先生の指揮のもとで動くハスミたちは確実にスケバンたちの数を減らしていた。
戦闘している地域は、地図によればあと少しでシャーレのオフィスに到着するくらいの場所だ。ワカモを退けることができれば目標は達成できるはずだ。キズナは電撃銃を右手に、背負子のストラップを左手に握りしめ、遮蔽物にしている壊れたクルマの影であたりを観察していた。
少し先は円形の広場になっていて、その先にシャーレのオフィスがある。
広場のまわりは背の高いビルに囲われていて、この状況であれば危険な場所あることは明白だった。つまり、まわりのビルに敵が潜んでいて、一行が広場にやって来たら一網打尽にされる――自分ひとりの配送業務なら絶対に避けたい状況だった。
「キズナ! そろそろお願い!」
すこし離れた場所にある土嚢を遮蔽にユウカが大きく手招きした。彼女のもつサブマシンガンの弾が切れそうなのだ。
待ってて! 大声で返しながらキズナは背負子からサブマシンガンの弾を格納したコンテナを取り出し、地面に滑らせて渡す。
「ありがとう! さあ、これで!」
リロードを終えたユウカは身を乗り出して二挺のサブマシンガンのトリガーをひき絞る。遮蔽に隠れるのが甘かったスケバンたちがこれで沈み、孤立したワカモが素早い動きでこの場を去っていく。
「逃げられてるじゃない! 追うわよ!」
「いいえ、生半可な行動をしてはなりません、私たちの目標はあくまでも、シャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです」
ユウカとハスミがやりとりしているなか、キズナは他のメンバーに弾を渡す準備をする。予想よりも敵の数が多く、弾の消費も激しい。
「はいスズミさん、ハスミさん、チナツさん。これで弾は大丈夫でしょ。他に必要なものは? ユウカはどう?」
あたりに敵の姿はない。落ち着いて整えなおすことが先決だ。そう判断したキズナはチームメンバーに淡々と声をかけ、最後にユウカのところに歩み寄ったとき、地鳴りがした。
重いものを引きずるような地鳴りに似た音と、やはり重い振動が目前の広場から伝わってくる。重低音のエンジン音、腹に響く衝撃が次第に強くなっていく。正面衝突では勝つことが難しい相手が近づいてきたのをキズナは認め、駆け足で装甲車に戻って大声を張る。
「先生! 正面から戦車が来る! ここは危険だよ!」
「ドローンでも確認した。運転手さん、10時方向の大通りから広場に向かって戦車がやってくる。煙幕を展開しつつ後退して。外にいるみんなも――」
先生の言葉は続かなかった。立っていられなくなるような衝撃と、ドオォンと耳がおかしくなるような音が正面から響いたのだ。戦車の放った砲弾、おそらく徹甲弾は狙いこそ甘いものの装甲車に着弾して、その衝撃が直に襲ってきている。
煙幕が展開する前にキズナは正面の窓から古めかしい戦車が円形の広場におどりでるのを見た。
あんなのがいれば先生をシャーレのオフィスに届けるなんて無理だ。それに着弾地点は装甲車の前輪だった。間違いなく破壊されている。
装甲車は着弾の衝撃で近くのビルの壁にぶつかり、運転手がどれだけ操作しても装甲車はうんともすんともいわない。パニックになっているのか運転手は叫んでいた。
「もう装甲車は動かない! 早くドアを開けて! 逃げよう!」
