【DQ5】誰も知らない、グランバニア大臣の走馬灯   作:正拳くん三号

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第2話:歓喜の夜、暗転する世界

――歓喜の夜、暗転する世界――

 

グランバニアの順調な発展を告げる歯車が、一瞬にして逆回転を始めたのは、ある一晩の事件がきっかけだった。

 

それは、国中がこれ以上ない祝福の光に包まれた夜だった。

王妃マーサ様が、ついに第一子となる赤子を出産されたのだ。

待望の世継ぎの誕生に、城内はおろか、国中の民が我が事のように沸き返り、夜を徹した宴が始まろうとしていた。

 

だが、その歓喜の絶頂の裏で、世界の闇が突如として牙をむいた。

 

「報告します! グランバニア周辺の山々に生息する魔物どもが、突如として凶暴化! 群れをなして、この城へ向かって進軍してきています!」

 

息を切らせた兵士の悲鳴が、祝祭の音楽を切り裂いた。

これまでにない規模の、魔物の大襲撃。

 

前線がパニックに陥る中、パパス王は即座に動いた。彼は兵士たちの士気を鼓舞し、恐怖に怯える国民を安心させるため、誰よりも先に立って迫り来る魔物の渦へと斬り込んでいったのだ。

 

「マーサと赤子の護衛は、お前に任せる!」

 

パパス王は当時の騎士団長にそう言い残し、自らは「表の英雄」として、あまりにも見事な獅子奮迅の戦いを見せた。その背中は、確かに一国の主として立派なものに見えた。

――だが、それこそが敵の本当の狙いだった。

 

武人であるパパス王の悪癖、「目の前の戦いに集中しすぎる」という弱点を、敵は見抜いていたのだ。

パパス王が外で魔物どもと凄惨な死闘を繰り起こし、城の防衛線が薄くなったその隙を突き、魔物の別働隊が城内へと音もなく忍び込んでいた。

 

異変に気づいた時には、すべてが遅すぎた。

マーサ様の寝所の前に立っていたはずの騎士団長は、魔物の奇襲により、ろくに刃を交えることもできずに惨殺された。

血の海の中、残されたマーサ様は、生まれたばかりの赤子を抱き、必死の思いでお付きの家政婦へと預けた。

 

『この子を、クローゼットの奥へ……! 決して声を上げさせてはなりません!』

 

マーサ様は我が子を隠すと、自らが囮となって魔物たちの前に身を晒し、そのまま夜の闇へと連れ去られていった。

静まり返った城内に、赤子の微かな泣き声だけが虚しく響いていた。

 

俺が現場へ駆けつけた時、そこに残されていたのは、冷たくなった騎士団長の骸と、主を失った荒れ果てた寝室だけだった。

 

 

 

 

――王の出奔と、育まれる怨嗟――

 

夜が明け、魔物との死闘を終えたパパス王が、傷つき、泥にまみれて城へと帰還した。

彼が寝室の惨状と、最愛の妻が奪われたという事実を知った時の姿を、俺は忘れることができない。

パパス王は、まるで魂を抜かれたかのような顔で立ち尽くし、それから、酷く静かな、だが拒絶を許さないトーンで言った。

 

「私は、マーサを探す旅に出る」

 

あろうことか、生まれたばかりの赤子と、お付きのサンチョの三人だけで、国を出て世界を彷徨うというのだ。

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の中でパパス王への評価は「失望」を通り越し、「激しい侮蔑」へと変わった。

(ふん……所詮は腕っぷしと、持ち前のカリスマだけの男か。一国の王としての責任を放り出し、私情を優先して旅に出るなど、正気の沙汰ではない。残された国はどうなる? 民の暮らしは? 結局、この男は国の運営には何の役にも立たない、ただの愚王だ)

 

王が国を捨てた。それは城内における、絶対的な権力の空白を意味していた。

 

俺は即座に行動を起こした。パパスという重石が消えた今、内政と財政を牛耳る俺の言葉を拒める者など誰もいない。

俺は自分の手足として動く「己の派閥の人間」を次の商人の長の座へと据え、国の経済基盤を完全に手中に収めた。そして自らは、空席となった「大臣」の地位へと就任したのだ。

 

怒りで視界が歪みそうだった。だが同時に、歪んだ優越感が俺の心を支配した。

(行くなら勝手に行くがいい。実際にこの国を支え、動かしているのは、大臣となったこの私だ。お前がいなくとも、私がこの国を維持して見せよう)

 

しかし、現実は俺の計算をも容易に超えていった。

 

魔物の凶暴化の原因を探りつつも、俺は当初、あの夜の事件を「マーサ様を狙った者たちによる、一過性の陰謀」だと高を括っていた。実際、事件の後しばらくの間は、魔物たちも以前のようにおとなしくなっていたからだ。

 

だが、それは甘い見通しだった。

あの夜のような爆発的な大襲撃こそ起きないものの、世界は確実に、じわじわと、濁った闇に蝕まれつつあった。

数ヶ月、数年が経つにつれ、魔物による小規模な襲撃や旅人の行方不明事件は確実に増加し、その獰猛さは以前の比ではなくなっていった。

 

そして、その不安が最も最悪な形で表面化したのは、俺の、あるいは父の誇りであった「サラボナとの交易」の場だった。

 

 

 

 

 

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