不死鳥忍者部隊ザ・フェニックス   作:shpfive03

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やだー、私もディズニーランド行きたいよお!!

五機の小型戦闘機が秘密基地フェニックス・ネスト(不死鳥の巣)を目指して飛ぶ。

 

ブルー・ファイターを先頭に、それぞれ同乗者がいるグリーン・ファイター、イエロー・ファイター、シルバー・ファイターが続き、殿(しんがり)はピンク・ファイターが務める。

 

何か不測の事態があれば、先頭の側はブルー・ファイター、最後尾の側はピンク・ファイターがそれぞれ対応する事になっているのだ。

 

ただ、先ほどとは同乗者が代わり

 

グリーン・ファイターに乗っているのは川口智花

 

イエロー・ファイターに乗っているのは伊藤老人こと伊賀工作員03号

 

であった。

 

そしてシルバー・ファイターには意識も朦朧とした状態の看護師松岡優香里が、そのまま助手席に乗っている。

 

何しろ、つい先ほどまではチグルマンの女戦闘員ヴェノム・ナースとして戦っていた相手…

 

シルバー・ファイターの操縦桿を握るシルバー・フェニックス凱も緊張感を緩めることなく、警戒しながらもシルバー・ファイターの操縦を続けている。

 

一方で

 

グリーン・ファイターの助手席に座る智花は、顔を赤らめ、俯きながらも、無言でグリーン・フェニックス烈を見つめたまま座っている。

 

緑色のバトルスーツ、そのメットのバイザー越しでも、彼女の熱い視線はグリーン・フェニックス烈の横顔に注がれている。

 

自動操縦に切り替え、ふと隣を見たグリーン・フェニックス烈は、そのただならぬ様子に気付いて戸惑うように声をかけた。

 

「智花さん? どうかしたの? どこか、怪我でも……」

 

「えっ? ううん。どこも怪我はしていないわ」

 

グリーン・フェニックス烈に声をかけられて弾かれたように顔を上げた智花は、慌てて視線を泳がせる。

 

一方でグリーン・フェニックス烈は、彼女の視線が自分の左腕、血の通わない義手に向けられていたことに気がついていた。

 

先ほど、チグルマンの弾丸から彼女を庇い、その冷徹な力で敵をなぎ倒した、剥き出しの兵器でもある、その左腕。

 

グリーン・フェニックス烈は少しだけ寂しげに目を伏せ、左の拳を小さく握りしめる。

 

「……やっぱり、怖かったよね。この左腕……。血も通っていない、戦うためだけの不気味な作り物だ。それを目の前で振り回して……。ごめん、智花さんに、余計な恐怖を与えてしまって」

 

それは彼の本心だった。

 

まだ幼少の頃に自分の左腕を失い、それを義手という作り物に変えた自分は、普通の女子高生である彼女から見れば「化け物」のように映ったのではないか、という気持ち

 

だが、智花は力強く首を振った。

 

「違う。違うの、烈さん!」

 

智花は身を乗り出し、グリーン・フェニックス烈の義手である左腕を、操縦の邪魔にならぬよう、しかし、自分の両手でそっと包み込んだ。

 

手袋越し、バトルスーツ越しであるはずなのに、智花の放つ温もりが、センサーを通じて確かに伝わってくるのをグリーン・フェニックス烈は感じる。

 

「怖くなんてない。……この手は、心が通った、誰よりも温かい手よ。だって……私を、命がけで守ってくれたんだもの」

 

俯くのをやめ、烈を真っ直ぐに見つめ直す智花の瞳には、涙がうっすらと浮かんでいた。けれど、そこには確かな信頼と、それ以上の熱い感情が宿っている。

 

「冷たい作り物なんかじゃないわ。私を守ってくれた、世界で一番優しい手。……私は、そう思ってる」

 

「智花、さん……」

 

想定外の言葉にグリーン・フェニックス烈は完全に言葉を失い、戸惑うように目を丸くした。

 

胸の奥が、いままで感じたことのないほど激しく脈打つのを感じる。それは、サイボーグ化した左腕を持つ彼には説明のつかない、本物の『人間の鼓動』だった。

 

二人の距離がほんの少しだけ近づいた、その時。

 

コックピットのコンソールに、ネストの誘導シグナルが点滅を始めた。先頭を飛ぶブルー・ファイターからの通信が割り込む。

 

