「ふっふっふっふ、はーはっはっはっはっは!」
地の底から轟く、あざ笑うかのような笑い声が響く。
クロウは、耳を疑った。フィールドに五枚ものモンスターカード。
対して、男の場には、それを防ぐことのできるモンスターは一枚も無い。
あるのは、たった一枚のリバースカード(伏せカード)・・・・
リバースカード?!
「気づいたか、クロウ・・・・! トラップカード、発動。」
トラップ(罠)?!
罠だと・・・・。
これまで、イリアステルの刺客は、それぞれ凶悪なカードを所持していた。
ヤツもまた、恐ろしいカードを使ってくるに違いない・・・・
「滅びのときだ・・・・」
そう言う男の顔は、どこか悲しそうでもあった。
「トラップカード、『タナトス・テイア』
このカードの効果により、
フィールド上のモンスターを全て破壊し、
一枚につき、相手に300ポイントのダメージをあたえる。」
「な、??! なんだよ、その効果・・・・ッ!」
あのようなカードは見たことがなかった。
そして、その凶悪なカード効果・・・・やはり。
「フィールド上に出された、俺のモンスターは5体・・・・っく!」
300×5、合計1500ポイントものダメージが、クロウのライフポイント4000から引かれる。
空が、突然赤く染まる。
これは、これは、本当にソリッドビジョン(大気投影型立体映像によるバーチャルリアリティ)なんだろうか?
すさまじい轟音とともに、辺り一帯が灼熱を帯びる。
熱い。空気が熱い。 肺がやけそうだ。
「裁きを受けよ、人間!」
「グアアアアアあ アあッ!????」
空から巨大な塊、おそらく、隕石が上空を覆ったかとおもうと、
けたたましい轟音とともに、フィールド上に出されていた、クロウのモンスターは一瞬にして消えた。
この痛み、仮想現実(ソリッドビジョン)などではない。
あのときと、ダークシグナーのときと同じだ。
「クロウ。 お前の言う絆の力、確かに見せてもらった。
だが、未来をかえるには、些か役不足だったようだ。
かつての、名も無きファラオのように、未来をかえてくれると期待したのだが・・・・」
一瞬にして、モンスターが全滅・・・・
何が起こったのか、まだ思考が追いついていかない。
既に、手札も使い果たしてしまっている。
「私のターン。墓地の『タナトス・テイア』をゲームから除外することで、『地殻津波』を手札より発動。」
突如、大地が激しく揺れる。
地盤が足元でまっぷたつに割れたかのような、すさまじい揺れだ。
「な、どうなってッ???」
あまりの揺れに立ってられず、地面に跪いたが、まだバランスがとれずに転倒し、地面に大の字に伏せた。
あまりの音に、耳がいかれてしまいそうだ。
瞬間、目を疑った。
眼前に、巨大な大津波。軽く治安維持局の本庁ビルを飲み込んでしまうそれは、正確な高さが想像できない。
・・・・これは津波ではない。
もっと恐ろしいものだ。
「シグナーよ・・・・ 楽になれ。 お前達はよく闘ってくれた。
だが、人類は滅びの運命にあった・・・・。 それをかえることは、何人もかなわぬ。」
あれは、大地そのものだ。
地球上の地面を全部ひっくり返しているかのように、地面が空中に引っ剥がされ、
宇宙(そら)へと落ちていく・・・・
この世の終わりを見ているかのようだった
「ウ、グアアアアアアアアアアアア!!!!」
とてつもない衝撃が、全身を襲う。
何が起こっているのか、前がどこで下がどこなのか、まったくわからなかった。
俺は、意識の濁流の中に呑まれていた・・・・
「兄ちゃん」
誰かが、俺を呼ぶ声がする。
「クロウ兄ちゃん、起きてよ、クロウ兄ちゃん」
いつかみた、なつかしの風景、俺の育った孤児院。そして・・・・
「クロウ兄ちゃん、どうしたの? 変な顔して」
こいつらは、俺が面倒を見ていた、施設の子供達・・・・
「お前ら、どうして? ここは・・・・?」
確か、俺は、変な男とでゅえるをしていたはずでは・・・・?
「何言ってるの、今日は一緒に買出しに連れて行ってくれるって約束したじゃん。」
そうだ、今日は日曜日で、月一回のカレーの日。
こいつ等の大好物。
「ああ、そうだったな! よっし、忘れ物はねーか?」
全員で、古びたバスに乗り込む。玄関には、マーサが手を振って見送っている・・・・
「クロウ兄ちゃん、 今日は魚入れよーゼ、魚!」
「ええ~、今日はトマトカレーって言ったじゃん、ねえ、クロウ兄ちゃん、兄ちゃん、兄ちゃん・・・・」
幸せな情景・・・・いつまでもここにいたい、
時間よとまってくれ
その願いとは裏腹に、徐々にぼやける情景、冷たくなる世界、
広がる暗闇・・・・
「おまえらああああッ!!!!」
気づくと、クロウは叫んでいた。
泥にまみれ、地面に伏しながら・・・・
口の中に、砂利が入っていて、慌てて吐き出す。
目の前には、あの男・・・・ダーツが立っていた。
そう、やはりでゅえる中だったのだ。
あの男が、速攻魔法、『地殻津波』を発動した直後、気を失ってしまっていた
「・・・・まだ、息があるか。」
哀れみの目で、男はポツリと言った。
クロウは自分のライフポイントを確認する。
わずか、100ポイントのライフが、残されている。
だが、手札にカードはなく、場もがら空きだった。
おまけに、墓地のカードは全てゲームから除外されている・・・・
おそらく、自分はもう助からない。
「お前・・・・強えーん、だな・・・・げほっ」
視界がかすんでいる。
もう、言葉を発するのもやっとだ。
「俺を、た、倒したら・・・・どうする気だ・・・・」
「安心しろ。お前たちの魂は私が大切に保管しておく。
時が来るまでな。」
「ほ、保管?」
「ダークシグナーもイリアステルも、その役目を果たせなかった今、私が直々に地上を殲滅する。
シグナーには、その滅んだ地上を新たに再生する役目が残っている。」
男は無表情に、淡々と述べる。
「他の、奴等は・・・・、がきどもは、どうする気だ」
「彼らには滅亡してもらう。なぜなら彼らは、シグナーではなにからだ。」
男は静かに語り始めた。
「人は、間違う。それ故に、過ちを繰り返し続ける。
お前達はまだ気づかないのか? 人類の文明は既に、破綻しているということに。
私は、それを終わらせるために遣わされた。
それが、星の意思なのだ」
男の瞳は虚空を移し、生気が抜けたようでもある。
その姿は、どこか、悲しそうにも見えた。
「お前、本当に・・・・それを望んでんのかよ」
「ン?」
「お前は、本当は・・・・」