「桐谷さん、あなたに聞きたいことがあります!!」
ピンク・フェニックス鳳桃香は目の前にいる白衣を着た女医の姿をした桐谷沙耶を問い詰めようとする。
無論、その背後には、それをバックアップする四人の戦士たちがおり、そして皆、一斉に桐谷に注目する。
たが、当の桐谷は、というと
「あら、なにかしら?」
と、平然たる様子を崩さない。
「あなた方が拉致した聖桜会総合病院の板垣大臣付き看護師だった松岡優香里さんの居場所を言いなさい!!」
ピンク・フェニックス桃香は確信を持って断言する。
「あなた方は松岡優香里さんを拐ったのみならず、代わりの看護師と称してチグルマン女戦闘員を送り込んだことは、もう、分かっています!」
そのピンク・フェニックス桃香の言葉にも、桐谷は全く動揺する様子など見せるどころか
「あら、そうだったわよね。そりゃ、あなたは板垣大臣の孫娘に化けて、聖桜総合病院まで、ちょくちょく監視に来ていたんたから、松岡優香里看護師を守れなかったのは、まず、あなたの失態よね」
そう言うとクスクス笑って見せる。
当然、その嘲笑するような笑いはピンク・フェニックス桃香を刺激せずにはいられない。
「桐谷さん、あなた、一体何がおかしいの!?」
苛立ちを隠せずに、思わず目の前の桐谷に向けてピンク・フェニックス桃香は、怒鳴り声をあげてしまう。
だが、桐谷は
「フフフ、桃香さん。いやピンク・フェニックス!!、今、あなたが会いたがっている彼女に会わせてあげるわよ」
悠然と言うと、あらためて右手を上げた。
それと同時に院長室の奥の扉が静かに開き、一見してナース服と分かる衣服をまとった女性がゆっくりと歩み出てくる。
院長室の奥の扉が開き、薄いピンク色を基調としたスクラブに身を包み、そして、やはり薄いピンク色のナース帽を被った女性が静かに現れたのだ。
しかしその着衣は、通常のナース服とは明らかに違う——胸元と袖に紫黒のサソリ模様が浮かび上がり、目元には毒々しい赤い色をしたアイマスクを着けている。
彼女は注射器を模した二本の短剣を、その両手に持ち、優雅でありながら危険な気配を漂わせていたのだ。
そして、その顔を見たそれを見たピンク・フェニックス桃香は、目を見開いて声を震わせずにはいられなかった。
「優香里……さん……?、うそ……どうして……あなたが……!」
聖桜総合病院では親しく会話もしたことがあった…
顔は、確かに、桃香の知る彼女と一致はしていた。
だが、しかし…
そして、そのピンク・フェニックス桃香の様子を確認した松岡優香里の顔をした女性は、ゆっくりとアイマスクを外した。
彼女は聖桜総合病院にいた当時から桃香が知る、以前と同じ穏やかな笑顔を浮かべてこそいるが、瞳の奥に紫色の不自然な光が宿っている。
「桃香さん……また会えて嬉しいです。入院中の板垣大臣の『孫娘』として、よく病院に来てくれていましたよね。勿論、私も本当のことは知っていましたけど…あの頃は、私もまだ……ただの看護師でした」
ここでイエロー・フェニックスりりかが、側にいたブルー・フェニックス竜也に、彼女のことを尋ねる。
「竜兄ちゃん、あの人が、まさか、松岡優香里さん……」
問われたブルー・フェニックス竜也は、イエロー・フェニックスりりかに対して低い声で答える。
「ああ、りりか……松岡優香里。板垣大臣が『行方不明になった優秀な担当の看護師さんだから』と気にかけていた人物だ。まさか、こんな形で会うことになるとはな……」
そして
グリーン・フェニックス烈、シルバー・フェニックス凱たちも
共に剣を手に取り、それを持って身構える。
言うまでもなく、彼女が『敵』そのものであることを、彼らも理解していた。
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松岡優香里としての素顔こそ変わらないとはいえ、雰囲気は、既に一変した彼女に向かって、ピンク・フェニックス桃香は叫ぶ。
「優香里さん……! 私、ずっと探してたんですよ!板垣大臣も……あなたが突然いなくなってから、ずっと心配していたのに…… どうしてこんな姿に……!?」
だが、松岡優香里の顔をした彼女は、以前の穏やかな笑顔を浮かべながら、しかし瞳を冷たく輝かせて言った。
