シナリオモードが追ってくる〜原作に関わりたくない悪役令嬢の華麗(?)なる逃走劇〜   作:LA軍

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第4話「証拠がなければただの紙」

「──というわけで、オヤツ食べたい」

「はいはい。いつも通り用意してございますぅー」

 

 買ってきたものの検分も早々に、ベッドにダイブした私に呆れたため息のオパール。

 

 あ、もちろん、靴は脱いでるわよ。

 

 それよりも、オヤツオヤツー!

 

「今日は何ー?」

「焼き菓子とホットミルクです。お好きですよね?」

 

 まぁ好き。

 だけど……。

 

「ちょっと、味がうすいから、厨房いってこれ貰ってきてー」

「味がって……。お嬢様、先日私言ったはずですが?」

 

 う……。

 シェフを敵にすると怖いって奴ね。

 

「わ、分かってるわよ。ちょっとだけよ、ちょっとだけ……」

「はいはい。我儘をお聞きするのもメイドの務め──で、お砂糖か蜂蜜でよろしいですか?」

「いや、塩とお酢」

「は?」

 

 ん?

 

「聞こえなかった? 塩とお酢」

 

 ソルト&ビネガー。

 

「え~っと、正気ですか……?」

 あーん?

「少なくとも、大貴族の令嬢に絶対零度の視線を向けるメイドをどうやってクビにしてやろうか考えられるくらいには正気だけど?」

「おーう? やれるもんなら、やってみろや、ごらっ」

 

 うぉい!!

 

 その目だよ!

 その目ぇえ!

 

 あとなんだその口の利き方ぁ!

 

「……っていうのは、じょ、冗談よ冗談。いいから、塩と酢を持ってきてってば」

「ですから、正気ですか? 焼き菓子とミルクなのですが……」

 

 知ってるってば。

 

「別にそれにかけて食べようってんじゃないわよ」

 焼き菓子にお酢をぶっかけるほど味覚はバグってはいないつもりだ。

「あぁ、なにかに使うつもりなんですね」

「そーいうこと。そうでも言わないと、何に使うとか根掘り葉掘り聞かれても面倒でしょ?」

「焼き菓子にお酢を所望するお嬢さまとして厨房に話題になるのも大概だとは思いますけど……」

 

 それはそう。

 

「いいのよ。どーーーーーーせ、嫌われてますからぁ」

 

 雑巾の絞り汁を入れられるくらいにはねー。

 

「開き直っておいでですわねー。わかりました、少々お待ちください」

「否定はしてくんないのねー」

「事実ですからね」

 

 へーへー。

 どうせ嫌われてますよって。

 

 そうして出て行ったオパールを見送ってから、作業開始。

 買ってきたのは、かんきつ類と鉄くず──使えそうなのはその中でも一部ってとこね。

 

「まぁ、少々腐ってても使えるからレモンはこれでいいとして、問題はこっちかー」

 

 主に鍛冶屋や細工物屋などで出て来た金属くずだが、溶かして使うには微妙な代物ばかり。

 

 まさにクズだ。

 

「だけど、これこそ小銭を稼ぐ術よ」

 くっくっく。

「お塩でーすー」

 

 パラパラ~。

 

「って、かけるな!!」

 

 何よいきなり?!

 

 あー、もう、背中に入ったー!

 つーか、いつ戻ってきたのよ! 早すぎね?

 

「いえ、独り言をブツブツ言って、明後日の方を見ながら『小銭小銭~♪』と言行ってらっしゃったので、あー塩の使い方はこれかとー」

 

 これってのは何よ!

 これって!!

 何かに取り憑かれてるってか?!

 

 ……ある意味あたってるわ。

 

「ばっか!! 違うわよ、あ、くさっ! アンタどさくさにお酢までかけた?!」

「はい、御所望でしたので」

 

 ちーがーう!!

 

「あと、音もなく入ってくるな! ノックはどうしたノックはぁ!」

「いえ、手がふさがってましたので、足で開けたもので」

「たしかに!」

 

 そーね!

 塩とお酢でふさがってて、開けられないわねー……って、もう!

 

「やり方ってもんがあるでしょ。あーもー。いいわ、さっさとおよこし!」

 

 ったく、

 何ちゅうメイドだ。

 

「だいぶ減りましたけど、いいんです?」

「アンタが人さまの頭にぶっかけたからでしょ!──お酢があれば、塩はちょっとでいいわよ」

 

 瓶に入ったお酢をクンクン。

 うん、さすがは貴族家で使うお酢だ、質は悪くない。

 

「これをどうするんですか? まさか、本当に焼き菓子に──……」

「かけねーよ。そうじゃなくて、ほら」

 

 あらかじめ絞って置いたレモン汁に、お酢を混ぜる。

 だいたい3:1くらいだっけ?

