尾花栃栗毛のストライカー   作:ステイタキオン

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ゴルシワープ

 秋シーズンが始まり、競馬界がオルフェーヴルの三冠達成の瞬間を今か今かと待ちわびる、10月上旬。

 シャペウは、二戦目となる1勝クラスに挑み、見事に二勝目を挙げた。

 

 馬が最短距離を理解しているからといって、人間の決めた『競馬』という競技を理解しているわけではない。

 出遅れ癖、ラチを頼ろうとする斜行、そして先頭に立つとフッと集中を切らすソラ。

 和多騎手と須海調教師がそれらの課題を少しずつ修正しながら挑んだ二戦目だったが、やはりシャペウは直線で先頭に立った途端、あからさまにソラを使った。

 

 一瞬ヒヤリとさせたものの、後ろの馬が並びかけてくると再びギアを上げ、結果としては危なげのない着差での二連勝。

 粗削りながらも底知れない能力を示す愛馬の姿に、陣営は手応えを確信した。

 

 栗東トレセンに戻り、調教で少しずつ課題をこなしながら、シャペウの次走は二歳牝馬の頂点を決めるGⅠ――阪神ジュベナイルフィリーズに決定した。

 

 だが、二歳女王の座をかけた阪神ジュベナイルフィリーズのレース最中、シャペウの馬体に異変が発生した。

 最後の直線、自慢の末脚を繰り出そうとした瞬間、鞍上の和多がシャペウのわずかな歩様の乱れを察知した。並の騎手なら見過ごすほどの違和感。

 しかし和多は即座に追うのをやめ、シャペウを外ラチ側へと誘導して競走を中止させた。

 競馬場の診療所に運ばれ、緊迫した空気の中でレントゲン検査が行われた。下された診断は、右前脚の亀裂骨折。

 幸いにも、和多の迅速な判断による早期発見のおかげで、骨に僅かなヒビが入った程度で済んだ。

 致命傷は免れたものの、これで春のクラシックへ向けたローテーションは白紙に戻り、大きく変更せざるを得なくなった。

 

 無敗でGⅠへ挑んだ、黄金のたてがみを持つ快速牝馬のアクシデント。

 そのニュースは「和多騎手のファインプレー、シャペウ命拾い」の文字とともに、瞬く間に競馬界を駆け巡り、ファンを騒然とさせたのだった。

 

 

 そしてオルフェーヴルが三冠を達成し、有馬記念でも古馬を相手に猛威を振るい、時代を完全に掌握したまま年を超えた、2012年三月。

 舞台は阪神大賞典。

 

『余の覇道をその目で見て、未だに闘志を宿すか』

 

『生憎と、頑張っている妹がいるって聞いたんでね。兄として、情けない所は見せられないのさ』

 

 オルフェーヴル陣営は凱旋門賞をこの年の一大目標に据え、その始動戦として阪神大賞典を選択。レースでは単勝1.1倍という圧倒的な一番人気に支持された。

 その絶対王者に立ち向かうのは、リハビリ中のシャペウの半兄であるスイセイブルー。馬主こそ別だが、同じメイアルアから生まれたフジキセキ産駒の実力馬だ。

 クラシックではオルフェーヴル、ウインバリアシオンの後塵を拝し、ブロンズコレクターと甘んじていた彼だったが、天才騎手・奈瀬宝を背に、打倒・三冠馬の執念に燃えていた。

 

 しかし、レースは誰もが予想だにしない混沌(カオス)へと突き落とされる。

 2周目の向こう正面、突如としてオルフェーヴルが外側へ逸走し、ズルズルと失速。場内が悲鳴に包まれる中、スイセイブルーと奈瀬宝は一気に先頭を奪いに行く。

 だが、レースはそこで終わらなかった。完全にやる気をなくしたかに見えた三冠馬が、直線で再び信じられない加速を見せ、猛然と追い上げてきたのだ。

 

