シナリオモードが追ってくる〜原作に関わりたくない悪役令嬢の華麗(?)なる逃走劇〜 作:LA軍
「ぐーっふっふっふ」
今日も今日とて町から買える馬車の中で私はご満悦。
え~っと、金貨が一枚、二枚~さんまーい……。
「令嬢の笑い方ではございませんねぇ」
「余計なお世話よ」
そして、今日も今日とて辛辣メイドことオパールがあくび交じりに馬車のなかで足を延ばしている。
「……いや、足は延ばすなや。一応、アンタの目の前にその御令嬢がいるんだからね」
「細かいこといわないでくださいましー。誰かさんのお供で足がパンッパン!」
へーへー。
そりゃすまんこって。
「その割にアンタも稼いでたじゃないのー」
「それはそこれはこれでございますればー」
そう。
今日も今日とて、賭場で大もうけ。
あれから1週間ほど、オパール推薦の賭場に通い詰めて、荒稼ぎをしたおかげでかなりの資金が集まった。
「割と簡単に稼げるんですねー。ひーふーみー……」
「令嬢の前で数えるな!」
くっそー。
こいつあッという間にカウンティングをマスターしやがった。
私が荒れくれどもと渡り合っている横でちゃっかり稼いで──多分、いま一番金持ってるし。
「まぁ、なんだかんだでそろそろ足を洗いましょうか。もう、さすがに対策されてるでしょうし」
「っぽいですねー」
実際、今日の賭場でも稼げたのは最初だけ。メンバーが入れ替わるにつれ、誰も彼も似たようなことを始めていた。
とくに
実はヴァン・アンことブラックジャックは親が圧倒的に有利なゲームなのだ。
それに気づかれてしまえば、そう簡単には稼げない。具体的には、カードを増やされてそれでおしまいた。
「なんか、カードを5組も準備されちゃいましたね」
「そーね。それだけで確率論は使えなくなるわ」
ブラックジャックとしてのルールに何一つ抵触していない対策だ。
別に52枚のカードでやらなければならないルールはない。52×5組のカードを準備しても十分にゲームは成立する。そのほかにも掛け金の釣り上げ禁止などで、単純な対策をされるとそれっきり稼げなくなってしまう。
「ま、この辺は最初からわかってたことよ」
「たしかに、そんなこといってましたねー」
とーぜんでしょ。
ギャンブルで身持ちを立てた人間なんでいないものよ。
「それよりも当面の軍資金はできたし、そろそろ次の段階にいきましょうか」
「次、でございますか?」
胡散臭そうな目を向けるオパールを尻目に、私は大金をひっさげて屋敷に戻る。
っていうか、そろそろ控えとかないと、限界な父ちゃんにしばかれるからね──……な・の・で、
「会社を興すわ」
「はい?」
部屋につくなり、靴を脱いでベッドにダイブした私。
その隣でお茶を入れているオパールが「何言ってんだこいつ」という目を向けてくる。
「何言ってんだこいつ」
「いや、口にせんでいいから」
つーか。誰がコイツか!
最近、私舐められてない? 悪役令嬢ムーブをやめた途端に、このクソメイドをはじめ、なんか周囲に軽んじられてなーい?
「いや、いきなり妙な事をいうものですからぁ、
「ルビルビ、お嬢さまんのルビが『あんぽんたん』になってるわよー。つーか、アンタ寛ぎすぎ!」
なんでお茶をアンタが飲んでるのよ!
それ、私用にいれたんちゃうんかーい!
「喉乾いたもので──」
「せめて、二個入れろや」
なんで一個やんねん。
「ったくもー……」
「お嬢様かわりましたねー」
そう?
そりゃ、中身が入れ替わった──っていうか、融合しているしね。
「前だったら烈火のごとく怒り狂って、剣を抜く大騒ぎでしたよ?」
「うん。今のアンタはそれくらいされても文句は言えないと思うわよ」
なんでお嬢さまを差し置いて茶ぁ飲んでソファーに座って、金数えとんねん!
「つーか、そうやって油断すると舐めるから、暴れてたんじゃないのー?」
知らんけど。
でも、コイツの態度やら、屋敷の人間の態度からして軽んじられてるのは間違いない。それが故の悪役ムーブだったのではないだろうか。
まぁ、卵が先か鶏が先かの話になっちゃうけどね。
「あー……たしかにそれはあるかもですねぇ」
「……やっぱりお母さま関連かしら?」
ゆーても、しょうがないので、私もベッドから起きると、ドカッ! とオパールの対面に座って自分で茶を入れる。
あ、イイ茶葉使ってるわ。
「まぁ、はっきりとは申せませんが、それはかなり大きいですね。実際、屋敷のとりまとめは奥様ですから」
「なーるほどねー」
聡明と言われた私の実の母が亡くなったのは随分前のことだ。
そのあとに、側室であった今の夫人が正室格上げになったのだが、まぁ……前の妻の娘なんて軽んじるわな。
それで、陰に日向にといやがらせ──子供ながらに反撃した私は見事な悪役令嬢になりました~ってとこかー。
「子供だし、反撃のやり方が分かんないわよね」
「今も子供じゃないですか」
それはそう。
「でも、もう大丈夫──無礼なメイドに我慢できるくらい自制心あるから」
「そんなメイドがいたら私から注意して差し上げますよ」
うん。しろ。
今すぐしろ。
「まあ、いいわよ。別にあの人と敵対する気はないし──むしろ、今のままでいてもらったほうがいいわ」
「その心は?」
そりゃもう。
「私は別に女公爵になりたいわけじゃなしね──思惑通りこの家を出て行ってやるわよ」
ウチの義理の母は序列が気に食わないのだろう。
だからっていやがらせされてもなーって感じ。むしろ逆効果じゃね? 下手すりゃ、私は王家の一員ですよ?
