ウマ娘ONE PIECEダービー~黄金の浮沈船は大海原を駆ける~ 作:武藤 桜
1.新たな仲間が増えた結果
ドラム島を出航して数日。
ゴーイングメリー号は、次なる目的地であるアラバスタ王国へ向けて航海を続けていた。
船医のトニートニー・チョッパーと、科学者アグネスタキオンという二人の新しい仲間を加え、麦わらの一味はますます賑やかになっていた。
……もっとも、その賑やかさが必ずしも良い方向へ向かっているとは限らなかったが。
「諸君! ついに完成したぞ!」
ある日の朝。
甲板にタキオンの高らかな声が響いた。
「……またか」
船室から顔を出したゾロが、露骨に嫌そうな顔をする。
「タキオン! 今度は何を作ったんだ!?」
ウソップが警戒しながら尋ねた。
「なに、ちょっとした試験薬さ。人体に対する影響を調べるため、まずは身近な被験者に協力してもらおうと思ってねぇ」
「その身近な被験者って誰だよ!?」
「もちろん、君たちだとも!」
「ふざけんなァァァ!!」
ウソップの絶叫が海へ響き渡った。
しかし、タキオンはまるで気にしていなかった。
彼女の手には、七色に光る液体が入った小瓶が握られている。
「これは、ドラム島で採取した植物の成分と、航海中に手に入れた海洋生物の分泌物を組み合わせたものだ。理論上は、体内のエネルギー伝達に作用し、筋肉や神経の反応速度を一時的に変化させるはずなのだが……」
「理論上って言ったぞ、今!」
ウソップが後ずさる。
「おい、タキオン。まさか俺たちに飲ませる気じゃねぇだろうな?」
サンジが煙草をくわえたまま睨んだ。
「そのまさかさ!」
「よし、逃げるぞ!」
ウソップが即座に走り出した。
「待ちたまえ! 人体実験への協力は科学の発展に不可欠なのだよ!」
「科学の発展のために俺たちを犠牲にするなァァァ!!」
タキオンが小瓶を手に追いかけ、ウソップが全力で逃げる。
その騒ぎを聞きつけたルフィが、甲板へ飛び出してきた。
「おっ、なんだなんだ! 面白そうなことやってんな!」
「ルフィ! 助けてくれ! こいつ、また怪しい薬を作りやがった!」
「薬?」
ルフィはタキオンの手元を覗き込んだ。
「おおっ! きれいだな!」
「だろう? さあ、飲んでみたまえ!」
「おう!」
「待てルフィ! 飲むなァァァ!!」
ウソップの制止も虚しく、ルフィは小瓶を受け取ると、中身を一気に飲み干した。
「ごくごく……ぷはっ! なんだ、味は最悪だな!」
「悪魔の実の時と同じ感想じゃねぇか……」
サンジが呆れた直後だった。
ルフィの身体が、突然ピカピカと光り始めた。
「……ん?」
青、赤、緑、紫、黄色。
ルフィの全身が、まるで祭りの電飾のように七色に明滅し始める。
「うおおおおっ!? なんだこれ! すっげぇ!!」
ルフィが腕を振り回すたび、光の色が変わった。
「ゲーミング船長だァァァ!!」
ゴールドシップが腹を抱えて笑った。
「ぎゃはははは! ルフィ、お前、夜の海でめちゃくちゃ目立つぞ! 灯台いらねぇじゃねぇか!」
「おお! 俺、光ってるぞ!」
「感心してる場合か!」
ウソップが叫ぶ。
しかし、タキオンは目を輝かせていた。
「素晴らしい! 予想外の発光現象だ! 色彩の変化も規則性があるようで、実に興味深い!」
「おい、タキオン! 元に戻せ!」
「もちろん、原因を調べてからだねぇ!」
「戻す気ねぇだろ、お前!」
ゾロが頭を抱えた。
その時、ゴールドシップが小瓶を一本ひったくった。
「へへっ! 面白そうじゃねぇか! アタシも飲んでやるぜ!」
「おい、ゴルシ! やめろ!」
ゾロが叫んだが、もう遅かった。
ゴールドシップは一気に飲み干した。
「ごくごく……ぷはぁっ! うおおおおっ!!」
彼女の身体が、ルフィ以上に激しく七色に点滅した。
「ゴルシ式・ゲーミングフォーム!!」
「勝手に変な名前をつけるなァァァ!!」
今度はウソップだけでなく、サンジまで叫んだ。
ゴールドシップは甲板を走り回りながら、光る棍棒を振り回す。
「見ろォ! アタシが歩くネオン街だァァァ!!」
「頼むから海に飛び込んで消えてくれ……」
ゾロが本気で願った。
その後、試験薬を飲んだ者たちの身体が元に戻るまで、しばらくの時間を要した。
タキオンはその間、発光の周期、体温の変化、筋肉の反応速度などを細かく記録していた。
そして、その日の午後。
「……よし。次は神経伝達速度を調べる薬を作ってみようか」
「やめろォォォ!!」
ウソップの悲鳴が、再び海に響き渡った。
チョッパーは医療器具を抱えたまま、船室の隅で震えていた。
「……お、おれ……医者として船に乗ったはずなのに……。なんで、こんな危険な薬の後始末まで……」
「チョッパー君。医療の発展には、こうした試行錯誤が必要なのだよ」
「必要ねぇよ!!」
チョッパーが涙目で叫んだ。
その横で、オグリキャップがタキオンの試験薬を覗き込んでいた。
「……これは飲めるのか?」
「オグリ、絶対に飲むな」
サンジが即座に止める。
「だが、食べ物ではないのか?」
「食べ物でも飲み物でもねぇ! 薬だ!」
