魔法少女リリカルヴィヴィオ   作:SS_TAKERU

9 / 10
お待たせいたしました。
今回より、第2章開始となります。
また、今回はAI生成による挿絵を2枚掲載しております。


第2章 新暦0082年
第9話 少年との出会い


 新暦0082年5月11日。

 

 その日は、朝から静かな日だった。

 

 高町ヴィヴィオは、自室に置かれた鏡の前でリボンの位置を整えていた。

 金の髪に結んだリボン。左右で色の違う瞳。少し大人びた顔立ち。今日はSt.ヒルデ魔法学院中等科の制服ではなく、落ち着いた紺色のワンピースを選んでいる。

 

「ヴィヴィオ、準備できた?」

 

 部屋の外から、なのはの声がした。

 

「うん。今行くね」

 

 返事をしてから、ヴィヴィオはもう一度だけ鏡を見る。

 

 大丈夫。ちゃんとできている。

 なのはママに心配をかけない。

 今日は、エリオお兄ちゃんに会いに行く日だから。

 

 胸の奥で、そう言い聞かせる。

 

 エリオ・モンディアル。

 ヴィヴィオにとって、彼は本当の兄ではない。

 けれど、幼い頃の記憶に残る彼は、少し照れ屋で、真面目で、優しい兄のような人だった。

 キャロ・ル・ルシエもそうだ。

 優しくて、小さくて、けれど芯が強くて、ヴィヴィオにとっては姉のような人だった。

 

 その2人のうち、エリオはもうこの世にいない。キャロも、5年前から姿を消したままだ。

 

 5年前。ヴィヴィオはまだ7歳だった。

 

 何が起きたのか、まだ幼かった当時の彼女には全てを理解することは出来なかった。けれど、大人達の顔が変わったことだけは覚えている。

 

 夜、なのはママが1人で泣いていたこと。

 フェイトママがいなくなったこと。

 キャロお姉ちゃんもいなくなったこと。

 はやてさんやクロノさん、シグナムさん達に会える機会が減ったこと。

 スバルさんやギンガさんとも、いつの間にか会えなくなったこと。

 

 世界は、あの日を境に少しずつ遠くなった。だからヴィヴィオは心に決めた。

 

 自分まで、なのはの負担になってはいけない。

 自分は強くならなければならない。

 なのはママの自慢の娘でいなければならない。

 

「ヴィヴィオ?」

 

 もう一度、なのはの声が聞こえる。

 

「今行くね!」

 

 ヴィヴィオは笑顔を作り、部屋を出た。

 

 

 リビングには、黒のパンツスーツを着た高町なのはが待っていた。

 

 26歳になったなのはは、聖王教会の修道騎士指導官として忙しい日々を送っている。

管理局を離れて5年。

 それでも、彼女の佇まいは昔と大きく変わらない。優しくて、まっすぐで、強い。

 

 けれど、ヴィヴィオは知っている。

 

 なのはは、時々とても遠い目をする。

 誰もいない部屋で、古い写真を見つめていることがある。

 フェイトの名前が出た時、ほんの一瞬だけ言葉に詰まることがある。

 

 だからヴィヴィオは、明るく笑う。

 

「なのはママ、行こう」

 

 なのはは、ヴィヴィオの顔を見て、少しだけ微笑んだ。

 

「うん。行こうか」

 

 その笑顔もまた、少しだけ無理をしているように見えた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 墓地は、クラナガン郊外の静かな場所にあった。

 

 管理局の殉職者が眠る区画。その一角に、エリオ・モンディアルの墓標がある。

 白い石に刻まれた名前。短い生年と没年。あまりにも短い文字列。

 

 ヴィヴィオは、その前に立つたびに思う。

 

 人の一生って、こんなに短く石に刻まれてしまうものなのだろうか。

 

「エリオお兄ちゃん」

 

 ヴィヴィオは小さく呼んだ。

 返事はない。当然だ。けれど、呼ばずにはいられなかった。

 墓前には、既に多くの花が供えられていた。

 

