ウマ娘ONE PIECEダービー~黄金の浮沈船は大海原を駆ける~   作:武藤 桜

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第十五話「アラバスタ編――砂漠の王国を揺るがす陰謀」

第1話 反乱軍を追って、ユバへ!

「ナミー! ゴルシー! みんなー!」

 

 砂漠の向こうに見覚えのある人影を見つけたルフィが、全速力で駆け出した。

 

「おーい、ルフィ! こっちだー!」

 

 ゴールドシップも両手を振り回して応える。だが、再会を喜ぶ二人の背後では、ゾロとタマモクロスがすでに嫌な予感を覚えていた。

 

「待てルフィ! 砂の上をそんな勢いで走るな! また何かに突っ込むやろ!」

 

「ゴルシもだ! お前は何で両手に砂漠のサソリを持ってんだ!」

 

「お土産!」

 

「捨てろォォォッ!」

 

 タマモの絶叫が砂漠に響く。

 

 こうして、砂漠で迷子になっていた六人は、ようやくナミたちと合流を果たした。

 

「まったく……あんたたち、今までどこをほっつき歩いてたのよ!」

 

 腰に手を当てたナミが、呆れ顔でルフィたちを迎える。

 

「いやー、ちょっと砂漠の地下に落ちてな!」

 

「ちょっと、で済ませる話じゃないでしょ!」

 

「しかも、こいつが脱出するときに全員まとめて吹っ飛ばしたんや!」

 

 タマモがルフィを指差す。

 

「いや、ちゃんと外に出られただろ?」

 

「着地のことを完全に忘れとったやないか!」

 

「うん。地面に顔から突っ込んだ」

 

 チョッパーが真顔で付け加えた。

 

「私はあの瞬間、研究対象としての興味よりも、自分の命が惜しくなったよ」

 

 白衣についた砂を払いながら、タキオンもため息をつく。

 

「船を間違えたのかな、私たち……」

 

「奇遇だな、俺もそう思っていた」

 

 ゾロが腕を組んでうなずき、タマモも深々とうなずいた。

 

「今日はほんまに気が合うな、お前ら!」

 

「お前ら、そこは否定してくれよ!」

 

 ウソップが頭を抱える。

 

 その隣では、トウカイテイオーがナミの肩を叩いていた。

 

「でも、全員そろったんだからいいじゃん! ボクたち、ちゃんと仲間を見つけられたんだし!」

 

「テイオー、あんたはもう少し危機感を持ちなさい……」

 

「えーっ!?」

 

 ナカヤマフェスタはそんな一同を見回し、口元に笑みを浮かべる。

 

「砂漠で仲間探し、ね。命懸けの賭けにしちゃ、ずいぶん騒がしい連中だ」

 

「フェスタ、賭けじゃないわよ。遭難よ、遭難!」

 

「結果が同じなら、呼び方なんてどうでもいいだろ?」

 

「よくない!」

 

 ナミのツッコミが、再び砂漠に響き渡った。

 

 もっとも、騒いでばかりもいられない。

 

 彼らが目指しているのは、ビビの故郷であるアラバスタ王国の反乱軍がいるとされる町、ユバだった。

 

 王国の内戦を止めるためには、反乱軍と国王軍の衝突を防がなければならない。そのためにも、まずは反乱軍の指導者コーザに会う必要があった。

 

「よし! ユバに行くぞ!」

 

 ルフィが拳を突き上げる。

 

「その前に、全員の水分を確認! 勝手に飲み干した奴は、あとで食費から差し引くからね!」

 

「ええーっ! 水までかよ!」

 

「当然でしょ! ここは砂漠なのよ!」

 

 ナミの厳しい指示に、ルフィとゴールドシップが同時に肩を落とす。

 

「ナミ、砂漠って水が貴重なんだな……」

 

「今さら気づいたの!?」

 

「よし、じゃあ水を使わないで済む料理を研究しよう!」

 

 オグリキャップが真剣に提案した。

 

「オグリ、それは頼もしいけど、まずは食料を勝手に食べないでね」

 

 サンジが苦笑する。

 

「わかった。では、今ある食料を確認しよう」

 

「確認するだけだからな!」

 

 ウソップが念を押す。

 