「そうか……」
オグリは少し残念そうに瓶から目を離した。
「……タキオン、お前は一度、研究室というものを作ってそこに閉じこもってくれ」
ゾロの切実な願いは、残念ながら聞き入れられなかった。
こうして、麦わらの一味の船旅は、今日も騒々しく続いていくのだった。
2.仮面の紳士、Mr.2ボン・クレー
数日後。
ゴーイングメリー号は、穏やかな海を進んでいた。
ナミとフェスタは海図を広げ、進路を確認している。
「この先を抜ければ、いよいよアラバスタ王国ね」
「砂漠の国か。ふふっ、どんな賭けが待ってるか楽しみだねぇ」
フェスタが口元を吊り上げる。
「賭けじゃなくて、ちゃんと仕事をしてちょうだい」
「はいはい。航海士様には逆らえないね」
その時、海面の向こうから奇妙な船が近づいてきた。
白鳥のような装飾を施した船。
その甲板では、派手な衣装をまとった人物が踊っている。
「……なんだ、あれ?」
ウソップが目を凝らした。
「白鳥……?」
チョッパーも首を傾げる。
「おやおや、面白そうな船だねぇ」
タキオンが興味津々に身を乗り出した。
やがて、その人物がゴーイングメリー号へ向かって大きく手を振った。
「ボンジュール! 麗しき海の旅人たちよォ~!」
声と共に、白鳥のような衣装をまとった人物が、船から船へと飛び移ってきた。
「オカマ拳法、ここに参上よォ~ん!」
「……」
「…………」
「………………」
一同は沈黙した。
最初に口を開いたのはゴールドシップだった。
「……なあ、ルフィ」
「なんだ?」
「アタシら、また変なのに遭遇したぞ」
「おお! すげぇ格好だな!」
ルフィは素直に感心していた。
その人物――Mr.2ボン・クレーは、華麗にポーズを決めた。
「アタシの名はボン・クレー! 友情と愛とオカマ道を重んじる、心優しき海の踊り子よォ~!」
「踊り子なのか……?」
チョッパーが困惑する。
「まあ、本人がそう言ってるんだからいいんじゃねぇか?」
ゾロが面倒くさそうに答えた。
ボン・クレーは一同を見回すと、突然ルフィとゴールドシップの前で立ち止まった。
「んまァ~! あなたたち、なんて素敵な顔をしているのォ~!」
「おお、そうか?」
「そうだぜ! アタシは黄金の浮沈船、ゴールドシップ様だからな!」
「ゴールドシップ……! なんて素晴らしい名前なのォ~!」
ボン・クレーが感動したように両手を広げた。
「アタシたち、今日から親友よォ~!」
「おう! よろしくな!」
ルフィとゴールドシップは、何の疑いもなく笑った。
その様子を見て、ナミは嫌な予感を覚えた。
「……ねえ、ちょっと待って。あの人、敵じゃないの?」
「さあな。少なくとも、今は喧嘩を売ってくる様子はないが」
ゾロが答える。
ボン・クレーは、仲間たちの顔を次々と見ていた。
その時、タキオンが一歩前へ出た。
「君は、顔を変える能力を持っているのかねぇ?」
「んまっ! よく分かったわねェ~!」
ボン・クレーが目を丸くする。
「おやおや、やはりそうか。骨格や筋肉の変化を伴うのか、それとも外見だけを変えるのか……実に興味深い!」
「ちょっと! アタシを実験材料にするつもり!?」
「安心したまえ。今のところは観察だけで十分だ」
「今のところって何よォ~!?」
ボン・クレーが叫んだ。
その後、彼は一通り自己紹介を済ませると、別れ際に奇妙なポーズを決めて去っていった。
「また会いましょうねェ~! 友情は永遠よォ~!」
「おう! またなー!」
ルフィが手を振る。
ゴールドシップも笑顔で見送った。
「いやぁ、面白い奴だったな!」
「……お前ら、警戒心って言葉を知ってるか?」
ゾロが呆れたように呟いた。
もちろん、この時点でルフィたちは知らなかった。
彼が秘密犯罪会社バロックワークスの一員であり、Mr.2ボン・クレーというコードネームを持つ人物だということを。
そして、彼との出会いが、後のアラバスタでの戦いに繋がっていくことも。
3.砂漠の王国、アラバスタ
さらに数日後。
ゴーイングメリー号の前方に、巨大な陸地が見えてきた。
「見えたわ!」
ナミが海図を片手に叫ぶ。
「アラバスタ王国よ!」
広大な砂漠。
乾いた風。
遥か彼方まで続く大地。
そこには、海とはまるで異なる世界が広がっていた。
「うおおおおっ! 陸だァァァ!!」
ルフィが船首で飛び跳ねた。
「やっと着いたぜ! 砂漠だ! 砂漠!」
ゴールドシップも大喜びで棍棒を掲げる。
「砂漠といえば、砂漠の王者! 砂漠の覇者! 砂漠の……」
「お前、砂漠の何なんだよ」
ゾロが冷静に突っ込んだ。
「黄金の浮沈船だ!」
「意味が分からねぇ!」
タマモが笑った。
「まあ、ようやく着いたんや。まずは水と食料の補給やな」
オグリが頷く。
「食料……!」
その目が輝いた。
「オグリ、まだ食べるつもりか?」
サンジが呆れる。
「砂漠では体力を消耗する。食事は重要だ」
「理屈は正しいが、お前の場合は別の意味で重要なんだよ……」
サンジは深々とため息をついた。
こうして、一味はアラバスタ王国の港町ナノハナへと向かった。
