シナリオモードが追ってくる〜原作に関わりたくない悪役令嬢の華麗(?)なる逃走劇〜 作:LA軍
「──というわけで、お作法とかどーでもいいです」
スパーン!
「あいだぁぁ!」
「言葉遣い! 何度訂正すれば分かるんですか!」
い、いきなり鞭でお尻とか……!
「わ、私は公爵令嬢ですわよ?! こ、こんな暴力を──ちょごめ!」
口答えをするや否や、鞭を大上段に振り上げるのは、長年使えている執事の妻──伯爵夫人のメリンダさんだ。
ウチの家だけでなく、他の貴族家にも家庭教師として授業に赴くくらいにはこの界隈で有名なマナー講師さんだ。
「いいですか? 身分をかざすのは結構。ですが、時と場合を
「お、おーけー」
ここは親指を立てるとこかな。
へへへ、これでご勘弁を──……。
「って、いたーい!」
ゆびぃ!
曲がってる曲がってる! ダメな方向に曲がってるからぁぁああ!
「なんですかその親指は! 庶民でもあるまいし、そこは「はい、先生」と一礼なさいませ!」
「
一礼一礼!
最敬礼! かしらーなか!
「え~っと、
「わー! じょ、冗談ですわよ、おほほほ──ごめんあそばせー」
スカートの端をつかんで
……棘付きはやめて。
「はぁ、まったく。……お嬢様は相変わらずですわね。お母様はあんなにお上品だったのに」
そー言われてもなー。
母親のこと言われても、魂だけ転生(?)した私には別人だし、そもそも亡くなったのだって昔過ぎて……。
だいたい、このエリナは3年後には初めて会った主人公を突き飛ばして頭からバケツの水をぶっぱする人ですよ? 多分、これから3年間学習しても大して変わらないと思いますよ?
つまり、魂が下品なのですわよー。
をほほほー。
「はー……。まぁ、いいでしょう。今日もみっちりきっちり仕込んであげます。それでは、頭に辞典をおいて姿勢よく歩く練習──さん、はい!」
こうして、小一時間みっちり礼儀作法とやらを仕込まれてしまった……。
えーっと、貴族教育のことはよく知らないけど、12才ならそれなりにできるもんじゃないの?
「……あれ? 私って、もしかして出来が悪い?」
それを思わせるように、
その後の授業もガタガタだ。歴史はチンプンカンプン(原作知識にないこと言われてもなー)だし、領地経営とかいわれても、PCもなしで計算なんてやってらんない。せめてエクセルよこせとしか思わないわね。
ただ、乗馬と護身術。
こっちは中々楽しかった。そして、この身体もそれによく馴染んでいた。なるほど……多分、このエリナ・エーベルトは脳筋さんだ。
そう言えば、原作でも結構猪突猛進で、策謀を巡らすのが下手糞だったように思う。
……まぁ、だからこそ、最後に断罪ルートで裁かれるんだけどね。
いや、ガバガバなのよ、原作主人公を嵌めるために、諸々を
「まぁいいや。どうせ逃げるし──」
「帰ってきて早々、またそれですか」
疲労困憊で部屋に戻ると、ベットにダイブ。
そこに掃除を終えたオパールがお茶を入れてくれる……あ、そうだ。
「じーっ」
「……なにも入れてませんよ」
ほんとかなー。
くんくんっ。
「ローズヒップとハーブです。お疲れのところにはよく効きますよ」
「ありがと」
うん。
ふつー。
「それより、さっき夕食を食べてきたんだけど、さ。あれって普通?」
「普通とは?」
いや、なんか、笑っちゃうくらい長いテーブルで家族と食事したんだけどね。
「なんかこう、シーンとしてて……。団欒とかないの?」
「団欒、でございますか?」
うん、そう。
「や、ほら。夕食は楽しく食べるとか、そーいう感じ?……ないの?」
「さて。他家の食事風景をみたことがありませんので何とも言えませんが……そうですね。ここエーベルト公爵家では、昔からあんな感じかと」
「えー」
マジぇ?
「すっごく苦痛だったんですけどぉ」
しかも、食堂に入るなりピリィ……とした空気が流れてたし、私が一番最後だったのもなんか不味い雰囲気だったし……。
おまけに適当な席に座ろうとしたら、執事がさりげなくケツに蹴り入れて来たし──あれってありなん?
「なに? 座席まで決まってるもん何?」
できれば、おっかないお父様からは一番離れたところに座りたかったんですけどぉー。
「もちろんでございます。お嬢様は、現時点では公爵家の序列第一位でございますれば」
「ええー!」
序列一位?!