 なのはとヴィヴィオが到着した時、そこにはクロノ、リンディ、レティ、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リィンフォースⅡ、アギト、ユーノ、グリフィス、ヴァイス、シャリオ、アルト、ルキノ、アイナ、マリエル達が集まっていた。

 全員ではない。

 

 フェイトはいない。

 キャロもいない。

 アルフもいない。

 はやて、シグナム、ティアナは捜査活動で欠席だと聞いている。

 スバル、ギンガ、ゲンヤは、2年前から音信不通になっている。

 

 かつて機動六課と呼ばれた人達は、今はもう同じ場所に集まることすら難しくなっていた。

 

「なのは。ヴィヴィオ」

 

 声と共に、クロノが近づいてきた。

 

 31歳になったクロノは、以前より少し痩せたように見えた。髪には、白いものが混じっている。

 けれど、姿勢は変わらない。声も落ち着いている。

 

「おはよう、クロノ君」

 

 なのはが挨拶する。

 

「おはようございます、クロノさん」

 

 ヴィヴィオも頭を下げた。クロノは少しだけ表情を和らげる。

 

「来てくれてありがとう」

「そんな、当然です」

 

 ヴィヴィオが笑顔と共にそう答えると、クロノは頷いたが、その目には疲れがあった。

 少し離れたところでは、ヴィータが腕を組んで墓標を見つめていた。

 シャマルは静かに花を整えている。

 ザフィーラは墓前に座るようにして目を閉じ、リィンとアギトは小さな手を合わせていた。

 ヴィヴィオは、なのはと一緒に花を供えた。

 

「エリオお兄ちゃん。今年も来たよ」

 

 声に出してから、少しだけ喉が詰まる。

 

「私、中等科に上がったんだ。勉強も、魔法も、ちゃんと頑張ってるよ。なのはママにも心配かけないように……」

 

 そこまで言って、ヴィヴィオは口を閉じた。

 

 違う。墓前でまで、そんなことを言う必要はない。

 エリオは、きっとそんな言葉を望まない。もっと普通に、元気にしていると言えばいいだけなのに。

 なのはが、そっとヴィヴィオの肩に手を置いた。

 

「ヴィヴィオ」

「うん。大丈夫」

 

 反射的にそう答えてから、ヴィヴィオは少しだけ笑った。

 

 また言ってしまった。

 大丈夫。

 私は強いから。

 

 なのはは何か言いたそうだったが、結局何も言わなかった。

 墓参りは、静かに進んだ。1人ずつ花を供え、手を合わせる。誰かが短く言葉をかける。

 長い沈黙が、花の香りと一緒に墓地を満たしていた。やがて、クロノが皆へ向き直る。

 

「今日は来てくれてありがとう。仕事に戻る者もいるだろうし、無理に長居する必要はない。エリオも、皆がそれぞれの場所で前に進むことを望んでいると思う」

 

 その言葉に、誰もすぐには答えなかった。

 

 それぞれの場所で前に進む。それは正しい。

 けれど、5年経っても進めていないものがあることを、全員が知っていた。

 

 

「ユーノ君はこれから仕事?」

 

 なのはが尋ねると、黒い背広姿のユーノは軽く頬を掻きながら頭を左右に振った。

 

「着替えと荷物を取りに一旦家に戻って、そのまま管理外世界の遺跡調査へ向かう予定。有休消化も兼ねてね。2ヶ月弱は向こうに滞在するかな」

「はやてちゃんから聞いたよ。ユーノ君、無限書庫に籠りすぎだって怒られたんでしょ?」

 

 なのはの言葉に苦笑しながら否定はしないよ。と返すユーノ。

 

「でも、2ケ月もユーノ君がいないと、無限書庫の方は大変なんじゃない?」

「それは…多分、大丈夫かな。一応最低限の体制は整えてきたから」

 

 そう言いながらも、ユーノの表情には少しだけ不安があった。

 

「ユーノ君がいない間に、大事件が起きないことを心から祈るよ」

「縁起でもないことを言わないでよ。なのは」

 

