ウマ娘ONE PIECEダービー~黄金の浮沈船は大海原を駆ける~   作:武藤 桜

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第十二話「ドラム島編――雪国に住む青鼻のトナカイとマッドサイエンティスト」

1.航海士の判断

リトルガーデンを出航してから数日。

 

偉大なる航路を進むゴーイングメリー号の船内では、深刻な問題が発生していた。

 

「……うぅ……頭、痛い……」

 

船室のベッドに横たわるナミの額には、びっしょりと汗が浮かんでいた。顔色は悪く、呼吸も荒い。普段なら船内を飛び回るように動き回り、ルフィやゴールドシップが食料を食い尽くせば容赦なく拳を叩き込む彼女が、今は身体を起こすことすらままならない。

 

「ナミさん……!」

 

サンジが冷たいタオルを額に乗せる。

 

「熱が下がらない……! くそっ、医者がいれば……!」

 

「サンジ、ナミは大丈夫なのか?」

 

ルフィが心配そうに尋ねる。

 

「大丈夫なわけあるか! こんな高熱、放っておけるかよ!」

 

「だったら医者を探そう! どこかにいるだろ!」

 

「それが簡単に見つかりゃ苦労しねえんだよ!」

 

いつものように言い争いを始める二人。しかし、今回はどちらも声に張りがなかった。

 

その様子を見ていたビビは、唇を強く噛んだ。

 

彼女には、一刻も早くアラバスタへ向かわなければならない理由がある。

 

故郷では、クロコダイル率いる秘密犯罪会社バロックワークスが暗躍している。反乱の火種は日ごとに大きくなっているはずだった。自分が戻らなければ、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 

だが――。

 

「……進路を変更しましょう」

 

ビビは顔を上げ、仲間たちに告げた。

 

「アラバスタへ向かうのは後回しにします。まずはナミさんを治療できる医者を探しましょう!」

 

「ビビ……」

 

ウソップが驚いたように彼女を見る。

 

「いいのかよ? お前、急いで帰らなきゃいけないんだろ?」

 

「もちろん、心配です。今すぐにでも帰りたい……!」

 

ビビは胸元で拳を握りしめた。

 

「でも、ナミさんは私たちの仲間です。仲間が苦しんでいるのに、見捨てて故郷へ帰るなんてできません!」

 

「……へへっ。そうこなくっちゃな!」

 

ルフィが笑う。

 

「よし! ナミを治すぞ!」

 

「賛成だ! オグリも賛成だろ?」

 

ゴールドシップが振り向くと、オグリキャップは真剣な表情で頷いた。

 

「もちろんだ。ナミが元気にならなければ、みんなで食事をすることもできないからな」

 

「理由の半分くらいが食事じゃねえか!」

 

ウソップの突っ込みが飛ぶ。

 

「……でも、ナミのために進路変更するのは当然だよね」

 

トウカイテイオーも、ベッドのナミを心配そうに見つめた。

 

その隣では、ナカヤマフェスタが腕を組んでいた。

 

「故郷を救うために急いでるお姫様が、仲間のために遠回りか。……いい賭けじゃないか。どっちも諦めないってのは、難しいけどな」

 

「賭けじゃありません!」

 

ビビが即座に反論する。

 

「ははっ、そういうところも嫌いじゃないぜ」

 

フェスタは楽しそうに笑った。

 

こうして、一味はナミの治療を最優先にすることを決めた。

 

しかし、航海士のいない航海がどれほど危険なものなのか。

 

彼らは、間もなく思い知ることになる。

 

「ええと……次はこっちでいいんか?」

 

「いや、ゾロ。そっちに舵を切ったら、さっきの針路から大きく外れるで」

 

「……そうなのか?」

 

「そうや。あんた、ほんまに方向感覚ないんやな……」

 

甲板では、ゾロが舵を握り、タマモクロスがそばで指示を出していた。

 

二人とも、ミホークとの戦いで負った傷はまだ完全には癒えていない。それでも、船を動かさなければならない以上、できる範囲で仕事をしていた。

 

「タマモ、俺はちゃんと覚えてるぞ。こっちが東で、あっちが……」

 

「それ以上言うな。聞いてるこっちが不安になるわ」

 

「なんだと?」

 

「なんや、文句あるんか?」

 

「……いや、ない」

 

ゾロは不満そうに鼻を鳴らしながらも、タマモの指示に従って舵を動かした。

 

そのときだった。

 

「……みんな」

 

船室から、か細い声が聞こえた。

 

「ナミ!?」

 

ウソップが慌てて振り向く。

 

扉のところには、壁に手をつきながら立っているナミの姿があった。顔色は紙のように白く、足元もふらついている。

 

「おい、何やってんだ! 寝てろ!」

 

サンジが慌てて駆け寄ろうとするが、ナミは手を上げて制した。

 

「いいから……みんな、聞いて……!」

 

「ナミさん、無理しないで!」

 

「今、船が向かっている方角……そのままじゃ駄目……!」

 

彼女は荒い息を吐きながら、海の様子と針路を確認した。

 

「舵を……少し戻して……風を右舷から受けるように……帆も調整して……! そこから、針路を維持して……」

 

「お、おう……!」

 

ゾロが慌てて舵を動かす。

 

「タマモ、帆の調整や! みんなも言われた通りに動いて!」

 

「了解!」

 

テイオーとフェスタが帆の調整に走り、ウソップもロープを引く。

 

ナミはそれを確認すると、ようやく安堵したように息を吐いた。

 

「……これで、いい……。あとは……」

 

