記憶が想い出になったなら   作: 龍也/星河琉

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読んでいただきましてありがとうございます。今回は後編となります。よろしくお願いいたします。


#4 選んだ道の先に 〜後編〜

 

 次の日。今日の分の清掃を終え、定時を迎えて用務員室を出たるいは、気分転換に四ツ星学園敷地内にある展望台へと足を運んだ。山々や湖を一望できるそこは、るいのお気に入りスポットの1つだ。

 

「はぁ……」

 

 手すりに腕を乗せ、るいは溜息を落とす。昨日、四ツ星学園の新入生である少女……虹野(にじの)ゆめの悩みを聞き、自分の立場から伝えられることを伝えたつもりだったのだが、果たして本当に参考になる要素はあったのかと、事が済んでから言いようのない不安に苛まれていた。思い返してみれば、半分以上自分の話になっていなかったか? と。

 

「ぼくにできることって……そんなに多くないのかもしれない……」

 

 ゆめや他の生徒達の力になりたい気持ちは確かだし、これまでも何度も依頼を受けて、その度に他の生徒から感謝をもらっていたのだが、本当に力になりきれていただろうかと今更ながら思うこともある。なんでも屋だというのに、新入生1人の悩みすら満足に解決できていなかったかもしれないと思うと、不甲斐ない。

 

「こんなんじゃ、だめだなぁ……」

 

 ゆめの様子が気になるが、直接会いに行くのは少し違う気がするし、レッスンで忙しくしている可能性もあって尚更行きづらい。この行き場のないモヤモヤが、溜息として風に乗せられる。そうして下を向いたその時、背後から特有の足音が聞こえた。

 

 ひめが制服を着ている時にも、同じ音が響く。ヒールタイプのブーツが地面と接触する際の音だ。るいが振り向くよりも先に、足音の主はるいの右隣に立っていた。

 

「浮かない顔だね、るい」

 

「あ……如月(きさらぎ)さん!」

 

 青紫色の長髪を束ね、耳にはひし形のイヤリング。肩章のついた赤く煌びやかな制服を纏い、トパーズのような黄金色の瞳を持つ少女。名を如月ツバサ。四ツ星学園『鳥の(げき)組』のトップで、ひめと同じS4のメンバーである。

 

 ツバサは男子部トップ且つ『M4』のリーダー、結城(ゆうき)すばると同様にるいとは1年生の頃から面識があり、彼女も記憶を失ったるいのリハビリに貢献していた。ツバサとどのような間柄であったのか、るい自身は覚えていないが、彼の幼馴染のひめ曰く「何かとるいを気にかけている」とのことで、自分を大切に思ってくれているツバサにるいは感謝しており、尊敬の念も抱いている。

 

「何か嫌なことがあったり、落ち込んでいる時……君は決まってここに来る。相変わらずわかりやすい」

 

「あはは……お見通しですね……」

 

「私が1年生の頃からの付き合いだからな。そのくらいわかるよ」

 

「そう、なんですもんね。あ、如月さん。生徒会長就任、おめでとうございます! 言うのが遅れてしまい……ごめんなさい!」

 

 ツバサはこの春から『S4』になったと同時に学園の生徒会長も務めることになり、『S4』としての仕事や生徒会業務、更には学園の風紀が乱れていないか見回りで細かくチェックしており、いつ休んでいるのか聞きたくなるくらい毎日忙しなく動き回っている。るいから祝われ、ツバサは少し照れくさそうに笑う。

 

「ありがとう。祝いの言葉はいつもらっても嬉しいものだから、気にしないで。同い年なんだし、私相手にそんなにかしこまらなくていい」

 

「は、はい……! 如月さんは、どうしてここに?」

 

「昨日と同じように、台詞を入れに来たんだ。そうしたら、るいもここに来てた。奇遇だね」

 

 ツバサの両手には現在放送中の朝ドラマ、『CA物語』の台本が持たれており、台詞を覚える為にここで練習するつもりだったとるいに伝える。

 

「台本を……ぼく、お邪魔ですよね。すみません! 失礼しますっ!」

 

「待って、るい」

 