「桃香さん、私のことを心配していただき、ありがとうございます。でも、今の生まれ変わった私の新しい名前は[b:ヴェノム・ナース]。桐谷院長の理想のために、皆さんを『浄化』させていただくために、この場にいます」
ピンク・フェニックス桃香は愕然としていた。
では、既に松岡優香里看護師は、チグルマンの、桐谷の手によって、悪の使徒としての改造人間にされてしまっていたのだ……
そんなピンク・フェニックス桃香の思いも気にすることすらなく、松岡優香里、いや、ヴェノム・ナースはピンク・フェニックス桃香に向かって語り続ける。
「私は今、桐谷先生に救われました。あの病院では、ただ患者さんの痛みを和らげることしかできませんでした。でも今は……皆さんの『苦しみ』そのものを、根元から浄化してあげられる。これが本当の看護の素晴らしさです」
そんな彼女の発言に、もとより桐谷に対して強い敵意を持つグリーン・フェニックス烈が怒鳴り声をあげる。
「松岡さん、正気に戻れよっ! あなたは桐谷に洗脳された犠牲者だ。板垣大臣もあなたのことをを心配していたって聞いてるよ。もう一回言う! 正気に戻るんだ!!こんなところで、無駄に死ぬ必要はない」
が、桐谷は今度は、そんなグリーン・フェニックス烈に向かって、嘲笑の笑みを浮かべる。
「フフフ、烈君、このヴェノム・ナースは私の自慢の作品よ。特に『看護師としての感情を残したままチグルマンに忠誠を誓わせる』という調整が難しかったの。でも、結果は出せたわ。そして…」
そこまで言うと、桐谷は今度はピンク・フェニックス桃香の方を振り向く。
「桃香さん、あなたが親しくしていたからこそ、いろんな意味で、彼女からいいデータが取れたわ。松岡優香里の持っていた『優しさ』を殺さずに、ただ『方向転換』してあげた。これこそが真の看護——弱者を救うのではなく、弱さそのものを毒で浄化する究極の医療だわ!、そうヴェノム・ナースは、私の技術が生んだ芸術品なのよ~」
その桐谷の言葉に、ピンク・フェニックス桃香はマスクの内側で、悔しさのあまり、ぐっ、と唇を噛み締める。
そして、そんなピンク・フェニックス、グリーン・フェニックスの両者を見下しながら、桐谷は優越感に浸る。
「私は、このプロジェクトを量産型チグルマン女戦闘員の次世代モデルとして位置づけているわ。将来的には『ヴェノム・ドクター』や『ヴェノム・サージャン』などの上位種も計画中よ。そして新しい医療のためにチグルマンに忠誠を誓う改造人間たちを大量生産するのよ~」
そんな桐谷に対して、グリーン・フェニックス烈は、自分の義手を意識しながら、激しい怒りをぶつけずにはいられない。
「桐谷さんっ!、あんたは母さんの研究をこんな風に使うなんて、許せない!」
だが、そんな烈の言葉など、桐谷は意にも介さない。
「烈君、せっかくだから教えてあげるわ。
チグルマンのヴェノム・プロジェクト。正式名称Venom Reprogramming Project(ヴェノム・リプログラミング・プロジェクト)はね、
人間の「弱さとなる感情・老化・忠誠心の揺らぎを浄化し、絶対的な忠誠心と戦闘能力を兼ね備えた『完璧な医療戦闘員』を量産することなの。
医療という行為において必要なのは、
『弱者を救う』などという不完全で非効率な行為じゃないの。
『弱者を強制的に完璧化する』のでなければ完璧とは言えない。
私は、このプロジェクトに、これからの自分の未来を賭けているのよ~」
彼女は自分に酔うかのようにそこまで言いきると、あらためて
「「やれっ、ヴェノム・ナース。こいつら不死鳥忍者部隊を称するザ・フェニックスの連中を皆殺しにするんだ!!」
自らの指揮下にある、新しい女戦闘員ヴェノム・ナース優香里に向かって指示をくだした。
そして、その桐谷の指示に、ヴェノム・ナース優香里は頷く。
「分かりました桐谷先生。ご命令通りにいたします」
言うなり彼女は戦闘態勢に入る。
「毒は『不要なものを殺し、必要なものを残す』ためのもの。そしてヴェノム・ナースの持つ注射器には、そのための毒が充填されている。さあ、ヴェノム・ナース、ザ・フェニックスの皆さんにも、その力を見せてあげなさい」
桐谷はヴェノム・ナースに号令する。
「はい」
ヴェノム・ナース優香里は、あらためて不死鳥忍者部隊ザ・フェニックスの五人と向き合うのだった。
そして、彼女は
ガーッ!!