その瞬間、ナミの膝が崩れた。

 

「ナミ!!」

 

サンジが飛び込むようにして彼女を抱き留める。

 

「ナミさん! しっかりしてください!」

 

「おい! ナミ! 起きろ!」

 

ルフィが顔を覗き込むが、ナミは完全に気を失っていた。

 

「くそっ……! 無理しやがって……!」

 

サンジは彼女を抱き上げ、再び船室へ運ぼうとする。

 

そのとき――。

 

「……おい、あれを見ろ」

 

甲板の端にいたゾロが、海の彼方を指さした。

 

一同がそちらを見る。

 

先ほどまで船が向かっていた方向。その海面には、巨大な雲と渦を伴う恐ろしいサイクロンが発生していた。

 

「なっ……!?」

 

「うそやろ……あんなもんに突っ込んでたら、船ごと吹っ飛ばされてたで!」

 

タマモの顔から血の気が引く。

 

「ナミが……あの進路を変えたってことか?」

 

ウソップが呆然と呟いた。

 

ナミは、あの状態で船の進路を確認し、全員に的確な指示を出していたのだ。

 

「……すげえな」

 

ルフィが、眠るナミの方を見つめる。

 

「ナミがいなかったら、俺たち、あそこに突っ込んでたのか」

 

「笑い事じゃねえぞ、ルフィ!」

 

ウソップが怒鳴る。

 

「この海で航海士がいないってのが、どれだけ恐ろしいことか分かったか!?」

 

「……ああ」

 

ルフィは珍しく真面目な顔で頷いた。

 

「ナミは必要だ。絶対に治すぞ」

 

「当たり前だ!」

 

サンジは歯を食いしばる。

 

「ナミさんを治せる医者を、何が何でも見つけてやる……!」

 

ゴールドシップは、サイクロンを眺めながら深々と頷いた。

 

「いやあ、航海士ってすげえな。アタシなんて、船の進路どころか自分の進路すら分からねえ時があるぜ!」

 

「お前は少し自分の進路を考えろ!」

 

タマモの突っ込みが飛ぶ。

 

だが、誰もが同じことを理解していた。

 

ナミは、ただ地図を描く女ではない。

 

この一味が、この危険な海を渡っていくために欠かせない存在なのだ。

 

そして彼女を救うため、一味は次の島へ向けて船を進めた。

2.海の上の珍客――ブリキの王様

ナミの病状は、時間が経つほど悪化していった。

 

ゴーイングメリー号の船内では、サンジが看病を続け、オグリも食事を作っては様子を見に来ていた。しかし、高熱は下がらず、ナミは目を覚ます気配もない。

 

「……駄目だ。これ以上は、素人の俺たちじゃどうにもできねえ」

 

サンジは悔しそうに煙草をくわえた。

 

「医者のいる島を見つけるしかない。どんなに遠くてもな」

 

「だったら、見つけるまで探せばいいんだろ!」

 

ルフィは甲板に出ると、水平線を見渡した。

 

「おーい! 医者ー! どっかにいねえかー!」

 

「そんな呼びかけで見つかるわけないでしょ!」

 

ビビの突っ込みが響く。

 

「まあまあ、ビビ。ルフィらしいじゃねえか」

 

ゴールドシップは大きく伸びをした。

 

「よし、アタシもやるか! おーい! 医者ー! ついでに大金持ちも募集してるぞー!」

 

「余計な募集をするな!」

 

フェスタが呆れたように頭を抱えた。

 

そんな騒がしい一味の前方に、やがて奇妙な船影が現れた。

 

大砲を備えた船。甲板には、どこか威圧的な雰囲気を漂わせる男たちが立っている。

 

その船の中央には、王冠をかぶった大男がいた。

 

「むははははは! どけどけ! この海は偉大なるワポル様の通り道であるぞ!」

 

「……何だ、あいつ?」

 

ルフィが首を傾げた。

 

「船に乗ってるだけで、あんなに偉そうにできるんだね」

 

テイオーも不思議そうに眺める。

 

「偉そうというより、単に態度がでかいだけやろ」

 

タマモがばっさり切り捨てた。

 

その男――ワポルは、ゴーイングメリー号を見つけると、口を大きく開けた。

 

「おい! そこの船! 食料を寄越せ! 武器もだ! 逆らう奴は食ってやるぞ!」

 

「……は?」

 

サンジの眉間にしわが寄った。

 

「初対面の相手に食料を寄越せだと? ずいぶんと躾のなってねえ野郎だな」

 

「むはははは! ワポル様は王様だぞ! 貴様ら庶民に拒否権などない!」

 

「王様?」

 

ビビの表情が変わった。

 

「まさか……!」

 

その名前に心当たりがあるらしい彼女の反応を見て、ウソップが尋ねる。

 

「知ってるのか、ビビ?」

 

「ええ……ドラム王国の元国王、ワポル。かつて自分に従わない者を追放し、国中の医者を独占していた男よ」

 

「医者を独占だと?」

 

サンジの目つきが鋭くなった。

 

「ナミさんが苦しんでるって時に、医者を独占するような奴がいたのか……!」

 

「おい、そこの女!」

 

ワポルはビビを見つけると、下卑た笑みを浮かべた。

 

「何だ、俺様を知っているのか? ならば話は早い! 食料と金を差し出せ!」

 

「断るわ」

 

ビビは毅然と言い放った。

 

「あなたはもう、王様じゃないはずよ」

 

「なにィ!?」

 

ワポルの顔が怒りで歪む。

 