 ユーノは苦笑したが、ヴィヴィオはその会話を聞いていて、少しだけ胸がざわついた。

 大事件。その言葉は、五年前を思い出させる。けれど、何も起きないはずだ。起きてほしくない。

 

 

 やがて、墓前の集まりは解散となった。

 仕事へ戻る者。家路につく者。少しだけ残って祈る者。皆それぞれの道へ歩いていく。

 なのはとヴィヴィオも、最後にもう一度だけ墓標へ祈りを捧げた。

 

「また来るね、エリオお兄ちゃん」

 

 そう言って、ヴィヴィオはなのはと共に墓地を後にした。

 

 

 2時間後、雨が降り始めた。突然のゲリラ豪雨。

 空が黒く曇ったかと思うと、叩きつけるような雨粒が街を濡らし始める。

 墓地にも人影はなく、供えられた花が雨に打たれて揺れていた。

 

 その雨の中を、2つの黒い影が歩いてきた。

 一人は背が高く、黒いフード付き外套を深く被っている。

 もう一人は少年の背丈で、同じようにフードを被り、少し後ろを歩いていた。

 墓標の前で、背の高い方が立ち止まった。しばらく動かない。

 

 雨が外套を叩く。

 雫が裾から滴る。

 それでも、その人物は動かなかった。

 

 やがて、ゆっくりとフードを外す。

 

 白髪の混じった長い金髪が、雨に濡れて肩へ落ちた。

 

 フェイト・T・ハラオウン。

 

 5年前、キャロを連れて姿を消した彼女が、そこにいた。

 かつて金の閃光と呼ばれた彼女の姿は、記憶よりも細く、儚く見えた。

 頬は痩せ、髪には白いものが混じり、瞳の奥には深い疲労が沈んでいる。

 それでも、その目はエリオの墓標だけを見つめていた。

 フェイトは膝をつき、雨に濡れる石へ手を当てた。

 

「エリオ……」

 

 声は、雨音に溶けそうなほど小さかった。

 

「帰ってきたよ」

 

 その言葉は、誰に聞かせるものでもなかった。

 5年分の時間を越えて、ようやく絞り出されたような声だった。

 後ろにいた少年が、少しだけ近づく。

 

「フェイトさん。あまり濡れると、お身体に障ります」

 

 少年の声は柔らかかった。しかし、その奥には強い心配がある。

 フェイトは振り返らずに答えた。

 

「うん。わかってる……でも、あと少しだけお願い。フェリオ」

 

 フェリオと呼ばれた少年は、それ以上何も言わなかった。

 ただ、フェイトの背後に立ち、雨の中で彼女を見守る。

 

【挿絵表示】

 

 

 彼の顔はフードの影に隠れている。

 だが、雨に濡れた横顔には、エリオ・モンディアルに似た面影があった。

 

 数分後、雨は止んだ。

 雲の切れ間から淡い光が差し、濡れた墓石が静かに輝く。

 フェイトは立ち上がり、最後にもう一度だけ墓標へ触れた。

 

「また来るね」

 

 それは約束ではなく、祈りのようだった。

 次の瞬間、黒い外套の2人は光に包まれ、姿を消した。

 雨に濡れた花だけが、そこに残った。

 

 

 翌日。

 

 新暦0082年5月12日。

 

 クラナガン中心部の高級タワーマンション最上階フロアに、フェイトと同行者達はいた。

 外から見れば、そこはただの富裕層向け住宅だ。広い窓。整えられた内装。街を一望できる眺め。

 だが、そのフロア全体が既に偽装結界、通信遮断、簡易医療設備、簡易転送ポートなど、フェイトに同行しているある人物の手によって各種改造が施され、僅か3時間ほどで活動拠点へと変化しつつあった。

 

 名義は架空法人。

 支払いは複数口座を経由した洗浄済み資金。

 表面上の取引に違法性は見えない。

 万が一、捜査機関が踏み込むとしても、それには手続きがいる。手続きにはそれなりの時間がかかる。

 その時間があれば、彼女達は撤収できる。

 

 フェイトは窓際に立ち、クラナガンの街を見下ろしていた。

 5年前と変わらないように見える街。けれど、フェイトには別のものに見えた。

 

