「あーあー! 私だってディズニーランド行きたかったなぁっ!!」
フェニックス・ネストのメインコンソールに肘をつき、風祭りりかは分かりやすく頬を膨らませてぼやいていた。
「無理を言うなよ、りりか。僕たちの仕事は緊急事態に備え、平和を守ることだ。俺たちの『誓いの言葉』もそうだろう。万が一チグルマンが巨大戦を仕掛けてきた時、フェニックス・ガイオーを起動するには最低でも3人の適合者が必要だということを忘れちゃいけない、ということさ」
モニターのデータを確認しながら、ブルー・フェニックス葵竜也が穏やかな声で諭す。
その横から、ピンク・フェニックス鳳桃香が意地悪くも楽しそうに参考書をポンと叩いた。
「そうよ、りりか。遊んでばかりじゃダメ。さあ、今のうちに勉強、勉強!あなた、自分の意思で学校に残ったんでしょ」
「うぐっ……桃姉までそんなこと言って!あたしだってディズニーランド行きたかったわよ!!」
りりかが頭を抱えて机に突伏しかけた、その時だった――!
ピーーーッ!
ピーーーッ!
ピーーーッ!
作戦室全体に脈打つ赤い警告灯と、耳を刺す緊張感あふれるアラート音が響き渡る。
「……!? メインコンソール、舞浜エリアから緊急暗号通信!」
桃香の顔から瞬時に笑みが消え、目にも留まらぬ手つきでキーボードを叩き込む。
スピーカーからノイズと共に弾き出されたのは、激しい風切り音と烈の切迫した声だった。
『緊急事態! 舞浜・ディズニーランド周辺にチグルマンが出現! 翠さんが奴らに捕らわれた!桃香さん、ガイオーの出撃を! 』
「なっ……翠さんが!?」
そして、それを聞いた竜也が跳ね起きるようにモニターへ身を乗り出す。
りりかも参考書を弾き飛ばし、色を失った顔でコンソールを凝視した。
「烈君、無事なの!? 凱君は?それに智花さんは?」
桃香がインカムを握りしめ、通信へ叫び返す。
『凱さんが背中に敵の攻撃を食らった! 俺が変身して牽制しているが、敵は……くそっ!』
ザザーッ……! と激しいノイズが走り、通信が一方的に途絶する。
「烈くん! 烈くんっ! ……ダメ、電波が妨害されているわ!」
「冗談じゃないわ……翠も、智花もいるのよ!? 桃姉、ファイターを出して!」
りりかが半ば悲鳴のような声を張り上げる。
竜也も静かに、しかし激しい怒りを瞳に宿して桃香を見つめた。
「桃香、ガイオーの合体シークエンス準備を。俺たち3人で即座に出撃する!」
「ええ、分かっているわ! 2人とも、ポジションについて!」
緊迫した指令室で、3人の戦士たちの覚悟が一瞬でひとつに束ねられた。
「とりあえずグリーン・ファイターとシルバー・ファイターの無人運転の準備、ロック解除!!」
作戦室に桃香の力強い声が響いた。
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チグルマンの使役妖怪と対峙するグリーン・フェニックス烈とシルバー・フェニックス凱、そして避難し、それを後ろから見守る物陰から様子を見守っていた智花と、女戦闘員05号
その背後から響く重苦しく禍々しい声。
グリーン・フェニックス烈とシルバー・フェニックス凱が振り返った瞬間、海岸沿いの空間が歪むように黒い影が揺らめいた。
そして影の中から現れたのは、妖しい法衣を纏ったチグルマンの最高幹部の一人……魔道神官ガイマであった。
その左右から、朱色のアイマスクと髑髏のバックルを光らせたチグルマン男性戦闘員たちが十数名、影のように滑り出してグリーン・フェニックス烈とシルバー・フェニックス凱の二人を完璧に包囲する。
そして一人の戦闘員の手には、妖しい剣が握られ、その刃先は意識を失い青白く凍りついた翠の細い首元に突きつけられていた。
「ククク……動くなよ、不死鳥ども。……少しでも怪しい動きを見せれば、この娘の首が飛ぶぞ」
「なに……! ガイマッ!」
激昂し、思わず身構えるグリーン・フェニックス烈とシルバー・フェニックス凱。
だが、その一方でシルバー・フェニックス凱は背中の激痛に耐えながら、変身したメットの奥で冷徹に思考を巡らせる。