キズナは運転手に呼びかけ、急いで先生と共に装甲車の後部ドアから下車すると、運転手と共に戦車の射線を切れそうなビルの影に身を隠す。ユウカたちも合流し、たびたび響く砲弾の着弾の衝撃に身を震わせながら、先生がドローンのコントローラーを手に口を開いた。
「どうやら戦車は広場に居座ることにしたみたいだ。戦車の周りには何人かの敵も備えているみたい。ドローンから確認しているけど、戦車たちは中央から動いていない。陣取って私たちを通さないつもりだ。私たちがとれる他の進行ルートは……なさそうだね」
「あの戦車は私の学園の正式戦車と同じ型です。クルセイダー1型、いまの私たちの火力で撃破するのは難しいでしょう」
ハスミの言葉に先生は唸った。そんなものを不良学生たちが手に入れるとなると裏のルートを使うしかないはずだとユウカは指摘し、破壊しても問題はないと結論づけたが、問題はその方法だ。
戦車を破壊するか、あの場所から退かす。そんな方法なんてあるのか? 確実そうなのは、連邦生徒会からの増援を待つことくらいだけど……キズナは頭をとんとんと叩きながら周囲の警戒を続けた。
「ワカモがシャーレのオフィスに入っていくのを確認したよ。あまり時間は残されていないのかも……そうだ、ハスミ、君はあの戦車に詳しいのかな。弱点とか分かる?」
「ええ。普通の戦車が弱点とするようにクルセイダーも側面や後面の装甲は薄いです。ですが、一番薄いのは上面の天板です。もしかしたら私たちの武器でも至近距離で撃てばそこを突破口にできるかもしれません。でも、この状況でそんなことをさせてくれるとは……」
「それだ、それだよハスミ。戦車の真上を攻撃すればいいんだ。キズナ、外骨格をつけた君なら、このビルと向こうのビルの屋上の間を跳ぶことは出来るかい?」
言っている意味が分からなかったが、先生の意図していることは理解できた。だからキズナは一歩も動けず、視線を先生から外すことができない。答えようとしても声が震えてしまう。
「あの距離なら、理論上は跳べるはず」
「ならこのビルの屋上を目指そう。そして屋上の間を跳んでいる間に、戦車の上面に向けてC4爆弾をばらまくんだ。吸着式のものだから、君のポーターとしての力なら、あの戦車の真上に爆弾を届けられるはずだ。そしたら、スイッチを押して、爆発させる」
想像した通りだった。この状況なら、自分が先生の立場でも似たようなことを考えるし、言うはずだ。そう理解はしているのに、キズナの電撃銃を握る両手は次第に震え始めた。
「キズナ? どうしたの?」
「……先生。それは、無理だよ。出来ないよ。
理論上は跳べるなんて言ったけど、このビルには敵がたくさん潜んでいるはず。だからわたしひとりじゃ無理だよ。それに、爆弾を運べだって? 私の作った技術は、進んで誰かを傷つけるために磨いたものなんかじゃない!」
叫んで、そこで初めてキズナは自分が泣いていることに気づいた。声もどんどんうまく発することができない。
まわりのチームメンバーがキズナの様子に驚くのが声や息をのんだ音で分かる。それでもどうにもできず、嗚咽まじりにキズナは言葉をつづけた。
「先生、言ってなかったけど、闇市場に自分の技術が流出したことがあったの。一緒に協力していた仲間たちが、技術を売れば大金になると知って、だから、仲間たちはミレニアムから退学処分になって、みんな雲隠れした!
