ピンク・フェニックス、ブルー・フェニックス、イエロー・フェニックス、そして――たった今、コックピット入りしたグリーン・フェニックス烈、シルバー・フェニックス凱の二人。
それを確認した右下の席に座るブルー・フェニックス竜也が、それまで左下の席で操縦していたイエロー・フェニックスりりかに向かって声をかけた。
「りりか、ここまでサンキュー。二人とも来たから、こっちに来てくれ」
そう言って右上の操縦席を指す。
「うん、竜兄ちゃん!」
イエロー・フェニックスりりかは素早く右上の操縦席に移動し、そこに座り直した。
それを確認したグリーン・フェニックス烈とシルバー・フェニックス凱は、それぞれ左下、左上の席に座る。
「お待たせ!」
「お疲れさまです!!」
そして五人全員の搭乗により、ガイオーの胸の不死鳥エンブレムが眩しく輝く。これにより力が発動されるのだ。
それを確認したピンク・フェニックス桃香は、中央席の操縦桿を握ったまま叫ぶ。
「ピンク・フェニックス!」
続いて右下の席に座るブルー・フェニックス竜也。
「ブルーフェニックス!」
左下の席に座るグリーン・フェニックス烈が続く。
「グリーンフェニックス!」
左上の席に座るシルバー・フェニックス凱が、強い思いを込めて叫ぶ。
「シルバーあっ! フェニックスうっ!」
その独特の言い方で声を張り上げた。
最後に右上の操縦席についたイエロー・フェニックスりりかが叫んだ。
「イエロー・フェニックス!」
そしてサブパネルのレバーを押し込み、エネルギーを循環させる。この確認こそ、ガイオーが戦いの場に外界を遮断する結界を作るために必要なのだ。
全員の声を確認したピンク・フェニックス桃香は、中央席から大きな声で告げた。
「フェニックス・イマージョン・ゾーンッ!!」
言霊を呼び出したことにより、この空間にイマージョン・ゾーン――光の輪による不死鳥の結界が展開され、その中に約六十メートルもの巨体を持つ巨大獣となった海月坊主を封じ込める。
外界の被害を最小限とするために。
その様子を、地上に置き去りにされた格好のガイマが、魔導杖を振りかざしながら歯噛みして見ていた。
「くっそおっ! またしてもフェニックスの奴ら!」
だが、巨大獣・海月坊主は不死鳥の結界に閉じ込められてしまい、もはやガイマにも手出しすることはできなくなったのだ。
そして、その結界――イマージョン・ゾーンの中である。
「ギエエエエエッーーーー!!」
悲鳴のような雄叫びをあげる巨大獣・海月坊主。だが、その叫びは最早外界には届かない。
それを悟ると単眼を歪め、巨大な触手を蠢かせ、目の前のフェニックス・ガイオーに向けて口元から猛烈な暗緑色の粘液を噴射した!
ズシャァァァーーッ!!
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一方で、ここはガイオーの内部にある緊急避難者のための客室である。
智花と、意識を失い生き人形のような状態にされてしまった翠、そして女戦闘員05号はそこにいた。正面には操縦席の様子が窺えるモニターが取り付けられている。
その場所で、智花は女戦闘員05号と会話をしていた。
「……ということがあったの。あの時、烈さんがギリギリのところで飛び込んで来てくれなかったら……私は今頃洗脳され、記憶を消されて、あなたと同じ格好をして、誰かを襲うための兵器にされていた。いや、もうフェニックスの誰かに倒されて死んでいたかもしれない……」
智花は自らの胸元にそっと手を当て、微かに震える声で語り終えた。
その言葉を聞いた女戦闘員05号は、マスクの奥で息を呑み、言葉を失っていた。
「クエッ……っ……」
目の前にいる可憐で無防備な私服姿の女子高生。だが、彼女が語った恐怖は痛いほど伝わってくる。
その意識を持った時から過去の記憶を削られ――あったかどうかさえ分からず、感情を恐怖と服従で塗りつぶされ、名前ではなく「番号」で呼ばれる存在として作られた自分……。
「私はね、烈さんに救われたの。命だけじゃなくて、私の『心』を救ってもらったのよ。だから……」
智花は静かに女戦闘員05号に向き直ると、その手元へ自分の小さな手を重ねた。
「あの時、私を救ってくれた烈さんたちの優しさを、今度は私があなたに渡したい。チグルマンに作られた偽りの命じゃなくて、あなた自身の命を……生きてほしいの」
「私に……生きろというのか? 失敗し、組織を裏切り、帰る場所も行くあてもないこの私に……?」
女戦闘員05号の声が微かに震える。
「帰る場所なら、これから作ればいいわ! 烈さんも、凱さんも、桃香さん、竜也さん、りりか、翠だって意識を取り戻せば、きっと……皆、あなたの味方よ! ね、五号さん?」
「……だから、私は女戦闘員05号だ……っ!」
智花のまっすぐな言葉に耐えかねたように、女戦闘員05号は顔を背けた。だが、その拒絶の言葉とは裏腹に、重ねられた智花の温かい手から逃れようとはしなかった。
チグルマンの中で戦闘員として生まれ、テロ行為の道具としてしか扱われてこなかった彼女の胸に、智花の過去と温もりが、冷えた氷を溶かすように染み込んでいく。
(この娘も……私と同じように恐怖に怯え、私と同じチグルマン女戦闘員にされる寸前だったのだ……。それなのに、なぜこれほどまでに相手を慈しむことができる……?)