(チッ……ここで下手に暴れて翠ちゃんに万が一のことがあっちゃ元も子もない。……それに、こいつらの本拠地がどこにあるのか、案内してもらうのも悪くねぇ……)
そう考えると、横にいるグリーン・フェニックス烈の方へと視線を向ける。
グリーン・フェニックス烈もまた、同じ考えであると伝わってきた。
人質を確実に奪還し、チグルマンの地下基地を内部から叩き潰す。
「いいだろうガイマ、ならば僕たちはおとなしく投降することにする。だが、その代わり、ここにいる智花さんだけは逃がしてやってくれ!」
グリーン・フェニックス烈が指さした先、防波堤の陰から必死に二人を見つめていた智花へとガイマの視線が向けられる。
そして、その側で無抵抗そうな少女を拘束しようとさえしないでいる女戦闘員05号に対しても不快そうな視線を向けた。
しかし、智花は唇を強く噛み締めると、いきなり防波堤の影から飛び出すように走り出て、まっすぐにグリーン・フェニックス烈の元へと駆け寄ってきた。
「ダメよ、烈さん! 私だけ逃げるなんてできない……! 翠のことも心配だし、烈さんたちを置いて一人で逃げるなんて出来ません!」
「智花さん、ダメだ! 相手はチグルマンなんだぞ!?」
「分かってる……分かっているけれど、私も烈さんたちと一緒にいきます!」
智花の手は震えていた。だが、その瞳には強い決意が宿っている。
(烈さんから預かった、あの発信機もある……。私が一緒に行けば、絶対に二人と翠の役に立てるはず……!)
しかし智花はそれを口には出さなかった。
が、彼女のその決意を汲み取ったグリーン・フェニックス烈は、ガイマを強い眼光で睨み据えると、続けて言い放った。
「それから、もう一つ条件だ! その妖怪の魔力で生きた人形のようにされた翠さんも、俺たちと一緒に連れて行け! 彼女をこんな冷たい海岸に置き去りにはさせない!」
チグルマン使役妖怪海月坊主によって吊るされ、チグルマン男性戦闘員によって首元に剣を突きつけられている、今は意識を失ったままの翠を指差す。
「フハハハ! 死に体となった人質まで連れて行けだと? どこまでお人好しな奴らだ」
ガイマは冷笑しながらも、チラリと女戦闘員05号へ視線を向けた。
「ええい、構わん。女戦闘員05号! おまえがその娘を担いで運べ! 途中で手放してみろ、即座に処分するぞ」
無抵抗そうな少女にさえ手出しせずにいた女戦闘員05号に対する不快感をガイマは隠そうともしない。
「クエッー!……ハッ……分かりました!」
血の気の引いた顔で、海月坊主の毒液に凍りついた翠の体を不器用に抱え上げ、そして背負う女戦闘員05号。
そのすぐ横で、智花は胸を痛めながらも、05号と翠の姿をじっと見つめていた。
そしてガイマは
「海月坊主よ、お前はここで周囲を警戒し、フェニックスどものの増援が来れば叩き潰せ!」
使役妖怪に向かって命令する。
「ギエエエエーーッ!」
海月坊主は不気味な単眼を光らせ、旧江戸川の暗い海へと姿を消していった。
こうして変身を解かぬままのグリーン・フェニックス烈、シルバー・フェニックス凱、そして智花、さらには翠を担いだ女戦闘員05号は、チグルマン男性戦闘員たちに前後を厳重に囲まれ、舞浜の地下深くへと続く暗く無機質な地下アジトの通路へと連行されていくのだった。
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湿ったコンクリートと異様な薬品臭が漂う地下通路。
先頭を行くガイマの不気味な足音と、男性戦闘員たちの足並みが無情に響く。
地中アジトの奥深くに入ったところで
智花は静かに上着のポケットへ手を滑らせ、烈から渡されていた小型発信機を握りしめていた。
(烈さん、凱さん……今です……!)
智花は意を決すると、ポケットの中で発信機の『特殊周波数スイッチ』を強く押し込んだ!
ピィィィィィィーーーン……!!
人間には微かにしか聞こえない超高周波の電磁ノイズが、密閉された地下通路に爆発的に拡散する!