だが、その前にルフィが全員を集めた。
「みんな、ちょっといいか!」
一味の視線がルフィに集まる。
「ここから先は、ビビの国だ」
ルフィは、いつになく真剣な表情をしていた。
「ビビの国が大変なことになってる。だから、俺たちはビビを助ける!」
ビビは胸に手を当てた。
「ルフィさん……」
「でも、忘れんなよ。俺たちは仲間だ!」
ルフィは拳を握り締めた。
「誰かが困ってたら助ける。誰かが傷つけられたら守る。それが俺たちだ!」
ゴールドシップがニヤリと笑った。
「おう! アタシらの仲間に手を出す奴は、まとめて黄金バットでぶっ飛ばしてやるぜ!」
「私も、できる限りのことをするわ」
ナミが頷く。
「航海士として、皆を無事に目的地まで送り届ける。それが私の仕事だから」
「おれもだ!」
チョッパーが胸を張った。
「おれは医者だ! みんなが怪我をしたら、絶対に治してやる!」
「研究対象としても、実に興味深い局面になりそうだねぇ」
タキオンが笑った。
「ただし、怪我人を増やすような実験はするなよ」
ゾロが釘を刺す。
「善処しよう」
「絶対にする気だろ!」
ウソップが叫んだ。
フェスタは帽子を直し、砂漠の向こうを見つめた。
「ふふっ。大きな賭けになりそうだね。王国の命運を左右する一戦……悪くない」
「賭け事じゃないのよ、フェスタ」
ナミが睨む。
「分かってるって」
タマモは刀の柄に手を置いた。
「ほな、行こか。ウチらの力、見せたるで!」
ゾロも頷いた。
「当然だ。俺はまだ、ミホークに借りを返してねぇからな」
サンジは煙草をくわえ直した。
「ビビちゃんを悲しませるような連中は、俺が蹴り飛ばしてやるさ」
オグリも斧を担ぎ直す。
「みんなを守るために、私も戦う」
ウソップは鼻を鳴らした。
「ふっ、当然だ! この偉大なるウソップ様に任せておけ!」
「お前、さっきから震えてるぞ」
ゾロが指摘する。
「こ、これは武者震いだ!」
ゴールドシップが笑い、ルフィも笑った。
それぞれの決意を胸に、一味はアラバスタ王国へ上陸した。
4.暴食トリオ、海軍大佐に見つかる
ナノハナの町は、活気に満ちていた。
市場には色とりどりの食材が並び、香辛料の匂いが漂っている。
町の人々は忙しそうに行き交い、遠くには海軍の施設も見えた。
「よし! まずは物資の調達よ!」
ナミが指示を出す。
「食料、水、医薬品、それから砂漠用の装備。必要なものは全部揃えるわ!」
「了解!」
ウソップが返事をする。
「チョッパーは医薬品を頼むわね。タキオン、変なものを買わないでよ」
「変なものとは失礼だねぇ。私は常に科学的合理性に基づいて選択している」
「その結果がゲーミング発光事件でしょうが!」
ナミの怒声が響いた。
「タキオン、あんたは私と一緒に来なさい。余計なものを買わないように見張るから」
「おやおや、信用がないねぇ」
「あるわけないでしょ!」
フェスタは笑いながら帽子を直した。
「私はナミと市場を回るよ。値段交渉なら任せておきな」
「頼むわよ」
タマモとゾロは武器や装備の補充へ、サンジとオグリは食料の買い出しへ向かった。
そして、ルフィ、ゴールドシップ、オグリの三人は――。
「……腹減った」
「……腹減ったな」
「……私も空腹だ」
食堂の前で立ち止まっていた。
「……おい、オグリ。お前、サンジと食料を買いに行くんじゃなかったのか?」
ルフィが尋ねる。
「途中でいい匂いがした」
オグリは真剣な顔で答えた。
「なるほど!」
ルフィが頷く。
「じゃあ、食おう!」
「おう!」
「待て待て待て! まだ買い出しの途中だろうが!」
ウソップの制止は、三人の耳には届かなかった。
彼らは店の中へ飛び込んだ。
「おやじ! 肉!」
「魚も頼む!」
「私は、店にある料理を一通り食べてみたい」
「へい、いらっしゃい!」
店主が威勢よく答えた。
そして、数分後。
テーブルには、山のような料理が積み上がっていた。
「うめぇぇぇ!!」
ルフィが肉にかぶりつく。
「この魚、最高だぜ!」
ゴールドシップは大皿を抱えて食べている。
「この煮込みも美味しい。香辛料の使い方が上手いな」
オグリは感心しながら、次々と料理を平らげていく。
やがて、三人の前には空になった皿だけが残った。
「……ふう。食った食った!」
ルフィが腹を叩いた。
「よし、行くか!」
「おう!」
「待ってください」
店主が笑顔で声を掛けた。
「お会計、まだですよ」
三人が固まった。
「……え?」
「お会計です」
店主は、そっと伝票を差し出した。
その金額を見たルフィたちは、同時に顔を青くした。
「……ナミに怒られる」
ルフィが呟く。
「……アタシ、今月の小遣いが……」
ゴールドシップが遠い目をする。
「……食費の予算を超過した場合、ナミに報告しなければならない」
オグリが真面目に分析した。
「……逃げるか!」
三人の声が揃った。
「おい、待てコラァァァ!!」
店主の怒声を背に、三人は店を飛び出した。
そして、路地を駆け抜ける。
「食い逃げじゃねぇか!」