 ツバサの台本読みの邪魔になると思い、急いで階段を降りようとするるいをツバサが引き止める。

 

「せっかくだ。少し、話そう」

 

「お、お誘いは嬉しいですが、如月さんは台本読まなくちゃいけないですし……邪魔するわけには……」

 

「邪魔な訳ない。台詞を覚えるのは大事だが……るいと一緒に居る時間も、私にとっては同じくらい大事。さ、おいで」

 

 そう言ってツバサはるいを招くように手を伸ばす。るいはゆっくりと階段を数段登り、再度彼女の隣に立った。

 

「ありがとうございます……」

 

「まったく。以前から他人に気を遣いすぎるきらいがあったけど、記憶がなくなってからは特に顕著だ。もっと……気楽に接してほしいな」

 

「努力します……昔のぼくも、そうだったんですか?」

 

 るいがそう聞くと、ツバサは目を閉じて頷く。

 

「そうだな。自分のことよりも、他人を優先しがちだった。君のことだ、また誰かを思って悩んでいたんだろう?」

 

「はい……」

 

 閉じた瞼を片方開けながらツバサが問い、彼女に図星を突かれたるいはしゅんとする。ツバサは記憶を失くす以前のるいをよく知っており、彼の長所も短所も熟知している。故にるいが悩んでいる理由もなんとなく察していたし、本人がそうだと言った以上、放ってはおく訳にはいかない。

 

「一体、何があったんだ?」

 

 ツバサに聞かれたるいは、昨日の出来事を話してみることに決めた。

 

「昨日、新入生の虹野ゆめさんと話す機会がありまして」

 

「虹野か。S4の間でも、ちょっとした話題になっている。ひめも彼女を気に入ってるみたいだしな。その虹野がどうした?」

 

「虹野さんが今度の組決めオーディションで、自分が『花の(うた)組』を目指して良いのか悩んでいて……」

 

「あれは……そういうことだったのか」

 

 顎に手を当て、何か腑に落ちたように独り言を発するツバサ。

 

「如月さん?」

 

「あぁ、ごめん。続けてくれ」

 

「あっ、はい。虹野さんには『悩むのは悪いことじゃない』、『思いっきり悩んで、納得いく選択をしてほしい』と伝えたんですが……あれで、虹野さんのためになれたのかなって。それと、ぼくの身の上話も多くしてしまい……申し訳なくて……」

 

「なるほどね。るいは自分が虹野の役に立てたかどうかが心配で悩んでいた、といったところかな?」

 

「そうです。虹野さんの悩みに、ちゃんと寄り添えてたかどうか不安で……」

 

 言いながら、るいは悲しげに俯く。そんな彼の隣で、ツバサはふっ、と笑みを溢した。

 

「やっぱり優しいな、君は」

 

「えっ?」

 

 隣で優しく笑んだツバサに、るいは不思議そうに目を瞬せる。

 

「るいの言ったことは正しいと思う。でも……どうするかは虹野自身が決めること。君がそこまで気に病む必要はない。そういうのをいちいち気にしていたら、心が保たない。他者を(おもんぱか)るのは美徳だが、それで自分が辛くなってはダメだ」

 

 るいの助言は間違っていないが、自分がこれからどうするかを最終的に判断するのはゆめ本人なのだから、気にしすぎるのは良くないとツバサは伝える。

 

 彼は記憶を失う前も、何かに思い詰めて他者の苦しみや痛みまで背負いこもうとする悪癖があり、見ていてヒヤリとすることがあった。るいのように真っ直ぐに人を想えるのは素敵なことだけれど、他人思いすぎて心を病んでしまうのは元も子もない。そして、ツバサは今、るいの抱く心配が杞憂であるという確証を持っている。

 

「それに……るいの気持ちは、ちゃんと虹野に伝わってるはずだよ」

 

「え……?」

 

「さっき、虹野が元気にグラウンドを走っているのを見た。吹っ切れたのはるいの言葉のおかげか、それとも別の誰かから助言をもらったのか。どちらにせよ、君のアドバイスも確実に虹野の中で活きてるんじゃないかな。少なくとも、私はそう思う」

 

「じゃあ、虹野さんはもう……」

 

