嘆きの亡霊は創星と出会う   作:永佑

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第4話 白狼の巣①

 

 鬱蒼と茂る森の中。僅かにつけられた『白狼の巣』に向かう道を警戒しつつ歩く。

 隊列は僕が先頭に立ち、後ろにソル、最後に後方の警戒を担当するルーダ。

 

 まだ宝物殿にたどり着くその前から、森には得体の知れない空気が漂っていた。

 

 遠くから、低く、けれど鋭く響く遠吠えが森の奥から響き渡る。

 葉擦れの音も風のざわめきも、すべてが不自然に感じられる——まるで森自体が呼吸しているかのようだった。

 

 ルーダが周囲を警戒するように見回し、呻くように言う。

 

「おかしいわね。……やばい匂いがぷんぷんするわ。まだ宝物殿にもたどり着いてもいないってのに――」

 

「うんうん、そうだね」

 

 森の奥に漂う異様な空気、鋭く響く遠吠え、そして足元に散らばる葉の不自然な揺れ。

 自分の胸がざわつくのを感じながら、僕は深く息を吸った。

 

 ハンターの嫌な予感はよく当たる。マナ・マテリアルの供給により、脳で処理しきれないほどに強化されたハンターの感覚は勘という形でそのハンターに警鐘を鳴らす。

 

 しかも、ルーダは危機察知能力に長けた、ソロのハンターだ。そのルーダが言うのだからこの森は相当やばいのだろう。

 もし、ルナちゃんが来てたとしたら、まず無事じゃすまない。 

 

 ルーダは背筋をピンと伸ばし、森の奥に意識を集中させている。

 葉擦れや風のざわめき、遠くの動物の足音……すべてを拾い上げるように視線を巡らせる。

 

「……何かいる……かも」

 声は小さく、かすれたようだったが、その緊張感は伝わってくる。

 

 ソルも息を詰め、手の位置を少し低くして警戒態勢に入った。その顔は青ざめ、今にも倒れそうなほどだった。

 

「本当に……ここにるーちゃんが?」

 

 ソルさんは青ざめてた顔で声は震わせた。

 ただ見ているだけで、焦燥がこちらにまで伝わってくる。

 

「まあ、可能性はあるってだけだよ」

 

 声を出すとき、自分でも少し無理して平静を装い、無理やりでも、声のトーンを少し柔らかくしてみた。

 

「でも、もしそうなら……」

 

 ルーダの声には、まだ抑えきれない不安が滲んでいるのか、短剣を握る手がほんの少し震える。

 

「は、はやく……」

 

 ソルは焦りを隠せず、どんどん顔色が悪くなっていく。

 娘がここにいるかもしれないという不安に駆られ、相当参っているらしい。

 傍から見ているだけでも、いかに追い詰められているかがわかる。

 

 今更引き換えそう、なんて言えない空気になってきた。

 だが、ただでさえ陰鬱な状態なのに、これ以上はやめてくれ。肩を竦め、やんわりとフォローした。

 

「だ、大丈夫だから。落ち着いて!……たぶん、きっと生きてるよ。たぶん」

 

 それを聞いたソルさんはさらに死にそうな顔を浮かべ、体が薄くなっているように感じる。

 まるで、死期を悟った猫のように消えてしまいそうだ。

 

「たぶんって、あなた……」

 

 僕の空気読めてない発言に、ルーダが呆れた目を向け、小さくため息をつく。

 

 しょうがないじゃないか。

 根拠のない安心を断言できるほど、僕は強くない。

 

 内心で頭を抱えつつ、歩みを進める。

 早く見つけないとまずい。ルナちゃんもまずいし、ソルさんもまずいし、何より——僕がまずい。

 やっぱり、ホームが一番だ。

 

 そんなことを考えながら、周囲を見回しつつ、慎重に歩を進める。

 道の左右、木々の影、地面に落ちた葉の微妙な揺れ——すべてが、魔物の気配を告げるかもしれない信号に思えた。

 

 突然、遠吠えのような声が再び響く。

 その音は前回よりも低く、どこか悲しげで、同時に鋭く耳を突き刺す。

 僕は立ち止まり、視線を前方の闇に固定した。

 

 その瞬間、その視界に影が差した。

 

 太陽を覆い隠す影。

 空から降ってくるそれにいち早く気がついたルーダが短剣を抜き、前に出る。

 

 一拍遅れ、ソルさんが距離を取り、手にナイフを握る。何もしていないのは僕だけだ。

 

 ようやく僕にも、その目が対象を捉える。匂いも音もなく忍び寄ってきたその影を。

 ルーダが目を見開き、蹲ったまま動く様子のない真紅の獣に、掠れた声をあげる。

 

「……え……ここの幻影って――狼じゃないの!?」

 

 向けられた輝くような金の目を、ルーダが睨み返す。抜き去った短剣の切っ先をそこに向ける。

 

 真紅の獣は緩慢とも言える緩やかな動作で、立ち上がった。

 

 ――二本足で。

 

 針金のような真紅の毛皮に、ピンとたった犬科特有の耳。臀部からは同色の太い尾が伸び、その鼻はまるで状況を把握するかのように小さく動いている。

 

 しかし、その獣の大部分は血のように赤い甲冑に覆われていた。手甲で保護された手が、持っている武器を牽制するかのようにゆっくり揺らす。

 

「鎧を着ている!?……それに二本足で立つ狼なんて」

 

「剣を持ってる……こんな幻影見たことない」

 

 『白狼の巣』に出現する幻影(ファントム)は巨大な狼だったはずだ。

 だが、今目の前に出てきた相手は色と顔を除けば想定と何もかも違う。

 

 悲鳴をあげるソルの言葉を掻き消すかのように、狼の武者が咆哮をあげた。

 

 ……あれ。もしかしなくても、これ、死ぬ? ピンチ?

 

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