最後の方のガイマとシノアヤメの会話になんとなくの既視感を感じた方もいらっしゃるかもしれません。
そう、かの有名な某番組で大幹部二人が行川アイランドの地下アジトでした会話のオマージュです。
戦いは終わった。
凱はあらためて疑問に思ったことを確認しようと話しかける。
「ところで皆さん、ええと、この空いている五番目の操縦席は、まだ担当者が決まっていないんですか?」
そう言って凱は空席になっているブルー・フェニックス竜也が座る、その右上の操縦席を指さす。
「ああ、その席に座る女の子はもう決まっているんだが、彼女は、まだ女子高生なんで、クリアしなければいけない問題がいろいろある関係で、まだ実戦にはついていないんだ」
凱の疑問の声にめんどくさそうにブルー・フェニックス竜也が答えた。
「――へえ! じゃあ、この空席になっている『5人目のシート』に乗る予定の戦士って、現役の女子高生なんだ!」
有無を言わさぬ流れで、いきなりフェニックスの4番目の戦士となったシルバー・フェニックス銀水凱は右上の空席を見上げながら、少年のような好奇心を隠そうともせずに声を弾ませていた。
「いいなあ、女子高生の仲間か! 会うのが楽しみになってきたよ。どんな子なんだ? 竜也さん!」
無邪気にはしゃぐ凱の背中に向かって、ブルー・フェニックス竜也は呆れたように肩をすくめ、それを見ていたグリーン・フェニックス烈はメットの奥の瞳をわずかに和ませながら苦笑いを浮かべる。
「おいおい凱、鼻の下を伸ばすなよ。学業と両立しながら過酷な訓練を積んでいる、立派な志を持った戦士なんだからな」
ブルー・フェニックス竜也が釘を刺す。
「分かってるって、竜也さん! でもさ、むさ苦しい男だらけの部隊に華が入るってだけでテンション上がるじゃない」
「ええと凱君、それって私のことを思いっきり無視していない?」
中央席に座るピンク・フェニックス桃香が思わず声を荒げる。
桃香の抗議に、凱がすかさず
「あっ、桃香さん、いやいや、女性一人に男三人じゃどうかなーって!」
と答える。
その凱の答えと底抜けて明るい笑顔に、ピンク・フェニックス桃香も思わず小さな微笑みを漏らしていた。
……………
かつて、陽菜という少女が存在し、やがて来るべき脅威へ立ち向かうために汗を流していた、ささやかでかけがえのない時間。
凱が語る「まだ見ぬ仲間への期待」は、当時のチームにとっても間違いなく希望の光そのものだったのだ。
………………
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華やかなシンデレラ城を遠くに望む、東京ディズニーランドの雑踏。
遠くから聞こえるパレードの賑やかな音楽と、楽しそうなゲストたちの歓声。
しばらくの間、夢の国特有の幸福な余韻に浸っていた四人だったが
ポップコーンの甘い香りと、パレードの賑やかな音楽が心地よく響くベンチで、回想から解き放たれた智花と翠は、手に持ったキャラクターのドリンクカップを傾けながら、しみじみと頷き合っていた。
「……なるほどね。そういう経緯があったんだ」
智花は、風にそよぐ髪をそっと手で押さえながら、隣に座る烈の方へと視線を向ける。
「じゃあ……その『空席だった5人目の席』に座るはずだった女子高生が、結局りりかだったというわけね」
翠も大きく頷き、凱の方へと視線を向けながら、手にしていたお土産袋を大事そうに抱え直した。
「うん、合点がいったわ! じゃあ、りりかが私たちにアルバイトを始めたからと言った、その時期が、ちょうど、正式にフェニックスのメンバーになった頃だったということか……凱さん、実際にりりかに会ってから面食らったんじゃない?イメージ違うって!!」
そう言って彼女はクスクス笑いをする。
だが、それを聞いた烈は
智花、翠、二人の完璧な「勘違い」を前にして、思わず声をあげそうになった。
(……違う。5人目のシートに座るはずだったのは、りりかちゃんじゃない。あの時にチグルマンに奪われ、そして殺された、陽菜ちゃんなんだ……)
真相を叫びそうになる喉を、だが烈は必死で押し殺す。
智花と翠は「陽菜がチグルマンの変異化忍にされ、そして死んだ」という事実は知っている。
しかし、そこに至るまでの経緯のすべてを知っているわけではない……
智花たちの無邪気で温かい誤解は、あまりにも残酷な真実から二人の心を護るための、優しくも切ない「盾」になっていた。
「えっ、あ、いや……それは……」
何かを言いかけ、そして冷や汗をかきながら口ごもってしまう。
その様子を見て不自然さを感じた智花は
「烈さん、なんでそんなに焦ってるの? もしかして私たちに何か隠してない?」
すかさず突っ込みを入れる。
烈は動揺し眼鏡のブリッジを指先で軽く押し上げると、どう答えようか迷う様子を見せていたが、ここで凱が素早く割り込んだ。
「ははは! いやさ、今ここでそういう話をしたら、ディズニーランドに行けなくて留守番させられている、激おこのりりかちゃんに『あたしのいない所で何話してんのよ!』って後で俺らが言われちゃうよ。だからそういう話は、今度りりかちゃんがいる時にあらためてにしようよ!」
そう言って、生真面目な烈を巧みにフォローする。
凱のこの発言に、翠も
「ふふっ、確かにりりかが聞いたら怒りそう! ……あ、ごめん、話の途中だけど私ちょっとお手洗い行ってきていい?ちょっとドリンク飲みすぎたかも……」
と、答える。
智花は納得いかないようだったが、翠にそう言われると、今はそれ以上突っ込むのもどうかなと思い直した。
「いいわよ翠、早く行ってきて」
そう答えた智花に向かって
「ごめんね~! すぐ戻るから先行ってて〜」
翠はそう言うとスマホと小さめのポーチだけを片手にひらひらと手を振るとベンチから軽やかに立ち上がる。
「気をつけてね、翠。あんまり離れないでよ?」
「はーい、大丈夫だって! 近くのレストルーム行ってくるだけだし!」
智花の心配を笑い飛ばしながら、翠は小走りで近くのレストルームへと向かっていった。
残された烈と凱、そして智花は、混雑する通路の脇で彼女が戻ってくるのを待つことにする。
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「ふぅ……あー、焦った。パレード始まる前に来れてよかったぁ」
レストルームを出たすぐの曲がり角。手鏡で前髪をさっと整え、スマホの画面に目を落としながら急ぎ足で通路へ戻ろうとした、その時だった。
「きゃっ……!?」
角を曲がった直後、対面から歩いてきた人物と激しく肩がぶつかる。
手にしていたスマホが危うく手元から滑り落ちそうになり、翠は慌てて体勢を立て直した。
「ご、ごめんなさい! 私、前ちゃんと見てなくて!!」
咄嗟に頭を下げて謝罪する翠。
ぶつかった相手は、上品そうな白地に黒の玉模様のワンピースを着た20代前半ほどの綺麗な女性だった。
落ち着いた雰囲気を纏い、どこか笑みを浮かべているようにも見える。
OLさんかな?