「もちろんだ。食べるかどうかは、確認したあとで決める」

 

「信用できねえええっ!」

 

 そんなやり取りを続けながら、一行は砂漠を進んだ。

 

 やがて、砂丘の向こうに小さな町が見えてくる。

 

 だが――。

 

「……静かすぎるな」

 

 ゾロが眉をひそめた。

 

 町に近づいても、人影がほとんどない。建物は砂に埋もれかけ、かつて人々が暮らしていた痕跡だけが残されていた。

 

「ここが……ユバ?」

 

 ビビの表情が曇る。

 

 以前は多くの人々が暮らし、緑豊かなオアシスとして知られていた場所。しかし、長引く干ばつと砂嵐によって、その姿は見る影もなかった。

 

「誰かいるかー!」

 

 ルフィが声を張り上げる。

 

「おい、勝手に大声を出すな! もし敵がいたら――」

 

「おお、旅の人か」

 

 ゾロの言葉を遮り、砂に埋もれかけた建物の陰から老人が姿を現した。

 

 日に焼けた顔に、深く刻まれた皺。手には砂を払うための道具を持ち、疲れた目で一行を見つめている。

 

「わしはトト。このユバに残っている、最後の住人じゃ」

 

「最後の……住人?」

 

 ビビが息を呑んだ。

 

 トトは彼女の顔を見て、目を見開く。

 

「おお……もしや、ビビ様か?」

 

「トトさん!」

 

 ビビは駆け寄り、老人の手を握った。

 

「よかった……あなたが無事で、本当によかった……!」

 

「ビビ様こそ、ご無事で……!」

 

 二人が再会を喜ぶ姿を、ルフィたちは静かに見守った。

 

 だが、事情を聞くにつれ、その場の空気は重くなっていった。

 

 反乱軍はすでにユバを離れていた。砂嵐を避けるため、別の場所へ移動したのだという。

 

「そんな……! ここまで来たのに……!」

 

 ビビは唇を噛んだ。

 

「コーザたちは、どこへ向かったんですか?」

 

「正確な場所までは分からん。じゃが、今から追っても夜の砂漠は危険じゃ。今日はここで休み、夜が明けてから追いかけるのがよかろう」

 

 トトの言葉に、サンジがうなずく。

 

「その方がいい。ここまで歩き通しだし、無理をして倒れたら元も子もない」

 

「せやな。ウチらも砂漠の恐ろしさは身に染みて分かったわ」

 

 タマモがルフィとゴールドシップをじろりと睨む。

 

「なんだよ、俺たちは元気だぞ!」

 

「おう! 砂漠の砂も食べられるか試してみようぜ!」

 

「試すな!」

 

 ナミとタマモの声が重なった。

 

 その夜、一行はトトのもとで休息を取ることにした。

 

 ビビはトトから、王国の現状について聞かされていた。

 

 反乱軍は増え続け、国王軍との衝突は避けられない状況にある。もし戦いが始まれば、多くの人々が犠牲になるだろう。

 

「絶対に止めなきゃ……」

 

 眠れずにいるビビの隣に、ナミが腰を下ろした。

 

「ビビ。あんた一人で全部背負い込まないの」

 

「でも……私がもっと早く帰っていれば……」

 

「それを言ったら、世の中のことなんて全部誰かの責任になっちゃうでしょ」

 

 ナミは少しだけ声を和らげた。

 

「今できることをやる。それだけよ」

 

「ナミ……」

 

「それに、あんたには私たちがいるんだから」

 

 少し離れたところでは、フェスタが月明かりの下で銃の手入れをしていた。

 

「王国を救う賭けか。胴元がクロコダイルってのが気に入らないね」

 

「フェスタ、賭け事にするのはやめなさいよ」

 

 ナミが呆れる。

 

「勝つために賭けるんじゃない。勝ち目があるかどうかを見極めるのさ」

 

 フェスタは銃を収め、砂漠の彼方を見つめた。

 

「それに、ここまで付き合ったんだ。最後まで見届けないと、賭けが成立しないだろ?」

 

 その言葉に、ナミは小さく笑った。

 

 翌朝。

 

 一行はトトに礼を告げ、再び砂漠へと踏み出した。

 