ゴールドシップが叫ぶ。
「お前も一緒に逃げてんだろ!」
ルフィが笑う。
「だって金がねぇんだよ!」
「私たちの行動は計画性に欠けていたな……」
オグリが反省する。
「今さら反省すんな!」
その時だった。
「……おい、そこの三人」
低い声が響いた。
三人が足を止める。
路地の先に立っていたのは、白い煙をまとった男だった。
海軍の制服。
鋭い眼差し。
そして、煙草をくわえた口元。
スモーカー大佐。
「……麦わらのルフィ。ゴールドシップ。オグリキャップ」
スモーカーが煙を吐き出した。
「こんなところで何をしている?」
ルフィは一瞬考えた後、笑顔で答えた。
「飯食ってた!」
「……それは見れば分かる」
スモーカーの額に青筋が浮かぶ。
「では、なぜ逃げている?」
「金がなかった!」
「正直に答えるんじゃねぇ!!」
スモーカーが煙となって迫る。
「海賊ども! ここで捕まえてやる!」
「うおおおっ! 逃げろォォォ!!」
ルフィが叫んだ。
「ゴルシ式・緊急撤退!!」
ゴールドシップが叫び返す。
「そんな技名をつけてる場合か!」
オグリも走り出した。
「ナミに知られたら、食費を削られる!」
「それは困るな!」
ルフィが本気で頷く。
こうして、暴食トリオと海軍大佐の追いかけっこが始まった。
5.炎の男、ポートガス・D・エース
「待ちやがれ、麦わら!」
スモーカーの煙が路地を覆う。
ルフィは角を曲がり、ゴールドシップは店先の樽を飛び越え、オグリは大きな荷物を抱えたまま走り続けた。
「おい、オグリ! 荷物を捨てろ!」
「これは食料だ! 捨てるわけにはいかない!」
「食い逃げした奴が食料を大事にするな!」
ゴールドシップが叫ぶ。
スモーカーの煙が三人の背後へ迫った。
「もう逃げ場はねぇぞ!」
「やべぇ!」
ルフィが振り返る。
その瞬間――。
「火拳!!」
炎が路地を走った。
スモーカーの煙を押し返すように、巨大な火炎が道を塞ぐ。
「……何!?」
スモーカーが目を見開いた。
煙と炎がぶつかり、熱風が路地を吹き抜ける。
ルフィたちは、その隙に物陰へ飛び込んだ。
「……へへっ。相変わらず派手だな」
ルフィが笑った。
炎の向こうから、一人の青年が歩いてきた。
黒い帽子。
腕に刻まれた文字。
肩に掛けられたオレンジ色の装飾。
そして、全身から漂う圧倒的な存在感。
「……エース!!」
ルフィが目を輝かせた。
「よぉ、ルフィ!」
青年――ポートガス・D・エースは、ニッと笑った。
「元気そうじゃねぇか」
「エース! なんでここにいるんだ!?」
「お前を探してたんだよ。まったく、相変わらず騒ぎばっかり起こしてるな」
エースはルフィの頭を軽く小突いた。
「いてっ!」
「お前、懸賞金が付いたんだってな。新聞で見たぜ」
「おう! 俺、三千万だぞ!」
「へぇ。やるじゃねぇか」
エースは笑いながら、ゴールドシップとオグリへ視線を向けた。
「それで、そっちの二人は?」
「アタシはゴールドシップ! 黄金の浮沈船だ!」
「オグリキャップだ。ルフィたちと一緒に旅をしている」
「そうか。ルフィの仲間か」
エースは気さくに笑った。
「弟が世話になってるな」
「いや、こっちが世話してるんだか、されてるんだか分かんねぇけどな!」
ゴールドシップが笑う。
「お前も苦労してるんだな、兄ちゃん!」
「……まあ、否定はできねぇな」
エースは苦笑した。
その時、スモーカーが煙を振り払って現れた。
「ポートガス・D・エース……!」
エースは振り向いた。
「よう、スモーカー。久しぶりだな」
「貴様……ここで何をしている!」
「弟の顔を見に来ただけさ」
「海賊同士で仲良くするつもりか!」
「そりゃそうだろ。兄弟だからな」
エースは笑った。
そして、ルフィたちへ目配せした。
「お前ら、先に行け。ここは俺が引き受ける」
「え? でも……」
「いいから行け。久しぶりに会った弟を、海軍に捕まえさせるわけにはいかねぇだろ?」
ルフィは一瞬、エースを見つめた。
そして、笑顔で頷いた。
「おう! またな、エース!」
「おう。元気でな、ルフィ!」
ゴールドシップが手を振る。
「エース! 今度会ったら、アタシと勝負しろよ!」
「ははっ! 考えておくぜ!」
オグリも頭を下げた。
「助かった。ありがとう」
「気にするな」
エースは笑った。
ルフィたちは路地を駆け抜け、町の外へ向かった。
その背中を見送ってから、エースはスモーカーへ向き直った。
「さて……。弟の邪魔をするのは、ここまでにしてもらおうか」
「貴様……!」
スモーカーが煙を広げる。
エースの身体から炎が立ち上った。
炎と煙がぶつかり合い、路地を熱風が包み込む。
その混乱の中、バロックワークスの追っ手たちも現れた。
「麦わらのルフィを見つけたぞ!」
「逃がすな!」
だが、彼らはエースの前に立ちはだかった瞬間、次々と炎に包まれた。
「悪いな。今は弟と話をしてたんだ」
エースは笑いながら拳を振るった。
「火拳!!」
炎が走り、追っ手たちをまとめて吹き飛ばす。
スモーカーは歯を食いしばった。