でも、わたしは、必死に頭を下げてここに居させてほしいって頼んだ! 今回のことはわたしの責任だから、どうにかミレニアムに賠償金を支払うから休学にしてほしいって! わたしの技術で人を幸せにする夢を叶えさせてほしいって!」
「キズナ……」
「だからわたしは! 休学して、ひとりで! こんなポーターの真似事をしてた! 誰も信じられないから、誰も傷つけたくないから、ひとりで、全部できるように、いままでやってきたんだ。わたしは、先生の作戦に従えない。わたしに、悪しき者を遠ざける『棒』の役割なんて、担えないよ……」
涙を流してキズナは先生を見上げた。申し訳なさそうな顔をしないで。だって、悪いのはわたしだ。誰もができる棒の役割を担えないのはわたしの過失だ。埋めがたい欠陥のせいだ。
「ねえキズナ」
「ユウカ?」
キズナの前にユウカが割って入り、手をキズナの肩に置いた。その表情は怒りではなく、悲しみでもない。慈しむような、親しい人を相手にリラックスするようなものだった。
「私もついていく。元々キズナが戦いに向いてないのは知ってるし、私がいるならスケバンだろうとなんだろうと、あなたの行く手の邪魔はさせない。
それにね。キズナ、私はあなたを罰するために賠償金がどうとか、休学にするとか、そんなことを決めたつもりはないの。きっと他のセミナーのみんなだってそう。規則は規則だけど……でも、あなたが前みたいに元気に戻ってくるのを待ってるんだから。それだけは信じて」
「……ユウカ? わたしを、許してくれてるの?」
「あたりまえでしょ。キズナが誠実な人間だって、よく分かってるつもり。それに昔は友達だった……そうでしょ?」
そう言ってユウカはキズナを軽く抱きしめた。身長差のせいでユウカの首元にキズナの顔があたって、それがとても心地よかった。他者の体温を感じたのはいつ以来だろう。いつから他者の柔らかさを忘れていたんだろう。
ぬくもりに包まれながらキズナははたと気づいた。いままでひとりで動いていた理由は、責任をとるためだけではなかった。本当は、他者と関わって傷つくのが怖かっただけだ。
誰とも関わらなければ、少なくとも他者から傷つけられることも、裏切られることもない。だからひとりで、ずっとひとりで、荷物を背負ってキヴォトスを歩いていた。外を歩いているようで、その実、ただ引きこもっていただけなのだ。
「落ち着いてきたみたいだね、キズナ」
「先生」
「君の過去になにがあったか教えてくれてありがとう。キズナが起爆スイッチを押したくないのなら、私が起爆スイッチを押すよ。君が誰かを傷つけたくないとか、必要以上の暴力を振るいたくないって気持ちは、私だって理解できると思う。だから、君は戦車に爆弾を届けるだけでいい」
やさしい口調で先生は手を差し伸べる。背負ったコンテナに入っている起爆スイッチを渡してくれ、というジェスチャーだということをキズナは理解して、深呼吸をして静かに首を横に振った。
「先生はこれまで誰かに銃を撃ったことは? 爆弾を人に向けて爆発させた経験はある?」
「いや、ないよ」
「それならわたしがやる。先生に、こんなことをさせたくないし……それに、わたしに考えがあるんだ。だから、わたしとユウカに任せて」
小さく、はっきりと話すキズナの手の震えはなくなっていた。しっかりと電撃銃を握り、涙で赤くなった顔は前向きな光をたたえている。
「……大丈夫みたいだね。それじゃあ二人にこのビルをのぼってもらう。このビルには多くの敵が潜んでいるのはドローンでも確認した。右手のビルからは射線が通りにくいみたいだ。背の高い木やビルの構造のおかげだ。だけど、左隣のビルからも射線が通る場所がおおい。
それを逆手に取ろう。スズミとハスミは左隣のビルをのぼってほしい。射線が通せるところは見れば一目で判断できるはずだ。チナツと運転手さんは私のそばにいてほしい。さあ、作戦開始だ!」
「離れないでキズナ、いくわよ!」
わかった! キズナの声を聞いたユウカが頷いて、先行して階段をあがっていく。そのあとにキズナがしっかりと続いていった。
