魔法少女リリカルヴィヴィオ   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。



第7話 別れる道

 新暦0077年5月28日。

 

 八神はやては、朝一番で本局の法務部を訪れた。

 昨日の7度目の陳情は、事実上の門前払いだった。

 ナンバーズ7名の隔離保護。

 スバル、ギンガ、ゲンヤの無期限休職。

 デバイスとリボルバーナックルの預かり。

 どれも解除条件は曖昧なまま、見直しは先送りされた。

 

 それでも、はやては動くしかなかった。

 

 止まれば終わる。黙れば、受け入れたことになる。

 

「八神二佐、こちらが昨日の議事録です」

 

 法務部の担当官が、疲れた顔で端末を差し出した。

 彼は敵ではない。むしろ、はやて達に同情している側だった。

 だが、同情だけでは規則は動かない。組織は変わらない。

 

 はやては端末を受け取り、内容を確認する。

 

 自分とクロノ、なのはの反対意見は記録に残っている。代替案の提出も記載されている。

 ただし、上層部の判断は変わらない。

 

「解除条件の記載、やっぱり曖昧なままですね」

「申し訳ありません。こちらからも指摘はしていますが、上は“世論の鎮静化及び安全確認後”という文言以上は出したがりません」

「世論の鎮静化、か」

 

 はやては苦く呟いた。

 世論とは何だろう。誰かの恐怖。誰かの怒り。誰かの無責任な噂。

 それらが一定量静まるまで、スバル達は待たなければならないのか。ナンバーズ達は隔離されていなければならないのか。

 数字にも日付にも出来ないものを理由に、人の人生を止める。

 

「引き続き、解除条件の明確化を求めます。本人同意に基づく保護措置への切り替えも」

「承知しました。ただ……」

 

 担当官はそこで言葉を濁した。

 

「厳しいのは、わかってます」

 

 はやては先に言った。

 

「でも、お願いします」

 

 そして深々と頭を下げる。法務担当官は、困ったように目を伏せた。

 

「八神二佐が頭を下げることではありません」

「それでも、下げさせてください」

 

 それしかできないのなら、何度でも下げる。そう思った。

 

 

 午前中は法務部、昼前は監査部、午後は広報部。その合間に、はやてはナカジマ家と連絡を取った。

 ゲンヤの声は、いつもより低かった。

 

『八神。お前が悪いわけじゃねぇ』

 

 端末越しにそう言われた瞬間、はやては何も言えなくなった。

 

「でも、止められませんでした」

『上の決定だ。俺も長いこと管理局にいる。こういう時、現場の声がどれだけ通らねぇかくらい知ってる』

「スバルとギンガは……」

 

 少しの沈黙。ゆっくりとゲンヤが言葉を紡ぐ。

 

『…落ち込んでる。特にスバルは、マッハキャリバーを預ける時、泣きそうな顔してた』

 

 はやては目を閉じた。

 スバルの顔が浮かぶ。泣きたいのを我慢して、きっと笑おうとしたのだろう。

 大丈夫です。と言ったかもしれない。本当は大丈夫ではないのに。

 

『ギンガも平気な顔をしてるが、あれで結構堪えてる。クイントのリボルバーナックルまで持っていかれたからな』

「……すみません」

『謝るなって言ってんだろ』

 

 ゲンヤの声が少しだけ柔らかくなる。

 

『ただ、出来るなら2人を励ましてやってくれ。俺が言っても、あいつらは気を遣って笑うだけだ』

「はい。必ず」

 

 通信が切れた後、はやては端末を握りしめた。

 自分は本当に動いているのか。ただ、書類を積み上げ、会議で言葉を重ね、頭を下げているだけではないのか。

 その問いは、答えのないまま胸の奥に沈んだ。

 

 

 5月31日。

 

 なのはが、はやてに退職の意思を伝えた。

 

 場所は、本局内の休憩室だった。午後の会議が流れ、少しだけ時間が空いた。

 クロノは別件の照会で席を外しており、室内にはなのはとはやてだけだ。

 

 なのはは、紙の書類を机に置いた。

 今の時代、ほとんどの手続きは電子化されている。それでも、なのはは紙に印刷していた。

 その白さが、妙に痛かった。

 