 美しい街。その裏側に、見たくないものを隠す街。

 

「フェイト」

 

 アルフが近づいてくる。

 

「フェリオの準備、出来たよ」

「うん」

 

 フェイトは振り返った。

 

 リビングには、キャロが車椅子に座っていた。5年前から時間が止まったような姿。

 傍にはフリードが小さく丸まっている。片翼は今も完全には戻っていない。

 フェリオは、赤いジャケットにキャップと眼鏡を身につけていた。

 変装としては簡素だが、顔立ちの印象を変えるには十分だった。

 

「本当に1人で大丈夫?」

 

フェイトが尋ねると、フェリオは真面目に頷いた。

 

「はい。クラナガン中心部の一般的な社会活動観察。危険行動の禁止。一定範囲外へ出ない。異常があれば即時撤退。すべて理解しています」

 

「うん。偉いね」

 

 フェイトは微笑む。フェリオは少しだけ目を伏せた。

 

「フェイトさんが、社会勉強も必要だと判断されたからです」

「私が判断したからじゃなくて、フェリオ自身のためだよ」

 

 フェイトは優しく言った。

 

「この街を見てきて。良いところも、悪いところも。自分の目で」

 

 フェリオは一瞬だけ迷うように沈黙し、それから頷いた。

 

「行ってきます」

 

 フェイトは彼を送り出した。

 

 玄関が閉まると同時に、フェイトは小型端末を起動する。

 フェリオの眼鏡に仕込まれた小型カメラの映像。さらに、光学迷彩ドローンによる遠隔監視。

 アルフが呆れたように言う。

 

「あんたねぇ、社会勉強って言いながら過保護すぎないかい」

 

 フェイトは画面を見たまま答えた。

 

「心配だから」

「知ってるよ」

 

 アルフは溜息をつく。キャロは小さく微笑んだ。

 

「フェリオ君も、気づいてますよ」

「……うん」

 

 フェイトは少しだけ恥ずかしそうに目を伏せた。

 画面の中で、フェリオはタワーマンションを出て、クラナガンの街へ歩き出していた。

 

 

 フェリオにとって、クラナガンは眩しすぎる街だった。

 高い建物。整えられた道路。笑いながら歩く人々。

 店先には色とりどりの商品が並び、街頭モニターにはニュースと広告が流れている。

 子どもが親の手を引き、若い局員達が談笑し、老人がベンチで休んでいる。

 

 美しい街だと思った。

 こんなに整っていて、こんなに明るくて、こんなにたくさんの人が普通に生きている。

 けれど、同時に思う。

 

 この街の裏側で、フェイトは傷ついた。

 キャロは壊れた。

 エリオは死んだ。

 

 美しいものがある。

 それは本当だ。

 世界には、フェイトが教えてくれたように、綺麗なものがたくさんある。

 

 朝日。

 夕焼け。

 雨上がりの匂い。

 アルフの作る食事。

 キャロの静かな歌。

 フェイトの笑顔。

 

 だからこそ、わからなかった。

 どうして、そんな世界がフェイトを傷つけるのか。

 フェリオはキャップの鍔を少し下げ、歩き続けた。

 

 その時だった。

 

 歩道の向こうで、1人の老婆が胸元を押さえて蹲った。周囲の人々が立ち止まる。

 

「大丈夫ですか?」

「救急を呼んで!」

 

 声は上がる。だが、誰もすぐには触れない。どうしていいかわからず、距離を取っている。

 フェリオは足を止めた。

 

 悪意ではない。

 戸惑いだ。

 それはわかる。

 

 けれど、胸の奥に小さな失望が生まれた。やっぱり、口だけじゃないか。

 次の瞬間、半ば無意識に身体が動いた。老婆へとが駆け出す。

 それとほぼ同時だった。反対側から、1人の少女が飛び出してきた。

 

 金色の髪。

 左右で色の違う瞳。

 真っ直ぐな足取り。

 

「お婆さん、聞こえますか?」

 

 少女は膝をつき、老婆の意識を確認する。

 フェリオも隣に滑り込んだ。

 