『――全機へ。間もなくフェニックス・ネストの進入ルートに入る。各員、着陸態勢に移れ』

 

「竜也さん、了解しました!」

 

現実に引き戻された烈は、赤くなった顔を隠すように正面の計器盤に向き直り、操縦桿を握り直した。

 

「ありがとう、智花さん。ネストは、もうすぐそこだ。しっかり掴まっていて」

 

「ふふ……うん、烈さん」

 

窓の外には、夕闇に包まれつつある海と、彼らを迎える「不死鳥の巣」の灯りが見えていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方、そのすぐ後ろを飛ぶイエロー・ファイター。

 

操縦桿を握るイエロー・フェニックスりりかの隣、助手席に座っている『伊藤老人』こと、老忍者である伊賀工作員03号は、まだ、体の震えはあるものの、背筋をすっと伸ばし、隣にいる彼女に対する敬意を見せていた。

 

「あの…、おじいさん。無理はしないで」

 

緊張感を緩めることなく操縦桿を握るイエロー・フェニックスりりかだが、隣に座る体力の衰弱が明らかな老人のことを気遣わずにはいられない。

 

だが、その老人の鋭い眼光を見て、思わず過酷な戦いの中を生き抜いてきた本物の『戦士』の姿を感じとらずにはいられない。

 

一方で老人は、前方を飛ぶグリーン・ファイターの機影を一度見やり、それから隣の若き女性戦士へとおもむろに声をかけた。

 

伊藤老人、いや工作員03号は、おもむろに口を開く。

 

「りりか様。いえ、不死鳥忍者部隊の任務中なれば『イエロー・フェニックス』とお呼びすべきですな。まずは、老骨の窮地を救っていただき、伊賀の末輩として深く感謝いたします」

 

多少の息の荒さはあっても、可能な限りしっかりとした話し方をしようとする老人の、この重々しい言い方に

 

だが、当のイエロー・フェニックスりりかは戸惑わずにはいられない。

 

「あ、もう、おじいさん、そういう堅苦しい呼び方はいいから。 ネストに向かってる最中なんだし、普通に話してよ。パパからも年長者は敬いなさいって言われているし、ほんっとうに今の私、ただの女子高生なんだから。私たちのことをずっとサポートをしてくれてる大先輩にそう言われたら、逆にやりにくいわよ」

 

それを聞いた伊藤老人、いや伊賀工作員03号は

 

「ははは、総司令がそのように……。しかし、私ども古参の工作員にとって、風祭の血を引く貴女様は、現代伊賀の『姫』も同然。その姫が、これほど立派に翼を駆り、戦っておられる姿を目の当たりにし、冥土への良い土産ができたと胸が熱くなる思いです」

 

そのように言うと、一転して、老人は少し声を潜め、前方のグリーン・ファイターへと視線を戻した。

 

「ところで、姫様。老婆心ながら、一つお耳に入れたいことがございます。先ほどチグルマンの者たちによって捕らえられていた智花殿というお嬢さんと、グリーン・フェニックス烈殿との間で、ずいぶんと熱いやり取りが交わされていたようですが」

 

それに対してイエロー・フェニックスりりかは

 

「え? ああ、智花と烈さんのこと? 確かに二人とも出会ってから、まだ間もないのに、私たちから見ても、その…」

 

と、つい先ほど二人の様子をもう一人の友人である翠と二人で双眼鏡を使って覗き見していたなどとも言えないまま口ごもる。

 

「左様ですか……。烈殿は実直、かつ一度『守る』と決めたものには、命を懸ける漢であると見ましたぞ。なればこそ、あの智花殿というお嬢さんの『法と人道』という強い信念は、烈殿の心に深く刺さったご様子。……姫様、貴女様はあの二人の様子を見て、どのようにお感じになられましたか?」

 

「えっ、どうって……。智花は凄いなって思ったし、烈さんも格好良かったけど……。それがどうかしたの?」

 

「ふむ。では、まだお気づきではございませぬか」

 

老忍は、メット越しでも分かるイエロー・フェニックスりりかの様子に、思わず小さく苦笑した。

 

が、イエロー・フェニックスりりかの方も

 

「ううん、それは烈さんと智花が決めることだから。あっ、おじいさん、もうすぐネストにつくわよ!」

 