「退職届、です」

 

 はやては、すぐには手を伸ばせなかった。

 

「なのはちゃん」

「まだ正式には提出してない。提出日は、少し調整するつもり。3日間、真剣に考えて…迷って、悩んで…でも……決めた」

 

 なのはの声は静かだった。

 怒りに任せているわけではない。

 泣きながら縋るような声でもない。

 だからこそ、はやては止める言葉を失った。

 

「ほんまに、ええの?」

「うん」

「管理局を離れたら、できなくなることも多い。教導官として積み上げてきたものもある。なのはちゃんを慕っとる子らもおる」

「わかってる」

 

 なのはは頷いた。

 

「全部、わかってるつもり。でも、今の私は、あの場所に立ち続けられない」

 

 はやては唇を噛んだ。

 

「私とクロノ君は、残るよ」

「うん」

「亀の歩みでも、内側から変える。そう決めた」

「知ってる。だから、はやてちゃんとクロノ君のことは尊敬してる」

 

 なのはは、少しだけ笑った。

 その笑顔は優しかった。でも、悲しかった。

 

「でも私は、違う場所から守りたい。フェイトちゃんの傍にいたい。キャロの傍にも、出来る限りいたい。スバル達にも、管理局の外から出来ることを探したい」

「フェイトちゃんは……知っとるの?」

「まだ。今日は都合がつけられなかったから…明日、ちゃんと話す」

「そっか」

 

 はやては目を伏せた。

 止めたい。本音を言えば、何としてでも止めたかった。

 なのはがいなくなる。それは、はやてにとって大きな痛手だ。

 戦力としてだけではない。友人として、共に怒り、共に泣き、共に立ってくれる人が、管理局の中から一人いなくなる。

 けれど、なのはをこのままここに縛ることも、できなかった。

 

 なのははもう限界だった。

 管理局の会議室で、上層部の言葉を聞き続けるたびに、彼女の何かが削られている。それを、はやては見ていた。

 

「わかった」

 

 はやては、ゆっくりと言った。

 

「私は止めへん」

 

 なのはの瞳が揺れた。

 

「はやてちゃん」

「ただし、約束して」

 

 はやてはなのはを真っ直ぐ見た。

 

「自分一人で背負わんこと。管理局を辞めても、私らとの縁まで切れるわけやない。困ったら頼る。怒りたい時は怒る。泣きたい時は泣く。ええな?」

 

 なのはは、一瞬だけ幼い顔になった。それから、静かに頷いた。

 

「うん。約束する」

 

 はやては、ようやく退職届に手を伸ばした。紙の端に触れた瞬間、胸の奥が痛んだ。

 また一つ、道が分かれる。そんな感覚があった。

 

 

6月3日。

 

 高町なのはは、正式に退職届を提出した。

 

 その日は、朝から奇妙なほど晴れていた。

 なのはは教導隊の上官に頭を下げ、必要な手続きに入った。もちろん、すぐに退職が完了するわけではない。引き継ぎも、残務も、調整もある。それでも、決定的な一歩だった。

 クロノはその報告を聞き、しばらく黙っていた。

 

「止めるべきだったかもしれない」

 

 はやては、執務室でそう呟くクロノを見た。

 

「クロノ君が?」

「友人としては尊重したい。だが、管理局に残る者としては、彼女を失うことは大きい」

「…せやね」

「そして、フェイトのことを考えても……」

 

 クロノはそこで言葉を切った。はやても同じ不安を持っていた。

 なのはがフェイトの傍にいる。それは救いになるかもしれない。

 けれど、今のフェイトはあまりにも静かだ。

 なのはが差し出す手を取ってくれるのか、それとも、その優しさすら別の形で受け取ってしまうのか。わからなかった。

 

「でも、なのはちゃんをこれ以上ここに置いとくのも、酷やった」

「彼女は限界だった。僕も、それは理解している」

 

 はやての言葉に頷き、クロノは窓の外を見た。

 

「僕達は、少しずつ別々の選択をしているな」

「それでも、目的は同じや」

「そうであることを願う」

 

 その言葉が、はやての胸に残った。

 

 

 6月5日。

 

