仮面と変態と常識人と 作:あんころもっちー
三度目になるだろうか、高級そうな椅子に座っていて、しかも奇妙といえるくらいに静かで浮世離れしたこの空間には、いい加減に雰囲気にも慣れてきたもので、今では目を開ける前にある程度周囲の状況を探れるようになっていた。
だけど、今までと違う様子がある。
それは、私が座っている椅子の目の前辺りに人の気配があるのだ、体勢としては跪いているというか、間違いなくエリザベスさんじゃ取らないと言えるのは確かだ。
誰? そう思って目を空けた私の目の前にいたのは。
「お初にお目にかかります姫様…… やはり美しい……」
「…… ?」
アンタ誰?
そう思わざるを得なかった。
エリザベスさんと同じ色の髪と瞳に、彼女が着ている服を男性用にしたような服を着ている男の人だった。
相当なイケメンだ、多分アニメとかじゃ微笑んだりすると顔の周りが僅かに輝いて、歯も白くキラッ☆みたいな表現がなされそうなくらいのイケメンだ。
多分だけど、最初にこの部屋に来た時に簀巻きにされて奥の方に転がっていた人かな? なんて考えていると彼は立ち上がると私の前で、背筋を真っ直ぐに伸ばして右手を胸に当てていた。
自己紹介でもする気なのだろうか? だとしたらありがたい。
何しろ名前も知らないのだ。
「姫様、私の名前はテオド「イノセントタックでございます」アッ――――!!」
「う、うわぁ……」
一礼の後、私に向かって自己紹介をしようとした男性、多分名前はテオドアッー!さん? いやいやいや、普通に考えたらテオドアさんかな? が名前を言い切る前にエリザベスさんが手に持っている分厚い本で、華麗にテオドアさんのお尻にトンでもない威力だとはっきりと分る突きを繰り出していた。
ただ、テオドアさんの表情が苦痛じゃなくて少し気持ち良さそうなのは、気にしない方が良いかもね。
分厚い本で躊躇なく人のお尻に攻撃をかけるエリザベスさんもだが、それに気持ち良さそうなテオドアさんも大概だと思うのは私の気のせいかなぁ? というか、状況が全く分らない。
どうして私はここにいて、しかも、こんなコメディみたいな光景を見ているのだろうか。
とりあえず、私の視界から一瞬で消えて奥にいるけど聞こえてくる会話を聞いてみましょうかね。
「あ、姉上!どうしているのです!!?」
「それはこちらの台詞でございます、黙りやがれです愚弟、貴方は一体どうやって抜け出したのです?」
「フッ、愚問ですな姉上」
「何が愚問なのですか?」
「ようやく、よ・う・や・く!私好みの女性が現れたのです!それも姉上達の様な残念見た目詐欺ではなく本物の美少女といえる女性が!お近づきになり今の内から親しくしたいと思うのは、当然ではないですか!!」
「そう、そこまで戯言を言ったという事は、覚悟は出来ているのでしょうね?」
「ま、マーガレット姉上!?」
「あら、お姉様、お姉様の方の契約者の方はよろしいのですか?」
「彼なら今の所は大丈夫でしょう、まあ、今はこんなくだらない事を言い放った弟にお仕置きする方が先ね」
知らない女の人の声が聞こえた辺りから、私は頭痛を覚えていた。
なんだろう、この世界で出会った男ってお父さんと和真とイゴールさん以外は、今の所まともな男がいない気がする。
とりあえずはもう向こうの会話は聞かないようにして、正面を向くと、何時の間にやらイゴールさんが申し訳無さそうに座っていた。
何時の間に現れた、だとか、もう突っ込まないわよ。
「申し訳ありませぬな、姫君よ…… 私の方で彼らにはキツク注意をして置きますので」
「い、いや、大丈夫だけど…… 苦労してるのね、イゴールさん」