「オルフェが戻ってきよった!!」

 

 北原騎手が絶叫する。

 最後は地を這うような死闘の末、スイセイブルーが半馬身差で怪物の猛追を凌ぎきり、悲願の重賞初制覇を飾った。

 

『……池丸が悪い余』

 

『池丸さんのせいにするな。お前のポカだろ』

 

 歴史的大番狂わせのある意味主役となった三冠馬オルフェーヴルは、その後、JRAから平地調教再審査の処分を下されるのだった。

 

 

 一方その頃、クラシック初戦の皐月賞を目前に控えた同級生、ゴールドシップはというと……。

 

『あいつ(シャペウ)がいねえと、からかう奴がいなくてつまんねーな』

 

 ――お気に入りの遊び相手が不在で大人しくなっている……わけがなかった。

 栗東の厩舎で立ち上がり、怪獣のように咆哮し、カメラを向ければ変顔を繰り出し、なだめようとする厩務員の服をガブりと噛んで引き破る。相変わらずのやりたい放題で、須海厩舎のスタッフを別の意味で戦慄させていた。

 

 そんなゴルシのウザ絡みから物理的に解放されていたシャペウは、遥か遠く、福島の「馬の温泉」にいた。

 

 かぽん、と心地よい水音がリハビリ施設に響く。

 

『……良い湯だな~』

 

 窓の外の春の陽気を眺めながら、シャペウは首まで温かい温泉に浸かり、目を細めて至福の湯治を満喫していた。

 和多騎手や須海調教師が恋しい気持ちはあるものの、あの白いアイツがいない空間だけは、心底快適そのものだった。

 

 2012年4月15日。中山競馬場。

 クラシック初戦・皐月賞が開催された。

 

 この日の中山は、前日の雨で馬場状態が「不良」から「稍重」に回復したばかり。

 メインの皐月賞を迎える頃には、特に内回りコースの芝が多くの馬に踏み荒らされ、ボロボロになっていた。

 2014年夏に暗渠管の設置や砕石層導入を伴う路盤改造工事が行われるまでの中山競馬場は、中央10場の中でもワーストクラスの排水性の悪さで有名だった。

 特に内回りコースの四コーナー付近は、内外を一目見るだけで違いがわかるほどに芝が剥げ、まるで底なしの不良馬場のように荒れ果てていた。

 

 三コーナーから四コーナーへ。どの馬も足場の悪い最内を避け、外へ外へと進路を取って加速していく。大逃げを図ったゼロス、それを追うメイショウカドマツら各馬。

 この場面、最終コーナーを回る先頭集団を大きく映すTVカメラの奥に、泥まみれの不気味な灰色の馬が映り込んでいた。

 

 ゴールドシップだ。

 ただ一頭、他馬が恐れて避けた荒れ果てた最内へと突っ込み、まるでそこだけ異次元の近道(ショートカット)を決めるかのように、一気に順位を上げていく。

 

「ゼロスが先頭、ゼロス先頭! また差を詰めてメイショウカドマツ! ――あっ、その内からゴールドシップ上がってきた! ゴールドシップ! 200を切ってゴールドシップが先頭に替わる!」

 

 直線、泥を跳ね飛ばしながら異次元の末脚で突き抜けるその姿に、スタンドは唖然とした。

 

『なんか、あれ……? いつの間にか、あの灰色のやつが勝っとるやん……』




名前 スイセイブルー
毛色 黒鹿毛
性別 牡馬
父 フジキセキ
母 メイアルア
母父 サッカーボーイ
厩舎 池瀬厩舎
生産 水戸牧場
馬主 ホログラムプロダクション(芸能)の社長
トレセンでの日常
牝馬にモテるイケメン牡馬
牝馬と並走するとやる気を出すためホスト扱いされている
同じ厩舎のオルフェーヴルと仲良し
ホログラムプロダクションからテーマソングが打診されている
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