「待っていて、コーザ……! 必ず、戦争を止めてみせる!」

 

 ビビの決意を乗せて、麦わらの一味とウマ娘たちは砂漠を横断する。

 

 そして、数日間の旅路の果てに、彼らはついに目的地へとたどり着いた。

 

 雨の降らない砂漠の国にあって、人工的に雨を降らせることのできる町。

 

 カジノが立ち並び、華やかな賑わいを見せる歓楽都市――レインベース。

 

 そこは、王下七武海の一人にして、アラバスタ王国を陰から操る男。

 

 サー・クロコダイルの活動拠点だった。

第2話 雨の町レインベース! 砂漠の王の罠

「うおおおおっ! すげええええっ!」

 

 レインベースに足を踏み入れた瞬間、ルフィは目を輝かせた。

 

 砂漠の真ん中に、まるで別世界のような華やかな町が広がっている。豪華な建物、きらびやかな看板、そしてひときわ目を引く巨大なカジノ。

 

「カジノだ! なあ、ナミ! あそこに行こうぜ!」

 

「行かないわよ! 私たちは遊びに来たんじゃないの!」

 

「えーっ!」

 

「えーっ、じゃない!」

 

 ナミはルフィの襟首をつかんで引き戻した。

 

「ここはクロコダイルの拠点なのよ。敵の本拠地に、わざわざ遊びに来る馬鹿がどこにいるの!」

 

「ここにいるぜ!」

 

 ゴールドシップが堂々と挙手した。

 

「お前は黙ってなさい!」

 

「ナミ、安心しろ! カジノなら私も得意だ。勝負事は人生の縮図だからな!」

 

 ナカヤマフェスタが帽子のつばを上げる。

 

「だから、今はそういう話じゃないの!」

 

「なるほど。つまり、勝負をするなら敵を相手にしろということだな」

 

 ゾロが納得したように言った。

 

「お前も勝手に納得すんな!」

 

 ウソップが頭を抱えた。

 

 その後ろでは、タキオンがレインベースの建物を観察していた。

 

「ふむ。砂漠のど真ん中にこれほどの施設を築くとは、なかなか興味深いねえ。水の供給設備に、排水経路、そして地下構造……実験施設としても実に魅力的だ」

 

「タキオン。くれぐれも勝手に施設を調べたりしないでくれよ?」

 

 チョッパーが釘を刺す。

 

「もちろんさ。私はただ、扉の向こうに何があるのか知りたいだけだよ」

 

「それを勝手に調べるって言うんだ!」

 

「おや、そうかい?」

 

 タキオンは楽しそうに笑った。

 

 ビビは町の奥にそびえる建物を見上げた。

 

「クロコダイルは、この町にいるはず……。彼を倒せば、反乱軍を操っている陰謀を止められるかもしれない」

 

「なら、まずはクロコダイルを探そう」

 

 サンジが言った。

 

「ただし、全員で固まって動くのは危険だ。町の中で目立ちすぎる」

 

「そうね。何人かに分かれて情報を集めましょう」

 

 ナミが周囲を確認する。

 

 だが、その判断が終わるよりも早く――。

 

「麦わらのルフィ!」

 

 聞き覚えのある声が響いた。

 

 振り返った一行の目に映ったのは、白い煙をまとった海兵たち。そして、その先頭に立つ男だった。

 

 白い煙が肩口から立ち上り、腕には海楼石の武器。鋭い眼光が、真っ直ぐルフィを捉えている。

 

「スモーカー!」

 

「またお前か、ルフィ!」

 

「げっ! ケムリン!」

 

 ルフィが顔をしかめる。

 

「誰がケムリンだ!」

 

「おおっ! また会ったな、煙のおっさん!」

 

 ゴールドシップが手を振った。

 

「お前もいたのか、ゴールドシップ!」

 

「おう! 今度こそ焼き芋を持ってきたか?」

 

「持っているわけがあるか!」

 

「なんだと!? 海兵のくせに焼き芋を携帯していないとは、職務怠慢だぞ!」

 

「そんな職務は存在しねえ!」

 

 スモーカーの怒鳴り声が町に響く。

 

 タシギもまた、部下たちを率いて一行の前に出た。

 