「小娘が……! 俺様を誰だと思っている!」

 

「自分のことを王様だと思い込んでる、ただの迷惑な大男だろ?」

 

ゴールドシップがあっさり言い放った。

 

「それと、アタシの船に食料を要求するなら、まずは正当な手続きを踏みな! 申請書三枚、印鑑二つ、あと面接だ!」

 

「何を言っているのだ貴様はァァァ!!」

 

「ゴルシ、挑発すんな!」

 

ウソップが叫ぶ。

 

しかし、ワポルはすでに怒り心頭だった。

 

「食ってやる! 全員まとめて食ってやるぞ!」

 

ワポルの口が大きく開き、身体が奇妙に変形する。

 

「バクバクの実の能力者か……!」

 

ビビが警戒する。

 

ワポルは船の一部を食べ、身体に取り込むことで、武器や機械のような形に変えることができる能力者だった。

 

「ふん! 俺様に逆らったことを後悔するがいい!」

 

ワポルが大砲を取り込もうとした、その瞬間。

 

「ゴムゴムの――!」

 

ルフィが腕を後ろへ引いた。

 

「バズーカ!!」

 

伸びた両腕がワポルの身体を直撃する。

 

「ぶべらァァァ!!」

 

ワポルは派手に吹っ飛び、自分の船の上を転がった。

 

「な、何ィ!?」

 

部下たちが慌てふためく。

 

「おいおい、王様ってのは、ずいぶんと簡単に飛んでいくもんだな!」

 

ゴールドシップが腹を抱えて笑った。

 

「よーし! アタシも一発――」

 

「もう敵は吹っ飛んだやろ! 余計なことすな!」

 

タマモがゴールドシップの襟首をつかむ。

 

ワポルたちは怒鳴り声を上げながら距離を取り、やがて海の彼方へと退いていった。

 

「ふん! 覚えていろ! このワポル様が、いつか必ず貴様らを食ってやる!」

 

「歯ぁ磨いて出直してこい!」

 

ゴールドシップが叫び返す。

 

「王様なら歯医者くらい自分で探せよー!」

 

「だから挑発するなっちゅうに!」

 

タマモの突っ込みが、波間に響いた。

 

だが、ワポルとの遭遇は、一味にある事実を改めて突きつけていた。

 

彼は、医者を独占していたドラム王国の元国王。

 

つまり、この海域には医者がいる可能性がある。

 

「……ドラム島へ行こう」

 

ビビが決意を込めて言った。

 

「ワポルが元国王だった島なら、医者がいるかもしれない。ナミさんを助けるためにも、そこへ向かいましょう!」

 

「決まりだな!」

 

ルフィが頷いた。

 

こうしてゴーイングメリー号は、雪に覆われた島――ドラム島を目指すことになった。

3.雪の国、ドラム島

やがて水平線の向こうに、白い山々が姿を現した。

 

島の中央には、天を突くような巨大な山がそびえ立っている。山肌は雪に覆われ、周囲には凍えるような冷気が漂っていた。

 

「うわぁ……寒そう!」

 

テイオーが肩をすくめる。

 

「こりゃ、冬のトレーニングにちょうどいいな!」

 

「テイオー、今はトレーニングの話をしてる場合じゃないでしょ」

 

フェスタが苦笑した。

 

「ナミさんの容態が心配だ。早く医者を見つけないと」

 

オグリも心配そうに船室を振り返る。

 

船が島に近づいた、そのときだった。

 

「止まれェェェ!!」

 

岸から怒鳴り声が飛んできた。

 

雪の上には武装した男たちが並び、こちらへ銃を向けている。

 

「何だ?」

 

ルフィが首を傾げる。

 

「この島に上陸することは許さん! さっさと立ち去れ!」

 

「おいおい、いきなりそれかよ!」

 

ウソップが叫んだ。

 

「こっちは病人がいるんだぞ! 医者に診てもらいたいだけだ!」

 

「知ったことか! 余所者は出ていけ!」

 

男たちは一歩も譲らない。

 

ビビは船の縁に立ち、彼らに向かって声を張り上げた。

 

「お願いします! 私たちの仲間が重い病気にかかっているんです! どうか医者を紹介してください!」

 

「黙れ! これ以上近づけば撃つぞ!」

 

銃声が響いた。

 

弾丸がビビの頬をかすめ、皮膚に赤い筋を残す。

 

「ビビ!!」

 

ウソップが叫んだ。

 

「てめェ……!」

 

ルフィの顔から笑みが消えた。

 

彼は岸へ飛び移ろうとする。

 

「ぶっ飛ばしてやる!!」

 

「待って!」

 

ビビがルフィの前に立ちはだかった。

 

「ビビ、どけ!」

 

「駄目よ、ルフィ! 今ここで争っていたら、ナミさんを助けられない!」

 

「でも、あいつらがビビを撃ったんだぞ!」

 

「分かってる! でも、お願い……!」

 

ビビは唇を噛みしめた。

 

故郷を救うために旅をしている自分が、ここで仲間の治療を諦めるわけにはいかない。

 

しかし、仲間のために頭を下げることを、ためらうつもりもなかった。

 

ビビは岸に向かって深く頭を下げた。

 

「お願いします! 私たちは、ただ仲間を助けたいだけなんです!」

 

そして――。

 

「俺も頼む!!」

 

ルフィまで、勢いよく頭を下げた。

 

「ナミを助けてくれ!!」

 

「ルフィ……!」

 

ビビが驚いて顔を上げる。

 

「お、俺も……!」

 