「つまり……。次期公爵?!」
「しーっ! です。お嬢様」
しかし、オパールがさりげなく周囲を窺いつつ口に指を立てる。
う、うむ。
「……え? まずいこと言った?」
「不味くはありませんが……。先ほども言ったように、「現時点」でございます。……ここからは私の一人ごとですが、基本的に女児が貴族家を継ぐ例はあまりございません」
あ、なんかわかってきたかも……。
「そんな微妙な序列一位が、後継者うんぬんと言い出したら、二番目がいい顔しないってことね」
別に後付けの座なんてとりゃせんがな。
面倒くさい。
「もちろん、女性貴族の例もございますし、過去公爵家にもいらっしゃいましたが──」
「なるほどねー。建前は別にして、男児が継ぐほうが色々都合がいいわけね」
男女差別云々ではなく、血統の問題か。
男性遺伝子はY染色体云々──……細かい所は忘れたけど、そう言う特徴があるのだ。
もちろん、この時代、この世界でその辺の遺伝子レベルのことまで分かっていたかは不明だけどね。
「それに、女児はたいてい他家に嫁ぎます。婿を貰う例もありますが、それは他に男児の世継ぎがいない場合がほとんどですね」
「あー……。そう言えば、私にもいたわね。そーいうの」
許婚。婚約者。
つまり、王家の皇太子筆頭と目される、王族のなかでも序列第一……いわゆるあの第一皇子様のことだ。
あークソ、あのイケメンか。
金髪碧眼、白馬が似会う、まさに理想の王子様……なんだけど、少々軽はずみな言動が目立つ、夢見がちのアホだ。
頭が悪いわけではないが、アホだ。私という婚約者がありながら、一目惚れした原作主人公にうつつをぬかすアホ──しかも、公衆の面前でそれをやるアホ。
いや、恋愛くらい自由にすればいいし、最悪娶ってもよかろう。しかし、貴様は王子で次期皇太子なわけで──立場をわきまえろ、アホっ。って感じ。
ちなみに、私は滅茶苦茶嫌われている。
原作でも、公衆の面前で「婚約破棄」を宣言されるくらいには嫌われている。ルートによってはマジで殺される。……こっわッ。
それらを思い出しながら、ベッドに横になってグデーーーーーン、お尻ポリポリ。
「靴」
「はいはい」
シーツ汚すなってことね。わかってますって。
「しかし、なるほどねー。……それであの席順かー」
「そういうことです」
話は食卓に戻る。
公爵、私、弟……そして、ちょっと離れて義母。って感じの座席順。
婚約者がいて、いずれ家を出るのがわかっているのに、あの席順。
あからさますぎて、ビビったわー。
なんなら、義理の美人ママがめっちゃ睨んできたから余計ビビったわ。
「つーか、理屈はわかったけど、それだけで嫌われるもんなの? 私、あの美人ママになんかしたっけ?」
「美人ママ──……あぁ、奥様ですか? とくには何も──というか、あまり関わっていませんでしたね」
えー。
じゃあ、睨まれる
「そりゃ、さっきもいった序列のことかと」
「あー」
万が一
具体的には、結婚がうまくいかず──家に引きこもったりした場合。そして、お父様に不幸があった場合等など。
そして、
割とあり得るのが、その万が一。
「そんで、私の傍若無人っぷりに、婚約とか、結婚話も色々怪しくなってきてるから、イライラしてるみたいな?」
「私の口からは申せません」
はいはい。
なるほどね。つまり私のせいだね。
最悪のパターンは、私が女公爵になって、半分しか血のつながっていない弟らを私の補佐か、領地送りにしてしまうってことか。
いや、もっと最悪は、公爵の座を巡って血で血を争う戦いになるかもしれないってことね。
「うーむ。……そりゃ、美人ママも睨みたくもなるわな。折り合いも良くなさそうだしー」
「自分で言わないでください。そう思うならしっかりなさいませ」
へいへい。
別に喧嘩したいわけじゃないしね。
弟も……仲がいいとは言えないけど、別に嫌いじゃない。
二つ下の弟君はまだまだかわいい盛りなのだ。
(ちょっと姉である私にビビっている感じはしたけど、今のところ、原作ルートなみに毛嫌いされているわけでもないしねー)
ちなみに名前はレイモンド君。
緑かかった瞳と、母親譲りの銀髪がサラサラでかーわいいの。たしか原作ではちょっと背が低いこととと、剣とかが苦手なことがコンプレックスだったっけ?
