グラッドストンの弾倉を使い切った私の小隊は本部まで後退した。
第二連隊と第三連隊による敵背面への攻撃はまだ行われている。
もともと私の小隊は最後にグラッドストンを受領した部隊で、なんとあの「魔の十二日間」の間に受領したくらいにギリギリだった。
そこで機関砲自体は受領できたのだが、弾倉の数が定数の半分しかなかった。
第三連隊は最初に交戦を開始したのもあって、一連の襲撃運動の最初で弾倉を使い切ってしまったのだ。
私は装填済みの弾倉を探して補給所めぐりをしていた。
「ここに無いなら無いねぇ~」
エフィルディス大尉にそういわれる。旅団本部の補給所ならあるかと思ったのだが…
「連隊の補給所には行ったの?」
「行ったのですが、「ない、もういい?」と言われて」
忙しそうだったなあの人。
「あ、でもね、これあげる」
私は弾倉の代わりにコーヒーポットをもって小隊に戻る途中、恐ろしいものに出くわした。
ディネルース旅団長である。
「旅団長!おはようございます!」
「…」
一瞬で答礼されて通り過ぎていったが、冷や汗がどっと出る。
コミック版19話のような顔をしていた…重い、ドブのような怒りを感じる。
そしてすごく酒臭い!まさか酒飲みながら指揮してるわけじゃ…
振り返ってみると、旅団長はドでかい水筒でラッパ飲みをしていた。
なんてことだ、
伍長の言う通りみんな酒飲んで戦争してる!
小隊に戻るとみんなで弾倉に弾を装填していた。
小銃弾の名前をブツブツつぶやきながら一発ずつ弾込めをしている。
なぜか胸騒ぎのする光景だ。休憩にしよう。
皆で集まり、コーヒーと、いつの間にか配給されたパンを分ける。
何となくみんながこちらを見てくる。
「わかったよ、入れてもいいよ」
みんな安心したようにスキットルをとりだして火酒を入れ始める。旅団長があんだけ飲んでんだからいいだろ。
よし、じゃあ私も…
肋骨服の隠しポケットから小瓶を取り出し、中身をほんの少しだけコーヒーに入れた。
エリクシル剤だ。体力と気力が全快して、しかも素面のままでいられる。
そうしてカップを口に近づけたとき、皆の目線が私に向いていることに気づいた。
「それ…エリクシル剤…」
「ふふふ、これは上物でね…私の氏族が作ってた特産品なんだよ」
「「「…!」」」
なんだなんだそのヤク中を見るような目は。そっちは戦闘中に酒飲んでるくせに。
軍曹に至っては憐れむような眼を向けている。違う、私は戦争で追い込まれて使っているんじゃない!専門家だ!うちの氏族はこれで女王陛下に仕官するやつまで出したんだ。キャメロットに輸出するくらいの大手だったんだぞ!
全く…グビグビグビ…
あったかぁーい!やっぱりエリクシル剤はいい。午後二時から四時までたっぷり昼寝したような感覚になる!
小隊全員が私のことを何か恐ろしいものを見る目で見ていた。このタイミングで酒を飲む連中なのに。これ終ってからも多分戦闘はあるからね?
開戦前は、みんな非番の時にしか酒は飲んでいなかった。なのになぜこんな風に…
ああ、「あの場所」を通ってからだ。
休憩を終えて弾込めを再開すると、明らかに手際が良くなっていた。
しかし雰囲気は、あまり変わった気がしない。
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弾倉の装填は全部は終わらなかったが、連隊本部から移動命令が来た。
敵集団が崩壊しかかっており、わが連隊はこれを追撃、殲滅するつもりらしい。
私の小隊は、ある騎兵中隊に増強として配置されることになった。
その中隊は隣の第17山岳猟兵師団との連絡兼側面の哨兵を担当していたが、彼らが市街地突入のための展開を始めたので、本隊に合流するらしい。
合流地点はこの辺のはずだが…
「あぶなぁあああああい!!」
一騎の騎兵が急に我々の前に飛び出てきて急停止する。この騎兵は…
成年のダークエルフとしては低い身長、黒髪ロングのくせ毛、そして外套の代わりに自身の頭より大きい巨狼族の頭フード付きの毛皮。さらにそのフードの上に騎兵科の熊毛帽を載せている。
第3騎兵連隊第6中隊長、ベルグリル大尉だ。
「GS小隊!きさんらは今からわしの指揮下に入れ!追撃戦じゃ!ムフフフ!」
私はこの人が苦手だった。服装からして明らかに蛮族なのに、騎兵中隊を率いれるくらいには能力が高い。
努力して賢さを手に入れた女には辛い相手だ。
(騎兵第二、第三、第四中隊は猟兵大隊とともに下馬にて前進!)