「私の様な者にも、暖かいお言葉を下さるとはお優しいお方です、ありがとうございます」
なんだろう、イゴールさんから漂う苦労の只中にある中間管理職者臭は…… まあ、部下(?)といえる人達がアレっぽいから苦労もしてるんでしょうね。
あの部下さん達の奇行を見られた上に、未だに奇行を行っている声が聞こえてくるから、冷や汗でもかいたのだろう。
額をハンカチで拭きながら、イゴールさんは私の言葉に複雑な表情と伴に応えて来るのだった。
それから少しして、イゴールさんが居住まいを正して真剣な表情を浮かべてこちらを向くイゴールさん、表情は最初からあまり変化がないけど、雰囲気で分る。
今から始まる話は、本当に大事なものだと言うけど…… 奥から聞こえてくる奇行の声と音が聞こえなかったら、シリアスな場面になりそうだけど、明らかにシリアルな場面になっているのは気にしないことにしておこう。
「さて、少々のアクシデントがありましたが……」
「少々?」
「この度、貴女様をお呼びしたのは、他でもありません」
な、流した!? 強烈に流した!? イゴールさんなかったことにして話を進めるつもりか!? なんてちょっとビックリしてみる。
まあ、私自身もちょっとツッコミを入れただけだし、なにより話が進まないのは分り切った事だしね。
私も気にしないことにして話を聞かないと。
「…… 和真が話そうとしたこと、それを聞くなって事?」
「その通りでございます」
「理由を聞いても?」
「もちろん、説明させていただきましょう」
改めてイゴールさんが口を開こうとしたときに、私は遮るようにして彼に声を掛けると、満足そうに頷いていた。
やっぱり、ね。
こんな場所に精神だけを呼べる以上、彼らが何時でもこちらを監視して自分達にとって与えられたくない情報を得ようとしたら、まあ、こんな事になるのは分ってたしね。
フィレモンもこんな所があったしね、特に罪の時とか答えは自分の手で辿り付くべきものとか言って、肝心な所は教えてくれないし。
「彼が話そうとしていたこと、貴女さまは非常に気になされていたと思いますが、それは時が来た時に知るべきこと」
「今は、知るべき時じゃないって事?」
「はい、今そのことを知ってしまえば、何れ来る選択の時、悪影響を与えることでしょう」
「…… こうやってあからさまに隠された方が、悪影響を受けそうだけどね?」
「そうとも言えないでしょうね」
まあ、彼らの言う事も分るというかなんと言うかという所だ。
確かに頭じゃ、これから来るかもしれない重大な選択の場面で、変な情報を知っていれば仕損じるかもしれない。
でも、彼の情報は重要だったかも分らないのに、こんな風にあからさまに隠されるとやっぱり、いい気はしないし何より納得も出来ない。
なんて考えていた私に、エリザベスさんとは色は同じだけどデザインは全く違う服に、金色の髪を持ったまさに大人の女性、というべき女性が現れた。
多分、この人がマーガレットって人かな? 奥から聞こえていた声の中にも混じってたし。
「自己紹介は必要かしら?」
「一応、お願いします」
「フフッ…… 正直で良いわね、私の名前はマーガレット、奥にいるテオドアとエリザベスの姉よ、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
さっきまでの奇行、これの中で彼女の名前は知っていたけど、出来るなら本人から聞いた方が確実だし。
そんなこんなで言葉を返すと、本当に大人の美女の微笑みを浮かべて自己紹介をしてくれるマーガレットさん、お母さんもそうだけど年上な人って、どうしてこんなに艶やかなんだろうか、それとも私の周りにいる人達だけなのかな?