 カリム・グラシアは、聖王教会の一室で高町なのはを迎えた。

 窓から差し込む光は柔らかく、部屋には薄い紅茶の香りが満ちていた。静かな空間だった。管理局本局の会議室の硬い空気とは、まるで違う。

 カリムは、なのはの前にティーカップを置いた。

 

「急にお呼び立てして、申し訳ありません」

「いえ。カリムさんには、前から相談に乗ってもらっていましたから」

 

 なのはは小さく頭を下げた。

 

 カリムは、彼女の顔を見つめた。疲れている。だが、その瞳の芯は折れていない。

 高町なのはという少女―いや、もう少女ではない女性を、カリムは以前から知っている。まっすぐで、強くて、優しい。そして、その優しさゆえに自分を削る人だ。

 

「単刀直入に申し上げます」

 

 カリムは静かに言った。

 

「聖王教会に来ませんか」

 

 なのはは、わずかに目を見開いた。

 

「教会に、ですか」

「はい。正式には、修道騎士指導官。加えて、私個人の非公式なアドバイザーとして」

 

 カリムは言葉を選びながら続ける。

 

「今回の一連の出来事について、教会内部でも強い懸念があります。生命倫理という名の下に、既に生きている命の尊厳が脅かされることは、教会としても看過できません」

 

 なのはは黙って聞いていた。

 

「ただし、これは善意だけの話ではありません」

 

 カリムは穏やかに微笑んだ。

 

「管理局への不信が高まる中、教会が独自に人道支援と教育の枠組みを強化することには、大きな政治的意味があります。あなたを迎えることは、教会にとっても利点がある」

「正直ですね」

「嘘をついて勧誘しても、あなたは来てくださらないでしょう?」

 

 なのはは、少しだけ笑った。だが、その笑みはすぐに消える。

 

「私は、管理局を辞めようとしています。でも、管理局を憎んでいるわけじゃありません。はやてちゃんも、クロノ君も、中で頑張っている人達もいる。そこを否定したいわけじゃないんです」

「わかっています」

 

 カリムは頷いた。

 

「だからこそ、あなたに来ていただきたい。管理局を否定するためではなく、管理局だけでは守れないものを守るために」

 

 なのはの指が、カップの縁に触れた。

 

「守れないもの……」

「組織には、必ず限界があります。手続き、権限、世論、政治。どれも必要なものです。けれど、それらの隙間で傷つく人がいる」

 

 カリムの声は静かだった。

 

「あなたは、その隙間に手を伸ばせる人です」

 

 なのはは目を伏せた。

 フェイトの顔が浮かんだ。

 キャロの震える手が浮かんだ。

 スバルの笑顔が浮かんだ。

 エリオの墓標が浮かんだ。

 

「すぐには、答えられません」

「はい。急ぎません」

 

 カリムは微笑んだ。

 

「ただ、覚えておいてください。あなたが立つ場所は、管理局だけではありません」

 

 その言葉は、なのはの胸に静かに染み込んだ。

 

 

 同じ日の夕方。

 はやては、なのはからカリムとの話を聞いた。

 

「聖王教会か」

 

 画面越しに、はやては少しだけ安堵した。

 

「悪くないと思う。カリムやったら、なのはちゃんを利用するだけの人やない」

『うん。私もそう思う』

 

 なのはは頷いた。

 

『でも、まだ決めてない。ちゃんとフェイトちゃんにも話したい』

「明日、行くんやったな」

『うん。静養施設に』

 

 3日前から、フェイトはキャロと共に郊外の静養施設へ移っていた。病院ほど硬くなく、けれど医療と警備は整っている場所。

 フェイト本人は休むつもりがないようだったが、リンディやクロノ、なのは達が強く勧め、ようやく移ったのだ。

 

「なのはちゃん」

 

 はやては、少し迷ってから言った。

 

「フェイトちゃんのこと、頼むな」

 

 なのはは真剣な顔で頷く。

 

「うん。今度は、ちゃんと傍にいる」

 

 その言葉を聞いた時、はやては胸の奥に小さな不安を覚えた。今度は。なのはに悪意はない。むしろ、それは精一杯の決意だ。

 けれど、今のフェイトにその言葉がどう届くのか。はやてにはわからなかった。

 

 