ウソップも慌てて頭を下げた。

 

「そうだ! 今は意地を張ってる場合じゃねえ!」

 

サンジはナミを抱えたまま、険しい表情で岸の男たちを見つめていた。

 

「ナミさんを助けられるなら、俺だって頭くらい下げてやる……!」

 

「……分かった」

 

武装した男たちの中から、一人の男が前へ出た。

 

大柄で、落ち着いた雰囲気を持つ男だった。

 

「俺はドルトン。この島の警備を担当している」

 

彼はビビの頬の傷を見て、わずかに表情を曇らせた。

 

「……すまない。余所者に対して厳しくせざるを得ない事情があるんだ」

 

「では……!」

 

「だが、医者を探しているのなら話は別だ」

 

ドルトンは、雪に覆われた巨大な山を見上げた。

 

「この島で医者を名乗れる者は、今や一人しかいない」

 

「一人……?」

 

「ドラム山の頂上にある城。そこに住む女医、ドクター・くれはだ」

 

「山の頂上……!」

 

一同は山を見上げた。

 

雲の上まで続くような険しい山道。しかも、周囲は雪と氷に覆われている。

 

「そんなところに医者がいるのか!?」

 

ウソップが目を見開く。

 

「いる。だが、普通の人間が簡単に会える相手ではない」

 

ドルトンは険しい表情を浮かべた。

 

「彼女は気まぐれで、気に入らない相手には容赦しない。だが、この島で重い病を治せる可能性があるのは、彼女だけだ」

 

「……行くしかないな」

 

ルフィは迷わず言った。

 

「ナミを助ける!」

 

「待ってくれ、ルフィ。山へ向かうなら準備が必要だ。今のナミさんの容態では、時間もない」

 

サンジがナミの顔を見つめる。

 

「……くそっ。こんな寒い場所で、あの身体を連れ回すなんて……!」

 

「それでも、ここに置いておくわけにはいかない」

 

ビビは頬の傷を拭い、強く頷いた。

 

「ルフィさん、サンジさん。ナミさんをお願いします」

 

「おう!」

 

「任せろ。必ず助けてみせる」

 

ルフィとサンジは、ナミを連れて山へ向かうことを決めた。

 

一方、船を守る者も必要だった。

 

「よし、船番は俺たちに任せろ」

 

ゾロが腕を組む。

 

「俺とタマモ、それからカルーが残る」

 

「クワッ!」

 

カルーが元気よく返事をした。

 

「ちょっと待てや。なんであたしまで船番なんや?」

 

タマモがゾロを睨む。

 

「お前は俺より方向感覚があるだろ」

 

「船番に方向感覚がどない関係あんねん!」

 

「船を動かすことになったら必要だろ」

 

「……まあ、そらそうやけど!」

 

タマモは言い返しかけて、結局黙った。

 

ゾロは満足げに頷く。

 

「よし、決まりだ」

 

「全然納得いかへん……!」

 

こうしてゾロ、タマモ、カルーがゴーイングメリー号に残り、ルフィ、サンジ、ウソップ、ビビ、テイオー、フェスタ、オグリ、ゴールドシップが上陸することになった。

 

ただし、全員が同じ場所へ向かうわけではない。

 

「ドクター・くれはが隣町に現れた、という話もある」

 

ドルトンが教えてくれた。

 

「山へ向かう前に、町で彼女の情報を集めるといいだろう」

 

「なら、俺たちが町へ行く!」

 

ウソップが手を挙げた。

 

「ビビとテイオー、フェスタ、オグリも一緒に来てくれ。医者の居場所を調べるんだ!」

 

「分かった!」

 

テイオーが頷く。

 

「私はナミさんのために、できることを探すよ」

 

オグリも力強く答えた。

 

「私はルフィさんたちと山へ向かいます」

 

ビビは一度ナミを振り返り、ルフィたちとともに歩き出した。

 

「急ぎましょう。ナミさんの時間は、限られているんですから……!」

4.ドルトンが語る、かつての王国

一行が山へ向かう準備を整えている間、ドルトンは残った者たちに島の事情を話し始めた。

 

「……ワポルは、かつてこの国の王だった」

 

彼の声には、深い怒りと悲しみが込められていた。

 

「自分の利益しか考えず、国民を苦しめた男だ。特に医者に対する扱いはひどかった」

 

「医者を独占していたっていうのは、本当なのか?」

 

ウソップが尋ねる。

 

「ああ。ワポルは、国中の医者を自分の手元に置こうとした。逆らう医者は追放し、国民が自由に治療を受けられないようにしたんだ」

 

「……最低だな」

 

テイオーが顔をしかめた。

 

「病気の人を助けるためにいるのが医者なのに、自分のために囲い込むなんて……」

 

「その通りだ」

 

ドルトンは頷いた。

 

「この国には、かつて多くの優秀な医者がいた。だが、ワポルのせいで国を去った者も少なくない。今ではドクター・くれはが、ほとんど唯一の希望になっている」

 

「そのくれはって人は、そんなにすごい医者なのか?」

 

ウソップが聞いた。

 

「腕は確かだ。だが、気難しい。彼女に助けを求めるなら、それなりの覚悟が必要だろう」

 

「覚悟ならできてる」

 

ルフィが即答する。

 

「ナミを助けてくれるなら、どんな奴にだって頼む!」

 

ゴールドシップも拳を握った。

 

「そうそう! 医者が気難しいなら、アタシが笑わせてやる!」

 

「頼むから余計なことはするなよ……」

 

サンジが頭を抱えた。

 