その時――。
ズガガガガァァァンッ!!!
ガイオーの巨躯全体を揺るがす凄まじい衝撃が客室を襲った! 地震のような激しい揺れに、壁の警告ランプが真っ赤に点滅を始める。
「きゃああっ!」
バランスを崩した智花が倒れそうになった瞬間――
ガシッッ!!
「クエッー……危ない!」
女戦闘員05号の手が咄嗟に伸び、智花の身体をしっかりと抱きとめていた。シートに横たわる意識不明の翠の身体も、女戦闘員05号は空いた方の腕でしっかりと押し留め、衝撃から庇い切っていた。
「……五号さん……!」
抱き起こされた智花が驚きと感動の混ざった瞳で見つめると、女戦闘員05号はハッと正気に戻り、気まずそうにその手を離した。
「……身体が、勝手に動いただけだ。勘違いするな」
マスクの奥で不器用に向きを変える女戦闘員05号。だが、その動作には先ほどまでの「チグルマンの戦闘員」としての殺気は微塵も残っていなかった。
その時、客室のモニターに操縦席のピンク・フェニックス桃香の緊迫した顔が映し出された。
『智花ちゃん、それに二人とも! 大丈夫!? 巨大獣と化した海月坊主が暴れまわってて、本格的な戦闘に入っているの! イマージョン・ゾーン(防護結界)を最大展開するから、衝撃に備えて!』
「桃香さん! 私たちは大丈夫です! 二人とも大丈夫です!」
智花が頼もしく答えると、モニターの左横で操縦桿を握るグリーン・フェニックス烈が画面越しに女戦闘員05号へと視線を向けた。
『五号さん……智花さんと翠さんを頼む。君がいてくれて助かった』
「……っ!」
敵であるはずの自分に対して、一切の疑いもなく「頼む」と言い切ったグリーン・フェニックス烈の言葉。女戦闘員05号は言葉を発することができず、ただ黙って強く頷くことしかできなかった。
重厚なハッチの向こうで、ガイオーの巨腕と海月坊主の触手が激突する凄まじい駆動音が響き渡る。外は、六十メートルの巨神と怪獣が激突する地獄のような戦場。
だが、このガイオーの内部で、智花と女戦闘員05号の心は、確かに一つの絆で結ばれようとしていた。
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「ギエエエエエッーーーー!!」
相変わらず、というより、もはや雄叫びをあげる事しか出来ない巨大獣・海月坊主。知性などはなく、ただ暴力という本能で動いているだけに過ぎないのだ。
こんな化け物を結界の外に出してしまったら、舞浜海岸や東京ディズニーランドはもちろん、その周囲もあっという間に壊滅させられてしまう。五人の心は一つになり、この巨大獣を倒すために精神を集中していた。
「ギエエエエエッーーーー!!」
巨大獣・海月坊主は大きな声で咆哮すると単眼を歪め、巨大な触手を蠢かせて、目の前のフェニックス・ガイオーに向けて口元から猛烈な暗緑色の粘液をまたしても噴射する!
ズシャァァァーーッ!!
だがフェニックス・ガイオーはその巨体に似合わぬ俊敏さを発揮し、左腕のシールドを掲げてこれを受け止めて見せる。
「ギエエエエエッーーーー!?」
毒液で敵を溶解するつもりだった巨大獣・海月坊主だが、何度やっても動じない相手を見て動揺したのか、叫び声にも戸惑いが感じられた。
「巨大獣・海月坊主!! その悪しき魂を浄化する!」
操縦席中央のピンク・フェニックス桃香が力強く宣言する。
フェニックス・ガイオーの両目がギラッと閃光を放ち、背部ユニットの翼の一部が分離。実体化した巨大な銀色の長剣が、ガイオーの右手に力強く握られた。
だが、ここで左下の席についたグリーン・フェニックス烈が操作パネルを叩き、緊急連絡を入れる!