(騎兵第五、六中隊は騎乗にて北へ進出し敵の退路を塞げ。殲滅だ!レーラズを忘れるな!)
フィンドル中佐の魔術通信が受信できた。なるほど第一中隊が予備だな。
各中隊長が了解の返信を送っていく。
(第六中隊、了解じゃ)
周りを見ると、いつの間にか集結していた騎兵がベルグリル大尉を中心に楔形隊形を形成している。
そこで私も左腕を横に突き出して第二機関砲隊を左に並ばせ、小隊で横列を形成した。
「そうじゃ少尉、それでよい」よかった合ってた。
だんだん馬のスピードが上がっている。この乗り物の優れているところは、周りの空気を読んでスピードを合わせてくれるところだ。
このスピードは速足(時速約12キロ)かな…
おもむろにベルグリル大尉が鞍の上に立ち上がり、双眼鏡であたりを見渡す。やがて何かを見つけたようで、サーベルを抜いてある方角を指した。
(右、10度修正)
のじゃ言葉がなくなっている。
大尉はシュタッとわずかに股を開いて鞍の上に滑り座る。それと同時に隊形のスピードが駈足(時速18キロ)になる。
大尉がこちらを向いて一言だけ「ゆくぞ、」と言った。
ここで私は違和感に気づいた。魔術探知を行うとまさに我々の前方に敵兵らしき反応がある。もし小隊規模なら一キロ先だ。
こいつ…!突撃をするつもりだ!
私は突撃をやりたくない、ちゃんと根拠がある。ヴァルターベルクで砲兵科から騎兵科への転換訓練を受けたとき、教官のダークエルフからこういわれていたのだ。
「一応突撃というものを教えておくが、おぬしらの技量ではまず無理じゃ。突撃は絶対に避けるのじゃぞ。」
うん?「のじゃ」…?
こいつだーっ!ベルグリル大尉が教官だーっ!
「大尉っ、大尉っ!突撃はするなって訓練で言ってましたよね!あなたが! これっ突撃っ、突撃ですよね!?」
「うむ!突撃じゃ、楽しみじゃの~少尉。ムフフフ!」
時計を見ながら大尉が答える。
「大丈夫、これはいい突撃じゃ!」
(だんちゃーーく、今!)
フゥン…ドドドドドドォ~ン!!!
魔術通信とともに、砲撃が前方の敵横列に着弾する。75ミリ野山砲だ。
「よく見ておれ少尉。これが諸兵科連合じゃ!」
そういうと大尉は片手にサーベル、片手に山刀を振り上げて「突撃ぃぃぃィ!」と叫ぶ。私の小隊と第6中隊の距離がみるみる離れてゆく。あ、置いてかれてる!畜生こっちは駈足までしか出せないのに!
第6中隊が敵とぶつかる。唸り声のようなものがした直後、何かが宙に舞い上がる。あれは…首か?
そして我々は敵の防衛線を突破した。
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ぐしゃっ!
変な音がしたと思ってみたら、敵兵の死体を轢いていた。悪いことした…
第六中隊は駈足に戻り、私の小隊と隊列を組みなおした。
一度突破するとそのあとは驚くほど簡単だった。敵兵はみんな北へ向けて走っていて、銃を持っている奴すらまばらだった。
中には裸足で走っている奴もいる。そんな連中を追い越し、踏みつぶし、時にはサーベルで切りつけながら第六中隊は進んでいた。
私の小隊はついていくので精一杯だった。
「裏崩れ、と言ってな…」
大尉がしゃべり始める。
「前衛が負け始めると、前を残して後ろが逃げ始めるのじゃ。今回はまず北側でそれが起きて、南側に伝染したんじゃろうな。」
なるほど第一連隊が敵を敗走させた結果、第二連隊と第三連隊の敵も逃げ始めたのか。
しかし…
「残った前衛はどうなるのですか?」
「わしらが轢き殺したじゃろ?ああなるのじゃ。残りも下馬騎兵と猟兵に狩られるじゃろうな。」
敵に突撃してから6キロほど北に進み、鉄道線を越えたあたりで第六中隊は展開した。
周りではまだ敵が逃げている。時々第6中隊の騎兵が発砲して仕留めていた。
森林線(森と草地の境目)と鉄道線との間に高さ2~3メートルほどの小高い丘があり、大尉曰く、この丘と森林線の間に敵兵は逃げ込んでくるはずということだった。
「西の高地に第一連隊が見えるじゃろ?あれから隠れるように丘の東側に入るはずじゃ。」
「森には入らないのですか?」
「森の中では素早く動けぬ。敵はできるだけ早く北に逃げたいからな。大多数はこの場所を通る。そこをおぬしのぐらっどすとん?で叩くのじゃ。」
大尉は森林線と丘の間のど真ん中にグラッドストンを配置する指示を出した。
ああ、そこはよろしくない。
「大尉、その場所は問題があります。射界が確保できません。」
「んぅ?」