「うん。今は、思い詰めているようには見えなかった。私達は虹野を信じて、どんな選択をするか見届けよう」

 

「それなら、良かったです……! ぼく、虹野さんを応援します!」

 

「ああ。それが良い」

 

 安堵して肩の力を抜くるいを見て、ツバサは頬を緩ませた。立場は違えど彼も良い先輩になれているのだと感心し、人当たりの良いるいを、ゆめはきっと慕うようになるだろうなと思うと嬉しくなる。そう思えるのは、るいが四ツ星学園の用務員兼なんでも屋として日々努力し、自分で考えて歩んでいたからだ。その歩みを、ツバサはしっかりと見ている。

 

「るい。鳥はどうして飛べるか、知ってる?」

 

「えっと……羽があるから、ですか?」

 

 ある時、自分が同じ質問をされた際に返した言葉と似通った回答をしたるいに、ツバサは思わず目を細める。

 

「ふふっ。それもあるが、1番は……飛ぼうとする()()()()()()()だ」

 

 偶然、この近くを飛び回っている鳥に目を向けて、ツバサは続ける。

 

「どんなに大きく立派な羽があっても、自分から飛ぼうとしなければ意味を成さない。虹野は今……自分で選んで、自分の意思で空へ羽ばたこうとしている。それを見守るのが、私達先輩としての務めだと思う。まぁ、これは劇組の八千草(やちぐさ)桃子(ももこ)先生の受け売りなんだけどね」

 

「八千草さんの……」

 

 るいは脳内で八千草の顔と名前を一致させつつ、ツバサの方を見る。

 

「1年の頃、これからどうすべきか決めかねていた時……桃子先生が同じ質問をしてきてね。その時のことを、今でも昨日のことのように思い出せる。あの日の出来事があって、今の私が居る。とても、忘れられない」

 

 懐かしむような声音で、ツバサはるいにそう話す。

 

 ツバサは最初から鳥の劇組に所属していた訳ではなく、当初はゆめが目指している花の歌組に在籍していた。歌組でトップになることを目標に日々アイカツに励んでいたが、彼女の同期には組決めオーディションの時から周囲と一線を画す光を放っていた少女……白鳥(しらとり)ひめが居た。

 

 ひめは入学からたった数ヶ月で花の歌組のトップに上り詰め、歴代最速で『S4』の地位に就くという異例の快挙を成し遂げた。ひめとの埋まらない差を痛感したツバサは、『自分は歌組ではトップになれない』ことを悟り、どうすべきか迷っていた時……八千草から言われたのがその言葉だった。「鳥は飛ぼうとする意思があって初めて飛べる。自分なりの正解を追い求め、翼を広げて飛び続ける。それが、『鳥の劇組』だ」と。

 

 それを機に、自分がどこまで高みに行けるか挑戦する為、ツバサは鳥の劇組に組変えを行い、そこから2年の時を経て劇組のトップとなり、ひめと同じ『S4』の座を勝ち取ったのだ。

 

 その出来事を忘れられないと語るツバサに、るいは少し視線を落とす。自分にも、それと同じように忘れられない大切な記憶があったのだろうか。仮にあったとしても、過去のことを全て忘れてしまった故に振り返ることもできない。それが、るいにとって少し寂しい。

 

「良いですね! ぼくにも、そのくらい大切な記憶が……過去にあったんでしょうか。思い出すことは、できないんですけどね……」

 

 るいが作り笑いをしているのを、ツバサはすぐに気が付いた。彼は過去のことを一切思い出せない上に、そうする術も持っていない。今のは失言だったと自覚し、るいの方へ向き直る。

 

「……言葉を選ぶべきだった。ごめんね、るい……」

 

「いえ、全然! ぼくの方こそすみません、変なこと言って……」

 

「ううん。構わない。……過去を思い出せないのは、やっぱり辛い?」

 

 ツバサにそう聞かれたるいの表情が一瞬、固まる。以前よりは辛いと感じなくなったし、前を向けてもいる。だけれど、彼はその辛さや苦しさを0にできている訳ではなかった。

 

「今は平気ですが、たまに……辛くなる時があります。覚えていないことが、いっぱいありすぎて……」

 