「坊ちゃまが身体が弱いですからねー……。万が一を考えておいでなのでは?」
「あー……。そう言えばそうか」
我が弟。
レイモンド。
私の一つか二つ下で、銀髪緑目の可愛い少年だ。ちなみに原作主人公の攻略対象で、ショタ好きに超人気だったりする。
ちょっと背か低くて、どこか幸薄く、強権的な姉に支配されているという小動物系の男の子だ。
ちなみに超かわいい。
私もゲーム内では割とお気に入りキャラだったりする。そして、例外なく、ゲーム開始時点では、姉──つまり、私のことが絶賛大嫌いらしい。
わーお、お姉ちゃん超ショックー。
「病気がちで、勉強以外はからきし──元気な姉の尻に敷かれて、家ではビクビクしている……ふむ。そりゃ、母ちゃんも私を目の敵にするわな」
下手すりゃ風邪でもコロっと死んじゃうような世界だもんねー。
事実、私の母は死んでいるわけだし、必要以上に義理の母が後継者について警戒するのもわからないでもない。
……ないんだけど、事実無根である。
「アタシャ公爵なんてなにたくないっつーの」
「なられても困りますよー」
あんだとこらぁ!
「家の中は内々におぼっちゃまが後継者でまとまってますし、いっそ、そのことをはっきり奥様にお伝えなさればいいのでは?」」
「そんな簡単じゃないわよ。貴族の言葉は裏の裏の裏まであるんだから」
つまり、軽くて信用ならない。
「はー。私めはメイドでよかったです」
「ならメイドの仕事をしてね」
なにを二杯目飲んどんねん。
「──で、会社うんぬんは?」
「あーそれそれ。それよ!」
くっそ。
無礼メイドのせいで話が逸れたわー。
「小銭は稼いだけど、これだけじゃどーにもならないからね。使えば一瞬だもの」
「結構な額ですけどね? え~っと……金貨で、100枚くらいですか?」
正確には125枚。
それがここ数日で稼いだ額だ。
「お父様の借金には程遠いけど、十分に動き出せる額よ」
「それで会社……え? お嬢様いくつでしたっけ」
「12ー」
いいんだよ。
日本じゃ小学生起業家ってのもいるくらいだっつーの。
「物理的に無理では?」
「まぁ法律があるからねー」
当然、この世界では子供に会社を興せるような権限はない。
だけど、抜け道はある。
「元からある会社を使えばいいのよ」
「……元からって──あ、まさか」
そう、そのまさかよ。
「くっくっくっくっ、金貨100枚もあれば、買収できる会社の一つ二つあるってーの!」
なんのために毎日市場に出向いてたと思ってるんだか。
賭場だけが目的だと思ったら大間違いよー!
「まーた悪い顔して──……しかし、会社の買収ってことはもしかして」
「そーよ。悪いけど、アンタ社長ね」
「やっぱし」
「まぁまぁちゃんと還元したげるから、それならいいでしょ?」
「利益の8割もらえればいいですよー」
「せめて半分にしないさい! 半分に!」
それでも多いっつーの!!
「いいでしょう。では、利益の5割ということで──あ、負債の一切はお嬢様でお願いしますよ?」
「そんな都合のいい話……あぁ、もうわかったわよ! ただし、私が成人したら、経営権は返して貰うからね」
「もちろんですとも、その代わり、ちゃんと契約書は作ってくださいね──消せないインクで」
わかっておま!
「では、署名を」
「……だ・か・ら、なんでいつも書類持ってんのよ!」
「できるメイドですから」
「アンタができるのは、「仕事」じゃなくて「悪事」でしょ! ったくもー……はい、エリナ・エーベルトこれでいい?」
「結構です。それでは、さっそく市場にいきましょうか」
は?
今さっき帰って来たばかりなんですけど……。
「ふふんっ、こんなこともあろうかとある程度の会社に目星はつけてございます」
そういって年季の入った手帳をパラパラと。
「……いや、ちょっとアンタマジで怖いんですけど」
それデス〇ートじゃね?
「なーに、賭場も会社も似たようなものですよ。他にも使えそうな暗殺……ごほん、冒険者なんかもピックアップしておりますので、いつでもご用命を」
「いま、暗殺者って言おうとしなかった?」
「冒険者です」
うそつけ!
それ、絶対黒装束で短剣持ってるやつでしょーが!
「ったく、アンタに逆らったら怖いことだけはわかったわ」
「奥様がお付けになった理由、ご理解いただけました?」
……うーわっ。
「もしかして、わりと情報筒抜け?」
「もちです」
わーお……。
まぁいいんだけどねー。
「どーせ出る家だし、なんだかんだで、あの美人ママとは利害一致してるしね」
「奥様もその辺は理解しているので、今のところ『捨て置け』とのことです」
コイツ、二重スパイじゃねーか。
「まぁいいわ。敵対しないなら、スパイでも暗殺者でもなんでも使うわよ」
「はい。利益をくださるならいつでも鞍替えしますよー」
あはは。
わかりやすくていいね、コイツ。
「ふっふっふ。主も悪よのよぉ。オパール屋ぁ」
「くくくっ、お嬢様ほどではありませんよー」
あーっはっはっは!
こうして、二重スパイを懐に引き込んだ私は、意気揚々とつぶれそうな会社をのっとり……もとい購入するのであった。