私はグラッドストン機関砲が左右へは撃ち薙げないことと、集弾精度が高すぎて近距離では極めて細い空間に着弾が集中することを伝えた。
「欠陥兵器か!?誰がそんなもの装備させたのじゃ!」
「国王陛下の肝入りです。」
ふにゃぁ…という表情をしている。この人、こんな表情もするんだ…
「理想的にはこの空間を散布界に収めるために800mほど後ろに距離を…」
「それはだめじゃ。そこまで行くと第一連隊の管轄区域じゃ。向こうの流れ弾が当たるぞ」
「う~~ん…ではせめて左右に大きく広げましょう。斜めにする分射距離が伸びます。」
私は第二機関砲を森林線の際に、もう片方を丘の端っこに配置した。
そうして森林線と丘との距離がもっとも狭くなる箇所に狙いを定めた。射距離はそれぞれ200m。
この時、大尉は森に下馬騎兵二個小隊を配置して、残りの二個を騎乗で右翼に配した。そのさらに右翼南方には第5中隊がいたらしい。
つまり大尉は敵兵がグラッドストン砲小隊の前に追い込まれるような配置にしていたのだ。
しばらくすると、弱々しい魔術波とともに、敵が現れた。
敵といっても銃を持っている者すら稀で、大半は着の身着のままとぼとぼ歩いてきたところを、グラッドストンの一連射で倒された。
我々に気づいて強引に走り抜けようとする者もいたが、二方向からの連射を受けて文字通り千切れてしまった。
森に飛び込む者もいた。だがしばらくして森から断末魔が聞こえるだけだった。大尉が森にも兵を配置していたからだ。
唯一我々が撃たなかったのは、我々に気づいて引き返した者だ。グラッドストンの射線に入っていない者には、わざわざ向きを変えてまで撃たなかった。
なぜなら引き返した先では、本隊が追い上げてきているからだ。例えば第四中隊とか。
「意外と、来ませんね…」
敵は2~3千人はいるはずだが、ここには数分ごとに2~3人が来るだけだ。
「おかしいのう?地形的に絶対ここに流れてくるとおもったんじゃが…」
「途中で力尽きてしまったのでは?ブーツを脱いでいた敵もいました。あれではここまで来れないでしょう?」
「6キロくらい何とかできんかのう?スコル村の連中は、一日に80キロ走った後戦えるんじゃぞ?」
あの軍事エリート氏族と比べるのは無理があるだろう。
敵はあまり来なかったが、機関砲の配置は今日一番の出来だった。
散布界を広くとるために左右に広く離して配置したのだが、こうすると片方の機関砲が撃ち漏らした標的も、もう片方の射線に入り、撃ち漏らすことがなくなった。
本来小隊指揮としては、声が届く範囲に小隊をまとめておくべし、と教範には書かれているのだが…
エルフ族なのでそこは魔術通信でカバーだ。
問題は戦闘終了後、我々が排除した敵兵の護符を回収する過程で起きた。
私の部下の一人がいきなり敵の死体を蹴り始めて、挙句の果てに山刀で切り刻み始めたのだ。
「おいっ、やめろ!それは流石に駄目だ!」
私が止めに入ろうとすると、大尉に止められた。
「おぬしが動いてはならん、部下どもに止めさせろ。」
「…っ伍長ぉ、やめさせろ!軍曹も手伝え!」
結局四人がかりで動きを止めさせることができた。
「放せぇぇぇぇ!あいつっ、あいつがあたしの村の白銀樹をっ!こんなんじゃ足りない、
護符ごとばらばらにしてやるゥゥゥ!」
軍曹たちに引きはがされていく中で、こう叫んでいた。そうか、そりゃ虐殺の時に現場を見ていたやつもいるはずだ。
盲点だった。ファルマリアはダークエルフ居住地域に最も近い都市だ。あの虐殺の下手人たちもファルマリア駐屯の部隊に属することは十分に考えられた。
そりゃ逃げ出すよな。そしてこういうことになったのだ。
軍曹が報告に来た。
「あの敵は死んだふりをしていて、それに気づいてとどめを刺した、とのことです。」
私は黙って頷いた。最早これは氏族としての権利の話だ。氏族の白銀樹を切り倒した者への復讐の権利であり、義務でもある。
…私も十分蛮族なのかもしれない。
我々が展開してから1時間後、徒歩で追撃を行っていた本隊と合流した。
本隊が近づくにつれて、阿鼻叫喚が聞こえていた魔術通信は徐々に小さくなって行き、そして全く聞こえなくなった。
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我々が陣地を引き払って宿営地に向かう途中で、本隊が何をしたか十分に見ることができた。
やはり、大半は我々の陣地にたどり着くまえに本隊に追いつかれていたのだ。耳を切り取られている者もいる。