「お前が何かやらかしたら、ナミさんの治療どころじゃなくなるだろうが!」

 

「失礼な。アタシは真面目な時は真面目だぞ」

 

「その『真面目な時』がいつなのか分からねえんだよ!」

 

いつものやり取りが飛び交う。

 

だが、ナミの容態が悪化している事実は変わらない。

 

一刻も早く山を登らなければならなかった。

 

「……行こう」

 

ルフィがナミを抱え直す。

 

「待ってろよ、ナミ。すぐに医者のところへ連れてってやるからな」

 

その背中を見送りながら、ドルトンは小さく呟いた。

 

「……あの男たちなら、あるいは……」

 

彼の脳裏には、かつての王国を取り戻したいという願いがあった。

 

しかし、その願いを口にする前に、島に新たな脅威が迫っていた。

5.ワポル、帰還

ドラム島の海岸に、一隻の船が姿を現した。

 

甲板に立っていたのは、先ほどルフィたちに撃退されたワポルだった。

 

「むはははは! 戻ってきたぞ、我が王国よ!」

 

ワポルは大口を開けて笑った。

 

「俺様を追い出したことを後悔させてやる! この島は、再び俺様のものだ!」

 

「ワポル……!」

 

ドルトンの表情が険しくなる。

 

「お前は……まだ懲りていなかったのか!」

 

「ドルトン! 裏切り者め! 俺様に逆らった罪、今こそ償わせてやる!」

 

ワポルは部下たちに命じた。

 

「行け! 邪魔者を蹴散らせ! 俺様の王国を取り戻すのだ!」

 

銃声が響き、雪の町はたちまち戦場と化した。

 

ドルトンは住民を守るため、武器を手に立ち上がる。

 

「皆、避難しろ! ここは俺が食い止める!」

 

「ドルトンさん!」

 

「構うな! 国民を守るのが、俺の役目だ!」

 

彼はワポルの部下たちへと突進した。

 

その頃、ルフィたちはドラム山へ向かっていた。

 

ナミを抱えたルフィ、先頭を走るゴールドシップ、後方を警戒するサンジ。彼らは一歩でも早く山の頂上へ辿り着こうとしていた。

 

しかし、雪山は彼らを簡単には通してくれなかった。

6.巨大ウサギの群れ――ラパーン

「……ん?」

 

雪原を進んでいたルフィが足を止めた。

 

前方に、奇妙な影がいくつも見える。

 

大きな耳。丸い身体。雪の上を跳ね回る姿。

 

一見すると、巨大なウサギのようだった。

 

「ウサギだ!」

 

ルフィが声を上げる。

 

「でっけえな! あれ、食えるかな?」

 

「今は食い物の話をしてる場合じゃねえだろ!」

 

サンジが怒鳴った。

 

だが、ウサギたちは可愛らしい見た目とは裏腹に、明らかにこちらを敵と認識していた。

 

「……あれ、普通のウサギじゃないよね?」

 

ゴールドシップが目を細める。

 

「うむ。体格が異常だ。筋肉も発達している。雪山に適応した大型の動物……と考えるべきか」

 

オグリが真面目に分析する。

 

そのとき、巨大ウサギの一匹が雪を蹴り、猛烈な勢いで突進してきた。

 

「うおっ!?」

 

ルフィはナミを抱えたまま跳び退く。

 

「こいつら、ラパーンだ!」

 

サンジが叫んだ。

 

「群れで襲ってくるぞ! 気をつけろ!」

 

ラパーンたちは次々に襲いかかってきた。

 

「邪魔だぁぁぁ!」

 

ゴールドシップが金属製の棍棒を振り回す。

 

「ゴルシ式・恐竜ホームラン!!」

 

棍棒がラパーンの身体を捉え、雪原の向こうへ吹き飛ばした。

 

「ウサギに恐竜の名前をつけるな!」

 

サンジが蹴りで別のラパーンを押し返す。

 

「だが、こいつら……ただの獣じゃないぞ!」

 

ラパーンたちは一匹が倒されても怯まず、群れで連携して攻めてきた。雪面を走り回り、横から飛びかかり、足元を狙ってくる。

 

「くそっ、ナミを抱えたままじゃ思うように動けねえ!」

 

ルフィはナミをかばいながら、ラパーンの攻撃を避け続けた。

 

「ルフィ、ナミさんを頼む! ここは俺が引き受ける!」

 

サンジが前へ出る。

 

「蹴りで道を開く! ゴールドシップ、右を頼む!」

 

「任せな!」

 

ゴールドシップは棍棒を肩に担ぎ、ラパーンの群れへと飛び込んだ。

 

「ゴルシ式・黄金バット!!」

 

振り抜かれた棍棒が雪煙を巻き上げ、ラパーンたちをまとめて吹き飛ばす。

 

「よし、突破――」

 

その瞬間。

 

ラパーンたちが一斉に雪山の斜面へと走り出した。

 

「……何だ?」

 

サンジが眉をひそめる。

 

次の瞬間、山の上から轟音が響いた。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ――!!

