シナリオモードが追ってくる〜原作に関わりたくない悪役令嬢の華麗(?)なる逃走劇〜   作:LA軍

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新作です


第1話「エリナ・エーベルト」

「どーーーーーーーーーーーでもいいわぁぁ」

 

 乙女ゲームのキャラに転生したことに気付いた瞬間の、私の一言だった。

 

 私の名前はエリナ・エーベルト。

 いわゆる某有名乙女ゲームの悪役キャラだ。

 

 公爵家令嬢で、主人公である元平民の男爵令嬢を陰湿にいじめ抜いて、最後に断罪されるとかいうあのキャラらしい。

 正直、コスられすぎ、かつ、ありきたりすぎて、転生に気づいた瞬間、「あーそーですかー」程度の感想しか湧かなかった。

 

 だってさー。

 ねー。

 

 もう、展開わかってんじゃん?

 このネタこすりすぎでしょ?

 

 そんで、このままシナリオを進めれば断罪ルート。

 それも、5人もいる(裏キャラが1、2人いるという噂もあるけど)攻略キャラごとに私の断罪END(No.何某)まで決まっているという鬼畜っぷり。

 ついでにいうなれば、トゥルーエンディング(逆ハーレムENDともいわれる)では、特に悲惨な最後を迎えるのだ。

 

 やれ、修道院やら

 やれ、奴隷落ち

 やれ、御家断絶やら

 やれ、処刑やら

 やれ、悪魔付きやら

 

 やれやれですわー。

 

 それでこれもありきたりだけど、シナリオ開始まであと3年。

 私は今現在12才だから、15の歳で学園に入学し、そこからシナリオ開始。

 そして、主人公にいきなり遭遇するなり、突き飛ばしからぁーの頭からバケツをかぶせるのコンボを決めてからぁーの、の因縁が始まるという奴だ。

 

 ちなみに、元(?)の私は、某有名企業に勤めるキャリア。

 趣味は動画鑑賞とゲーム。あとは時々なろう系小説をたしなむ……うん、普通だ。

 

 なので、

 転生とこの世界についてはすぐに理解した。

 

 そのうえでいうのだが、悪役令嬢転生系といえば、あれ(・・)だ。

 そう。原作知識と現代日本人の常識をもって転生とくれば、もうあれしかないだろう。

 

 つまり、断罪ルート回避という──最近では使い古した系のそれで、なんとかこの3年で頑張って……なんとかそのルートを回避するというものだ。

 

 ……まぁ、3年とはいえ、それなりの時間があるからね。なんとかなるはず。

 

 ……なんとかが、多すぎるのは置いといて。

 それが一番だと思う。

 

 だけどさー。

 

 ……正直めんどい。

 そしてメリットを感じない。

 

 いや、だって命は助かるかもしれないけど、結局、公爵令嬢としての窮屈な暮らしが消えてなくなるわけじゃないよね?

 おーじ様と結婚するのか、はたまた敵国の公爵にでも見初(みそ)められるのか知らんけどさー。

 

 言ってみれば、主人公がやって来なければあり得た未来(・・・・・・)がそのまま順当にやってくるだけだよね?

 

 そりゃ、攻略キャラ──というか、婚約者とは多少は関係が良くなるかもしれないけど(たしか、ゲーム中ではこのころから婚約者との関係はよくなかったはず……)、所詮は貴族同士の結婚だ。

 恋愛だなんだのは二の次だ。

 

 貴族の嫁なんて、世継ぎを作るのが主たる仕事で、

 それができなければ側室でも囲うのが普通だ。……愛、なんですかそれ?

 

 ──そのうえで聞きたいけど、それ何が楽しいの??

 

 そんな人生で何を得るのか?

 断罪ルートを回避して、みんなで仲良くハッピーEND。

 そんでもって、実は「主人公ちゃん」も話してみればいい奴で、「お姉さまー♪」とか慕われて、おーーーーじ(王子)様とやらともなんやかんやで仲良くなって、皆でお茶会でもして「きゃっきゃうふふ♪」の、大円満~!