「ク、クエエーーッッ!?」
「クエッ、あ、頭が……頭が割れるっ!?」
改造人間であるチグルマン男性戦闘員たちは、頭部に埋め込まれた制御チップを狂わされ、両耳を押さえて激しくのた打ち回った。
「何だッ!? この電磁波は――!?」
ガイマも一瞬、手元に持つ魔道杖の制御を失い、苦悶に顔を歪める。
そして、その電磁波の影響は当然、後ろで翠を背負っていた女戦闘員05号にも直撃した。
「ク、クエエッーーー!?」
頭部を殴られたような激痛に視界が赤く染まり、女戦闘員05号の膝ががくぐりと折れかける。
(くっ、落とす……わけには……いかない……!)
チグルマンにおいて「失敗」は即ち「死」を意味する。
この小娘(翠)の確保という命題を果たせなければ、待っているのは冷酷な処分だけだ。
命令の絶対と死への恐怖だけが執念となって女戦闘員05号の身体を縛り付け、背中の重みを必死に支えさせていた。
だが、それを傍らで見ていた智花の目には、まったく違う光景として映っていた。
「あぶないっ……! もう無理しないで!」
激痛に耐えかねて崩れ落ちそうになりながらも、決して背中の翠を離そうとしない女戦闘員05号の姿を見て、智花は思わず飛び出し、その倒れかける身体を懸命に両腕で抱きとめた。
(どうして? 自分だって音波で苦しいはずなのに……どうしてこの人は、こんなに必死になって翠を守ろうとしてるの!?)
智花の胸を打ったのは、死の制裁による恐怖に怯える戦闘員の顔ではなく、『身を挺してでもを守ろうとする一人の人間の尊い姿』だった。
「大丈夫……大丈夫だから! もう一人で背負わなくていいよ……!」
智花の手から伝わってくるのは、敵意でも攻撃でもない、温かく切実な「保護」の温もり。
(な……ぜだ……? 私は……ただ、任務のために……失敗すれば消されるから、落とすまいとしているだけなのに……なぜこの娘は、そんな目『愛おしむような温かい目』で私を見る!?)
智花の錯覚が生んだ圧倒的な善意と温もりが、女戦闘員05号を縛り付けていた「チグルマンへの忠誠」という鎧を内側から劇的に打ち砕いていく……
その隙を、グリーンとシルバーが見逃すはずもなかった!
「今だ、凱さん!」
「おうよっ!」
混乱する戦闘員たちに対し、二人の戦士が躍り出る!
「フェニックス・グリーン・ブラストッ!」
グリーン・フェニックス烈の義手から放たれた近距離の光弾が、音波に苦しむ男性戦闘員たちを次々と薙ぎ払う!
さらにシルバー・フェニックス凱が俊敏な体捌きで男性戦闘員たちの懐へ飛び込むと、流れるような格闘術で戦闘員たちをコンクリートの壁面へと叩きつける。
「おのれ、小賢しい真似を……! だが、ここは我がアジトの領域! 」
ガイマはそこまで言ったところで一人の男性戦闘員から耳打ちされる。
「くそっ、こんな時に。いきなりフェニックス・ガイオーが出現しただと!」
憤懣やる方ない声で叫んだ彼は、その場にいる男性戦闘員たちに号令する。
「ええいっ!海月坊主の巨大化は私でなくては出来ぬ!今はこの場を離れるが、かかれ、不死鳥どもを生かして帰すな!」
形勢逆転と悟ったガイマは捨て台詞と共に煙のようにその場から姿を消す。
残された地下通路にはチグルマン戦闘員たちと、グリーン・フェニックス、シルバー・フェニックス、そして翠を背負ったままの女戦闘員05号と、それを支える智花
だが、戦いの帰趨は見えていた。
やがて激しい爆炎の余韻と、静寂だけが残される。
激しい戦闘の末、壁が崩れ落ちた薄暗い地下アジトには、冷たい静寂と立ち込める硝煙の匂いだけが残されていた。
足元には、力尽きて倒れたチグルマンの戦闘員たち。
その中でたった一人、壁に背をあずけ、息を荒げながら剣を持つ構えを解かない者がいた。
女戦闘員05号……
ぴったりとした漆黒の戦闘服に身を包んだ彼女は、胸を大きくさせながら、目の前に立つフェニックスの二人を強く睨みつけている。
その手にした剣を握る指先は、恐怖と疲労でかすかに震えていた。
「そこまでだ」