 

「まさか……!」

 

サンジの顔色が変わった。

 

「雪崩だァァァ!!」

 

巨大な雪の塊が、山肌を削りながら迫ってきた。

 

ラパーンたちは、群れで雪を蹴り、雪崩を誘発したのだ。

 

「おいおいおいおい! 冗談だろォォォ!?」

 

ゴールドシップが叫ぶ。

 

「逃げるぞ! 全員、走れ!」

 

サンジが叫んだが、ナミを抱えたルフィは簡単には動けない。

 

「くそっ……!」

 

サンジは一瞬で判断した。

 

「ルフィ! ナミさんを絶対に離すな! 俺が道を作る!」

 

彼はルフィたちの前へ飛び出し、迫り来る雪を避けようとする。

 

しかし、雪崩の勢いは凄まじかった。

 

「サンジ!!」

 

ルフィが叫ぶ。

 

サンジはナミたちをかばうように身体を動かしたものの、雪の塊に巻き込まれ、激しく斜面を転がっていった。

 

「サンジーッ!!」

 

ゴールドシップも雪崩に呑み込まれ、視界が真っ白に染まる。

 

「くっ……! ナミ……!」

 

ルフィはナミを抱きしめ、身体を丸めた。

 

雪と氷が全身を打ちつける。

 

それでも、ルフィはナミを離さなかった。

 

やがて、轟音が遠ざかり、山は再び静寂に包まれた。

 

雪に埋もれたルフィは、しばらくして顔を出した。

 

「……ぷはっ!」

 

腕の中には、ナミがいる。

 

「……よかった……」

 

ルフィは安堵したように息を吐いた。

 

だが、サンジとゴールドシップの姿が見えない。

 

「おーい! サンジー! ゴールドシップー!」

 

返事はない。

 

ルフィはナミを抱え直し、再び山頂を目指した。

 

「……待ってろよ、ナミ。絶対、医者のところへ連れていくからな」

7.雪原の往復ビンタ

その頃、別の場所では――。

 

「……う、うう……」

 

雪に埋もれていたウソップが、ようやく目を覚ましかけていた。

 

「さ、寒い……! 死ぬ……! 俺はこんなところで死ぬ男じゃ……」

 

バチィィン!!

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

強烈な往復ビンタが、ウソップの頬を左右から襲った。

 

「起きなさいっ!!」

 

「び、ビビ!?」

 

目の前には、鬼のような形相をしたビビが立っていた。

 

その隣では、テイオーとフェスタが呆れた顔をしている。

 

「まったく! 雪崩に巻き込まれたくらいで寝てるんじゃないわよ!」

 

「いやいやいや! くらいでって何だよ!? 雪崩だぞ、雪崩! 普通なら全員死んでてもおかしくねえだろ!」

 

「でも、ウソップは生きてるじゃない」

 

テイオーがにこやかに言った。

 

「だから起きて!」

 

「理屈がおかしいだろォォォ!」

 

ウソップは頭を抱えた。

 

「くそっ……ルフィたちはどうなった!? ナミは!?」

 

「ルフィたちは山の方へ向かったみたい」

 

フェスタが周囲を見渡す。

 

「サンジとゴールドシップの姿は見えない。雪崩に巻き込まれた可能性が高いな」

 

「そんな……!」

 

ウソップの顔が青ざめる。

 

「早く探さないと……!」

 

「その前に、私たちも安全な場所へ移動しないと駄目よ」

 

ビビは厳しい表情で言った。

 

「雪崩がまた起きるかもしれないんだから」

 

「……分かったよ」

 

ウソップは渋々立ち上がった。

 

一行は、雪に覆われた山麓を慎重に歩き始めた。

 

そして、しばらく進んだところで――。

 

「……ん?」

 

フェスタが足を止めた。

 

前方に、奇妙な人影が見えた。

 

上半身裸の男が、雪の降る中を堂々と歩いている。

 

しかも、妙に落ち着いた足取りで、寒さなど気にしていない様子だった。

 

「……あれ、ゾロじゃない?」

 

テイオーが目を凝らす。

 

「……ほんまや」

 

タマモクロスも、いつの間にかそこにいた。

 

「いや、なんであいつ上半身裸やねん!?」

 

ゾロは彼女たちに気づくと、何事もなかったかのように振り返った。

 

「おう。お前らか」

 

「おう、やないわ!」

 

タマモが叫ぶ。

 

「船番してたんちゃうんか!? なんで雪山を上半身裸で歩いとるんや!」

 

「精神修行だ」

 

「何の精神修行やねん!!」

 

「寒さに耐える修行だ。これくらいで身体を縮こまらせていたら、強くなれないからな」

 

「いや、寒さに耐える前に服着ろや!」

 

タマモは頭を抱えた。

 

「しかも船番はどうしたんや!」

 

「……あ」

 

ゾロが、初めて何かを思い出したように目を見開く。

 

「そうだった。船に戻るつもりだったんだが……」

 

「道に迷ったんやろ!?」

 

「……まあな」

 

「認めるなァァァ!!」

 

タマモの怒声が雪原に響き渡った。

 

カルーも一緒に来ていたらしく、ゾロの後ろで「クワッ、クワッ!」と鳴いている。

 

「とにかく、ゾロが無事でよかったよ」

 

ビビが苦笑した。

 

「でも、ルフィさんたちが心配だわ。サンジさんやゴールドシップさんも見つかっていないし……」

 

「……そうか」

 

ゾロの表情が引き締まった。

 

「なら、急いで探すぞ」

 

「せやな。今はあんたの迷子癖に付き合っとる場合やない」

 

タマモは刀の柄に手を添えた。

 

「ナミを助けるんや。全員で無事に帰るで!」

 

「おう!」

 

一行は、再び歩き始めた。

8.ワポルの部下たちと、寒さに震える剣士

一方、雪崩に巻き込まれたドルトンは、負傷した身体を引きずりながら町へ戻ろうとしていた。

 