 

 

 ……なわけがない。

 

 

 そのあとは、きっと普通の退屈な貴族の正室としての運命が待っている。

 

 他所に家にはニコニコ。

 領民にはほがらかに。

 息子・娘には厳しくも温かな笑みを──ってか?

 

 

 はっ!!

「くっっっっっっっだらねー」

 

 

「お嬢様、はしたないですよ。パンツが見えてます」

 ああーん?

「……見たけりゃみればー」

 

 いつの間にいたのか、部屋にはメイドさんが一人。

 たしか、転生に気づいて最初に見た顔だったっけ。

 前世(?)の知識も共有している私にはわかるのだが──彼女は私専属のメイド、オパールだ。

 

 そのオパールがお茶を入れながら、ベッドの上でグデーンと伸びている私を一瞥もせずにマイペースで話しかけて来る。

 ……いつもおしとやかな私がこんな態度してたら不審に思えよなーと、思わなくもない。

 あ、いつもこんなだっけ?

 

 尻をポリポリ掻きながら首だけ曲げてメイドちゃんを観察。

 

 あー。たしか、そうそう。

 コイツコイツ。

 

 歳のころは〇〇(ピー)才で、眼鏡とエプロンドレスが似あう、いかにもメイドさん。

 本来ならメイド長とかなんとかやっているくらいにキャリアを積んでいるベテランさんだっけ。

 

 ……そんなベテランさんが、な〜んで小娘の専属メイドをしているのかと言えば、まあ──うん。私のせいらしい。

 

 どうも、この私こと「エリナ」は苛烈な性格をしているようで、何人もの専属を泣かせて虐めてクビか退職に追い込んでいるらしい。

 そして誰にも手に負えなくなったために、彼女が渋々引き受けることになったのだとか。

 

 まぁ、ベテランのオパールはちょっとやそっとでは折れないし、へこたれない。

 

 ましてや小娘がごとき、私の言葉をうまくかわすくらいには頭も回るということで、1年以上はこうして専属を続けているのだそうだ。

 

 ……他人事でごめ~んね。

 じつは文字通り、中身は他人なんだ。融合しているから、同じと言えばそうだけどー。

 

「いいからまず靴を脱いでからベッドで横になってください。洗うの誰だと思ってるんですか?」

 あーん?

「洗濯係じゃないのー?」

 

 少なくともコイツではない。

 

「えぇ、そうですね。ですが、その洗濯係に恨まれる真似をして、いいとお思いで?」

「はー? それが仕事じゃないの?」

 

 あれ?

 あれれ?

 

 な、なんか私の口からは、割と思ってもない辛辣な言葉がポンポン口から出てくるぞー。

 

 え~っと。

 私は確か元日本人で、

 ブラック企業勤めのOLだったはず……。

 そして、クソお局上司からのねちっこいパワハラにお小言三昧の毎日にうんざりしていて、他人の苦労を知っているはずなのに──……この口ぶり。

 

 シット!

 

 どうやら、多少なりとも魂が融合して、私の性格も悪役令嬢のそれにつられているらしい。

 

「えぇ、仕事です。そして、仕事をする人間をないがしろにすると、知らないところでしっぺ返しを食らうものですよ」

「へー。面白いわね。この公爵家が令嬢の私にどんなしっぺ返しを?」

 

 できるものならやってみ──

 

「──洗ったシーツにゴキブリを這わせます」

「は?」

 

 ……今なんて?

 

「もちろん、使う時には掃っておきますよ? ですが。お嬢様が知らない所で、その白いシーツは、すでにでっかいゴキブリが這いまわったあと──」

 

 シット!