「……くそっ!」
エースは、最後にもう一度だけ弟が走り去った方向を見た。
「……元気そうでよかったぜ、ルフィ」
その表情には、兄としての安堵が浮かんでいた。
そして彼は、炎を残して町を後にした。
白ひげ海賊団の一員として、追い求める男を探す旅へ戻るために。
6.別の海岸から、砂漠へ
町を離れたルフィ、ゴールドシップ、オグリは、別の海岸まで走り抜けていた。
「……はぁ、はぁ……」
ルフィが膝に手をつく。
「助かったな……」
「いやぁ、兄ちゃん強かったな!」
ゴールドシップが笑った。
「炎を操る能力……。あれは悪魔の実の能力だろうか?」
オグリが尋ねる。
「ああ。メラメラの実だ」
ルフィが答えた。
「エースは炎人間なんだ!」
「炎……!」
オグリの目が輝く。
「タキオンが見たら、喜びそうだな」
「絶対に研究対象にするだろうな!」
ゴールドシップが笑った。
やがて、他の仲間たちも合流した。
ナミは三人を見るなり、こめかみを押さえた。
「……あんたたち、何やったの?」
「飯を食った!」
ルフィが堂々と答える。
「食い逃げしたんでしょ!!」
ナミの拳が三人の頭に落ちた。
「痛ぇ!」
「アタシは悪くねぇ!」
「私は食料の重要性を再認識しただけだ!」
「三人とも反省しなさい!!」
フェスタが肩を震わせて笑っていた。
「いやぁ、さすがだねぇ。町に着いて早々、海軍大佐に追われるとは」
「笑い事じゃないわよ!」
ナミが怒鳴る。
タキオンはルフィの身体をじっと観察していた。
「ところで、ルフィ君。先程の炎の能力者について、もう少し詳しく聞かせてくれないかねぇ?」
「エースのことか?」
「そうさ。炎を自在に操り、身体そのものを炎へ変化させる。自然系能力者のようだねぇ。ぜひ研究したいところだ」
「やめとけ。兄ちゃん、強いぞ」
「だからこそ興味深いのだよ!」
タキオンは目を輝かせた。
「いつか、能力継承技術がさらに発展すれば、あのような能力も別の人間へ受け渡せる可能性がある……!」
「お前、まだその研究続ける気なのか……」
ゾロが呆れたように言った。
「当然だとも。研究とは終わりのない航海のようなものだからねぇ」
「うまいこと言ったつもりか?」
ゴールドシップが笑う。
その後、一味はナノハナの町を避け、別の海岸から砂漠地帯へ上陸した。
目指す場所は、反乱軍の拠点となっているユバ。
ビビの故郷を救うための旅が、いよいよ本格的に始まろうとしていた。
7.砂漠の猛獣と幻覚果実
アラバスタの砂漠は、想像以上に過酷だった。
頭上から照りつける太陽。
熱を帯びた砂。
乾いた風。
どこまでも続く砂丘の向こうに、目的地の姿は見えない。
「……暑い」
チョッパーが、舌を出して息を切らした。
「この島、なんでこんなに暑いんだよ……!」
「砂漠だからだねぇ」
タキオンは涼しい顔で答えた。
「日射量、地表温度、湿度、風速……どれも興味深い数値だ。これほど乾燥した環境で生物がどう適応しているのか、調べる価値がある」
「お前、暑くないのかよ!?」
「暑いとも。だが、暑さを感じることと、観察を止めることは別問題さ」
「……やっぱり、こいつ面倒くせぇ」
チョッパーは頭を抱えた。
少し前を歩くゾロとタマモも、すでに汗だくになっていた。
「……なあ、ゾロ」
「なんだ?」
「お前、ほんまに道分かっとるんか?」
「分かってる」
「ほな、なんでさっきから同じ岩を三回も見とるんや?」
「……目印だ」
「その岩、目印にするには特徴なさすぎるやろ!」
タマモが怒鳴った。
その後ろでは、ルフィとゴールドシップが砂丘を駆け回っていた。
「おおーい! 見ろよ、ゴルシ! あっちに何かあるぞ!」
「おっ、なんだなんだ! お宝か!?」
二人は砂丘の陰に生えている奇妙な植物を見つけた。
その枝には、赤と紫が混ざった不思議な果実が実っている。
「……食えるかな?」
ルフィが呟いた。
「食ってみりゃ分かるだろ!」
ゴールドシップが即答する。
「待て、二人とも!」
ゾロが叫んだが、遅かった。
ルフィとゴールドシップは、果実を一つずつもぎ取ると、同時にかぶりついた。
「……ん?」
「……なんだ、これ?」
数秒後。
二人の表情が変わった。
「うおおおおっ!? 砂漠が動いてるぞォォォ!!」
ルフィが叫んだ。
「ぎゃはははは! 見ろルフィ! 砂丘が巨大なエビになってるぜ!!」
ゴールドシップが腹を抱えて笑う。
「……は?」
タマモが目を見開いた。
「おい、あいつら何食うたんや!?」
タキオンがすぐに植物を調べ始めた。
「ふむ……。この果実には、幻覚作用を持つ成分が含まれている可能性が高いねぇ。神経系に作用し、視覚や空間認識を混乱させるのだろう」
「分析してる場合か!」
チョッパーが叫ぶ。
ルフィは砂丘へ向かって走り出した。
「エビを捕まえるぞォォォ!!」
「待てルフィ! それは砂だ!」
ゾロが追いかける。
ゴールドシップは、幻覚の中で巨大なエビと戦っていた。
「ゴルシ式・恐竜ホームラン!!」
棍棒が空を切る。
「おい、やめろ! 何もいねぇぞ!」