そういう野暮なことを言うつもりはないとばかりに首を横に振る。

 

丁度、そこでイエロー・ファイターのコックピットのコンソールに、ネストの誘導シグナルが点滅を始めた。

 

そしてブルー・ファイターからの通信が割り込む。

 

フェニックス・ネストはもうすぐなのだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

五機の到着を確認したフェニックス・ネストの巨大な格納庫ハッチが開き、到着を待っていた。

 

爆炎をまとった五機のファイターたちが次々と着陸し、殿を務めていたピンク・ファイターが最後の一機として格納庫ハッチをくぐるのを確認すると、フェニックス・カタパルトは、すぐに重厚な防壁が唸りを上げて閉じていく。

 

そして、外部からこの山に隠されたカタパルトを見ることが出来ぬよう遮断したのだ。

 

五機全部が基地内の滑走路に着陸し、そして動かなくなった各ファイター機が静かにエンジンを止めると、キャノピーが開く。

 

不死鳥忍者部隊ザ・フェニックスの五人はバトル・スーツを身に付けてはいたが、マスクオフ、つまりマスクを外して素顔を見せた状態でそれぞれの機体から降りてくる。

 

まず、動かなくなったピンク・ファイター、ブルー・ファイターから、ピンク・フェニックス桃香とブルー・フェニックス竜也がそれぞれ降りると

 

そして、グリーン・ファイター、シルバー・ファイター、そしてイエロー・ファイターの三機から

 

グリーン・フェニックス・緑川烈と川口智花

 

シルバー・フェニックス・銀水凱と、それに支えられた意識も朦朧とした状態の看護師松岡優香里

 

そしてイエロー・フェニックスりりかと、伊藤老人こと伊賀工作員03号が

 

それぞれ降りてくる。

 

そして

 

「行くぞ!」

 

そう合図したブルー・フェニックス竜也、そしてピンク・フェニックス桃香が先導する形で、グリーン・フェニックス烈、イエロー・フェニックスりりか、その同乗者だった智花と、伊藤老人こと伊賀工作員03号が続く。

 

意識が朦朧とした状態のままの看護師・松岡優香里の身体を支えながらでもあるシルバー・フェニックス凱が、必然的に最後尾となった。

 

ここでフェニックス五人のメンバーは全員メットオフの状態となる。

 

そしてフェニックス五人と、共に来た三人、計八人が基地内の無機質な通路を抜けた先に扉をくぐると、そこには最新鋭のモニター群が立ち並ぶ一方で、どこか古風な書斎が同居するような部屋が待っていた。

 

言うまでもなく、そこが不死鳥忍者部隊ザ・フェニックスの作戦室である。

 

部屋の奥、厳格な佇まいで彼らを迎えたのは、総司令・風祭隼人。

 

そしてその傍らには、安全確保のためにと、伊賀工作員の女性008号と007号の手によってネストへ連れてこられていた、りりかと智花の同級生・西野翠の姿があった。

 

その翠は部屋の中に入ってきた者たちの姿を見るなり

 

「智花! りりか! 無事だったのね……!」

 

本心から安堵したようにそう叫ぶ。

 

「翠……! うん、心配かけてごめんね」

 

親友の姿にホッと胸を撫で下ろす翠だったが、凱に抱えられている看護師姿のままの松岡優香里の姿を見て息を呑む。

 

この人は一体????

 

一方、風祭隼人総司令は一歩前へ出ると、深く厳かな声で一同に告げる。

 

「皆、任務完了、ご苦労様。智花さんも、翠くんを安心させてやってくれ。……さて、007号、008号」

 

風祭総司令の鋭い視線が、控えていた女性伊賀工作員たち二人へ動く。

 

「凱君が連れてきた松岡優香里さんをすぐに医療房へ運んでくれ。チグルマンの女戦闘員にされていた彼女の今後の治療も含め、精密検査と適切な処置を迅速に行う必要がある。それから03号さん」

 

今度は総司令は、その視線を疲労困憊の様子が明らかな伊藤老人こと伊賀工作員03号へと向け、そして人生の先輩に向かって声をかける。

 

「貴方も007号、008号たちと一緒に別室へ。無理はしないでほしい。今回の疲労を早めに癒やすとともに、今回の敵の動向について後ほど詳しく報告を聞きたい」

 

その総司令の指示に、まず伊賀工作員007号・008号の二人が

 

