一番砲:
砲長兼小隊長: シルマ・フィリネル少尉
砲手: リヴェン伍長
第二砲手: カリーナ上等兵
装填手: フラーラ一等兵
二番砲:
砲長兼小隊軍曹:ヴァタネン軍曹
砲手: フッキ伍長
第二砲手: ナインエン一等兵
装填手: ネッタ一等兵
星暦八七六年 一一月二日
ファルマリア北方郊外、アンファングリア旅団第三騎兵連隊防御陣地にて
パパパパパァン!パパパパパパパァン!
連続する発砲音とともに、我々の周囲が断続的に明るくなる。
「オイ!この機関砲左右に撃ち薙げないのか!」
隣のヴァタネン軍曹の機関砲で、連隊本部からきた副連隊長が怒鳴っている。
うちのグラッドストン機関砲には左右に向きを変える機構がない。上下のみ。
左右方向にも調整する機構があるはずなのだが、私の隊に納入された奴にはなかった。
なので、向きを変えずに一方向を狙い続けるか、駐鍬をよいしょと持ち上げて、向きを変えるしかない。
どっちがいいかはわからなかったので、軍曹には向きを変える撃ち方を指示して、こっちは上下のみを調整する撃ち方をしていた。
そしたら、副連隊長が来ちゃった。そしてこっちにも向かってくる。怒られるかな?
「シルマ少尉!上下にずらすんだ!」
「はっ!了解です!」
二か月前に任官されたばかりの新米少尉としてできることは、元気よく返事をすることだけだ。
しかし、上下にずらしても着弾範囲は前後にしか変わらない。
現在のように敵が真正面から来るときは当然敵も横隊を形成している。広く横に展開するのだから、そこまで効果的ではないだろう。
どうしたものか。
こういう時は小隊軍曹を頼ろう。オークの教官もそう言ってた。
「リヴェン伍長!ちょっと適当に撃ってて!」
「…!?」
「がんばれ、レーラズを忘れるな!」
そう言って二番砲のもとに走る。
二番砲長のヴァタネン軍曹がうちの小隊軍曹だ。
「軍曹ぉ!どうしようか?」
「はっ、何がですが?」
今のは質問が曖昧過ぎた。
「あーー、つまり上下にずらすだけだと、あんまり広く狙えないでしょ!」
「そうであります」
「本当は左右に撃ち薙ぎたい」
「しかしそれは――」
パパパパパパトゥン!
グラッドストンの発砲音でヴァタネン軍曹の声がかき消される。
魔術通信に切り替えるか。
ヴァタネン軍曹の肩を抱き寄せて耳と耳で触れ合う。
エルフ族同士はこれで魔術通信波を飛ばさずに魔術通信ができる。
(こっちで話そう。つまり左右には撃ち薙げないけど、左右に狙いを変えやすくすることはできないかな?)
(うーんどうでしょう。砲車に左右を調整する機構がありませんから)
(でも上下だけずらせても着弾範囲がすんごく狭いだろ?精確すぎるっていうか。)
(固定を甘くしてみますか?反動で散らせるんです。駐鍬の食い込みを甘くして、固定用の杭も抜いてしまいましょう)
(え。それアリなの?)
(グラッドストンの砲車って57ミリの流用っぽいんですよ)
ヴァタネン軍曹がコツコツと足で駐鍬を指し示す。確かに訓練で使っていた57ミリ砲のそれと似ている気がする…
(砲弾を撃つレベルの固定は必要ないと)
(何なら固定する必要さえないかもしれません。所詮小銃弾ですし)
よし、それでいこう。
一番砲に戻り、装填手のフラーラ一等兵に駐杭を抜くように指示する。駐鍬も地面から抜いてしまえ。
改めてリヴェン伍長に射撃を指示する。距離600メートルの分隊規模の射撃隊形だ。
パパパパパパパパパパパパパパトゥン!
一マガジンも打ち切らないうちに、一個分隊のうちの半分が斃れてしまった。
「…ちょっとばらけすぎでは?」
リヴェン伍長は不満げだが、一人ずつを狙いなおすよりずっといい。
これなら、いけそうだ。
(小隊、各個に射撃!)