ゾロが叫んだ。
「うるせぇ! 今、アタシはエビと戦ってんだ!」
「砂漠にエビはいねぇ!」
「いるんだよ! アタシの目には見えてんだよ!」
ゴールドシップが振り回した棍棒が、ゾロの肩を直撃した。
「ぐっ……! てめぇ!」
「なんやとォ!?」
タマモが割って入る。
「ゴルシ! ゾロに何しとんねん!」
「こいつがエビを逃がしたんだ!」
「エビなんかおらんわ!!」
「じゃあ、あの巨大な白狐は何だ!?」
「……は?」
今度はタマモが目を見開いた。
タマモにも、幻覚の影響が出始めていた。
「……おい、タマ。お前、目が変だぞ」
ゾロが一歩下がる。
「うるさいわ! 白狐がそこにおるやろ!」
「どこにだよ!」
「そこや!!」
タマモが刀を抜いた。
「ちょっ、待て待て待て!」
ゾロも刀を構える。
そして――。
「お前ら、いい加減にしろォォォ!!」
二人は、盛大に殴り合いを始めた。
「なんでやねん! なんでお前が邪魔するんや!」
「邪魔してんのはお前だろうが!」
「うるさい!」
「お前がうるせぇ!」
その騒ぎに、チョッパーとタキオンが駆け寄った。
「お、おい! みんな、落ち着け!」
チョッパーが止めに入る。
だが、幻覚の中にいるルフィが、突然二人へ飛びかかってきた。
「エビを守るぞォォォ!!」
「うわあああっ!?」
チョッパーが吹っ飛ぶ。
「おやおや、これは予想以上に強烈な作用だねぇ!」
タキオンは冷静に観察しようとしたが、次の瞬間、ゴールドシップの棍棒が彼女の足元をかすめた。
「おっと!」
タキオンが避ける。
しかし、その背後からゾロとタマモが転がり込んできた。
「うおっ!?」
タキオンは二人に巻き込まれ、砂の上へ倒れた。
チョッパーも起き上がろうとしたところへ、ルフィが突っ込んできた。
「うわあああっ!!」
そのまま全員が砂丘の斜面を転がり落ちた。
やがて――。
静寂が訪れた。
砂漠には、六人分の大きな砂山ができていた。
8.方向音痴と砂漠の迷子
どれほど時間が経っただろうか。
「……う、うう……」
最初に目を覚ましたのは、チョッパーだった。
頭を振り、周囲を見回す。
「……ここは……?」
砂に半分埋もれた身体を引き抜き、顔についた砂を払う。
その隣では、タキオンが白衣についた砂を払いながら起き上がっていた。
「……ふむ。幻覚作用による錯乱、集団での乱闘、そして砂丘からの転落……。実に貴重なデータが取れたねぇ」
「貴重じゃねぇよ!!」
チョッパーが叫ぶ。
「おれたち、何やってんだよ!?」
「それは私にも分からない。だが、人体がこれほどまでに幻覚へ影響されるとは……」
「だから研究してる場合じゃねぇって!」
チョッパーが周囲を見渡した。
すると、少し離れた場所に、四人の人影があった。
ルフィとゴールドシップ。
ゾロとタマモクロス。
四人とも、砂に埋もれたまま気絶していた。
「……おい」
チョッパーの額に青筋が浮かぶ。
「おい、起きろォォォ!!」
チョッパーはルフィの頬を叩いた。
「んが……?」
「何が『んが』だ! 何やってんだ、お前!」
「……あれ? エビは?」
「エビなんかいねぇ!!」
チョッパーの叫びが砂漠に響いた。
次にゴールドシップを揺さぶる。
「ゴールドシップ! 起きろ!」
「……ん? なんだ……? エビはどこ行った……?」
「だからエビはいねぇって言ってんだろ!!」
チョッパーは頭を抱えた。
タキオンはゾロとタマモの状態を確認していた。
「ふむ。二人とも打撲はあるが、骨折はしていないようだねぇ」
「……それはよかったけどさ」
チョッパーは溜息をついた。
「なんでおれたち、こんな目に……」
その時、ゾロが目を覚ました。
「……う……」
「お、ゾロ! 大丈夫か!?」
チョッパーが駆け寄る。
ゾロは頭を押さえながら起き上がった。
「……なんだ? 俺は……」
そして、周囲を見回した。
「……あれ? ルフィたちは?」
「目の前にいるだろ!」
チョッパーが指差す。
「……おお」
ゾロは頷いた。
その直後、彼は立ち上がった。
「よし、皆を探すぞ」
「いや、皆ここにいるだろ!?」
「そうじゃねぇ。ナミたちだ」
ゾロは真面目な顔で言った。
「先に進んだはずだ。追いつくぞ」
「……」
チョッパーは、タキオンと顔を見合わせた。
「……おれたち、とんでもない船に乗っちまったのかもしれねぇ……」
「同感だねぇ。これは、想定していた航海とは随分違う」
タキオンが頷いた。
その時、タマモが目を覚ました。
「……うう……。なんや、頭が痛い……」
「おう、タマ。起きたか」
ゾロが声を掛ける。
「……ゾロ。さっきの白狐は?」
「……白狐?」
「……いや、なんでもない」
タマモは頭を抱えた。
そして、立ち上がる。
「……ほな、行こか」
「おう」
ゾロが先頭に立って歩き始めた。
「ちょっと待て!」
タマモが慌てて呼び止める。
「どこ行くつもりや!?」
「ナミたちを探しに行くんだろ」
「そやけど、そっちは反対や!」
「……あ?」
ゾロが振り返る。
タマモは懐からコンパスを取り出した。