 6月6日。

 

 朝。はやては本局で、クロノからの緊急通信を受けた。

 画面に映ったクロノの顔は、青ざめていた。

 

『フェイトが消えた』

 

 その一言を、はやては最初、理解できなかった。

 

「……消えた?」

『静養施設からだ。キャロを連れていなくなった』

 

 はやての手から、端末が滑り落ちそうになった。

 

「待って。どういうことや。警備は? 医療スタッフは?」

 

『昨夜までは確認されている。今朝、キャロの検温に行ったスタッフが、部屋が空になっているのを発見した。監視記録は一部が書き換えられている。フェイトの権限と技術なら、不可能ではない』

「書き置きは?」

 

 クロノは苦しそうに目を伏せた。

 

『あった』

 

 画面に、短い文章が映し出される。

 

 ―もう、ここにはいられない。

 ―キャロは私が守ります。

 ―探さないでください。

 

 それだけだった。はやては、言葉を失った。

 探さないで。そんなこと、できるはずがない。

 

『なのはは?』

 

「昨日、今日会いに行くって…聖王教会から誘われたことを話すって…」

 

 言いかけて、はやては息を呑んだ。

 なのはは、間に合わなかった。今度は傍にいる。と言ったばかりだったのに。

 

『なのはには、僕から連絡する』

「私も行く」

『頼む』

 

 通信が切れた瞬間、はやては走り出していた。

 

 

 同じ頃、ハラオウン家でも異変が起きていた。

 エイミィとリンディが目を覚ました時、いつもなら起きているアルフの姿が見えない。

 そして、リビングのテーブルに置かれた書置き。

 

 ―フェイトを1人にはできない。

 ―あの子は、自分が壊れかけていることに気づいていない。

 ―だから、ついていく。

 

 アルフはフェイトに同行したのだ。主に仕える使い魔としてではない。家族として。

 

 

 静養施設の一室で、なのはは立ち尽くしていた。

 

 空になったベッド。

 畳まれた毛布。

 キャロが使っていた小さなクッション。

 フリード用のケージも空だった。

 そして、書き置き。なのははそれを何度も読んだ。

 

 もう、ここにはいられない。

 キャロは私が守ります。

 探さないでください。

 

「……どうして」

 

 声が漏れた。

 

 正直に伝えた。管理局を辞めること。これからは傍にいること。1人にしないこと。

 でも、フェイトには届かなかった。いや、本当に届かなかったのだろうか?

 

 なのはの脳裏に、数日前の会話が蘇る。

 

 フェイトちゃん一人じゃなくていい。私もいる。皆いるよ。

 

 その手を、フェイトは取らなかった。 

 

「私が……」

 

 なのはは震える手で書き置きを握った。

 

 自分が、もっと早く決断していれば。

 フェイトの心に強く踏み込んでいれば。

 傍にいると、無理にでも抱きしめていれば。

 

 それとも。

 

 管理局を辞めると決断したことが、フェイトを追い詰めたのではないのか?

 フェイトの傍にいるという決意が、逆にフェイトを追い詰めたのではないか?

 

 フェイトは優しく、同時に自罰的だ。自分のせいで、なのはが管理局を辞めたと思ったのかもしれない。

 

「違う……」

 

 なのはは小さく呟いた。

 

「違うよ、フェイトちゃん。そうじゃない……」

 

 だが、部屋にはもう誰もいなかった。

 

 

 はやてが到着した時、なのはは書き置きを握ったまま、動けずにいた。

 

「なのはちゃん」

 

 はやては可能な限り冷静に、なのはへ声をかけた。

 

「………」

 

 無言で振り返ったなのはの顔を見て、はやては胸が詰まった。

 

「はやてちゃん……私……」

「今は、自分を責めたらあかん」

 

 はやてはそう言った。けれど、その言葉がどれほど無力かもわかっていた。

 自分だって自分を責めている。

 クロノも自分を責めている。

 シグナムも、リンディも、エイミィも、誰もがきっと。

 誰か一人の責任ではない。それでも、全員が自分を責める。そういう失い方だった。

 

 