 

「うっそ! マジぇ?!」

「──かもしれません。……あくまで可能性の話ですよ。知らないところで恨みを買うとそんないやがらせをされているかもしれません。そうして、彼女たちは陰でほくそ笑むのです。『ぷぷー。あのお嬢、ゴキブリシーツで寝てるー』……と」

 

 ほう。

 

「剣を用意して頂戴。洗濯係切ってくるわ」

 

 ゴキブリは死罪に値するわね。

 

「ですから、あくまで可能性です。それに洗濯係だけでこの屋敷に何人いると? 外注分も含めるつもりですか?」

「必要であればやってやるわよ」

 

 ゴキブリは死罪──以下略

 

「他にも、食事がまずいだの固いだの臭いだのと文句をいうと、今度はシェフが何を仕込んでくるやら」

「しょ、食事はダメでしょ! だいたい、毒見もいるじゃん!」

 

 高位貴族の食事は厳格なのだ。

 いつどこで暗殺の憂き目にあうか分からないので、必ず食事前に誰かが毒見をする。

 

「──甘いですねぇ。毒見だってグルかもしれませんし、なにも毒じゃなく、例えば雑巾の絞り汁を……」

スタァァァアップ(STOP)! 聞きたくない聞きたくなーい!」

 

 知らないうちに雑巾汁飲んでたなんて絶対に聞きたくなかったわー。

 

「……あくまで仮定ですよ、仮定。もちろん、(あるじ)にそのような無体を働くものはこの屋敷にいないと確信しておりますが、あまり度が過ぎますと、その──ね」

 

 コポポポ……。

 

 そういって、お茶を継ぎなおすオパール。

 

 ──そんだけ言っといて、その茶を飲めってか?

 

「はぁ、わかったわよ」

 

 渋々靴を抜いて放り投げる。

 シーツ汚さなきゃいいんでしょー。

 

「……できれば起きてほしかったんですが、まぁいいでしょう。それより、午後の授業の時間が迫っております。そろそろ準備なさいませ」

「今日はパース」

 

 そんな気分じゃない。

 今の私は、どうしてこのクソな状況から逃れようかと頭をフル回転させているのだ──グデーンとしながらね。

 

「それより、アンタさー。数年後に悲惨な運命が決まってたらどーするー?」

「いきなりですねー」

 

 それはそう。

 

「ですが、まぁ分かっているなら、内容によりけりですが、逃げるでしょうね」

「逃げる?」

 

 ……戦わずに??

 

「内容によりけりっていうのはー?」

「それはもう、家族の命だとか、国の一大事だとか──……。まぁ、自分が悲惨な目にあいたくないがために、それらが犠牲になるなら逃げない、ということですね」

 

 へー。

 それは高尚なことで。

 

 私なら逃げる。……そう、逃げるのだ。

 

「国とか家族とかが、クッソどーーーーーーーでもいいなら?」

「もちろん、全力で逃げますよ? ダッシュです、ダッシュ」

 

 ダッシュ。

 全力で……。

 

「──それ、いいわね」

「はい?」

 

 うん。

 いい、気に入った。採用。

 

「全力ダッシュしようじゃないの」

「ええーっと……」

 

 戸惑った顔のオパール。

 だが、彼女が答えるまでもなく、その選択肢はもちろんあった。

 

 

  たたかう

  にげる

 

 

 そのコマンドしかないなら、そりゃまずは「にげる」を選ぼうじゃないの。

 だって敵は魔王じゃない。人生だ。

 

 檻のような、籠のような、箱のような人生だ。

 

 ならば逃げる。

 

 この3年間の猶予をフルに使って逃げるのだ!

 

 

 

 

「よーし、決めたわ。私は逃げる。全力ダッシュで!!」

 

 

 

 

 こうして、私こと悪役令嬢(候補)のエリナ・エーベルトは、断罪ルート回避でも、自己犠牲で主人公に花を持たせるでもなく、

 それらを全力でぶっちぎって逃げることにした。

 

 なーに、こっちには原作知識がある、よゆーよゆー。

 

 

 

「全力の前に、まずは授業に出てくださいね。……あと、顔が悪代官みたいですよ」

 

 くくくっ、

 主も悪よのぅ、オパール問屋(とんや)

 

 




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