ビルの中心に備えられた螺旋階段と壁沿いに備えられたエレベーターがあるが、エレベーターを使うのはリスクが大きすぎるとキズナは判断した。移動中にケーブルを破壊されればなすすべがない。階段ならばどうにかなる余地が残されるかもしれないとキズナはユウカに提言し、同意してくれたのだった。
二人が屋上を目指すビルはファッション系の店が入っているもので、ハンガーにつるされ、あるいは展示されている服をスケバンたちが物色していることを、ドローンで偵察している先生がインカム越しに教えてくれている。
店員が全員出ていった無人の店なら商品を持ち出すことは容易だろう。それに、ここはもう危険地域なのだ。戦車だっているし、好きで近づく人間はそう多くないだろう。持ち場にいるスケバンたちの意識は警戒よりも仕事終わりのご褒美に向いていたようだった。
「はあッ!? こいつら、なんなんだ!?」
3階まで来たところでキズナとユウカはスケバンと接触した。スケバンは制服の上から清楚そうなワンピースを重ねてふんふんと鼻歌を歌っていたが、突然の侵入者を見つけて叫んでいた。
ユウカはすぐに応戦し、ドタドタと殺到するスケバンたちにサブマシンガンから放たれる銃弾の雨を浴びせて次々に倒していく。だが、ユウカの死角の近くにまだ一人残っていた。
「危ないユウカ!」
ユウカと死角のスケバンの間にキズナが割って入り、キズナは目を逸らすことなく電撃銃のトリガーをひく。すると銃口から電撃がはしってスケバンに直撃し、彼女は思わずアサルトライフルを取り落としてしまった。
「こんなもの!」
キズナはすぐにそれを拾い上げると、近くの窓に向けて思い切り投げつけた。ガシャァン、と激しい音をたてて窓が割れ、スケバンの武器もビルから落ちていく。
「あ、あたしの武器が! お気に入りだったんだぞてめー! 覚えてろよ!」
大慌てでスケバンが階段を下りていくのを尻目にユウカとキズナは再び階段を駆け上がる。そんな二人の耳のインカムに先生の声が届いた。
『キズナ、ユウカ、そっちのビルの6階から敵が降りようとしている。全9階のビルだけど、そこにいる敵のうちの8割が君たちのもとにやってくる』
「大丈夫。キズナは私が守ります!」
『うん。敵は数の暴力と高所の有利を活かして攻めてくるはずだ。敵を無理に倒そうとせず、遅延させることを意識して。ハスミとスズミはいまどこに?』
5階です。静かな調子でスズミがこたえ、続けてハスミが6階にいることを告げた。この二人がのぼっていたのは一般的なオフィスビルだったが、敵の数も少なく警戒心も薄かった。荒事になれているハスミとスズミの敵ではなかった。
二人はキズナたちがのぼっているビルに射線が通せるポジションに身を置いている。先生の指示があればいつでも無防備な敵に痛い目を見せることができる。
『分かったよ。私の一斉射撃の合図にあわせて――だめだ、ハスミ! 後ろ!』
先生の大きな報告が聞こえたと同時にハスミは伏せていた状態から素早く起き上がろうとして、5人のスケバンたちに押さえつけられてしまった。うまく隠れて様子をうかがっていたに違いない。
「てめえこら! なにしようとしてやがんだ!」
「このデカ女がよ、おめえハスミだろ!? 痛い目みせてやるってんだよ正実のクソが!!」
ハスミが身につけている正義実現委員会の制服を見て怒っているスケバンたちは、次々にアサルトライフルのストックで殴りつけてくる。
後ろから撃ってこなかった理由は、きっと打撃の方が敵意をのせて攻撃できるからだ。ハスミはそう理解し、どうにかガードをするが、5人でもみくちゃになって組み伏せられては反撃の糸口がつかめないでいた。
「くっ! 離しなさい!」
「やだね! お前らにダチがどれだけやられたと思ってんだ!」
ポニーテールのスケバンがアサルトライフルのストックを突き立てるように殴ろうと構えて、一発の銃声が響くと同時に崩れ落ちるようにハスミに覆いかぶさってしまった。
スケバンたちがうるさくしているが、インカムからは「閃光弾、投擲しました!」とはっきり聞こえて、ハスミはどうにか目と耳をふさぐ。