「今度こそ逃がしません! 麦わらのルフィ、そしてゴールドシップ! あなたたちを逮捕します!」

 

「ええっ!? 私たちまで!?」

 

 テイオーが目を丸くする。

 

「そりゃそうだろ! お前たちも海賊の一味なんだからな!」

 

 ウソップが叫んだ。

 

「よし、逃げるぞ!」

 

 ルフィが宣言した。

 

「最初から逃げるつもりだったのか!?」

 

 スモーカーが叫ぶより早く、ルフィとゴールドシップは走り出した。

 

「待てェェェッ!」

 

 スモーカーたちが追跡を開始する。

 

「なんで俺たちまで走らなきゃならねえんだ!」

 

 ゾロが文句を言いながらも走る。

 

「お前が捕まったら、誰が方向を間違えるんだよ!」

 

「それ、フォローになっとらんぞタマモ!」

 

「ええい、走れ走れ! 捕まったら実験の時間がなくなるじゃないか!」

 

「そこが理由かよ、タキオン!」

 

 チョッパーは涙目で駆け出した。

 

「みんな、あんまり離れないで!」

 

 ビビが叫ぶ。

 

「分かってるわよ! ……って、ちょっと! ルフィ! そっちは行き止まり!」

 

 ナミの声も空しく、ルフィは路地の角を曲がった。

 

「よし、こっちなら撒けるぞ!」

 

「ルフィ! そっちは――」

 

 フェスタが言いかけた瞬間、ルフィとゴールドシップは、目の前に広がる豪華な建物へと飛び込んでいった。

 

「カジノじゃない!」

 

「おおっ! ここが敵の本拠地か!」

 

「絶対に違うわよ!」

 

 ナミの悲鳴が響く。

 

 しかし、追いかけてきたスモーカーたちも、結局その建物の中へと突入することになった。

 

 そこは、クロコダイルが所有するカジノ――レインディナーズ。

 

 華やかな店内を走り抜けるルフィたちを、従業員たちが驚愕の表情で見送る。

 

「おい、あの男は……!」

 

「王下七武海、クロコダイル様の……!」

 

 その言葉を聞いたビビの顔色が変わった。

 

「ここが……クロコダイルの店……!」

 

 そして、彼らがたどり着いた先には、一人の男が待っていた。

 

 葉巻をくゆらせ、椅子に腰掛けた長身の男。左手には巨大な鉤爪。冷酷な眼差しが、逃げ込んできた一行を見下ろしている。

 

「ようこそ、レインディナーズへ」

 

 サー・クロコダイル。

 

 アラバスタ王国を救う英雄として民衆に慕われながら、裏では秘密犯罪会社バロックワークスを率い、王国を乗っ取ろうとしている男だった。

 

「クロコダイル……!」

 

 ビビが歯を食いしばる。

 

 クロコダイルは彼女を一瞥すると、薄く笑った。

 

「これはこれは。王女殿下までお揃いとはな」

 

「あなたの計画はここまでよ! クロコダイル!」

 

「計画? 何のことだ?」

 

「とぼけないで! あなたが反乱軍を操り、王国を混乱させていることは分かっている!」

 

「ほう。証拠は?」

 

「それは……!」

 

 言葉に詰まるビビ。

 

 クロコダイルは嘲笑した。

 

「証拠もないのに、王女が一人で乗り込んできたというわけか。勇敢なのか、無謀なのか……いや、どちらでも同じことだ」

 

「ビビを馬鹿にするな!」

 

 ルフィが前に出る。

 

「お前が悪い奴なら、ぶっ飛ばす!」

 

「ずいぶん単純な理屈だな」

 

 クロコダイルは葉巻の煙を吐き出した。

 

「だが、嫌いじゃない。単純な人間は、扱いやすいからな」

 

「誰が扱いやすいって?」

 

 ゴールドシップが金属バットを肩に担いだ。

 

「私は扱いにくいぞ! 説明書が三百ページあっても足りない女だからな!」

 

「説明書があっても誰も読まねえよ!」

 

 ウソップが即座にツッコんだ。

 

 その隙を突くように、スモーカーたちが追いついてきた。

 

