「おかえり~! って、ええっ!? 泣いてどうしたの、ブリッジちゃん!?」
私が重い足取りで栗東寮の部屋に戻り、ドアを開けた瞬間。ベッドでくつろいでいた同室のウマ娘――サルサステップが、跳ね起きるようにして駆け寄ってきた。
いつも明るい彼女の瞳が、今は驚きと心配で丸くなっている。
「……サルサちゃん。実はね……」
私は堪えきれず、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。心配そうに背中をさすってくれる彼女のぬくもりに触れた瞬間、張り詰めていた糸が切れ、私は今日あった出来事を全て吐き出した。
突然、深夜のトレーナー室に呼び出されたこと。
デビュー戦の敗北一回だけで、あっさりと契約を解除されたこと。
私を走るウマ娘としてではなく、単なる「賞金を稼ぐための道具」としか見ていなかったこと。
信じて、あんなにボロボロになるまで練習についていったのに、最後はゴミのように捨てられたこと――。
「――最低。何よそれ……っ!!」
話し終える頃には、私の代わりにサルサちゃんが顔を真っ赤にして怒らせていた。彼女は私の手をぎゅっと握りしめ、悔しそうに歯を食いしばる。
「ブリッジちゃんがどれだけ努力してたか、私は毎日近くで見てたもん! 夜遅くまで泥だらけになって、脚をパンパンにして戻ってきて……あいつ、その努力を全否定したの!? 許せない、絶対に許せない!」
サルサちゃんは私の涙を優しく拭うと、力強い目で私を見つめた。
「大丈夫だよ、ブリッジちゃん。あんな見る目のない奴、こっちから願い下げ! トレセン学園にはもっと、ウマ娘の心に寄り添ってくれる心優しいトレーナーさんがたくさんいる。絶対に、ブリッジちゃんの本当の才能を見抜いてくれる人が現れるよ」
優しく温かい慰めの言葉。でも、彼女の次の言葉が、私の胸の奥で燻っていた火種を爆発させた。
「……ねえ、ブリッジちゃん。このまま泣き寝入りなんて悔しいじゃん? 実力で、あの男に『復讐』しちゃおうよ! 捨てなきゃよかったって、地面に頭をこすりつけて後悔させるくらい、強くなって見返してやるの!」
復讐。
その言葉が、私の心にストレートに突き刺さった。
そうだ。あの男を黙らせる方法は、愚痴を言うことでも、悲しみに暮れることでもない。
圧倒的な勝利。誰もが認めざるを得ない輝かしい実績。それだけだ。
次にあの男と競馬場で会う時、私はモブウマ娘ではなく、誰もが憧れる「主役」としてターフに立ってやる。
「うん……そうだね。私、あいつに復讐する。ボロ雑巾みたいに捨てたことを、一生後悔させてやる」
私の声から震えが消えていた。
励ましてくれたサルサちゃんの手を、今度は私の方から強く握り返す。
どん底に落とされた7月の夜。
私の胸の中には、絶望の涙をすべて焼き尽くすほどの、激しく紅い「復讐の炎」が静かに、しかし激しく燃え上がっていた。