直後、強烈な音の衝撃と強すぎる光がハスミを襲った。どうやらスケバンたちはまともに喰らったらしく、うめき声をあげて立ち上がれないでいる。
「ハスミさん! 大丈夫ですか!」
うめいているスケバンたちが覆いかぶさっていてハスミは身動きが取れないでいる。スズミはスケバンたちを蹴り転がし、ハスミの手を取って助け起こした。
「動けますかハスミさん」
「ううっ……ごめんなさい、目が見えないのです」
「そんな! 私のせいで?」
あの状況下でとりえる閃光弾からの防御は完璧だったはずだ。それでも、一時的な視力喪失は免れなかったハスミはぺたんと座り込み、自分が握っていた愛銃をスズミの声がする方に差し出した。
「この距離だとこちらの武器の方がより正確に攻撃できます。スズミさん、これを使って!」
「……分かりました。先生、予定を変更します。私のミスでハスミさんを負傷させてしまいました。代わりに私が狙撃を担当します」
『了解したよ。私の合図を待たなくてもいい。スズミのやりたいように攻撃して』
学校の授業で狙撃銃の扱い方は分かっていたつもりだ。だが、動かないただの的と、生きて動いている人間を狙うのでは勝手が違う。それに授業ではスコープのついた銃を握っていたが、ハスミの狙撃銃はそんなものはついていない。
自分のミスのこともあり、スズミは動揺していたが、どうにか深呼吸して震えをとめる。再び深く息をして止めると、アイアンサイト越しに狙いをつけ、体の一部を動かすようにトリガーをひいた。
スズミの狙撃は、階段をおりてユウカとの距離を詰めようとするスケバンの頭に命中し、一撃で気絶させた。
不意打ちにどよめくスケバンたちは、すぐに悲鳴をあげて倒れ、階段をごろごろと転がり落ちていく。インカムで会話は聞いていたが、無事に狙撃ができているらしい。見えているかどうかは分からないが、キズナはスズミとハスミがいる方に向かってサムズアップを送った。
「完璧な狙撃ね! キズナ行くわよ、ついてきて!」
「わかった!」
スズミが代わりに狙撃を担当し、先生の指揮もあって、キズナとユウカは屋上にたどり着くことができた。風が強く肌寒い。
強行突破したせいで下からはまだたくさんの敵が迫っている。位置関係の問題でスズミからの援護は受けづらく、階段の上の有利をとっているとはいえユウカだけでは抑え続けることは難しいだろう。
そう判断したキズナは背負子に積んでいるいくつものコンテナからユウカが使う弾を取り出して渡すと、次に爆弾が入っているコンテナを確かめた。コンテナを遠隔操作するリモコンを使えば空中で中身をばらまき、下にいる戦車に届けることができるはずだ。
「弾は受け取ったわ! キズナ、あとはあなたが!」
「わかってる……わたし、やってみる!」
脚の外骨格のスイッチを押して最大出力が出るようにして、キズナはむこう側のビルを見た。直線距離は20メートルほど離れているが、向こう側のビルの背は低い。外骨格の衝撃吸収性能を考慮すれば、やはり理論上は跳べるのだ。
ユウカが銃を撃つ音を耳にしながらキズナは深呼吸をする。自分の立ち位置、戦車がいる場所、向こう側のビルの屋上。
『キズナ、出来そうかい?』
「先生。わたし、行ってくる!」
外骨格からモーター音を大音量で響かせてキズナは走った。彼女の技術にアシストされ、陸上選手よりも速いスピードで屋上を走り、強力な踏み切りで遠く長く大きくジャンプする。
全身で風を切り、一瞬の浮遊感に包まれる。キズナは怖くなかった。きっと、今日の出来事がなければずっとひとりで歩いていたのだろう。他者を恐れて、ずっとひとりで。
でも、いま、キズナが戦車のはるか上を跳びぬけようとしている瞬間は、仲間たちに支えられたから迎えることができた。こんなに晴れ晴れとした善い気持ちに満ちたのは、本当に久しぶりのことだった。
コンテナのリモコンのボタンを押し、大量のC4爆弾を投下する。そしてジャンプの勢いのまま向こう側のビルの屋上にキズナは着地した。