彼はワポルの部下たちとの戦闘で傷を負い、さらに雪崩の直撃を受けていた。身体は思うように動かず、足取りもふらついている。

 

それでも、彼は住民たちのことを案じていた。

 

「……皆は……無事か……」

 

その前に、ワポルの部下たちが立ちはだかった。

 

「おやおや、ドルトンじゃないか」

 

「ずいぶんと情けない姿になったな!」

 

彼らは倒れかけたドルトンを見下ろし、嘲笑った。

 

「ワポル様に逆らった罰だ! ここで野垂れ死ぬがいい!」

 

「……くっ……!」

 

ドルトンは立ち上がろうとしたが、身体が言うことを聞かない。

 

部下たちは、彼を助けるどころか見捨てて通り過ぎようとした。

 

その瞬間。

 

「……おい」

 

低い声が響いた。

 

ワポルの部下たちが振り向くと、そこには上半身裸のゾロが立っていた。

 

「何だ、貴様?」

 

「そいつを見殺しにするつもりか?」

 

ゾロはドルトンを一瞥し、再び男たちを見た。

 

「……まあ、敵だってんなら話は早い」

 

ゾロは、寒さでわずかに震えながらも、口元に笑みを浮かべた。

 

「ちょうどいい。身体を温めさせてもらうぜ」

 

「は?」

 

次の瞬間、ゾロの拳が男の顔面にめり込んだ。

 

「ぐわっ!?」

 

「な、何をする!」

 

「敵なんだろ?」

 

ゾロは平然と言い放った。

 

「だったら、遠慮はいらねえな」

 

男たちが一斉に襲いかかる。

 

しかし、ゾロは刀を抜くまでもなかった。

 

拳が飛ぶ。

 

蹴りが決まる。

 

一人、また一人と、ワポルの部下たちは雪の上に倒れていった。

 

「寒いんだよ、こっちは」

 

ゾロは最後の男を殴り飛ばすと、倒れた男のコートを剥ぎ取った。

 

「……これ、借りるぞ」

 

「か、返せ……!」

 

「嫌だ」

 

ゾロは即答し、奪ったコートを羽織った。

 

「ふう……これで少しはマシになったな」

 

「お前……!」

 

倒れた男が怒鳴ろうとしたが、ゾロは一瞥しただけで黙らせた。

 

「まだやるか?」

 

「ひっ……!」

 

部下たちは、這うようにして逃げていった。

 

ゾロはその背中を見送り、ドルトンへ向き直った。

 

「立てるか?」

 

「……ああ。助かった」

 

ドルトンは苦しそうに息を吐きながら、ゾロを見上げた。

 

「お前たちは……あの海賊たちの仲間か?」

 

「そうだ。俺たちは、仲間を助けるためにこの島へ来た」

 

ゾロは、ナミのいる方角を見た。

 

「……だから、邪魔する奴はぶっ飛ばす。それだけだ」

 

その言葉に、ドルトンはわずかに目を見開いた。

 

「……そうか」

 

彼はゆっくりと立ち上がる。

 

「ならば、急げ。山の頂上には、ドクター・くれはがいる」

 

「分かってる」

 

ゾロは頷いた。

 

「俺たちも、すぐに追いつく」

 

その後、ゾロはドルトンとともに村へ戻ることになった。

 

そして、そこで待ち受けていたのは、さらなる騒動だった。

9.村での再会、そして雪山への再出発

村へ戻ったゾロとドルトンは、ワポルの部下たちが住民を脅している場面に遭遇した。

 

「ワポル様に逆らう者は、全員処刑だ!」

 

「この島は、再びワポル様のものになる!」

 

「……またかよ」

 

ゾロは呆れたように息を吐いた。

 

「さっきの連中といい、ずいぶんとしつこいな」

 

彼はコートの襟を直すと、ゆっくりと前へ出た。

 

「おい。まだ殴られ足りねえのか?」

 

「き、貴様は……!」

 

部下たちが一斉に武器を構える。

 

しかし、ゾロは怯まなかった。

 

「悪いが、こっちは急いでるんだ。まとめて来い」

 

その言葉を合図に、男たちが襲いかかった。

 

ゾロは最小限の動きで攻撃をかわし、拳と蹴りを叩き込んでいく。

 

「一人……二人……三人……」

 

倒れた人数を数えるように呟きながら、彼は次々と敵を片付けていった。

 

「……よし、終わりだ」

 

最後の一人が雪の上に倒れる。

 

「寒いし、早く服を着直して船に戻りてえな……」

 

「いや、今度こそ山へ向かうんやろ!」

 

そこへ、ビビたちが駆けつけた。

 

「ゾロ! 無事だったのね!」

 

「おう。お前らも無事だったか」

 

「無事やないわ! あんたのせいでどんだけ心配したと思っとるんや!」

 

タマモが怒鳴る。

 

「船番してたはずやのに、なんで敵のコート着て村におるねん!」

 

「寒かったからだ」

 

「理由になっとらん!」

 

そのやり取りに、ウソップは頭を抱えた。

 

「くそっ……この島、変な奴しかいねえのかよ!」

 

「……俺もそう思う」

 

フェスタが苦笑した。

 

そのとき、村の奥から、負傷したドルトンが運ばれてきた。

 

「ドルトンさん!」

 

ビビが駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ああ……なんとか、な」

 

ドルトンは苦しそうに息を吐いた。

 

「ワポルの部下たちに襲われていたところを、彼に助けられた」

 

彼はゾロを見た。

 

「……お前たちには、感謝している」

 

「礼はいらねえ。俺たちは、仲間を助けに来ただけだ」

 