 その辺は朧気(おぼろげ)だけど、まぁ、実験ならいくらでもできるしね──っと、仕上げにちょっとのお塩。

 

「ん、こんなもんね」

「なんですか? レモンとお酢を混ぜて──……まさか、これを焼き菓子に!?」

「だから、かけねーって!」

 

 しつけーなー。

 

「なら、」

「ミルクにもいれねーっての!」

 

 なんなのよ、このメイドはー。

 

「それより、実験するから、なんか適当な文字の書いた紙はないかしら?」

「そんなの都合よく持ってませんよ」

 

 嘘つけ。

 いつも持っとったやろが──たとえば、そのデッカイ胸の間に隠してる書類とかさー!

 

「あ、ちょ! せ、セクハラ!」

「やかましわっ! こちとら12歳児、合法でーす!」(※そんな法律はない!)

 

 そして、

 おーおー、あるわあるわ。

 

 例の借用書も、責任問題関連の書類に、その他諸々──……いや、そのオッパイの中どうなっとんねん。

 

「くぅ……汚されました」

「汚してないってのー。……それよりちょっとこれ借りるわよ」

 

 まずは借用書か。

 トイチのやつ。

 

「あ、まさか燃やす気ですか?! さすがにそれは見過ごせませんよ」

「燃やしゃしないわよ。ちょっと、これをこうして、こう──」

 

 インクの上に、作ったばかりの液体を掛ければ──……おっ、うまくいったかも!

 

「ちょっと、汚さないでくださいまし! お嬢さまから、借金を取り立てるための大切な書類──……え? あれ?」

「ふふん。誰の借金ですってー」

「な、なんで!? どうして、名前だけピンポイントでー?!」

 

 おーっほっほっほ!

 見事に名前だけ消してくれたわー!

 

 手始めにコイツから借りた金貨3枚の借用書、これで見事にチャラよー!!

 

「ど、どどど、どーやって?!」

「ふふん。理科の実験よー。酸化と還元ってわかるかしらぁ?」

 

 な〜んのことはない。

 

 今回こいつの書類に使った液体は、お酢とレモンとちょっとの塩の「還元液」だ。

 塩は羊皮紙への浸透を早めるブースターってとこ。

 

「くっ……これでごっそり搾り取るつもり、がこれではー!」

「いや、聞けよ」

 

 なにを尻の毛まで毟りとつもりでおるねん。

 あと、お金もちゃんと返すわよ。

 

「むー。ど、どうやったんですか? これ、出るとこ出ていい奴ですかね?!」

「証拠はないでしょ、ショーコが」

 

 サイン至上主義の世界で直筆サインのない書類なんて、泥棒との約束なみに、信用も価値もない。

 

「くっ! とにかく他の書類だけでもなんとか死守ー……あああああ!」

「ふふん、遅い遅い、もう、全部消しといたわよー」

 

 つーか、私が最近になってコイツと魂を融合するまでにどんだけ書類書かせてんだよ……。

 

 このメイドこえーよ。

 そして、私もチョロすぎるでしょ。

 

「くっそがー!」

「いいことー。書類は持ち歩くものじゃなくて、保管して、しかるべき人の手に渡しておくものよ。あと、控えはちゃんと作っときなさいな」

「くっ。アホなお嬢さまに(さと)される日が来るなんて」

 

 いや、お前、アホって……。

 はぁ。

 

「それより、どうかしら? 結構これ、使えると思わない?」

 

 チャプチャプと小瓶にいれた還元液を振って見せる私。

 それを忌々しそうに見るオパールは不機嫌そうながらも、渋々頷く。

 

「十分に使用に()るでしょうね……。ただ、バレたら色々問題が多いかと」

「でしょうね。容易に想像がつくわ」

 

 羊皮紙にサインといいうのが絶大な法的効力を持つなか、

 そのサインが消せるとなれば、大問題だ。

 

 おそらく、相当な社会問題となるに違いない。

 

「なのでこれは世に出す気はないわ。私がやりたいのは小銭稼ぎですもの」

「は、はぁ? これだけやって小銭ですか?」

 

 うん。

 

「だって、これ──絶対規制されるし、すぐに対策されるでしょ?」

 

 未知の技術というのは、最初にどれだけ稼げるか──そして、バレないようにするかがミソなのだ。

 

 こんな簡単なもの、すぐに真似されるに決まっている。

 

「でしょうね……。しかし、一体どうったか窺っても?」

「大した手品じゃないわ。羊皮紙に使われるインクは没食子(もっしょく)インク──つまり、鉄分と植物由来のタンニンから作られるものよ」

「はぁ? それが?」

 

 なんか、みっともなく、私のサインのあとをじーっ見ているオパール。

 

 だから、お金は返すってば……もう。

 

「その鉄やタンニン由来の色がたくさんくっついて黒くなりインクの役割を果たすんだけど、羊皮紙──つまり動物の皮膚に、その鉄成分が浸透してできる色を、この酸性が強い液体で還元しているの。……ようするに、錆をおとして無色化させているってわけ」

 

 還元作用は理科の実験レベル。

 

 小・中と真面目に授業きいてれば、だれでもできらぁ!!!