それを原作主人公にほにゃららされて、コロっといく間抜けだ。
そして、原作開始時点では、もれなく私は嫌われている。
……いや、嫌われる率高いな私。
ほぼ全員に嫌われるとか、ある意味才能だぞっ♪
「つってもなー。見た、あの食卓」
「まぁ、はい」
うん。
食卓につくなり、公爵さまからお小言。
授業でのことや、最近の失敗事例を引っ張り出して、くどくど、くどくどくど。
それが一通り終わったら、あとはシーーーーーーーーン……拷問かよ。
(つーか、チクりやがってクソ教師どもめー)
せめて、こう……。護身術とか馬術とかは頑張ったんだし、そっちを褒めてよねー。
まぁ、嫁ぐ女にそんなの最低限あればいい程度なので、そうもなるんだろうけどさ。
やっぱし重視されるのはお作法とか、知識面だ。
最悪の可能性として、あのおーじ様の所に嫁ぐんだし、その辺で補佐できるようにしろってか?
「はぁ……。そりゃ、悪役令嬢にもなるわー」
「はい? あくや……なんですか?」
こっちの話ー。
しかし、あれだね。
ようするに性格が歪んだのも、苛烈な性格になったのも家のせいじゃね?
環境が人間をつくるというのはままあるのだ。
優しく聡明だったという母の血を半分は継いでいる以上、父である公爵がアレな人でない限り、私の性格が終わっているのは、十中八九家のせいだわー。
「こりゃ一刻も早く逃げる算段をつけないとなー」
「まーた物騒なことを……」
そぉう?
でも、このまま行ったら私、破滅街道まっしぐらよ? 3年なんて猶予があるようで、ほぼないし、今から動かないとどっかで詰む。
「つーわけで、逃走に必要なことピックアップしてみてよ」
「えー。私に聞くんですか? やですよ、責任問題になります」
「しないしない、ただの遊びだと思ってよ。書面にもしたげるし──……って、なによ、その
え?
マジで書面にしろってか?
「ここにサインを」
ええー。
準備いいなコイツ……。これいつ作ったのよ。
「なになに、かくかくしかじか──私の一切合切のミスはオパールとは無関係です、かしこ」
……わ、わーお。
「え? これにサインしろって?」
「イエス」
コイツ……。
はぁ、まぁしょうがない。家でも外でも孤立している以上、この専属メイドの助けは絶対必要なので、ここは言う事を聞いておこう。
力と権力で従わせても、どこかで裏切られても困る。逆にこの紙がある以上、コイツは責任の外からなら手を貸してくれるだろうしね。
えーっと、
エリナ・エーベルトっと……。
「ん。これでいい?」
「………………たしかに」
そんな、じっくり透かし見んでもちゃんと書くがな。
「──で、なんでしたっけ?」
「切り替え早いな、おーいっ」
クルクルと丸めた羊皮紙を胸にしまったかと思うと満面の笑み~。
ったく、
「逃走するのに、必要なものよ。ほら、前にアンタが言ってたじゃない。全力ダッシュで逃げるって」
「あー。その話ですか?」
「他に何があんのよ? まぁ、全力ってくらいだから、体力と持久力は必要として……」
あと、他に?
「いえ、別に全力ダッシュというのは比喩表現ですからね? 本当に全力ダッシュしてもすぐ掴まりますからね」
「わかっておま」
ピンポンダッシュじゃねーんだし、当たり前だ。
まぁ、体力だのはあることに越したことはないけどね。
なので、一応、ピックアップ候補としてだけ……。
「で、アンタが逃げるならどうするの?」
「私ですか?……やはりまずは生活する術かと──」
あー。
「たしかに、あたり前よね。逃げたって、その先で困窮したら末路は
「そうなりますね。甘ったれたお嬢様が、ただ逃げただけでは絶対ドロップアウトします」
甘ったれ……え? なんて?
「あとは、ちゃんとした戸籍もあったほうがよろしいかと」
「いや、さっき暴言吐かなかった?」
「それと生活するための知識も必要です」
「いや、聞けよ」
「……あと、ただ逃げるだけでは、社会で孤立しますよ。仕事もままなりません」
「それな」
もう、ええわ、
それより、話を続けよう。
「うーん。そうなんだよね。たしかにその辺しっかりしとかないと、山奥でサバイバル生活になるわね」
「ですです」
それはちょっと無理……。
「っていうことは──衣・食・住。そして、一般常識に仕事に使える知識。あとは……きっちりした身分ね」
それら確保しながら、原作と距離をとる方向で。
ふむふむ。
お、なんとなくわかってきたぞ。
「身分はできればこのまま公爵家と繋がったままがいいわね」
勘当されて修道院送りもありっちゃありだけど、修道院の生活はつらいと聞く。なのでなし──。
そして、平民生活も贅沢や現代日本の記憶のある私にはちょっとキツイ……。
固いパンと薄いスープの毎日はちょっとなー。
「そんなに都合よくいきますか?」
「それはこれから考える。……まぁ、でもその辺諸々を解決する方法が、概ね見つかったわ」
「え? もうですか?!」
あったりまえでしょ。
この私を誰だと思ってんのよ。
公爵家が令嬢──エリナ・エーベルトであるぞー!