 家族や友人等の自分と近しい人物のことも、自分自身のことさえも全て忘却している。彼が明るく前向きでいられるようになったのはツバサ達の尽力によるところが大きいが、るい自身が周りに心配をかけないようにする為にそうなろうとしたのも確かだった。他の人は覚えているのに、自分だけが皆との思い出を忘れていることがどれ程苦しく辛いものであるか、想像するまでもないだろう。

 

「過去に如月さんとどんなことを話したのか、どんな思い出があったのか……全部、忘れてしまってごめんなさい。皆さんに迷惑ばかりかけて……ごめんなさいっ……」

 

 ツバサに深く頭を下げたるいの目には、涙が浮かんでいた。先日すばると話した時も、口には出さなかったが密かに同じことを思っていた。

 

 過去にその人とどんな言葉を交わしたのか、内容の大小問わず全て忘れてしまった罪悪感は、今もずっとるいの心に渦巻いている。ツバサや皆に、リハビリの際にたくさん迷惑を掛けた。それなのにツバサは嫌な顔ひとつせず普通に接してくれる。それが嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちが同居している。現在も、周りの人に頼らなければ生きてゆけない自分が、不甲斐なくて仕方がないのだ。

 

 自身の心中を吐露したるいの肩を、ツバサがそっと掴む。

 

「顔を上げて。るい」

 

「如月、さん……」

 

「良いんだ。るいが今充実した生活をおくれているなら、それで。何も気にすることはない。前に言っただろう? 「何も覚えていないからこそ、なんでも覚えていける」と」

 

「はい。覚えています。今もずっとその言葉が……胸の中にあります」

 

 顔を上げたるいの目から、一筋の涙が伝う。ツバサから教わった言葉と、ポジティブシンキングの訓練が、彼の心を安定させる支柱となっていた。

 

「ちゃんと、覚えているじゃないか。記憶ならこれから作れば良い。ひめや夜空(よぞら)、ゆずに白銀(しろがね)、それに『M4』だって居る。もちろん、私も。君が過去を覚えていなくても……私や皆が覚えているから。いつでもるいに教えられる。大丈夫だ」

 

 ツバサはるいの後頭部に手を回し、優しく撫でる。彼の周りには『S4』や『M4』、その他たくさんの生徒が居る。記憶ならこれからいくらでも作っていける。るいは覚えていなくとも、自分や皆が彼との今までのことを覚えている。いつでも、その記憶を共有できる。るいが罪悪感を感じる必要はないと、彼を落ち着かせる為に回した手を上下に動かす。

 

「自分で過去を思い出せないのは辛いだろうけど……今ここに、るいが存在してることが1番大切なんだ。君が居る今も、その先の未来も。私達が保証する」

 

 ツバサの声音はいたって真剣だった。本心で紡がれた言葉なのはるい自身も分かっている。それでも、どうしても迷いは生じてしまう。自分が、そこまでされて良い存在なのかと。

 

「……ぼくは、与えられた役割しかできません。自分で選んだ道のはずなのに、ちゃんとできているか不安になります。こんな自分に……皆さんは良くしてくれて……ほんとに、このままでいいんでしょうか……」

 

「良いに決まっている。るいはいつも、頑張ってるじゃないか。君の努力も、他者への気配りも……皆わかってるよ。ちゃんと、見てるから」

 

「ほんと、ですか?」

 

「本当さ。これは持論だが……正しい道を選ぶのではなく、選んだ道を正解にするために頑張れば良い。そうすればいつの日か、この道を歩いて良かったと思える時が来る」

 

 人は、いつだって正しい道ばかりを歩いていける訳ではない。時に迷うし、自身の歩みに疑念を抱くことだってある。ツバサも、今までの行動や選択に『これで良かったのか』と考える時があった。

 

 しかし、いくら考えたところで時間は巻き戻せない。振り返ることはできても、過去を変えることはできない。ならば、歩んだ道やその時々の選択を『正しかった』と言えるように、自分を信じて努力するのが重要だとツバサは結論付けた。『演技』という、正解のない分野を学んできた彼女だからこそ言える言葉だった。

 