重厚な一歩を踏み出し、静かに前に出たのはシルバー・フェニックス凱だった。
冷徹にも見える鋭い眼光を05号に向けながら、しかしその声には余計な威嚇も、無駄な容赦も含まれていない。
「他の戦闘員はすべて倒した。これ以上の抵抗は無意味だ。剣を捨てろ。投降するんだ」
凱の圧倒的な威圧感を前に、女戦闘員05号はぐっと歯を食いしばる。
チグルマンという組織においては、捕虜になることは死以上の屈辱であり、裏切りと同義。叩き込まれた「敗北した者は抹殺される」という自覚が、彼女の足をその場に縛り付けていた。
「クエッ……殺しなさいよ。逃げも隠れもしないわ……!」
捨て身の強がりを言い放ち、剣をなおも構え直す女戦闘員05号
だが、その時。
「待って……! お願い、もう武器を引いて!」
シルバー・フェニックス凱の脇から、智花が声をあげる。
そして
「烈さん、少しの間翠のことをお願いします」
今は自分が支えていた生き人形のような状態の翠の体をグリーン・フェニックス烈に預けた智花は
自ら女戦闘員05号の前に飛び出してきた。
そして彼女は目の前の女戦闘員05号に向かってゆっくりと手を広げ、武器を持っていないことを示す。
その瞳には、敵に対する敵意など微塵もなく、ただ目の前で傷つき、追い詰められている相手への痛切な情が宿っていた。
「智花さん、下がるんだ。まだ危険だ」
意識のない翠を支えるグリーン・フェニックス烈が思わず叫ぶが
「大丈夫だから、烈さん。そして凱さん、お願い」
フェニックスたちの制止を制し、智花は一歩、また一歩と女戦闘員05号へ歩み寄る。
女戦闘員05号は動揺を隠せない。自分たちの敵であるはずの少女が、あまりにも無防備な顔で近づいてくるからだ。
「な、何なのよ……! 近寄らないで! 私はチグルマンの戦闘員よ! 容赦なんていらない……!」
「そんなこと言わないで!」
智花の声が、地下アジトの冷たい空間に響き渡った。
智花は女戦闘員05号の数歩手前で足を止め、まっすぐにあたたかい視線を投げかける。
「もう戦わなくていいの。あなたは……あなたたちは、ただ利用されていただけなんだよ」
「利用……? ふざけないで! 私は『チグルマン女戦闘員05号』! 組織の忠実な駒よ!」
自らを「駒」と呼ぶその言葉に、智花の胸が強く痛んだ。
記号のように番号で呼ばれ、人間としての尊厳すら奪われたまま、戦うことしか教えられてこなかった目の前の女性。
智花は小さく首を横に振ると、泣き出しそうな、けれど芯の通った強い声で言った。
「嫌……私、そんな呼び方したくない」
「……え?」
「『女戦闘員05号』なんて……そんな冷たい番号の呼び方したくないの!」
想定外の言葉に、女戦闘員05号の思考が瞬時にフリーズする。
殺されるか、尋問されるか、拘束されるか。そのどれでもない言葉が、敵の少女の口から発せられたのだ。
智花はぎゅっと胸の前で拳を握りしめ、溢れ出そうな思いを伝えるように言葉を続けた。
「あなたには、ちゃんと温かい心があるでしょう? 苦痛に耐えて、翠を守ろうとしてくれた……そんなの、ただの『駒』なんかじゃないよ。だから……私は貴女のことを『05号』なんて番号じゃなくて、ちゃんとした名前で呼びたいの!」
「名、前……?」
女戦闘員05号の頭の中に、巨大な疑問符が浮かぶ。
名前。自分を識別するためのコードなら「05」だ。それ以外の呼び名など、意識を持った時から一度も与えられたことがない。与えられるはずもなかった。
「私に……そんなもの、あるわけないでしょう……。私は05号よ。それ以上でも、それ以下でもないわ……」
戸惑いと、どこか自嘲めいた困惑を浮かべる女戦闘員05号。
だが、智花は諦めないように、優しく包み込むような微笑みを浮かべた。
「今はなくてもいい。これから見つければいいんだよ。だから……お願い。私たちと一緒に来て」
智花の手が、そっと差し出される。
硝煙の漂う暗闇の中で、その小さな手だけが、まるで眩しい光のように女戦闘員05号の目に映っていた。