嘆きの亡霊は創星と出会う   作:永佑

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第1話 クライ・アンドリヒ

 

 すべての始まりは、あまりにも軽い一言だった。

 

 あの頃の僕たちは、まだ子供だった。

 明日のことすら深く考えず、日が暮れるまで一緒に遊ぶのが当たり前で、世界は自分たちの足元までしか存在していなかった。

 

 そんなある日、仲間の一人が、まるで思いつきのように夢を語った。

 世界中を巡り、眠る宝を見つけ出し、名を残す。

 トレジャーハンターになろうぜ――

 

 突拍子もない提案だったはずなのに、不思議と笑う者はいなかった。

 身軽な友人は面白そうだと目を輝かせ、本好きの友人は可能性を考え始め、無口な友人も否定しなかった。

 少し離れた場所で様子をうかがっていた妹がこちらを見て、僕もまた、流れに身を任せるように頷いた。

 

 危険が伴うことは、誰もが分かっていた。

 だが、それ以上に、夢は魅力的だった。

 

 それから先の数年間、僕たちは同じ目標を見据えて過ごした。

 剣を振り、体を鍛え、知識を詰め込む。

 同じ時間を、同じ場所で、同じ未来を信じて歩いた。

 

 やがて形式上の区切りを迎え、僕たちはハンターとして登録された。

 肩書き自体は特別なものではない。

 本当に重要なのは、そこから何を成し遂げるかだった。

 

 六人で組んだパーティは、新人向けの遺跡に挑み、いくつかの成功を積み重ねた。

 周囲から見れば順調そのものだっただろう。

 

 だが、僕自身は違った。

 

 はっきりと理解してしまったのだ。

 仲間たちと自分のあいだに、埋めようのない差があることを。

 

 最初から気づいていなかったわけではない。

 ただ、それを認めずにいられただけだった。

 現実として突きつけられるまでは。

 

 今は、まだ隣を歩けている。

 だが時間が経てば、必ず置いていかれる。

 彼らには才能があり、僕にはなかった。

 

 同じ場所で育ち、同じように努力しても、人は平等ではない。

 それを思い知らされた。

 

 それでも仲間たちは、僕の遅れを口にしなかった。

 気づいていないはずがないのに、何も言わなかった。

 今思えば、それは優しさだったのだろう。

 

 初めて成功を収めた夜、宿屋の一室で、僕は一人きりになった。

 静まり返った部屋で、考え続けた末に、ようやく一つの結論に辿り着く。

 

 このまま進めば、いつか必ず僕が足を引っ張る。

 仲間は見捨てないだろう。

 だからこそ、その未来が怖かった。

 

 夢を手放すのは辛い。

 それでも、友を危険に巻き込むくらいなら——

 

 

 ——駄目だよ、少年。ハンターを続けるんだ。

 

 そんな言葉を、誰かに言われた覚えがある。

 顔も、名前も思い出せない。

 ただ、輪郭だけが記憶に残っている、ぼんやりとした影。

 

 その男は、僕の頭に手を置き、微笑んだ……気がした。

 

「君は逸材だよ——あと十年もすれば、私と並ぶハンターになるだろうね」

 

「………えっと……………誰?」

 

 問いかけた、その先は思い出せない。

 

 ――そして、僕はベッドの中で目を開けた。

 

 「……………なんか懐かしい夢見た」

 

 寝間着は汗で湿り、胸の奥には言葉にできない違和感だけが残っていた。

 目を擦り、頭を押さえながら、ゆっくりと周囲を見回す。

 

 見慣れた寝室。

 ここは、間違いなく僕の部屋だった。

 

 部屋を出た先——クランハウスの執務室には誰もいない。

 僕はあの日のことを思い出しながらゆっくりと椅子に座った。

  

 

 

 ———

 

 

 帝都の中心部に聳える《始まりの足跡(ファースト・ステップ)》のクランハウス。その最上階に存在するクランマスター室の定位置で今日ものんびりだらだらしていた。

 

 ———あの日、僕はトレジャーハンターを引退する旨を皆に話すことをやめた。そして、あの人に言われたことをつい言ってしまった。

「僕さ、特にやることないじゃん? だからさ、このパーティのリーダーとかなろうと思うんだけど……どう?」

 自分でも何言ってるのかよく分からなかった。僕は散々皆に迷惑をかけて来た人間だ。ハンターにおいて弱いことは罪だ。ましてリーダーは皆の命を背負う立場にある。こんな僕に命を預けるなど、いくら優しい幼馴染たちでも非難轟轟の嵐だろう。

 が、帰ってきた返事は予想外のものだった。

「いいな、それ!」

「それいい!」

「賛成…」

「私も賛成です!」

「うむ!」

 

 マジっすか。

 

 

 ———そして今、帝都でハンター生活が始まって5年。

 

 僕――クライ・アンドリヒは、幼馴染たちと結成した若手トップと言われるパーティ《嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)》のリーダーであり、この帝都ゼブルディアで名を馳せるクランの内の一つ《始まりの足跡(ファースト・ステップ)》のクランマスターになっていた。

 

 

 

 その時、扉がノックされて開いた。

 入って来たのは、スリムな赤縁のメガネにブラウンの髪がきちんと整えられた制服姿の女性——エヴァ・レンフィードだ。

 

「失礼します」

 

「やあ、おはよう」

 

「もう昼ですよ……明日は、メンバー募集の日です」

 

 エヴァはため息まじりに言った。

 

「ちゃんと外に出て、顔を出してきてくださいね。クランマスターなんですから」

 

「うんうん、そうだね」

 

 そう返しながら、椅子の背に体重を預ける。

 本当に分かっているかどうかは、自分でも怪しい。

 

 

 

 ———エヴァと出会ったのは数年前のことだ。

 

 友人達についていけなくなり、今度こそ引退を訴える僕にルークはまたしても真剣な顔で言った。

 

「こんなんじゃ最強のハンターなんて夢のまた夢だよな。決めたぜ、俺、剣聖とかいわれてる奴の弟子になってくるわ……」

 

 それ以来、ルークに限らず他のメンバー達も休暇中に外に修行に行くようになり、その度に唯一修行する気も必要もゼロな僕は宿に引き篭もる羽目になっていた。

 

 今の僕にできる事は何もない。むしろ僕がいる事は彼らのためにならない。ぼんやりと考えながら、予てから考えていた案を呟いてみる。

 

 「やっぱり、クランでも作るか」

 

 クランには運営が必要だ。そうなれば僕には合法的にハントについていかない理由ができる。と言っても僕にまともなクラン運営ができるわけがない。

 

 ………フッ、どうやらあれをやる時が来たようだね

 

 

「もう受付のあの人で良いので譲ってくださ————————い!!」

 

 僕は世界各国に手を広げる最大手の商会の一つ——ヴェルズ商会のロビーで僕の唯一の特技である土下座を披露し、当時受付をしていたエヴァを引き抜いた。

 

 最初こそ彼女は、クラン運営についてほとんど知識がなかった。

 だが、持ち前の真面目さで、めきめきと成長していった。

 

 ——そして現在。

 彼女は今や、《始まりの足跡》の敏腕副クランマスターである。

 

 クラン運営だけでなく、僕の身の回りの世話までしてくれる彼女には、頭が上がらない。

 本当は外になんて出たくないが、エヴァに見捨てられたら、僕は終わりだ。

 

 僕は大きく欠伸をしながら、明日の支度を始めた。

 どうせ会場にはアークがいるのだ。何かあったらアークがなんとかしてくれる。

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