「ほら、こっちや! 方角くらい確認せえ!」
「……分かってる」
「絶対分かっとらんやろ!」
タマモはコンパスを見ながら、ゾロの進む方向を修正した。
「右や、右! そっちは左!」
「……うるせぇな」
「うるさいのはお前や!」
チョッパーは、そんな二人のやり取りを見て、深々とため息をついた。
「……やっぱり、船を間違えたかもしれねぇ……」
「奇遇だねぇ。私も同じことを考えていたよ」
タキオンが頷いた。
少し離れた場所では、ルフィとゴールドシップがようやく立ち上がった。
「おーい! 待ってくれー!」
「アタシらを置いていくなー!」
こうして六人は、砂漠の横断を再開した。
9.砂漠を歩く六人
先頭を歩くのは、ゾロとタマモ。
その後ろに、チョッパーとタキオン。
さらに少し離れて、ルフィとゴールドシップが続いていた。
照りつける太陽の下、砂漠の熱気が全員の体力を削っていく。
「……暑い……」
チョッパーが再び舌を出した。
「……もう駄目だ……。水が……」
「チョッパー君。水分補給は重要だ。脱水症状を防ぐため、定期的に少量ずつ水を飲むべきだねぇ」
「分かってるよ……! 医者はおれなんだから……!」
「それは失礼。では、君の判断に従おう」
タキオンは水筒を差し出した。
チョッパーは水を飲み、少しだけ表情を和らげた。
「……ありがと」
「礼には及ばないさ。君が倒れたら、私の研究を手伝ってくれる者がいなくなるからねぇ」
「……やっぱり、面倒くせぇ……」
少し前では、ゾロとタマモが言い争っていた。
「だから、もう少し右や!」
「いや、こっちで合ってる」
「コンパス見ろや!」
「……分かった、分かった」
「絶対分かっとらん!」
チョッパーは、二人の背中を見ながら呟いた。
「……ゾロとタマも、なんであんなに喧嘩ばっかりしてるんだ?」
タキオンが首を傾げる。
「そういえば、以前から疑問だったのだがねぇ。君たちは、どうしてルフィ君の仲間になったんだい?」
「……え?」
チョッパーも顔を上げた。
「そういえば、おれも聞いたことねぇな。ゾロはどうして、ルフィの仲間になったんだ?」
ゾロは少しだけ黙った。
そして、肩を竦めた。
「……成り行きもある」
「成り行き?」
「そうだ。最初は、海賊になったルフィに誘われただけだった。だが、それだけじゃねぇ」
ゾロは前を向いたまま続けた。
「俺には、ミホークを倒すっていう夢がある。そのためには、どんな場所へでも行く必要がある。ルフィは海賊王になると言っている。なら、その船に乗るのも悪くねぇと思った」
「……なるほど」
タキオンが頷いた。
「つまり、互いの目的が一致したわけだねぇ」
「そういうことだ」
「……でも、それだけじゃないんだろ?」
チョッパーが尋ねた。
ゾロは少しだけ口元を緩めた。
「……あいつは、妙なところで筋を通す。自分の仲間を見捨てねぇし、くだらねぇことでも本気でやる。そういうところは、嫌いじゃねぇ」
タマモが振り返った。
「なんや、ゾロ。珍しくええこと言うやないか」
「うるせぇ」
「照れとるんか?」
「斬るぞ」
「はいはい、怖い怖い」
タマモは笑った。
チョッパーとタキオンは、再び顔を見合わせた。
「……やっぱり、とんでもない船だったんだな」
「まったくだねぇ」
その時だった。
「おおおおおっ!!」
後方から、ルフィの叫び声が響いた。
「見ろ! 日陰だ!!」
ルフィは砂丘の向こうに見える大きな岩陰を指差した。
「おおっ! 休めるぞォォォ!!」
ゴールドシップが叫ぶ。
「待て! あれ、なんか怪しくねぇか!?」
ウソップもいないのに、チョッパーが思わず叫んだ。
だが、ルフィとゴールドシップは止まらなかった。
「日陰だァァァ!!」
「休憩だァァァ!!」
二人は全力で駆け出した。
「……おい、待て!」
ゾロが叫ぶ。
「ルフィ! ゴルシ! 止まれェェェ!!」
タマモも慌てて追いかけた。
しかし、岩陰にたどり着いた二人が足を踏み入れた瞬間――。
砂地が、崩れた。
「……へ?」
ルフィが間抜けな声を上げる。
「……うおっ!?」
ゴールドシップが目を見開く。
次の瞬間、二人の身体が流砂に飲み込まれた。
「うわああああああああっ!!」
悲鳴と共に、二人は地面の下へ落ちていった。
「……」
チョッパーが固まった。
「……」
タキオンも固まった。
「……」
ゾロとタマモも、無言でその場を見つめていた。
そして、四人は同時に叫んだ。
「「「「だから言っただろォォォ!!」」」」
10.地下遺跡とカタパルト
流砂に飲み込まれた六人は、地下に広がる巨大な空洞へと落下した。
砂煙が舞い上がる。
崩れた砂の向こうには、古代の石造りの通路が広がっていた。
「……いててて……」
チョッパーが頭を押さえて起き上がる。
「……ここは……?」
タキオンは周囲を見回した。
「地下遺跡か。地表からの侵食で空洞化した地層が、流砂によって露出したのだろうねぇ。これは興味深い……!」
「興味深くねぇよ!」
チョッパーが叫ぶ。
少し離れた場所では、ルフィが立ち上がっていた。