「了解しました!」

 

「では、私たちがお二人を!」

 

短い返答とともに速やかに動く。

 

そして伊藤老人こと伊賀工作員03号が

 

「総司令、この度は私の未熟ゆえにご迷惑をおかけして申し訳ない」

 

と、目の前の風祭隼人総司令に向かって謝罪する。

 

それに対して風祭総司令は

 

「03号さん、謝ることはない。むしろ、今回はご負担をかけ、こちらの方が心苦しい。いずれにしても、今は休養し、体力を取り戻してほしい」

 

と、逆に目の前の老人に早めの休養を勧めた。

 

そして、まず007号が未だ意識の戻らない優香里の身体を凱から引き継ぎ

 

「さあ、行きましょう」

 

同時に、体力的にも弱りきっている伊藤老人こと伊賀工作員03号を008号が恭しく先導しながら、作戦室から退出する。

 

残されたのは、フェニックスのメンバー5人と、一般人である智花、翠の二人。

 

緊迫した不死鳥忍者部隊の任務が一区切りつき、作戦室の空気がわずかに緩む。

 

だが、その緩みこそが、既にメットオフにより戦闘モードから解放されたはずのりりかにとっての『別の戦い』の始まりだったのだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

緊迫した空気が完全に解けた作戦室。

 

烈は、まだグリーン・ファイターの中で自分の銀色の左手を包んでくれた智花のぬくもりの余韻に浸りながら、意を決したように一歩前に踏み出した。ヘルメットを脱いだその顔は、ほんのりと赤い。

 

「あの……智花さん」

 

その烈の様子に

 

「え? なに、烈さん」

 

思わず、少し緊張してしまう。

 

「昼間、二人で会った時に智花さんが話していたディズニーランドに行きたいという話だけど、もし、良かったら、今度、僕が非番の時に、その……二人で一緒に行こうよ」

 

なけなしの勇気を振り絞った烈の言葉に、作戦室が一瞬シンと静まり返る。

 

智花は驚いたようにパチクリと瞬きをした後、ひまわりが咲いたような笑顔で両手を合わせた。

 

「本当!? 嬉しい……! 私、烈さんとディズニーランド行きたい!」

 

「ありがとう。でも、さっきも話した通り、僕はまだ車を持っていないから、ちょっと遠いけど電車で行くことになるけど……」

 

勿論、交通費などは全額自分が出すつもりではいたものの、電車で遠出する事を思って悩む烈だったが

 

その初々しい二人のやり取りを、壁に寄りかかってニヤニヤしながら見ていた凱が、キーリングを指先で回しながら会話に割って入った。

 

「おーおー、烈さん。そんな殊勝なデートプランなら、この俺が一肌脱ぎますよ。俺の車に乗っけていくから、一緒に行きませんか?っていうか、俺が運転手として二人をディズニーランドまで送迎してあげますよ」

 

「えっ? 凱さんの車を?」

 

思わぬ助け舟に烈が目を丸くすると、凱はすかさず、隣で智花と烈、二人の様子を見ていた翠へと視線を向けた。

 

「勿論、翠さんも一緒に、さ」

 

「えっ!? 私も!?」

 

思わぬ不意打ちを食らった翠は、一瞬だけ呆然としたものの、すぐに顔を輝かせてガッツポーズを作った。

 

「やったぁ、ラッキー! ちょうど新しいカチューシャ欲しかったんだよね! 凱さん、ええ、喜んで!」

 

そんな翠の様子を見て、凱は思わずニヤリとする。

 

「ああ、 運転手付きのディズニーランドまでの快適なドライブを約束してやるよ」

 

これで「烈&智花」のデートに、「凱&翠」が乗っかる形での4人行きの計画がトントン拍子に固まっていく。

 

――と、そこへ、これまで完全に蚊帳の外に置かれていたりりかが、猛烈な勢いで割り込んできた。

 

「ちょっと待ったぁぁぁ!」

 

りりかは凱のバトルスーツの袖をぐいっと引っ張りながら

 

「凱さんの車って5人乗りでしょ!? 4人行くなら、あと1人分シートが空いてるじゃない! あたしも、あたしも連れてってよ!ディズニーランド! 私、ビッグサンダー・マウンテンに乗りたいの!」

 

両手を合わせて凱を拝み倒そうとするりりか。

 

