仮面と変態と常識人と   作:あんころもっちー

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第10話

 

 

 ハッ、と私の意識が現実へと戻ってくる。

 周りが静かだったし、呼び出される前は授業が始る直前だったから、授業中だろうと考えて周囲を見渡せば、案の定といって良い位の見事な授業風景が広がっていた。

 

 今日の一時間目は社会、しかも担任の先生が大好きな戦国時代に指しかかっていたらしく、斜め前の席に座るアリサを見ると何時も真面目にノートを取る彼女にしては珍しく、少しだれている様子が窺えるから、間違いなく戦国時代の解説を黒板に向かって長々とやっているのだろう。

 でなかったら、一見したら眠っているようにしか見えない私が、一度も注意されなかったのが説明できない。

 

 だけど、隣の席に座っているすずかの表情がかなり心配そうになっているのは、どういうことだろうか。

 もしかして寝ていると勘違いして、私を起こそうとしていたのだろうか? そうだったらすずかに心配をかけちゃったんだろうかしら。

 そう考えた私は、サラサラとノートにシャーペンを走らせる。

 

 

【どうかした?】

 

【どうかした? じゃないよ!!目を開けたまま微動だにしてなかったから、ずっと気になってたんだよ!?】

 

【え゛本当なの?】

 

【本当だよ、ペンの先で突いても反応しないし叩いても反応がなかったから、心配、したんだよ?】

 

 

 うぁ、と考えてしまう。

 前回イゴールさんに呼ばれた時にひそかに感じていた疑問、ベルベットルームで会話をしている時の、現実の私の体がどうなっているのかという疑問を抱いたのだが、どうやら微動だにしないという事だということが判明した。

 …… ちょっと考えてみよう、目を開けたままで数分以上微動だにしない女の子、しかもそんな状態になった友達が隣に座っていたら…… うん、間違いなく私だったら、大騒ぎしそうだ。

 

 教室が今の段階で騒ぎになっていないのは、いつも冷静で落ち着いて行動しているすずかだからこそだろう。

 

 

【どれくらい私って、そんな感じだった?】

 

【大体だけど、10分も経ってないよ、8分くらいかな?】

 

 

 表情は未だに心配の色が強いすずかだけど、私の問いにしっかりと答えを返してくれる。

 私がここで意識を取り戻したから、すずかは何もしなかったんだろう、ただ、私の腕とかからちょっとチクチクと痛みを感じるのは、抓ったりしたよね? なんて思っても私は強くいえなかったりする。

 

 まあ、心配かけたのは事実だしね。

 なんて考えた後、私の調子が悪いのかと考えて、心配そうに筆談で問い掛けてくるすずかに、私は謝り倒すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから授業は進んでいくのだが。

 年若くてイケメンとか美女とか、そういう風に絶賛できる容姿の先生達が、アレが居ない事に喜んでいる様子なのが印象的だったわね。

 普段のアレに先生達(特に若い先生方)がどれほど苦しめられているのかが、よく分かるというものでもある。

 

 そんでもって今は四時間目、担任の若くて美女といえる【天城 雪子】先生が、教壇の所に立っている。

 黒板に書かれていることは将来の夢について、という事だ。

 

 

「それじゃあ皆さんには、将来の夢や就きたい職業についてレポートを書いてきてもらいます」

 

 

 その言葉に少しだけ、本当に少しだけざわつく教室の中だけど、私としては流石は私立の小学校か、とも考えていた。

 だって、小学校卒業直前とか高学年に入っていたのなら分るけど、まだ私達は低学年といえる学年だし、しかも作文じゃなくてレポート…… うん、前世の私が通っていた学校じゃ考えられないわね。

 なんて考えていたけど和真も何か微妙な表情を浮かべているから、私と似たことを考えているのかもしれない。

 

 

「今配っている作文用紙の2枚までに収まるように、将来就きたいと考えている職業に関することを書いてきてください」

 

 

 …… そういえば、私は将来どうするか決めてなかったっけ、とも考える。

 何しろ、前世での生き方が生き方だったし、今はやり直しを与えられたといっても、どうするべきか正直に言えば迷っている状況だ。

 