 

「はい?……え~っと、つまり?」

「ん。消したんじゃなくて、薄めたってことー」

 

 よく見てみー。

 

「あ、ほんとですね! よーく見てみると、うっすらと、文字の跡が!」

「でしょー……って、何よその手」

「いえ。これでも十分に証拠になりそうなので、お金返して貰おうかとー」

 

「だから、返すっての!」パシン!

 

 もー!

 

「それより、お父様の書類の残骸を集めてちょうだい。書き損じが結構あるはずよ」

「そりゃまぁ、ありますね。山ほど」

 

 うん。

 

 そして、それらは大抵ゴミだ。悪用されないように、切られることもあるけど、早めに回収すればまだまだ使える。

 

「あ、まさか……!」

「そ。リサイクルして売るわ」

 

 まさに再生紙。

 二十一世紀を先取りよー!

 

「ケチくさー」

「うっさい! 小銭が稼げればそれでいいのよ!」

 

 まぁ、このインク消しはいざという時に書類改ざんにも使えるけどなー。

 

 くっくっく。

 

「悪〜い顔してますねー。とりあえず、了解です。ゴミくらいならすぐに集められますけど……作業はお嬢様でやってくださいましね」

「え? 私ひとりでやんの?!」

 

 

 私、公爵令嬢なんですけどー!!

        なんですけどー!!

 

 

 そうして、ゴミ(?)が山積みになった私室で一夜が明けるころ。 

 

 コンコンッ。

 

「お嬢さま、朝でござ──……まさか、ずっと起きてたんですか?」

「お、おーよ。徹夜してやったわ!」

 

 ひっひっふー。

 ひっひっふー。

 

「くくくっ、さすが12歳児。フラフラで眠いわー。だけど、眠くても起きてられるもんねー」

「若さですねー。私は、きっちり8時間寝ました!

 

 

 きりりっ。

 

 

「いや、きりりっじゃないわよ! 見てよ、この紙の山ぁ!」

 

 ゴミとなった羊皮紙をきっちり再生して、

 作ってやったわ、再生紙ー!

 

「おぉー。これだけで結構な額になりますねー」

「くくくっ。お父様が几帳面なおかげで、ちょっとした書き損じの紙が、まーあるある。山ほどあるわよー」

 

 もっとも、書類自体の大半を書いているのは家臣団の誰かなんだろうけどね。

 それでもさすがは大貴族。

 一日のしょーもない報告から、収支報告、領地でのトラブル──その他、種類が山のように。

 

 おかげで、部屋の中が酸っぱい匂いで一杯だぜー。

 

「あとは、これを市場で売ればちょっとした小銭が作れるわ」

「さすがです、お嬢様ー」

 

 おーよ。

 これぞ現代の錬金術ー。

 

「全部で、金貨3枚くらいでしょうか? ちょうど私が貸したお金分くらいですね」

「くっ。こ、これだけやって金貨3枚……」

 

 お金を稼ぐって、難しいわね。

 

 ずーんっ……そのまま、私は椅子に倒れ込む。

 燃えたよ、真っ白によー。

 

「……はいはい。灰になるには早いですよ。──で、もう一つの金属クズは?」

「あ。それがあったわね」

 

 ふっかーつ!

 

「それも夜なべして作られたので?」

「えぇ、まぁ、試作品だけどね。これ自体は簡単なものよ。細工師が仕損じた細い金属とプレートがあればそれだけで完成。接着剤と金属だけで作れるから、たいした手間じゃないわ」

 

 そういって、いくつか作った試作品を見せる。

 薄い金属や木の板に、ひし形に曲げた金属線がついた代物だ。

 

「なんですこれ?」

「ま、見てのお楽しみ──ってことで、いくわよ、市場に!」

 

 さっさと換金して、次のステージに進むのよー!

 

「はいはい。ただし、まずは今日の授業をこなしてくださいましー」

「うぐっ。そ、そうだったわ……。朝からレッスン三昧なの、忘れてた……」

 

 がくっ。

 

 みごとな「orz」を決めた私は、クマが目の下に浮いた状態で、ヘロヘロになりながら授業をこなしていくのであった──。

 

 

 

 

 

 い、市場は夕方から……行くから、ぐふっ。

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