なんて考えていたら、より微笑を深くしてマーガレットさんは口を開いた。
「あなたは優しくて、そして強くて弱い、そういえる娘よ、彼が話そうとした事を知り、この運命の選択を強いられた人々の事を知れば貴女はきっと迷ってしまう」
「…… そうなるって保証はないのに?」
前半はほんのりと無視して、後半の事を僅かな時間の間、私は考える。
運命の選択、異聞録に2罪や2罰といった物語の人物達のように、それから後のシリーズの彼らも同じか、それ以上の選択を迫られたのだろう。
尤も2罪のような、あまりにも残酷な選択じゃないでしょうけどね。
まあ、あの物語は《戦いに勝って、勝負に負けた》といえる結末だったし、周囲を取り巻いている状況があまりにも彼らを【何としてでも敗北させる】と動いていたし、ある意味では仕方のない所があったと思う。
もしかしたらだけど、それに匹敵する選択を私達も迫られるかもしれない、という事でもある。
「そうね…… だけど、貴女はあなた自身の中にペルソナ以外の何かが存在する事を感じたはずよ」
「ええ、今日の戦いの中でハッキリと聞こえてきた声、それがそうでしょ」
「…… それは、どういう意味ですかな?」
「ちょっと待って、声が聞こえたの?」
「え、ええと、はい…… 多分、私よりも年上の男の子の声がハッキリと……」
何処にイゴールさんやマーガレットさん達が驚く要素があったのか、彼らの表情に驚愕という感情が一瞬だけ浮かぶと、私に向けてすごい勢いでこちらに振り向いて問い掛けてくる。
だけど、私が答えた言葉を聞いた瞬間から、イゴールさんとマーガレットさんは小声で会話をし始める。
険しい表情をして会話をする二人から、ギリギリで聞き取れた単語は目覚めているのか、とか、這い寄る混沌の所為なのか、とかだったけど。
一つだけ2罰までの知識を持っていたら、シャレにならない単語があったのは気のせいと思いたくない所ね。
「まあ、彼が目覚めている可能性があるのなら、貴女にとってもプラスに働くかもしれないわね」
「何の話?」
「さあ、それは貴女自身の足で歩きながら考えて辿り着く事でもある、そしてそれは私達が助言をしてはならない事」
「自分で辿り着いてこそ、真の価値が生まれるってことなの?」
「そうね」
…… やっぱりこの人もベルベットルームというか、ペルソナで重要で肝心なな事を知っているのに黙っているという、普遍的無意識の住人だ。
重要な所をぼかして隠しながらも、こちらの問い掛けには答えられるところには答えてくるから、厄介すぎる。
だからといって状況が前に進んでくれたわけじゃないけどね。
まあ、最初の話が全く進まない状況よりマシか。
そうレッツ・ポジティブシンキングって言う感じで考えてみることする。
そんなことを考えていたら、また眠気というか、瞼が勝手に閉じていく。
「では、お別れの時間のようですな」
「私と会うことはもうないでしょう、だけど、覚えておいてね、貴女の中にあるモノの答えは、貴女自身で歩み寄って辿り着かないと意味がないってことに」
え、ええええ? ちょ、ちょっと待って!と考えても私の意識は諸行無常といえるくらいに遠ざかっていって、相変わらず勝手に呼び出して勝手に帰すなぁ。
なんて考えながら、私は自分の体に帰っていく感覚、もはや慣れ親しんでしまった感覚を感じているのだった。
そうして体に戻ってくる感覚、感じとしては眠っている状態から、起きる状態へとなるそれに近い感覚だった。
だけど、普通に眠ったときと違うのは、微妙に体の疲れが取れずに体に残っているのがそうか、特に今回は向こうで見せられた光景から、そう思う。
そんな状態の私が目を開けて最初に見た光景、それは表情を心配という感情で染めたお母さんの姿だった。
「輝夜!!」
「目が覚めたのか!輝夜!!」
「ええと、どういう状況?」
それから始る現状の確認合戦、お母さんと和真は私が普通に寝ているし、お母さんが今現在持っているデバイス(普通のストレージデバイスって和真が言ってた)で体調をスキャンしても以上は見当たらないし、和真のデバイスでも同じ結果、だけど、和真の一階にまで聞こえてきた悲鳴じみた声と、彼の証言した私が糸の切れた人形のように倒れたということも気になる。
そんでもって私はベルベットルームの事を正直に話す、正直に話せた理由は前回を参照してほしい。