ゾロはそっけなく答えた。

 

「それより、ルフィたちはどうなった?」

 

「まだ山を登っているはずよ」

 

ビビが答える。

 

「ナミさんの容態を考えると、時間がないわ」

 

「……なら、俺たちも急ぐぞ」

 

ゾロは再び歩き出そうとした。

 

しかし、タマモがその肩をつかんだ。

 

「待ち。あんた、その格好で山登るつもりか?」

 

「何か問題あるか?」

 

「問題しかないわ!」

 

タマモは呆れ果てたように叫んだ。

 

「せめて服を着ろ! 寒さに耐える修行は終わりや!」

 

「……ちっ、仕方ねえな」

 

ゾロは渋々コートの前を閉じた。

 

こうして、一行は村を後にし、ナミを救うためにドラム山へ向かった。

10.素手で登る男たち

その頃、ドラム山の中腹では――。

 

「……はぁ……はぁ……!」

 

ルフィはナミを抱え、雪と氷に覆われた斜面を登っていた。

 

サンジは雪崩に巻き込まれて負傷していたが、それでもルフィたちに追いつき、歯を食いしばって歩いていた。

 

「くそっ……! こんなところで……止まってられるか……!」

 

ゴールドシップもまた、全身雪まみれになりながら立ち上がった。

 

「いやあ、雪崩ってのはすげえな! アタシ、今までいろんなものに吹っ飛ばされてきたけど、雪に飲み込まれるのは初めてだぜ!」

 

「感想を言ってる場合か!」

 

サンジが怒鳴る。

 

「お前も怪我してるんだろうが!」

 

「怪我? ああ、これか!」

 

ゴールドシップは肩を回した。

 

「この程度、温泉に入れば治る!」

 

「ここは雪山だ! 温泉なんかあるか!」

 

「探せばある!」

 

「あるわけねえだろ!」

 

ルフィは二人のやり取りを聞きながらも、ナミを抱く腕に力を込めた。

 

ナミの身体は、驚くほど熱い。

 

「……ナミ」

 

ルフィは小さく呟いた。

 

「もう少しだ。絶対に助けてやるからな」

 

彼は、険しい山肌を見上げた。

 

山頂にある城までは、まだ距離がある。

 

普通なら、登山道を使い、装備を整えて進むべき場所だろう。

 

だが、彼らにはそんな時間はなかった。

 

「道がないなら、作ればいい!」

 

ルフィは、ほとんど垂直に近い岩肌へ手をかけた。

 

「おい、ルフィ! まさか……!」

 

サンジが目を見開く。

 

「ここを登る気か!?」

 

「そうだ!」

 

ルフィは即答した。

 

「道を探してる時間がもったいねえ!」

 

「お前、本気かよ……!」

 

「本気だ!」

 

ルフィはゴムのように伸びる腕を岩の突起へ絡ませ、身体を引き上げた。

 

「ゴムゴムの――!」

 

腕が伸び、次の岩場をつかむ。

 

「ロケットォォォ!!」

 

一気に身体が上昇する。

 

「……やれやれ。あいつ、本当に常識が通用しねえな」

 

サンジは呆れながらも、後を追った。

 

「ナミさんのためだ。俺だって、こんな山くらい登ってやる……!」

 

ゴールドシップは、岩肌を見上げた。

 

「よーし! アタシも行くぞ! 名付けて――ゴルシ式・垂直登山!」

 

「名前をつける必要はねえ!」

 

サンジの突っ込みが飛ぶ。

 

だが、ゴールドシップは気にせず岩をよじ登った。

 

三人は、休むことなく山を登り続けた。

 

吹雪が吹きつけ、指先の感覚が失われていく。

 

それでも、ルフィはナミを離さなかった。

 

サンジも、傷ついた身体を引きずりながらついていく。

 

そしてゴールドシップも、仲間を鼓舞しながら険しい岩場を登り続けた。

 

「あと少しだ……!」

 

ルフィが叫ぶ。

 

「ナミ! もうすぐ医者のところだぞ!」

 

返事はない。

 

それでも、ルフィは止まらなかった。

 

やがて三人は、ついに山頂へ辿り着いた。

 

雪と風の向こうに、巨大な城が姿を現す。

 

「……着いた……!」

 

サンジは膝をつき、荒い息を吐いた。

 

「はぁ……はぁ……。くそっ……二度と、こんな登り方はしたくねえ……」

 

「へへっ……俺たち、すげえだろ……」

 

ルフィは笑おうとしたが、身体は限界だった。

 

ナミを抱き続け、岩場を登り、雪崩を乗り越えてきたのだ。

 

「……ナミ……」

 

ルフィは最後の力を振り絞り、城の方へ歩き出す。

 

しかし、その数歩先で、とうとう膝が崩れた。

 

「……あ……」

 

ルフィは倒れ込み、意識を失った。

 

「お、おい……ルフィ……!」

 

サンジも、もはや立っていることができなかった。

 

「……ナミさん……頼む……無事でいてくれ……」

 

彼もまた、雪の上に倒れた。

 

ゴールドシップは最後まで立っていたが、城の扉を見上げたところで、ふらりと身体を揺らした。

 

「……いやあ……これは……さすがに……」

 

彼女は最後に一言だけ呟いた。

 

「……温泉……どこだ……」

 

そして、そのまま雪の上へ倒れ込んだ。

 

三人と一人――ナミを含めた一行は、ついにドラム山の頂上へ辿り着いたものの、全員が限界を迎えてしまったのだった。

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