「おーっほっほっほ!」
「いや、おーほっほっほ、ってそれリアルで言う人初めて見ましたよ」
ふふん。
アンタもやってみ。これめっちゃ気持ちええわ、悪役令嬢の気持ちちょっと分かったかもー。
「というわけで、まずは金よ、金」
ずるっ!
「い、いきなりそっちですか!?」
「あったりまえでしょー。知識面なんかは授業で必要なとこだけ真面目に聞くわ」
「いえ、授業は全部聞いたほうががよろしいかと……」
しゃーらっぷ!
「それより、金よ、金! おーかーね!」
「はぁ、まぁ、大事ですね」
うんうん。
お金は超大事。
「そもそも、お金があれば、大抵のことはなんだってできるわよ」
「それは──……否定できませんね」
でしょ?
「人が人をたらしめ、アンタみたいな無礼メイドが私のような高慢お嬢様に従うのは、結局のところ金でしょ~?」
「それは……はい、まさにその通りです!」
「……う、うん。そこはちょっとは否定しな?」
なんで力いっぱい頷いとんねん。
「ま、まぁ、いいわ。それより、まずは金よ。金! そう、お金!」
いや、初手から金だ。
金さえあればできないことはそう多くない。
「くくくっ、この世の全ては金に辿りつくからのぉ」
「それ誰のセリフです?」
知らなーい。
「そうと決まれば金策から始めましょう。……アンタ。私の小遣いってどーなってるか知らない?」
「お小遣いですか? たしか公爵さまから月に金貨10枚ほど支給されていたと思いますが……」
ほう!
金貨10枚とな!
この世界ではパン一個が銅貨1枚で、それが100枚で銀貨1枚。
そして銀貨10枚で金貨1枚。ちなみに下っ端の衛兵の一か月の給料だいたい金貨2枚。
つまり、金貨10枚は──。
「だいたい100万円か。悪くないわね」
「ひゃくま……はい?」
「こっちの話。それより、それ取ってきてくれる?」
それだけあれば十分だ。
貯金も引きだせば、かなりの額になるはず。
「え~っと、それは少々難しいかと……」
「は? なんでよ? じゃ、自分でとってくるから、場所だけ教えて」
まぁ、専属メイドとはいえ、お金を取ってくるのは無理か。
「いえそれも……。お嬢様のお小遣いは執事が管理しております」
はい?
え? どういうこと?
「──かくかくしかじか、こういうわけでして」
「いや、それじゃわかんない…………って、マジぇ?!」
な、なんということ。
──かくかくしかじか。
聞けば、この私ってば、昔に散在しまくった挙句に部屋中をガラクタまみれにしたとかで、公爵が激怒したころがあったらしい。
オマケに、金銭感覚がバグっているせいで、町で公爵家の名前で借金をしこたま
その額なんと、金貨1000枚~♪
いや、あほか!
小遣い10年分くらいじゃねーか。
「え? ってことは、私って借金もち?」
「さ、さぁ、どうでしょう。……ただ、欲しいものがあるときは公爵様のご機嫌をとってから、執事に頼んでおられたかと」
マージかー。
12歳児にして借金持ちだわ。
しかも金貨1枚2枚の話ではない。金貨1000枚といえば、つまり1億円……アホですか。
「まいったわね……。いきなり計画がとん挫しそうだわ」
「何を考えているかわかりませんが頓挫したほうがよろしいかと……」
しゃーらっぷ!
このまま、まんじりと日々を過ごしていたら断罪ルートまっしぐらよ!
仮に問題を起こさなくても、退屈などっかの誰かの嫁人生。断じて、ゴメン被る!
「まぁいいわ。ふふふっ、なーに、金策の手段は小遣いだけじゃないわよ」
なにせこの私は転生者。
「頭つんつんしながら、どこみて話してるんですか?」
読者のほうー。
それよりも、次よ次!
「ついてきなさい、オパール! この私──エリナ・エーベルトが現代の錬金術をみせてやるわー!」
オーッホッホッホ!!