「桃香さん、待ってください! さっき連れてきたチグルマンの戦闘員……彼女から聞いた情報があります! 一体化している巨大海月坊主の『一つ目の核』だけをピンポイントで破壊しないと、今、生き人形と化して昏睡状態にある翠さんを元に戻す『解凍の触手』まで一緒に消滅してしまうんです!」
「なんですって……!? それは、今、烈君や凱君たちが連れてきたあの女戦闘員が教えてくれたの!?」
ピンク・フェニックス桃香が一瞬驚きに目を見開くが、すぐにヘルメットの奥の瞳を鋭く引き締めた。
「分かったわ、烈君! 理由はどうあれ、翠さんを救うチャンスを逃すわけにはいかない! ターゲットを『一つ目の核』に集中ロックオン!」
右上の操縦席についたイエロー・フェニックスりりかが、精緻な照準システムを迅速に起動させる。
「単眼の中央、核の反応を補捉! 誤差、零点三ミリ!」
「よし、一気に決めるぞ!」
右下のブルー・フェニックス竜也と、左上のシルバー・フェニックス凱が同時にエネルギー出力レバーを限界まで押し込んだ。
ガイオーの胸部エンブレムから溢れ出た不死鳥の火炎エネルギーが右手の長剣へと収束し、白熱する炎の刃を形作っていく。
五人の心が一つになり、精神エネルギーが臨界点を突破した。
「必殺――フェニックス・グランド・インフェルノ・スナイプッ!!」
ガイオーが一歩踏み込み、閃光と化した剣先を、襲い来る巨大海月坊主の巨大な単眼の「核」目掛けて寸分狂わず一閃刺突!
ドスゥゥゥッ!!!
「ギ、ギエエエエエッーーーー!?」
凄まじい衝撃波とともに、精密に撃ち抜かれた単眼の核が砕け散り、その体内から眩い光を放つ青い触手状の結晶機関――『解凍の触手』が弾き飛ばされた!
「よし! 『解凍の触手』の分離を確認! ガイオー・マニピュレーター、回収!」
ブルー・フェニックス竜也の手鮮やかな操作により、ガイオーの左手が伸び、空中で光り輝く『解凍の触手』を優しくキャッチ。胸部ビームラインを通じて、瞬時に内部の客室へと転送された。
核を失った巨大獣・海月坊主は、絶叫とともに急速に細胞崩壊を起こし、その場で崩れ落ちていく。
そして、間髪を入れずガイオーは横一文字に剣を振り抜き、巨獣の残躯を一刀両断!
ズカアアァーーーンッ!!!
天を突く大爆発を起こし、海月坊主は今度こそ完全に消滅したのだった。
ガイオーと巨大獣・海月坊主との戦いは終わった。
一方、結界の外にいたガイマは
「くそっ、フェニックスども覚えてろ!!」
捨て台詞を残し、瞬間移動でその場から姿を消す。それを確認したかのように、フェニックス・ガイオーは結界イマージョン・ゾーンを解除した。
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転送光線とともに、客室のコンソール中央に青く光り輝く『解凍の触手』が送り込まれてくる。
「あ……! これが……!」
智花が息を呑むと、女戦闘員05号が立ち上がり、震える手でその『解凍の触手』を手に取った。
「クエッ……間違いない。これが海月坊主の『解凍の触手』だ……。これを対象の胸元にかざし、解凍の印を結べば……」
「五号さん、お願い!」
智花の叫びを受け、女戦闘員05号は深く頷くと、シートに横たわる翠の胸元にそっと光る触手をかざし、不器用ながらも必死に印を結んだ。
「解凍……受けよ……っ!」
瞬間、青く温かな光が翠の全身を包み込み、肌を覆っていた冷たい氷のような質感がスーッと消え去っていく。
「ん……っ……智花……私、一体……?」
長い眠りから醒めたように翠の瞼が静かに開き、その瞳に生きた光が戻った。
「翠……! 翠……っ!!」
智花は感極まって翠に抱きつき、大粒の涙を流して無事を喜ぶ。
その光景を静かに見守る女戦闘員05号。
(私が……チグルマンの戦闘員であるこの私が……人の命を救った……?)
自分の手で一つの命が救われたという現実に、彼女はマスクの奥でそっと自分の手を見つめ、何とも言えない温かな感情に包まれるのだった――。