だが、その横から、冷徹な現実を告げる声が降ってきた。

 

「ダメに決まっているでしょ、りりか」

 

腕を組んだピンク・フェニックスのバトルスーツを着たままの桃香が、呆れたような、けれども厳しい視線をりりかに向けた。

 

「よく考えなさい。烈に、凱に、そしてりりか。フェニックスのメインメンバーが一度に3人も基地を抜けたら、その間にもしチグルマンが襲撃してきたらどうするの? 残された私と竜也だけで対応しろっていうの?」

 

「ううっ……。桃姉、そこをなんとか……!!」

 

何とか桃香を拝み倒そうと手を合わせるりりかだが

 

ここで竜也からも

 

「りりか、チグルマンがいつ動き出すか分からないんだぞ。自覚を持ってくれ」

 

背後から声をかけられ、りりかはビクッと肩を震わせた。

 

「竜兄ちゃん、いいじゃない、たまには。それとも別な日に竜兄ちゃんが連れてってくれるなら…」

 

だが竜也はそっけなく

 

「悪いな、りりか、知ってるだろ。俺はああいう人の多いところは嫌いなんだ」

 

りりかの願いを冷たく突き放し、その上で

 

「烈と凱の二人が街を離れるんだ。ただでさえ地上の防衛戦力が薄くなる」

 

と、あらためて言った。

 

「ひ、ひどい…」

 

りりかは意を決すると、近くにいた友人二人の元へ駆け寄り、縋り付くように助けを求めた。

 

「智花! 翠! 二人からも何か言ってやってよー! 私だけお留守番なんて酷すぎるわ!」

 

しかし、夢の国への切符をその手に握った二人の反応は、りりかが期待したものとは全く違う、非情なものだった。

 

まずは智花が、本当に申し訳なさそうに、けれど完全に割り切ったおっとり笑顔でりりかの手を握る。

 

「りりか……。ちゃんとお留守番しててね。私、可愛いミッキーのクッキー、お土産に買ってきてあげるから……」

 

えっ、そ、そんな…

 

「う、嬉しくない! 私は現地でチュロスが食べたいのよ!」

 

続いて翠が、フッと不敵な笑みを浮かべながらスマートフォンをりりかの目の前で揺らす。

 

「そうよ、りりか。シンデレラ城の前で、すっごく楽しそうにパレードを見てる私たちの動画、たーっぷり録ってきて『見せてあげる』から。ちゃーんと楽しみにしててね?」

 

その翠の様子を見て、りりかは

 

(絶対見せびらかすつもりだわ、この顔はっ……!)

 

それを確信する。

 

親友二人の、優しくも容赦のないトドメの一撃。

 

りりかは内心で悲痛な叫び声をあげる。

 

智花ぁ! 翠ぃっ! この、裏切り者ぉーーーーーーーっ!!

 

そして、りりかは一縷の望みを託し、風祭隼人総司令の方へと視線を向ける。

 

「パパ、お願い。娘の幸福のために力を貸して。パパの鶴の一声さえあれば…」

 

助けを求めて風祭総司令を見るりりか。しかし、風祭総司令は眼鏡の奥の目を厳しく光らせ、静かに書類を見つめたままだった。

 

そして

 

「りりか君、ここでは総司令と呼んでくれないか?」

 

厳かに言うと

 

「それに任務と学業の両立をしているりりか君にはディズニーランドよりも先に、片付けねばならない『重大な任務』があるはずだが?」

 

ごく当たり前のように娘に向かって告げる。

 

総司令の手元にあったのは、その少し前から昭華学園に転校生百地桃として入り込んでいた桃香たちからの報告にもあった、りりかのいささか芳しくない「進路希望調査票」と「成績表」であった。

 

「ええっ、そ、そんなあ…」

 

りりかの目の前は思わず真っ暗になる。

 

そんなりりかの様子を見ながら

 

「りりか、これを機に勉強頑張ろうね」

 

桃香が冷ややかに告げるのだった。

 

「やだー、私もディズニーランド行きたいよお!!」

 

りりかの魂の叫びがフェニックス・ネストの総司令室にこだまする。

 

こうして夢の国への希望に気持ちを浮き立たせる友人たち二人を羨ましそうに見つめながら、ネストの会議室にりりかの絶望の叫びが響き渡るのだった。

 

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