 まあ、前世じゃ出来なかったことをやってみるのも悪くないと思う、そう考える。

 実は、今の生でも前世でもゲームとかの趣味以外に、私ってお菓子作りも趣味の一つなんだよね。

 実際、今でもクッキーとかビスケットとか偶に、朝早く起きて作って学校に持ってきて、お弁当の時間にデザートとして食べたりするしね。

 だけど、アリサやなのはにすずか達に食べられちゃう事も多いし、お弁当を食べる暇がなかった和真にこっそりとあげたりしていたりもする。

 

 前世じゃ色々と事情があってなれなかったパティシェ、いや、今は女性だからパティシェールが正しいかな、これを目指してみるのも悪くない選択かもしれない。

 

 そう考えつつ、前から回ってきた用紙を受けとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして四時間目が終わって今はお昼休み、お弁当の時間でもある。

 私達は皆何時も屋上で食べているから、皆でお弁当を持って屋上のベンチに座って各々食べ始めていた。

 

 今日のお弁当の中身はお母さん特性出汁巻き卵に、タコさんウィンナーとヒジキの煮物と、適度に混ぜられたふりかけご飯といった内容だった。

 ちなみに、和真のお弁当も同じ内容だけど、量が私とは違っている点が違う部分ね。

 

 

「でも、将来の夢って言ってもなぁ……」

 

「和真くんは将来の夢とかってないのかな?」

 

「…… う~ん……」

 

 

 ぼやくというか、どこか困ったように呟いた和真にすずかが問い掛けるが、肝心の和真はと言えば難しい表情をして、腕を組みながら唸るばかりで答えない。

 それから少しして和真は、頭をぼりぼりとかきながら口を開いた。

 

 

「正直、俺は高校に入った頃くらいに考えようと思ってたしなぁ、ぶっちゃけると、確かに今の内に道を決めて、努力してた方が良いかもしれないけど、道そのものをはっきりと決めるのはもっと後でも良いんじゃないかと思うわけだよ」

 

「まあ、アタシとすずかの将来は一応決まっているけど、ね……」

 

 

 和真の言葉に私としては納得も出来る、前世でも同じ様な世界を生きた、でも確かに小学生の頃から努力を続ければ有利だろう、だけど、そんな人生が楽しいのかなぁ。

 なんて考えもしてしまう。

 

 本人の考え方というか、感じ方次第なんでしょうけど、私としては少しだけ寂しいとも感じてしまうのは、私が転生して人生をやり直しているからかだろうか。

 学生の保護者の庇護下の中でいられる内、その間で夢を見て、自分が目指す夢を迷いながらも歩む道を夢の中から決めていく事、私は周りの状況で自分の夢を、自分が本当に就きたかった職を諦める事しかできなかった。

 だけど、今、ここにいる皆には、あの時の私と同じ思いを抱いて欲しくないな。

 そう考えながら、私は少しだけ俯いていた。

 

 

「だけどさ、輝夜はどんな職に就きたいの?」

 

「むへぅ?」

 

「…… とりあえず、口の中の物を飲み込みなさいよ、よく噛んでね」

 

「むぐむく……」

 

 

 アリサの問い掛けが突然私に振られたけど、ちょうどタコさんウィンナーを口に入れていた私の口からは、間抜けな声が漏れ出て来る。

 こんな私の様子を見ていたアリサは、少しだけ呆れた様子を見せるのだが、だって仕方ないじゃん!和真と真剣な表情で話をしていたのに、急にこっちに向けて話題を振ってくるなんて考えられないじゃない!なんてツッコミを入れたい気分だ。

 

 まあ、そんなことを考えても始らないしアリサの言う通り、口の中の物をとりあえず飲み込んでしまおうと、咀嚼の動きを早めてゴクンと飲み込む。

 そんでもって、飲み込んで持ってきていた水筒のお茶を飲み、改めてアリサに向き直る。

 

 

「まぁ、私は、今の所はパティシェールを目指しても良いかな? って考えてるけどね」

 