「うーむ…やはりまずいことになりそうじゃのう、これは」
大尉の言葉の「やはり」という点に私の疑問が凝集する。
「…もしかして、大尉は自分の隊がなるべく手を汚さぬように、大きく北に進出する機動をしたのですか?」
もしそうなら大尉は私が思っている以上に思慮深い女ということになる。
「昔っから騎兵突撃がしてみたくての。めったにないんじゃぞ~。突撃ができる機会!」
自分が思っているより単純な女ということになる。「ただ…」
「よくない空気は伝染りやすいものじゃ。距離をとった方が…よいときもあるのじゃ。」
「なるほど…」
やっぱり思慮深い。魔術通信に伴う感情の伝搬を肌感覚で理解している。
しばらく沈黙が続いてから、大尉がまた話しかけてきた。
「…少尉はレーラズはみたのじゃろう?」
「架橋後に渡河した組だったので、発見時にはいませんでしたが、一応」
「わしの中隊はの…レーラズの時に前衛中隊だったのじゃ。だから直接は現場をみれておらんのじゃ。」
前衛中隊は本隊より先行して偵察と警戒を行う隊だ。だからレーラズを素通りしてしまったのだろう。
「あれの前後で連隊の雰囲気が変わっておる。全員でやってしまったから、責任はノラ姉か、旅団長が問われしまうじゃろうなぁ…」
「大丈夫じゃないですか?この戦争は、ディネルース旅団長が国王陛下を唆して始めた戦争ですから。」
そうでなければ私たちの優遇具合と、戦争開始のタイミングに説明がつかない。と、思っていた。
その時、前方から我々のより一回り大きい馬に乗ったオーク族がやってきた。
エフィルデス大尉の肩の紐みたいな奴がついている。この臭い…葉巻か?階級は…少将!?
「「…!」」
慌てて二人で敬礼を行う。少将閣下はかるくオーク式の答礼を行うと、
「第三連隊で最も北に展開した隊はここか?」と聞いてきた。大尉の巨狼族の毛皮をジロリと見ている。
「ここでありますのじゃ。」
「役職と名前は?」
「第六騎兵中隊長、ベルグリル・ブロディネン大尉でありますのじゃ」
「グラッドストン機関砲小隊長、シルマ・フィリネル少尉であります。」
この少将閣下は我々の展開位置や他連隊の管轄との境界などを詳しく聞き始めた。
大尉がのじゃのじゃ言いながら地図も見せて説明しているが、この辺はランドマークに乏しくてわかりにくいようだ。
じゃあ私も手伝うことにしよう。
グラッドストン砲の砲車の片輪に片足ずつ登って仁王立ちのような姿勢をとる。
「あの丘の北側が我々の展開した場所で」ピン!
「あっちの高地が第一連隊が展開していた場所です、」ピンピン!
「で、この線が第一連隊と第三連隊の管轄の境界です!」ピンピンピンピンピン!
私は主だった地点を
「…大体少尉の光らせた場所であっておるのじゃ。」
少将閣下は私の指した方を眺めると何やら考えている。私何かやっちゃった?
「…大尉。シルマ少尉?のやった地面が光るやつ「
「いえ、小官は生まれて初めて見ましたのじゃ。少なくともエルフィンドの軍学校では教わらない魔術でありますのじゃ。」
少将がこちらに向く。
「シルマ少尉とやら。貴官はもしかして…「魔女」とかいうやつか?」
これ以来、私の連隊でのあだ名が魔女になってしまった。
第三連隊の魔女 初陣 ~(完)~
後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
コミック19話のグラッドストンがかっこよかったので、書いてみました。
後、点照魔術は、マルチプレイヤーゲームによくでてくる、「ピン」機能がモデルです。
やっぱり、ダークエルフといっても、中には白エルフ的な生活をしてたり、猟兵ではなく騎兵がやりたかった奴がいたら面白いんじゃないかと思ったのでこんなキャラにしました。
参考資料リンク:
「サンディフック射撃試験」https://dutchmuzzleloaders.nl/Beaumont%20Treffen_bestanden/45%2070%20at%20Two%20Miles%20%20The%20Sandy%20Hook%20Tests%20of%201879.pdf
「騎兵陣中必携」https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/6e/NDL915155_%E9%A8%8E%E5%85%B5%E9%99%A3%E4%B8%AD%E5%BF%85%E6%90%BA_part1.pdf