他の隊と混線しないように範囲を絞って魔術通信を出す。同時に私は駐鍬を待ちあげてもう一つの右の射撃隊形に向きを定める。
「目標、敵歩兵、距離、600メートル!」
砲の左側の第二砲手が撃ち切ったマガジンを外して足元に捨てる。
砲の右側にいる装填手が新しいマガジンをグラッドストンに挿す。
私が射撃指示を出して射撃開始。第二砲手がマガジンの保持を代わり、装填手は新しいマガジンを持って待機。
こうすることで、第二砲手の足下には空のマガジンが、装填手の足下には弾の入ったマガジンをまとめて置ける。
効率的な配置である。考えたのは第一騎兵連隊だけど。
こんな感じで射撃、修正、再装填を三回ほど繰り返したら、敵は逃げ始めていた。
うーん悪くない初陣だった!後は報告書にこの射撃法をまとめて――
(後続して敵部隊出現 歩兵500・騎兵50)
連隊本部からの魔術通信だ。数が多い。おかしいな、敵は斥候部隊だと聞いていたのだけれど。
まずは新しい弾倉を持ってこないと、長丁場になりそうだ。
(小隊、撃ち方やめ!)
また範囲を絞って魔術通信を出す。
「カリーナ上等兵とフラーラ一等兵は前車から弾倉をもってきて、全部!」
砲手以外の要員に弾倉をとりに行かせる。すでにグラッドストンの近くに持ってきた弾倉は使い切っていた。
二番砲の方を見ると、ヴァタネン軍曹も同じように弾倉をとりに行かせている。
こういうのを有能な小隊軍曹というんだろう。
さて、私は何をしよう?弾倉を取りいったカリーナ上等兵の代わりに挿している弾倉を押さえながら考える。
何気なくグラッドストンの銃身を見ると、銃身が赤熱している。冷やした方がよさそう
だ。
「リヴェン伍長、水筒貸してくれる?」
「…どうぞ」
ありがと、と言いながら水筒の中身を銃身にかける。すると――
ボウッ!
青白い炎が銃身を包んだ。
ああっ、
(一番砲、炎上!)
思わず魔術通信まで発してしまった。
どうしよう、とりあえず外套でバサバサするか?
慌てて外套をもってこようとしたところで、リヴェン伍長が別の水筒の水をかける。
じゅ~っという私が本来期待した音が鳴り、銃身の火が消えた。
「…そっちの水筒は火酒です。飲むかと思って…」
よく見たら伍長が渡したのはスキットル(ウイスキーとか入ってる金属製のやつ)だ!
「戦闘中にお酒を?蛮族じゃないか」
「…結構いますよ」
えっ?じゃあ氏族による文化の違いってヤツ?私がダークエルフとしては北部の平野の生まれだから?
ちょうど弾倉をとりに行った二人が戻ってきた。
「ねぇ、二人は今水筒にお酒って入れてる…?」
「…私物のね、私物」
リヴェン伍長が念を押す。そこは気にするのか…
「「イレテナイヨ(デス)」」
二人が持ってきた弾倉は、結局半分も撃ち切らなかった。
第二騎兵連隊が増援に来て、グラッドストン砲ごと第三騎兵連隊の配置も調整することになったのだ。
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西に後退した第三騎兵連隊は第二騎兵連隊と合同して、敵後衛への攻撃を行うことになった。
その射撃陣地への移動中、
「あそこですか?」
「いや、もうちょっと右」
「あそこで?」
「行き過ぎ、少し左」
「小隊長、目印がないのでわかりません」
「ちょっと待ってて」
私が移動場所として指定したのは、野っ原のど真ん中だった。確かにわかりづらい。
こういう時は古代魔術を使おう。初歩的な奴だ。
右手を腰に当てて、左手は人差し指と中指を伸ばす。
左ひじを垂直に曲げて指を空に向けた状態で
「ピン!」
と言いながら左手を振り下ろして狙いをつけた地面に向ける。
視界の中心がおすすめ。
そうすると、指を向けた場所が直径1メートルくらいの円状に光るのだ。
これが古代魔術の入門、
体の動きだけで発動でき、魔力消費がほぼゼロの魔術なので、考古魔術学科の入門講義でみんな使えるようになる。
現代でいえば化学の授業でスライムを作るようなものだ。
数秒で光は消えて、普通の地面に戻る。
「なんですか今の!?」
「さっすが魔術科卒!」
小隊の反応は悪くない。
「ふふ…
かっこいいでしょ。
「…なんの役に立つ魔術なんですか?」
伍長が困ったことを聞いてくる。
「なんの役にも立たない。いや今役に立ったかもしれないけど、つまり――
一般的な魔術である魔術通信や魔術探知は基本的に頭を使って使うものとされていて、みんな魔術を使うときは集中力を高めるためにじっとしてしまう。
しかし、古代以前の魔術では体の動きや言葉、リズムと合わせて頭を働かせるものとされている。つまり体全体で理解することが重要なのであり、それを初学者に肌感覚で理解させるために、
という話を長々としていたら――
ヒュッ…ドオォーン!