「おおっ! なんかすげぇところに来たぞ!」
ゴールドシップも笑っている。
「宝があるかもしれねぇな!」
「……お前ら、反省しろ」
ゾロが頭を押さえた。
「日陰を見つけたからって、何も考えずに突っ込む奴があるか!」
「だって暑かったんだもん!」
ルフィが笑う。
「だって日陰だったんだもん!」
ゴールドシップも笑う。
「二人とも同じことを言うな!」
タマモが怒鳴った。
その時、チョッパーが上を見上げた。
落ちてきた穴は、遥か高い場所にある。
「……これ、どうやって戻るんだよ?」
全員が黙った。
タキオンが顎に手を当てる。
「ふむ。壁面は脆く、足場も少ない。自力で登るのは困難だろうねぇ」
「じゃあ、どうすんだよ!」
チョッパーが叫ぶ。
ルフィはニッと笑った。
「簡単だ!」
彼は自分の腕を後ろへ伸ばした。
「俺が飛ばしてやる!」
「……は?」
ゾロが嫌な予感を覚えた。
ルフィはゴムの腕を大きく引き伸ばし、身体を低く構えた。
「みんな、俺にしっかり掴まれ!」
「……おい、まさか」
タマモが顔を引きつらせる。
「ゴムゴムのォ――!」
ルフィの腕が限界まで伸びる。
「カタパルトォォォ!!」
次の瞬間、ルフィは自らの身体を反動で弾き飛ばした。
チョッパーがしがみつく。
タキオンが白衣を押さえる。
ゾロがルフィの服を掴み、タマモがゾロの腰にしがみつく。
ゴールドシップは、なぜか両手を広げて叫んでいた。
「うおおおおおっ! 空中遊泳だァァァ!!」
六人の身体が、地下空洞から一気に飛び出した。
そして――。
「……あ」
ルフィが呟いた。
「……どうやって着地すんだ?」
「「「「「考えてなかったのかよォォォ!!」」」」」
全員の叫びが重なった。
次の瞬間、六人は砂漠へ叩きつけられた。
砂煙が舞い上がる。
数秒後。
砂の中から、チョッパーの声が響いた。
「……やっぱり……」
彼は砂に埋もれたまま、震える声で呟いた。
「……おれ、乗る船を間違えたかもしれねぇ……」
タキオンも、砂まみれの顔を上げた。
「……同感だねぇ。予想外の現象には慣れているつもりだったが、これは想定外だ」
ゾロは砂を払いながら立ち上がった。
「……今日は気が合うな、お前ら」
タマモも頭を抱えた。
「……ほんまに、なんでウチらはこんな奴らと一緒におるんやろな……」
ゴールドシップは、砂の中から顔だけを出して笑っていた。
「ぎゃははは! 最高じゃねぇか! もう一回やろうぜ!」
「二度とやるかァァァ!!」
チョッパー、タキオン、ゾロ、タマモの声が、砂漠に響き渡った。
11.夕暮れの砂漠、仲間の匂い
それからしばらくして。
太陽が西へ傾き、砂漠の空が赤く染まり始めた。
六人は、ようやく落ち着きを取り戻していた。
ルフィとゴールドシップは相変わらず元気だったが、ゾロとタマモは疲れ切った様子で歩いている。
チョッパーは医者として全員の怪我を確認し、タキオンは地下遺跡の構造について手帳に記録していた。
「……ねえ、タキオン」
チョッパーが尋ねた。
「なんだい?」
「……お前、これからもあんな実験を続けるのか?」
「もちろんさ。未知を知ることは、科学者にとって最大の喜びだからねぇ」
「……そっか」
チョッパーは小さく溜息をついた。
「……じゃあ、おれも医者として、みんなが無茶をしないように見張らないとな」
「ふむ。それは重要な役割だねぇ」
タキオンは笑った。
「君がいれば、私も安心して研究に打ち込める」
「……それ、絶対におれを便利な助手にするつもりだろ!」
「おやおや。よく分かっているじゃないか」
「やっぱり面倒くせぇ!!」
その時だった。
チョッパーの耳が、ぴくりと動いた。
「……ん?」
彼は鼻をひくひくさせ、風の匂いを嗅いだ。
「……この匂い……」
「どうした、チョッパー?」
ルフィが振り返る。
「……ナミの匂いがする」
「……え?」
チョッパーは、砂漠の向こうを指差した。
「あっちだ! ナミたちがいる!」
ルフィの顔がぱっと明るくなった。
「本当か!?」
「うん! 間違いない!」
「よっしゃあああ!!」
ルフィは一目散に駆け出した。
「ナミィィィ!!」
ゴールドシップも笑いながら走り出す。
「待ってろよォォォ!! 黄金の浮沈船が迎えに行くぜェェェ!!」
「おい、待て! まだ道が分かってねぇだろ!」
ゾロが叫ぶ。
タマモは慌ててコンパスを取り出した。
「今度はちゃんと方角を確認せえ! ルフィ! ゴルシ! そっちは崖や!」
「聞こえねぇぞォォォ!!」
ルフィの声が遠ざかっていく。
「もう知らんわァァァ!!」
タマモが頭を抱えた。
チョッパーは、そんな一行を見つめながら、ふっと笑った。
「……本当に、騒がしい奴らだな」
タキオンも頷いた。
「まったくだねぇ。だが、退屈だけはしない航海になりそうだ」
夕暮れの砂漠を、六人は再び駆け出した。
その先には、仲間たちとの再会が待っている。
そして、アラバスタ王国を揺るがす大きな戦いも。
麦わらの一味とウマ娘たちの砂漠の旅は、まだ始まったばかりだった。
――アラバスタ編・続く。