【DQ5】誰も知らない、グランバニア大臣の走馬灯   作:正拳くん三号

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※この作品は、DQ5のグランバニア大臣に独自の解釈を加えたIFの二次創作小説です



第1話:走馬灯と、父の背中

──走馬灯と、父の背中──

 

薄暗いデモンズタワーの一室。

冷たい石の床に這いつくばる俺の身体は、すでに自分のものではなくなっているかのように冷え切っていた。

どくどくと不快な音を立てて傷口から流れ出る鮮血が、石畳の割れ目を伝い、ゆっくりと広がっていく……。

 

「用済み、か……」

 

先ほど、化け物どもが嘲笑混じりに吐き捨てた一言が、頭の奥で呪詛のように響き続けている。

人間。利権。国家の安定。

それらを天秤にかけ、あの「光の教団」を手玉に取っているつもりだったのは、この俺の方だったはずだ。

だが、現実は違った。奴らの掌の上で、滑稽に踊らされていたのは俺の方だった。

 

視界の端から、じわじわと光が失われていく。

寒気と痛みが消え失せ、代わりに得体の知れない浮遊感が這い上がってきた。

 

(これが……走馬灯というやつか……)

意識の混濁の中で、俺の魂は、冷酷な現実から離れて遥かな過去へと遡りはじめた。

 

 

――最初に脳裏を駆け抜けたのは、どこまでも青く、目も眩むほどに輝く大海原の光景だった。

 

颯爽と風を切り、白い波飛沫をあげて突き進む大船。

マストが軋む音、潮の匂い。速度を上げて進む船の甲板の最前線に立ち、遥かな水平線を見つめていた男の、広く大きな背中。

 

「見ろ、我が息子よ。あれが我らの故郷、グランバニアだ」

 

父は誇らしげに、海の向こうに霞む城影を指差した。

当時、父はグランバニアと、グランバニアから北東にある交易都市サラボナとをつなぐ商船の長であり、国を背負って外貨を稼ぎ出す「交易特使」の重職にあった。

丸一か月におよぶ過酷な航海を終え、無事に港へと帰還するたび、父はいつも機嫌よさそうに笑い、決まって同じ言葉を口にしたものだ。

 

「グランバニアがこれだけの大国になれたのは、豊富な資源と、この交易があってこそだぞ。剣を振るうだけが国を守る道ではない。この豊かな海を渡り、他国と手を結び、富を循環させることこそが、国の血肉となるのだ」

 

その大きな背中を見上げて育った俺にとって、父の言葉は絶対の真理だった。

船が港に入り、峻険な山々に囲まれたグランバニアの美しい城の輪郭が間近に迫るたび、俺の胸は誇らしさで張り裂けそうになった。

 

(俺もいつかは父上の跡を継ぎ、この俺の力でグランバニアをさらに大きく、誰もが羨む豊かな国にして見せる)

 

あの頃の俺の心には、一片の淀みもなかった。国を愛し、父を敬い、自らの才を国の未来のために捧げるという、純粋な覚悟だけが胸に刻まれていた。

だが、その純粋すぎる誇りこそが、後に俺を狂わせる最初の歪みになろうとは、幼い少年は知る由もなかった。

 

 

 

 

──二つの柱と、武人への失望──

 

時は流れ、俺は胸に抱いた決意を違えることなく大人になり、念願だった父の跡を継いでグランバニアの交易特使となった。

数字を扱い、他国との交渉事をまとめる実務の才能は、我ながら父に劣らぬものがあった。

 

サラボナの大富豪ルドマン殿をはじめとする有力者たちとの太いパイプを確立し、俺の仕事が国に莫大な利益をもたらし、交易特使としての立場がようやく板についてきた頃――城の主が変わった。

 

同年代ということで当時から交流のあった王族オジロンの兄、圧倒的な武勇を誇る男、パパス様が新王として即位されたのだ。

初めてパパス王と対面した時の印象を、俺は今でも覚えている。

 

「気さくではあるが、どこまでも不器用な武人」

それがすべてだった。

 

常に大局を見つめ、緻密な計算と外交の機微を重んじる俺からすれば、感情や直感で動きかねない彼の存在は、少々……いや、大いに不安を感じさせるものだった。

一国の王に必要なのは、戦場を駆ける武力ではなく、国を豊かにする政治としての力のはずだ。

 

所詮は腕っぷしだけの男ではないか――それが俺の本音だった。

 

だが、世の中は理屈通りにはいかない。

パパス王の良くも悪くも実直で、飾らない武人としての佇まいは、不思議と国民や兵士たちの心を捉えて離さなかった。

さらに、王妃として迎えられたマーサ様の、誰もが惹きつけられる慈愛に満ちた、愛嬌ある性格も相まって、王家への信奉は国中で爆発的に高まっていった。

 

「パパス王万歳! マーサ様万歳!」

 

城下に響く民衆の歓声を聞きながら、俺は冷ややかに帳簿をめくっていた。

国民感情や国の守護者としての象徴には、パパス王がなればいい。だが、この国を実際に動かし、飢えさせず、発展させているのは、内政と外交の基盤を支えているこの俺だ。

「表の象徴」としての王家と、「裏の立役者」としての俺。

 

この二つの柱が奇跡的なバランスで噛み合い、グランバニアは未曾有の黄金期を迎えていた。

俺は現に今も国を支え続けているという深いプライドを抱き、これこそが正しい国家の姿だと信じて疑わなかった。

 

しかし、その安定は、ある一瞬の「綻び」によって、あまりにも呆気なく崩壊することになる。

 

 

 

 

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