それらを確認しあった後、お母さんと和真からの問いかけを受けることになってしまった。
「…… テオドアの妙な状況ってなんだろ…… そんなキャラだったっけ? 誰かが憑依しているとか…… か?」
「母親の知らない所で大事な一人娘を口説こうとするなんていい度胸、そういいたい所だけど、制裁を加える人達がいるみたいだから良いとしましょうか、夫が良いというかは分らないけど」
ベルベットルームでの出来事、最後の辺り意外を説明せずに説明すれば、こんな事になるのは明白だったけどやっぱり和真は他のシリーズの事を知ってるな。
気になる、そう考えても、また呼ばれるのは明白なので聞かないことにする、それは和真も分ったらしくて話題には出さないようにしているようだった。
お母さんに至っては、制裁を加える人がいるから良いって…… でも、お父さんも一緒にいたら間違いなく、あの二人と一緒に混じって制裁を加えていたのは間違いない。
何しろ、私を溺愛、という言葉も生温い感情で娘として愛してくれてるし、ハッキリと言けど、私の部屋に夜に入った上に止まった事を知られたら、和真が無事で帰れるか分らないくらいの親馬鹿なのだ。
まあ、私とお母さんが本気で止めに入ったら止まるけどね。
台詞はまあ【お父さんなんて大嫌い!!】って私が言って【あなたを見捨てるしかないかしら?】とお母さんが言えば、真っ白な石像になって全ての行動が止まってしまうけどね。
それから後は、目覚めた時には朝になっていたから、お母さんが朝食を作りに台所に行って、和真は私の部屋に残っていた。
「…… 大体の予想は付くけど、輝夜」
「なに?」
「ベルベットルームじゃ、俺の知識の事を聞くなって言われたか?」
「まあね、時が来て自分の足で辿り着けって言われたわ」
「…… やっぱり、か……」
私の言葉を聞いて納得したという様子を見せる和真の姿を見ると、余計に彼の知識を聞きたいという欲求に駆られるけど、聞いたらまたベルベットルームに呼ばれるでしょうし、聞かない方が良いかな。
そう考えて、いた私に和真の方から問いかけられたことは、正直に言えばラッキーという感じで考えていたけど、彼からしたら、同じくペルソナシリーズをプレイした人間からして見たら、当然の気遣いでもあったんでしょうね。
だけど、私の言葉を聞いて納得した様子を見せた和真を見たらまあ、確実に私自身で辿り着かないといけないんでしょうね。
と、考える。
「…… さっき、幽々子さんからも聞かれたんだけど、輝夜」
「なに?」
「この件、ジュエルシードの事から手を「それ以上言ったら、あんたにガルーラぶちかます」引く気はないんですね……」
お母さんの名前を出された時からピンとは来たけど、そのものズバリ何てね。
遮って脅すように言った私の言葉に、何故か敬語になって答えてくる和真だけど、コレだけは言わなくちゃいけない。
ここで私が手を引いたら確実にとんでもないことになる、ということを。
「それに、仮にだけど、私が手を引いたとして、相手をする暴走体が変わるの?」
「それ、は……」
「答えられないでしょ? 私が手を引いたとしても絶対に変わらないわ、いえ、多分だけど最悪な状況を招いてしまう、そんな予感もある」
それはベルベットルームで言われる以前、ペルソナに覚醒した瞬間から感じていたこと、私自身が選択を放棄したら大変なことになる。
そういう予知めいた予感のものもあった。
だけど、和真はこれが分り切っていた事だったとでも言いたいのか、苦虫を噛み潰したような、そんな苦い表情を浮かべていた。
「じゃあ、一つ、約束してほしい」
「ん、なに?」
「これからは、俺となのはにユーノを含めた4人で暴走体に対応する事、それを約束してほしい」
「ええ、分ったわ、それにだけど、そっちの方が人数的にも理想的だしね」
「ああ、それを聞いて安心したし、俺も人の事は言えないしな」
「全くよね」
そんな表情の中で、苦さを含んだ和真の言葉を聞いた私は、対応を含めたことも考えても理想的だと考える。
何しろ、幾ら私のペルソナの力が強いとしても、限界がある。
人が一人で出来る事なんて高が知れているんだ、それは異聞録から2罰までを見ればわかる。
誰かと協力して、戦う為の力となす事、それは2罰の世界では一番重要なテーマだった、彼らはその思いを胸にあんな絶望的な存在を退ける力を得て、退けることに成功した。