「るいだって、用務員になる選択をして今があるだろう? 違う道は他にもたくさんあっただろうに、四ツ星学園で働くことを選んだ。だから私は、君と出会えた。それが……嬉しい」

 

 ツバサの穏やかな笑みが、るいの心拍を上げていく。「出会えて嬉しい」。その一言が、彼の心に暖かく響く。

 

「ぼくも、如月さんと出会えて嬉しいです。こうして会えるのも、お話ができるのも……全部、嬉しくて……」

 

「私も……るいと同じ気持ちだよ。どんな悩みでも、些細なことでも良い。私でよければなんでも聞く。君は決して、独りじゃない。そのことを……忘れないでほしい」

 

 なんて、頼もしいんだろう。るいは心の中でそう呟く。

 

 記憶を失う前、ツバサと自分はどのような間柄であったのか、今は思い出せない。ツバサのみならず、他の『S4』や『M4』のメンバーともどんな関係だったかは分からない。けれど、ツバサや皆が側に居てくれるなら。こんな自分でも、良いと言ってくれるのなら。皆のことを思い出すのではなく、改めて知っていきたい。これから、新しい記憶をたくさん作っていく為に。るいは作業着の袖で目元を擦り、真っ直ぐツバサの方を向く。

 

「ありがとうございます。なくした記憶のことばかり気にしないで、『今』を大切にしたいと思います。如月さんや皆さんのこと、改めて知りたいです。……これからも、ぼくとお話してくれますか?」

 

 そよ風が、2人の髪を揺らす。彼の微かに潤んだ水色の瞳は、宝石のように綺麗で。ツバサは一瞬目を奪われる。

 

 るいが抱えている苦しみは、自分やひめ達が想像するよりとても大きなものだろう。それでも前を向いて、いつでも誰かの為にと笑う。なのに自分のことになると鈍感で後回しにしがちで、今されたお願いも「当たり前だ」と即答できるくらいの些細なものだった。

 

 だが、それが『星町(ほしまち)るい』の本質なのだ。記憶を失う前も後も、他者を想う気持ちを決して忘れない。その点だけは変わらずに居る彼だから、何かと世話を焼きたくなるし、側に居たいと心から思える。自分含め、『S4』の4人全員がるいを大切に思う理由がそこにある。彼のお願いに、ツバサが返す答えはただ1つ。

 

「もちろんだ。(なに)せ君と私は、友達なのだから」

 

 屈託のない笑みで、ツバサはそう答えてみせた。

 

「如月さん……!」

 

「るい。同じ四ツ星学園の仲間として、大切な友として。これからもよろしく頼む。いつだって……君の力になるから」

 

 るいに向けて発された言葉であるが、誓いの如く自分に言い聞かせているような口ぶりだった。彼はツバサにそう言われたことが純粋に嬉しく、顔を綻ばせる。

 

「如月さんが居てくれるなら、百人力です! これからも……色々とお世話になります! 如月さんっ!」

 

 ツバサのお陰でいつもの明るさを取り戻し、満面の笑みを見せたるい。無邪気に笑う彼の姿は、太陽のように他者を明るく照らす。いつまでも、その笑顔を見ていたいと思わせてくれる。「守りたい」という気持ちを揺るぎないものにしてくれる笑顔だ。ツバサもまた、柔らかく微笑を浮かべながら頷く。

 

「今日も、良い風が吹いているな」

 

 ツバサが髪を耳にかけ、耳朶に付けられたひし形のイヤリングが微かに音を立てて揺れる。

 

「そうですね! とっても、心地いいです!」

 

 正面から吹く柔らかな風を浴びながら、ツバサとるいは特に示し合わせることなく上を向いた。

 

 昼下がりの午後、雲1つない青々とした空がどこまでも広がっていたのだった。

 

 

 

 

 

 その数日後。学園の掲示板にて、ゆめが晴れて『花の歌組』所属となった旨が報じられ、るいが自分のことのように喜びを露わにしているのを目にし、遠くで笑みを溢した生徒会長の姿が在ったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人生には解決法なんかないんだ。
あるのは、前に進む力だけだ。
解決法は、後からついてくるものさ。
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