口から紫黒色をした毒煙を吐き出した。
それによってみるみるうちに院長室の照明が紫黒の毒霧に染まる中、ヴェノム・ナースは戦闘態勢に入り、両手のヴェノム・インジェクターを構える。
その佇まいは、他のチグルマン戦闘員などとは明らかに格が違っていた。
「皆さん……どうか、暴れないでください。痛みは最小限に、優しく『浄化』して差し上げます」
ヴェノム・ナース優香里は、不死鳥忍者部隊ザ・フェニックスの五人に向かって、そう宣言する。
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サソリーナ・ホリスティック・メディカルセンターの院長室は、今や紫黒の毒霧と緑のエネルギーが激しく交錯する戦場と化していた。
ヴェノム・ナース優香里は、優雅に舞いながら、五人のフェニックスたちを同時に翻弄していく。
毒の針糸を操り、麻痺と回復阻害を織り交ぜた攻撃は、まさに桐谷の言う『医療』と『攻撃』の融合芸術だった。
グリーン・フェニックス烈の義手であるが左腕を毒に侵され、苦痛を発する。
だが、それでも彼は忍刀を手放すことなく
「ええいっ!」
ヴェノム・ナース優香里に向かって斬りかかるのを止めようとしない。
ピンク・フェニックス桃香、ブルー・フェニックス竜也、シルバー・フェニックス凱の三人も、そんなグリーン・フェニックス烈をも必死に援護するのだが
ヴェノム・ナース優香里の動きは、明らかに他のチグルマン戦闘員などとは次元が違っていた。
その光景を、院長室の高い台上から見下ろしていた桐谷は、ゆっくりと、楽しそうに、その両手を広げる。
「くっ……ふふふっ……あははははっ!!」
突然、抑えきれない高笑いが響き渡った。
桐谷は恍惚とした表情で、自分の作品を眺めながら笑い続ける。
「素晴らしい……本当に素晴らしいわ、ヴェノム・ナース!
ほら、ザ・フェニックスの皆さんも、見てちょうだい!
あの優雅な動き、毒と癒しを完璧に制御する技術、患者を慈しむような笑顔のまま敵を追い詰める心理攻撃……! これこそが私の芸術よ!!
不完全な人間の『優しさ』を殺さず、ただ方向を変えてあげただけ。
松岡優香里の魂を、こんなにも美しく、強靭で、忠実な芸術品に仕上げた私って、天才よね……! あははははっ! 最高じゃないの!?
不死鳥忍者部隊の皆さんも、素直に感動なさいな!
これが真の医療……これが完璧なる浄化よ!」
桐谷の笑い声は戦場に響き渡り、フェニックスのメンバーたちの怒りをさらに煽った。
グリーン・フェニックス烈は義手である左腕を侵してくる毒の合計に歯を食いしばりながらも
「桐谷さん……!、あんたは、ただの狂人だ! 人の命と心を玩具にして、高笑いするなんて……許さない!!」
魂からの怒りの叫び声をあげる。
ピンク・フェニックス桃香も、その心は変貌した優香里の姿に特に激しく動揺し、声も震えていたものの
「桐谷さん、あなたは、優香里さんを……優香里さんをこんな風にして……! 本当に最低の人間よ……!!」
やはり怒りの声を発せずにはいられない。
だが、桐谷は高笑いを続けながらも、ゆっくりと自分の首にかけたサソリのペンダントを握りしめた。
「最低、何を言ってるの? いえ、私は最高の芸術家よ。
ヴェノム・ナースはまだ完成途上……でも、もう少しで私の理想を実現した『完璧なる看護師』が誕生するはずだったのに……
早く来すぎたあなたたちが台無しにするなんて、実に残念だわ。
あははははっ!!」
ヴェノム・ナース優香里は、その主である桐谷の笑い声を聞きながらも、一瞬だけ動きを止めた。
そのアイマスクの下に、わずかに苦痛の表情が浮かぶ。
しかしすぐに再起動したように、毒針を構え直し、フェニックスたちに向かって静かに告げた。
「皆さん、どうか暴れないで……桐谷先生の芸術を……完成させないといけません!!」
こうして不死鳥忍者部隊ザ・フェニックスのメンバー五人と、ヴェノム・ナース優香里との激闘はさらに苛烈さを増していく。
そして、桐谷の高笑いは、戦いが進むにつれてますます大きくなり、メンバーたちの心を削る毒のように響き続ける。