そんなことを和真も考えているのだろう、私と同じ様に静かな笑い声を出していたけど、急に私の中に前回聞いていたものとは全く違う、異質な声が響いてきた。
「っ!」
――我は汝、汝は我…… 汝新たな絆を見出したり…… 絆とは汝が意思の結晶なり…… 汝新たに愚者の力を生み出せし時、我ら、汝に力の加護を与えん――
――我は汝、汝は我…… 汝新たな絆を見出したり…… 絆とは汝が意思の結晶なり…… 汝新たに死神の力を生み出せし時、我ら、汝に力の加護を与えん――
一瞬だけ、体がビクン!って震えてから脳内に響いてきた声、これを聞いて思ったのは多分だけど、これがコミュニティと呼ばれるものなのだろうというものだった。
「ええと…… 輝夜?」
「っと、ゴメン、多分だけど、コミュニティって奴が出来たと思う」
「アルカナは?」
「愚者と死神だけど、どうかした?」
「そう、か……」
これがどういうものを示しているのかはわからない、だけど、和真の言葉を聞く限り重要な位置にいたのは間違いないんだろう、真剣な表情を崩さない上に、より表情を険しくしたんだしね。
まあ、そんなことの詮索はさて置いて、やるべきことをやらないとね。
なんて考えて私は立ち上がる。
「まあ、するべきこと、それはジュエルシードの回収よね?」
「ああ、そうだ、これを放置すればこの町だけじゃなくて世界が滅びるくらいの危険があるしな」
「じゃあ!決まりじゃない? 私達皆で、この一件を終わらせないといけない、そうでしょ?」
「そう、そうだったよな!なのはも協力者の一人になって戦力になった、これから、回収のペースを上げないとな!!」
勢い良くそういった私の言葉に、合わせる様にして言っていた和真だけど、私の中では燻る不安は拭えていなかった。
彼らの言っていた這い寄る混沌という言葉、これが気になるのだ。
あの存在が実在して今の状況にも干渉できるのならば、あまりにも危険すぎるしアレは人間そのものの影、つまり人間という種のシャドウといえる存在なのだ。
もしかしたら、そんな存在と事を構えなくてはならないという事、これに不安を感じているのは、臆病なのだろうか? それとも臆病を感じないという事のほうがよかったのだろうか、それは今の私には判らないことでもあって、不安を少し増やす事にもなって言っていた。
~一方その頃~
時空管理局本局、通称【海】と呼ばれる本部の一室で、彼、輝夜の父親【斉藤 肇】はじっと目の前のモニターを見つめていた。
「幽々子からのリミッター解除申請に加えて、現役時代に使用していたデバイスの返還要請まで……」
「そういえば、提督の奥方とご息女が暮らしているのは」
「15年前にアメノトリフネ浮上事件が起こった、第97管理外世界地球だ……」
それは幽々子からの申請書であり、これを見た肇の眉間には皺がより、かの地、自分が海よりも深く愛する妻と娘が過ごしている場所で、大きな異変が起こったこと、これを示していた。
これを偶然耳にした秘書の男性は、肇に対して遠慮がちにではあるが問い掛けると、肇から返ってきた答えを聞いて、秘書は表情を驚愕というものに変えている。
「あの、次元跳躍爆撃や虚数空間攻撃までが可能な艦が復活し、更に同じ様なものが眠っている可能性がある、そう判断された世界ですよね? どうして奥方様は、そんな世界に……?」
「私と幽々子の出身世界ということもあるし、娘の輝夜に魔法の才能が全くなかったこと、これが一番大きくてな、ミッドよりも良いだろうと判断したまでだ」
「ッ!? も、申し訳ありません!!」
肇の言葉に謝る必要があったのか、秘書である管理局員は肇に対して謝る。
だが、これを肇は不機嫌そうな様子を隠す様子もなかったが、どこか疲れを滲ませたような疲れも見せていた。
「謝る必要はない、逆に私と幽々子の出身世界で過ごす、これを良かれと思ったが、裏目に出たかもしれないな……」
「……」
憂い、その感情を浮かべている肇に対して、秘書は申し訳なさそうでいたが、それでいて、どこか不気味、とも、そうとれる笑みを肇からは見えない位置で浮かべていた。
この場に、輝夜か和真のどちらかがいれば分ったかもしれない。
この笑みは、這い寄る混沌と呼ばれる存在が、浮かべる独特の傲慢で尚且つ嘲りに満ちた笑みだという事を。