところなんだけど……今は敵が迫っているんだってね?」
「お、おう」
「仕方ないから、その連中の迎撃が終わるまでは、みんなに手伝ってもらうことにしたよ」
怯えるルーシィとハッピーを横目で捉えながら僕は静かに、だが確実にナツとの距離を詰めていく。
ナツはさらに後退しようとしたが運悪く背後の壁に行き止まり、僕の顔が彼の鼻先数センチの距離まで迫った。
「僕からは、特に長いお説教とかはないよ。……時が時だしね」
至近距離で固定していた視線をスッと外し、僕はナツの腕からぐったりとしたグレイを優しく引き取って横に寝かせた。
「な、なんだよ……。びっくりさせんなよ」
雷を落とされる覚悟をしていたのか、拍子抜けしたナツは安堵したように大きく息を吐き出した。
「ただ、一つ言わなきゃいけないことがあるとすれば……」
「お?」
安堵しかけたナツの意識を繋ぎ止めるように、僕はパッとこちらを向き直った彼の白い鱗模様のマフラーを掴み、至近距離まで力強く引き寄せた。
「ただ、あの日のことを。リサーナのこと……忘れたわけじゃないだろう?」
その名を口にした瞬間、ナツの表情が石のようにこわばった。
僕自身の顔も、今きっと、背後にいるルーシィたちには決して見せられないような、ひどく険しいものになっている自覚がある。
「忘れるわけねぇだろ。二年前の、あの日のことを」
低く、地を這うような静かな声。僕たちは互いに逃げることなく、真顔で見つめ合った。
「俺はあの日よりも強くなった!俺ならS級クエストだってもう大丈夫だ!!」
「大丈夫じゃないから、S級があるんだろ」
僕は突き放すように言った。
「誰かが死ぬかもしれない。取り返しのつかないことが起きるかもしれない。そんな危ない仕事だから、僕たちS級がいるんだ」
掴んだマフラーの感触が、二年前の雨の日の記憶と重なる。
「ナツ、お前は自分は死なないって思ってるのかもしれない。けれど、ナツも知ってるはずだろ。残された人間の悲しさとか、消えない辛さとか……。僕はもう、ミラや他のみんなが絶望する姿なんて、二度と見たくないんだよ……!」
無意識に、掴んでいた右手に力がこもる。すると、ナツの熱い掌が僕の手首をぎゅっと力強く握り返してきた。
「大丈夫だ。俺は死なねぇよ。ミラもエルフマンも……もう誰も泣かせねぇ」
ナツは僕の瞳を真っ直ぐに捉え、事もなげに笑って言ってのけた。
その根拠のない。
けれど揺るぎない自信に満ちた顔を見ていたら、不思議と指先にこもっていた強張りが、すっと解けていくのを感じた。
「……そっか。ごめんね、大事なマフラーを掴んじゃって」
「いや、大丈夫だ。破れたりもしてねぇしな」
ナツはポンポンと服についた埃を払い、いつもの調子でルーシィたちの元へと歩き出した。
僕もまた、気絶したままのグレイを肩に担ぎ直し、彼らの背を追おうとした――その時だ。
村人たちが一斉に空を見上げ、悲鳴に近い声を上げた。
つられるように上空を仰ぐと、そこにはバケツを抱えた巨大なネズミが羽ばたいていた。
「なんだろう、あのバケツ……」
村中がざわざわと不穏な空気に包まれる中、バケツの中身がどろりとこぼれ落ちる。
それは粘り気のあるゼリーのような物質で、あろうことかルーシィの頭上へと降り注いだ。
「……!あぶねぇ、ルーシィ!」
ナツの叫びと同時に、彼はルーシィの身体を抱えて間一髪でその場を飛び退く。
直後、ゼリーが着弾した地面は土までもが瞬時に溶け、深くえぐれ落ちていた。
「なんだ!? あのあぶねぇ匂いは!?」
「え? もしかして、あれを全部村に撒く気なの!?」
ルーシィの戦慄した声に、村人たちがパニックに陥る。
空中のネズミは躊躇なくバケツを傾け、死のゼリーを村全体へとばら撒き始めた。
「みんな、村の中心に集まれ! ハッピー!」
「あいさ!!」
ナツとハッピーが上空へ飛び出し、ネズミを食い止めるべく急上昇する。
地上ではナツの指示通り、村人たちが必死に中心部へと身を寄せた。
「わしは、ボボの墓から離れんぞ!!!」
皆が避難する中、村長だけは墓石の前にうずくまり頑として動こうとしない。
「火竜の煌炎!!!」
上空で放たれたナツの炎がゼリーを爆散させる。