光らせた地面、つまり我々の移動目標の地点で爆発が起きた。
「全然危ないじゃないですか!」
「これで魔力消費ゼロ!?」
「違う私じゃないっ!こんなの知らない、聞いてない!」
なんだよ、さっきまで褒めてくれてたのに!
「小隊長、これは山砲の弾着です」
そういえば、うちの連隊には今57ミリ山砲が二門ついているはずだった。さすが小隊軍曹
(GS小隊よりV五小隊へ!今グリッド、ローターの〇二に撃ち込まなかったか?)
魔術通信で山砲小隊を呼び出す。
(こちらV五小隊、その通りである。なんか光ってたから撃った)
(その地点はGS小隊の移動目標である!)
(こちらV五、目標地点の脅威は排除した。そちらは移動可能である)
「最初から敵なんていないが?」
二番砲の砲手が愚痴る。その通りだが、射撃位置にはつかなければならない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
敵後方集団への攻撃では、私の小隊は1000~1500mでの射撃を行った。グラッドストンの射程としては遠い。
理想的には~800m以内くらいがよいのだが、これから騎兵と猟兵が行う進出と後退の繰り返しには追従できない懸念があった。
いくら四頭曳きの騎砲的な(要員全員が騎乗する)編成だとしても、放列への展開と撤収には時間がかかるのだ。
グラッドストンはどうしても防御向きの兵器である。
というのは連隊本部への建前で、本当の理由は西への撤退中にこんなことがあったからだ。
「…穴開いちゃいました」
「うわ、あぶなっ」
リヴェン伍長の水筒に穴が開いていた。
戦闘時は動きの邪魔になるものは地面に置いていたから、被弾したとすれば銃身についた火を消そうとしたときだ。
「水は大丈夫?」
「…こっちが」
伍長はスキットルの方を取り出す。ドヤっている。
「えっ!ずるい」
カリーナ上等兵がこっちを向いてうらやましがる。あっこれは…
「ちょっとこれ貸して」「あ!」
カリーナ上等兵の帽子をスポッ、と取って内側を指でなぞる。
ちょうど帽子のてっぺんの円形章の位置で指が突き出た。
その穴を覗き込むと逃走を続けるエルフィンド軍が見える。
「あ゛ーっあたしの帽子ぃ!」驚いてるカリーナ上等兵の顔も見える。
これはよくない。
とりあえず自分の体をまさぐるが、なんともなさそうだ。
フラーラ一等兵も大慌てで帽子をとって自分で確認している…が、
もし本当に「当たり」なら多分即死だぞ…
とりあえず今やるべきことは――
「軍曹ぉ!こっちで二人も被弾してた!次の射撃から距離をとるようにしよう!」
で、ヴァタネン軍曹がいい感じの言い訳↑を考えてくれたのだ。
「右よりーっ撃てーっ!」
遠距離での射撃ではほとんど曲射のような仰角で撃つので、砲兵式の統制射撃を行った。
もともと山砲での訓練を受けていたので、この撃ち方は慣れていた。
この時は固定もしっかりやった。
パパパン!
「…当たってますか?」
「遠弾だった。照準距離1000!右よりーっ撃てーっ!」
しかし照準距離を合わせるまでに8つも弾倉を使った。今思い出すと一番砲だけ撃たせて距離を出すべきだった。弾薬消費が半分になる。
しかし、距離を合わせた後はかなり当たった。
「おおおお?おおおおお!」
単眼鏡を持っているのが私だけなのが残念だ。ほかのみんなは射撃と装填で忙しい。
「小隊長」
北へ移動しようとする敵に西から敵を側射できたのもよかった。敵は必ず射線に出てこなければならず、射距離さえあえば当たった。
「小隊長?」
これだけ戦果を挙げることができれば、わが氏族の面子も保てそうだ。
「小隊長!」
「ん?どうしたの?弾詰まり?」
「弾倉を、使い切りました」
後編に続く