「呼吸はあります。脈は速い。胸痛を訴えています」

「救急通報は?」

「周囲の方がしています」

 

 2人は、ほとんど同時に状況を確認していた。少女がフェリオを見る。

 

「身体を横にしすぎない方がいいかも。楽な姿勢で、締めつけを緩めて」

「了解しました。周囲の確保を」

「うん」

 

 少女は振り返り、周囲の人々へ声をかける。

 

「すみません、少し下がってください! 救急隊が入れる道を空けてください!」

 

 その声には、不思議な力があった。人々が慌てて道を空ける。

 フェリオは老婆の上着の留め具を緩め、呼吸を確認し続けた。

 少女は老婆の手を握り、落ち着いた声で話しかける。

 

「大丈夫です。救急隊が来ます。ゆっくり息をしてください」

 

 フェリオは、その横顔を見た。

 

 真剣で、迷いがない。けれど、怖がらせないように微笑もうとしている。

 その表情に、胸の奥が少しだけ揺れた。

 

 救急隊は数分で到着した。老婆は重症化する前に搬送され、周囲から安堵の声が漏れる。

 少女は、救急隊員へ状況を手短に説明した。フェリオも補足する。

 搬送が終わると、二人はようやく互いに向き合った。

 

「ありがとう」

 

 少女が言った。

 

「君が手伝ってくれて助かったよ」

「こちらこそ。あなたの指示が的確でした」

 

 フェリオはそう答えた。少女は少し照れたように笑う。

 

「私は高町ヴィヴィオ。君は?」

 

 高町。その姓を聞いた瞬間、フェリオの中で何かが止まった。

 

 高町ヴィヴィオ。

 

 フェイトが時折、遠い目で名前を呟いた少女。高町なのはの娘。

 5年前、残してきた大切なものの1つ。

 

「高町……ヴィヴィオ」

 

 フェリオは思わず繰り返した。ヴィヴィオが首を傾げる。

 

「私のこと、知ってるの?」

 

 フェリオは一瞬だけ言葉に詰まった。

 

「有名…だから。高町なのはさんの娘さんですよね」

「あ、そっか」

 

 ヴィヴィオは少し困ったように笑った。

 

「そう言われること、多いんだ」

 

 その笑顔に、わずかな影があったことに、フェリオは気づいた。

 

「君は?」

「フェリオ」

 

 姓までは名乗らなかった。

 

「フェリオ君だね」

 

 ヴィヴィオは自然にそう呼んだ。

 

 フェリオ君。その響きが、妙に温かかった。

 

「また、どこかで会えるといいね」

 

 ヴィヴィオが言う。フェリオは、少しだけ視線を逸らした。

 

「……そうですね」

 

 本当にそう思っていいのか、わからなかった。

 けれど、その時のフェリオには、それ以外の言葉が見つからなかった。

 そのままフェリオは軽く頭を下げ、背を向けた。

 ヴィヴィオは、その背中を見送った。初めて会ったはずの少年。

 それなのに、なぜか胸の奥がざわつく。

 

 前にもどこかで会ったような。

 誰かに似ているような。

 けれど、思い出せない。

 

「フェリオ君……」

 

 ヴィヴィオは小さく呟いた。

 

 

 同じ頃、タワーマンションの一室で、フェイトは画面を見つめていた。

 

 眼鏡カメラ越しに映ったヴィヴィオの姿。成長した少女。

 なのはに似た強さと、ヴィヴィオ自身の優しさを持つ子。

 キャロも、アルフも、言葉を失っていた。

 

「ヴィヴィオ……」

 

 フェイトの声は震えていた。

 

 会いたかった。

 会ってはいけないと思っていた。

 それでも、画面の向こうで彼女が生きて、誰かを助けている姿を見た瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。

 フェリオは、そんなヴィヴィオと出会った。

 

 偶然か。

 それとも、何かが動き始めたのか。

 

 フェイトにはわからなかった。

 ただ、5年前に止まった時間が、ほんの少しだけ動き出した気がした。




最後までお読みいただきありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。