 クロノはすぐに捜索を開始した。

 転送記録、通信履歴、監視映像、ID検索、フェイトの権限でアクセス可能だったデータベース。使える手段はすべて使った。

 だが、フェイト・T・ハラオウンは現役の執務官。それも頭に優秀と付く執務官だった。

 逃亡者を追う技術を知っている。追跡をかわす方法も知っている。

 どの記録を消し、どこに偽の痕跡を残せばよいかも理解している。

 キャロを連れ、フリードを連れ、アルフを連れ、それでも彼女は痕跡をほとんど残さなかった。

 

 

 家族の様子を見る為、クロノが一度帰還すると…リンディは、書き置きを手に静かに泣いていた。エイミィはアルフが突然いなくなったことを悲しむ子ども達を抱きしめ、共に泣いていた。

 クロノは崩れ落ちそうになる自分へ必死に活を入れ、すぐに捜索を再開した。

 なのはは、何度もフェイトに通信を試みた。当然、繋がらなかった。

 はやては、そのすべてを見ていた。何かが決定的に壊れていく音がした。

 

 エリオの死から、まだひと月も経っていない。それなのに、仲間達は次々と離れていく。

 

 シグナムは謹慎。

 ナンバーズは隔離。

 ナカジマ家は休職。

 なのはは管理局を離れようとしている。

 フェイトはキャロとアルフを連れて消えた。

 

 六課で結ばれたはずのものが、1本ずつ切れていく。

 

 

 夜。

 

 はやては本局の屋上に立っていた。

 街の光が遠くに見える。風は冷たかった。

 クロノが隣に来る。

 

「手がかりは?」

「ない。いや、正確には、偽の手がかりばかりだ」

「フェイトちゃんらしいな」

「こんな時にまで、優秀だ」

 

 クロノの声には、かすかな苦味があった。はやては手すりを握る。

 

「私ら、何を間違えたんやろな」

「一つではないだろう」

 

 クロノは言った。

 

「ヒルマの記事への初動。生命倫理団体への警戒。エリオの警護。葬儀場の警備。上層部への対応。フェイトの精神状態への介入。全部、少しずつ足りなかった」

「全部、少しずつ……か」

「そして、その少しずつが積み重なった」

 

 はやては目を閉じた。それが一番つらかった。

 明確な一つの失敗なら、そこを悔いればいい。だが、これはそうではない。

 小さな判断、小さな遅れ、小さな遠慮、小さな諦め。そのすべてが重なって、今に至った。

 

「クロノ君」

「何だ」

「私は残る」

 

 クロノは、はやてを見た。

 

「なのはちゃんは外から守る道を選ぼうとしてる。フェイトちゃんは……今は、どこへ向かってるのかわからへん。でも私は、ここに残る」

「僕もだ」

 

 クロノは即答した。

 

「この組織の中に、まだ守れるものがあると信じたい。いや、信じるしかない」

「うん」

 

 はやては夜空を見上げた。

 星は見えなかった。クラナガンの光が明るすぎるせいか、それとも空が曇っているせいか。

 

「フェイトちゃんを、必ず見つけよう」

「ああ」

「キャロも、アルフも」

「必ず」

 

 2人はそう誓った。だが、その誓いがすぐには果たされないことを、はやてはどこかで感じていた。

 

 フェイトは本気で姿を消した。キャロを守るために。あるいは、自分自身を罰するために。

 そしてアルフは、そのフェイトを1人にしないために同行した。

 

 それぞれが、大切な誰かを守ろうとしている。なのに、その道はばらばらに分かれていく。

 

 新暦0077年6月6日。

 

 その日、フェイト・T・ハラオウンはキャロ・ル・ルシエ、アルフと共に姿を消した。

 

 高町なのはは間に合わなかった自分を責めた。

 クロノ・ハラオウンは追跡を始めた。

 八神はやては、管理局の内側に残る覚悟を固めた。

 誰も、間違えたかったわけではなかった。

 誰も、誰かを捨てたかったわけではなかった。

 それでも道は分かれた。

 優しい者達が、優しさのまま互いの手を離していく。

 

 その夜、はやては初めて理解した。

 別れとは、いつも憎しみで起こるわけではない。 守りたいものが違う場所に見えてしまった時にも、人は離れていくのだと。




最後までお読みいただきありがとうございました。
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