「確かに、アンタの作るクッキーとかビスケットとかってウチのシェフの作った物よりも美味しいわよね」

 

「うん!ノエルもファリンもお姉ちゃんも、輝夜ちゃんのクッキーやビスケットを誉めてたよ!」

 

 

 私の夢というか、今現在でなりたい職業を言ったと同時に、アリサは大きく納得して、すずかはちょっとというかかなり嬉しそうにノエルさん達までが私のお菓子を誉めていたというから、かなり過剰じゃない? なんて考える。

 

 

「あ、アハハハハ…… ノエルさんにまで高評価とは…… 光栄だけどね…… 過剰評価じゃないかしら?」

 

「そんなことはないぞ、甘い物は基本的に好きじゃない俺も食った時にかなり美味いと思ったし、輝夜には向いてるんじゃないか? パティシェール」

 

「そうだよ!私のお母さんも言ってたよ、輝夜ちゃんのクッキーは即戦力になるから、すぐにでも翠屋に来て欲しいって言ってたよ!」

 

「う、うぇぅ…… 桃子さんまで? 本当に過剰評価だって……」

 

 

 うぅ、和真となのはによる更なる援護射撃により、私の羞恥心はゼロよ!なんて言いたいけど、自分が作ったお菓子を誉められるのは悪くないというか、本当に嬉しい。

 だけど、桃子さんの言葉は流石に過剰評価が過ぎないかしら? 本職の菓子職人の腕というのは様々な面で高度な腕を要求されるし、今の小娘といえる私が趣味で作る菓子が通用する世界じゃないというのも前世で分ってる。

 

 でも、本当に自分の腕というか、そういったものが認められるのは嬉しいもの、なので、男の子だったらきっと気色の悪い笑みを浮かべているだろう自分をちょっとだけ、ちょっとだけ、自覚していながらだけど照れくさくなってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからのお昼休みは、なのはの自虐発言に切れたアリサが頬を引っ張って、ツンデレ振りを大きく発揮したり、和真も呆れながらなのはの良い所を言って彼女を励ましたりとか合ったけど。

 皆から、誉められてトリップしていた私が気が付かなかったから、割愛させていただくとします。

 

 ちゃんちゃん♪ なんて言えれば良いんだけど、私にはまだ残っていることがある。

 それは。

 

 

「輝夜……」

 

「ん、アンタと和真に全部を説明してもらうからね」

 

「うん」

 

 

 そう、ユーノと和真に昨日のお母さんとのことでの、説明が待っているのだ。

 これだけは外せない、それに私を除け者にしたようにして話が進んでいた事にも納得がいかないし、あの睨み合いに似た状況がなんだったのか、それを私が本当の意味で知りたいというのがある。

 

 間違いなく、私はあの時点でお母さんやユーノに和真といった人達の間であったであろう、そのやり取りを知らない。

 お母さんは、あの時、確実に和麻を問い詰め、彼のご両親にまで連絡を取って【しかるべき】処置を取ろう、そう考えていたのは間違いないくらいに怒っていたのに、三人の睨み合いが終わった瞬間から、様子が明らかに変わっていたし。

 何よりも今日もお母さんは、いつも通り、な姿を演じていたけど私には分ってしまった。

 お母さんの顔に隠し切れないほどの、私の無事を心配している色を。

 

 だから、彼らの話を聞く為に屋上にいるわけだし、和真を待っているのもそのためだ。

 

 

「輝夜」

 

「ん?」

 

 

 そんな中、沈黙に耐えかねたのか、それとも違うのか、ユーノが唐突に口を開く。

 

 

「キミには魔法の才能は無かったんじゃないのかぃ?」

 

「それ、初めからわかってたけど?」

 

「…… キュ?(お願い和真!早く来て!!)」

 

 

 口を開いて確認してきた事といえば、既に分りきった事だけであったとさ。

 というか、私が本当に答えて欲しい事は、和真が来ないというつもりがないのか、それとも彼との約束があるのかねぇ? なんて考えて私は呆れと言う感情を視線に乗せて、ユーノを見つめるのだった。

 

 

 

 

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