と思う翠。
「いいのよ。お嬢さん……私は、あなたを待っていたのだから」
そう言って女性はなおも笑みを浮かべながら翠に近づいてくる。
「え……?」
その女性の口から漏れ出た、不自然なほど冷ややかな声。
翠が違和感を覚えて顔を上げた瞬間には、すでに遅かった。
女性の右手が素早く伸び、甘い特異臭の漂う白いハンカチが、翠の口と鼻を隙間なく覆い尽くす。
「むぐっ……!? む、むぐっ……!!」
(な、に……これ……っ!?)
強烈な刺激臭が気道を襲い、視界がぐにゃりと歪む。
抵抗しようと腕を振り上げようとするが、腕に力が入らない。
ハンカチに染み込ませてあった強力な麻酔薬(クロロホルム誘導体)が、一瞬にして翠の意識を奪っていく。
抵抗の力は急速に抜け落ち、翠の瞳から光が消えた。
崩れ落ちそうになる華奢な身体を、女性は手慣れた動作で抱きかかえると、周囲のゲストの死角となる清掃員用の資材スペースへと素早く引きずり込む。
女性の耳元で、小さな金属音が微かに鳴った。
ワンピースの襟元に隠された超小型通信機に指を当て、女性は無機質な声で短く打ち打診する。
「……こちらチグルマン変異化工作部隊、女戦闘員05号。目標『西野翠』の捕獲に成功しました。……はい、フェニックスたちには気づかれていません。次の指示をお願いします」
通信機の向こうから漏れ聞こえるのは、冷酷な女司令官シノアヤメの嘲笑うような声だった。
「ふふっ、よし、05号。次の指示をする」
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夢の国の華やかなパレードの歓声と、楽し気な音楽が遠く響く地上。
その真下――地下数百メートルの暗鬱なる岩盤を穿って造られた、チグルマンの秘密前線基地。
薄暗い怪しげな光が揺らめく謁見の広場で、冷酷な笑みを浮かべたシノアヤメが、妖しい雰囲気を纏う魔道神官ガイマに向かって、皮肉を込めて口を開いた。
「フフフ……さすがは魔道神官ガイマ様。世界的なテーマパークであるディズニーランドの地下深くに、このような大層なアジトを建造されるとは……スケールが違いますわね」
網タイツに黒のロングブーツを響かせながら優雅に歩み寄るシノアヤメに、ガイマは不気味な杖を静かに叩きつけ、重々しい声で応える。
「ハハハ……シノアヤメよ、嘲るな。華やかな『夢の国』の真下にこそ、もっとも暗い死の影が潜む。灯台下暗しとはこのことよ。地上で浮かれる愚かな人間どもは、足元で自分たちの命を狙う悪魔が蠢いていることなど、夢にも思うまい」
シノアヤメは艶やかな唇を歪め、手にした雷光剣の柄を静かに指で撫でた。
「ええ、そのお蔭で、あの忌々しい不死鳥どもと……そして以前、陽菜が接触していたあの小娘どもを、まとめて一網打尽にするお誂え向きの舞台が整いましたわ」
「ふむ……それにしてもシノアヤメよ。不死鳥忍者部隊は情報管理を徹底しておるはず。奴らが今日、この舞浜の地へやって来ること……いかにして察知したのだ?」
ガイマの不穏な問いかけに、シノアヤメは楽しそうにクックッと喉を鳴らした。
「ふふふ……伊賀の忍者どもも甘いものですわ。不死鳥の戦士たちの情報は隠せても、彼らの周りにいる『ただの一般人』の端末や情報まで完璧に遮断することなど出来はしない……。特に、法やらプライバシーやらで自らの手を縛る組織なら、なおのこと」
シノアヤメの妖しい瞳が、地下基地のモニターに映し出された智花や翠のSNS画面、そしてネストの内部データを怪しく照らし出す。
「陽菜・ドクガリーナの遺した『道標』だけではない。ネストの中に潜む『協力者』からの報せは、いつも正確で助かりますわ」
「ほう……内通者か。陽菜の他にも、まだ牙を隠した我らの使徒がおるということか」
「ええ。ですが、この種明かしはまだ先のお楽しみ……。さあ、戦闘員05号が捕らえた哀れな雛鳥を、これから、どう料理して差し上げましょうか……」
夢の国の地下で、チグルマンたちの邪悪な嘲笑が静かに響き渡っていた。