着地の衝撃で外骨格が大きく歪んで歩きにくい。それでもキズナは爆弾の起爆スイッチを手に、手すりに近づいて大声で叫んだ。
「お前たちの戦車に爆弾を取りつけた! いいか、はやく逃げないと痛い目を見るぞ! とっとと失せろ!!」
戦車の周りを固めていたスケバンたちの耳に届き、それが戦車の中にも伝えられれ、すぐに戦車の中から三人が逃げ出していく。それを確かに目視したキズナは起爆スイッチを押し、爆炎と共に戦車が吹き飛ぶのを見届けた。
それからはとんとん拍子にことが運んでいった。
戦車を破壊されたスケバンたちはすぐに退散していき、追い詰められつつあったユウカは無事にビルを降りることができた。目を負傷したハスミの視力は戻りつつあり、スズミは心の底から安堵していた。
先生はリンとともにシャーレのオフィスにはいり、ワカモとの衝突を避け、中にあった「なにか」を起動できたようで、サンクトゥムタワーの制御権が連邦生徒会に戻っていった。これで連邦生徒会は行政管理を進められるように、現在のように過度に治安が悪い状況は改善されていくだろう。
それから、今日から連邦捜査部「シャーレ」の活動が始まる。連邦生徒会長が遺した超法規的機関。すべての生徒たちを制限なく加入させることができ、あらゆる自治区で制約なしに戦闘活動を行うこともできる――だが、先生ならきっと悪いようにはしないだろうとキズナは思う。
あれから壊れてしまった脚の外骨格と背負子は、後日取りにいくためにシャーレのオフィスに預けていた。先生はきちんと保管しておくと約束してくれている。今度行くときはおみやげのひとつでも持って行ってやろうとキズナは笑顔を浮かべた。
先生が諸々の短い手続きを終えた後、ユウカたちと共に先生と別れるところだった。じゃあまた、とお互いにまだ言わないタイミングで、キズナがスマートフォンを持って手を挙げる。
「ねえ、みんな、連絡先を交換……しない?」
恥ずかしくて顔が赤くなって、それでもキズナは一緒に戦った仲間たちの顔を見あげる。誰も嫌な顔なんてしていなかった。みんなが喜んでモモトークの連絡先を交換してくれた。きっとこれは宝物になっていくに違いない。
「疲れたわね~ キズナ、なんか飲み物でも買ってく?」
ユウカと共にミレニアムへの帰路へ着くキズナは、途中で見かけた自販機をユウカが指さしたのを見て、うーんと唸ってみる。
「おごってくれるの?」
「もちろん。このくらいおごるわよ」
「じゃあそのミネラルウォーターがいいな」
キズナが指さしたのは一番上の列にある商品だった。普段なら思い切り背伸びをしないと届かないが、いまはユウカがいる。
「はいこれ」
「ありがとう」
「どういたしまして。ねえキズナ」
「うん」
「賠償金のことだけど、今回の報酬で全額返済できるわよね、たしかそうだと思ったんだけど」
「言われてみれば……たしかに」
「なら、復学できるわよね」
「たしかに」
「部活だって復活させられるわよ!」
「たしかに」
それしか言わないじゃない! ユウカが冗談めかして怒ったふりをして、キズナは「ばれたか」と微笑んでみせた。
「でもさユウカ」
「なに?」
「わたし、配送業務って嫌いじゃないんだ。ずっとひとりで物を運んで、誰かと誰かのつながりを支えてたけど、それ自体は嫌いじゃないんだ」
「復学しても無理ない程度に続けたら良いんじゃないかしら。キズナがやってくれるなら安心する人だって多いでしょ?」
「ありがとう。そうだね、復学したら部活を復活か……いや、別の部活をつくりたいな。ポーター部なんてどう?」
「いいわねそれ。でも、ミレニアムの子たちが加入してくれるかしら」
「そんなに厳しい活動内容じゃなかったら兼部してくれるでしょ。部活を成立させる人数くらいは確保できると思うな」
お手並み拝見ね、とユウカが笑ってキズナの頭をなでる。栗色の短髪をくしゃくしゃにされる感覚はどこか懐かしく、やさしく心に残っていた。
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