だが、四散した液体の破片が、無防備にうずくまる村長の元へ無数に落下していく。
「危ない!」
僕は咄嗟に空間魔法を展開し、目を閉じている村長を彼が守ろうとしている地面ごと自身の元へと引き寄せた。
「少し手荒でしたが、お怪我はありませんか、村長?」
「あ、あぁ……それより……」
村長が恐る恐る目を開け、呆然と周囲を見渡す。
「あぁ、俺たちの村が……」
「村が、溶けちまった……」
ナツの機転で村人こそ全員無傷だったが、中心部を除いた村の全ては無残に溶け去り、あたり一帯には陥没した平地が広がっていた。
住処を失った村人たちの悲痛な声が、虚しく響き渡る。
「零帝様の敵は、すべて駆逐しなければなりません」
巨大なネズミから舞い降りた三人の影。その中の一人の女が、冷酷な声を上げた。
「せめてもの慈悲として一瞬の死を与えて差し上げようとしたのに……どうやら大量の血を見ることになりそうですわね」
「あ?」
「村人約50、魔導士3。……20分ってところか」
「おおん」
女に続いて、太眉の男と犬のような風貌の男が、淡々と「殺害時間」を計算し始める。
「オイラもいるぞ! 魔導士は4人だ!」
「なるほど、お前たちが噂の『零帝』リオンの部下か。お前たちに一つ、聞きたいことがあったんだ」
僕は彼らに最も近い位置へと陣取り、静かに問いかける。
「あいつら……よくも、よくもボボの墓を! 許さんぞ!!」
「村長! 気持ちはわかるが、今はここを離れよう!」
「グレイさんは任せろ!」
逆上して飛びかかろうとする村長を村人たちが必死に抑え、負傷したグレイを担いで避難を開始する。
「逃がしませんわ。零帝様の命令は皆殺し……アンジェリカ、行きますわよ!」
女がアンジェリカと呼ばれた巨大なネズミに飛び乗り、避難する村人たちを追って飛び立つ。
激しい風圧に皆が顔を覆う中、通り過ぎていくアンジェリカの足元に妙な「塊」が見えた。
「なんか勢いでしがみついちゃったーーーーー!!!」
……ルーシィだった。
「バカだ……」
「バカすぎる!!」
「さすがにバカだ……」
僕、ナツ、ハッピーの声が見事に重なる。
呆然と見守っていると、ルーシィが何かをしたのか、アンジェリカの尻尾の回転が止まり、そのまま森の奥へと墜落していった。
「大丈夫かな……。ハッピー、ルーシィのところまでお願い」
「あいさー! 行ってくる」
「おう! 頼んだぞ!!」
念のためハッピーを援護に向かわせる。
「こっちは俺が……! かたづけッ――」
「待って」
「うげっ!!?」
即座に突撃しようとしたナツの顔面を、僕は鷲掴みにして強引に止めた。
「まだ僕の話が終わってない。戦うのはそれが終わってからだ」
「ってぇ……。別にぶっ倒して、とっ捕まえてからでもいいだろ!!」
「ダメ。ナツが倒したらしばらく起きないでしょ。僕の用件が先」
鼻をさすりながら反発してくるナツを片手で抑え込み、僕は目の前の二人を射抜く。
「オレたちも舐められたものだな。かつてはオレたちも名のあるギルドに所属していた魔導士だ。
太眉の男が、自尊心を隠そうともせず吐き捨てる。
その横では、犬のような風貌の男が低く唸りながらこちらを威嚇していた。
「だからどうした? そんな昔話に興味はない。そんなことより、なぜデリオラを復活させようとする」
僕の問いかけに、太眉の男は鼻で笑う。
「お前に教える義理はない」
「おおん」
息の合った拒絶。やはり、まともな対話は期待できそうにない。
「……じゃあ質問を変えるよ。復活させるというからには、デリオラは今も『生きて』いるのか?」
「それも教える義理はないな」
こちらの出方を探るような、冷徹な視線。
こいつらからデリオラの情報を引き出そうとしたけれど、どうやら時間の無駄だったようだ。
「何も答える気はない……と。しょうがないか、じゃあ話し合いは終わりにするよ。ナツ、やるよ!」
「おぉ、やっとか! 待ちくたびれたぜ!」
僕の背後で、退屈そうに拳を鳴らしていたナツが、爆発的な魔力を解放する。
「待たせてごめんね。さ、やろうか。元『蛇姫の鱗』の魔導士さん」
僕は一歩、踏み出す。
崩壊し、平地と化した村の跡地に、戦いの火蓋を切る鋭い緊張感が走った。