「麦わらのルフィ! 今度こそ終わりだ!」

 

「お前ら、店の中で騒ぐな。商品が壊れる」

 

 クロコダイルが面倒そうに言う。

 

「黙れ、クロコダイル! お前もろとも逮捕してやる!」

 

 スモーカーが煙を広げた。

 

 しかし、クロコダイルは微動だにしない。

 

「海軍が何をしに来たのか知らんが、ここは俺の店だ。客には礼儀を守ってもらわなければ困る」

 

「客だと!?」

 

 スモーカーの眉間に皺が寄る。

 

「この状況で、まだそんなことを言うか!」

 

 そのときだった。

 

 床が、わずかに揺れた。

 

 カチリ、と小さな音が響く。

 

「……何の音だ?」

 

 ゾロが足元を見る。

 

 次の瞬間、床が大きく開いた。

 

「うわあああああっ!?」

 

「落とし穴かよォォォッ!」

 

 ルフィ、ゴールドシップ、ゾロ、タマモ、ナミ、フェスタ、ウソップ、テイオー、そしてスモーカーと海兵たち。

 

 全員が、床の下へと落下していった。

 

「きゃああああっ!」

 

「ナミ! フェスタ!」

 

 テイオーが手を伸ばすが、全員を支えることはできない。

 

「これはまた、見事な罠だねえ!」

 

 タキオンだけは落下しながらも、どこか楽しそうだった。

 

「感心してる場合かァァァッ!」

 

 チョッパーの叫び声が、地下へと吸い込まれていった。

 

 そして、全員がたどり着いた場所は――巨大な水槽の中に設置された、鉄格子の牢屋だった。

 

 水槽の周囲には水が満ち、脱出するには水中を泳ぐしかない。しかし、鉄格子の扉には鍵がかかっている。

 

「な、なんだここは!?」

 

 ウソップが鉄格子を揺さぶった。

 

「牢屋だな」

 

 ゾロが冷静に答える。

 

「見れば分かるわよ!」

 

 ナミが怒鳴った。

 

「おい、煙の!」

 

 ルフィがスモーカーを見る。

 

「お前、煙になって出られねえのか?」

 

「ここには海楼石が使われている。能力者の力を封じるための仕掛けだ」

 

 スモーカーが鉄格子を睨む。

 

「なるほど。つまり、煙になっても出られないってわけか」

 

 ゴールドシップは腕を組み、うなずいた。

 

「よし! じゃあ、私がバットでぶち破る!」

 

「待て! 下手に壊したら水槽ごと割れるぞ!」

 

 タシギが叫んだ。

 

「おおっ! それはそれで派手だな!」

 

「派手にすればいいってもんじゃない!」

 

 タマモが頭を抱えた。

 

 牢屋の外では、クロコダイルが冷ややかに笑っていた。

 

「海軍の犬も、海賊も、王女も。まとめて片付けられるとは、実に都合がいい」

 

「クロコダイル!」

 

 ビビが鉄格子を握りしめる。

 

「あなたの好きにはさせない!」

 

「好きにするさ。ここでお前たちが死ねば、俺の計画を邪魔する者はいなくなる」

 

 クロコダイルは踵を返した。

 

「さらばだ。王女殿下」

 

 重い扉が閉まる。

 

 牢屋に残された一同は、しばし沈黙した。

 

 やがて、ルフィが口を開く。

 

「……よし。ぶっ壊そう!」

 

「だから水槽ごと壊すなって言ってんだろうが!」

 

 スモーカーの怒声が地下牢に響き渡った。

 

第3話 王女の意地! 巨大ワニと脱出劇

 クロコダイルが去ったあと、ビビはじっと鉄格子を見つめていた。

 

「私が……私がもっと早く動いていれば……」

 

「ビビ」

 

 ナミが声をかける。

 

「今は自分を責めている場合じゃないわ」

 

「でも、クロコダイルを目の前にして、何もできなかった……!」

 

 ビビは唇を噛んだ。

 

「私はこの国の王女なのに……!」

 

「王女だろうが何だろうが、今は全員まとめて捕まってんだ。気にすんな」

 

 ゾロがぶっきらぼうに言った。

 

「そういう慰め方があるかァ!」

 

 ウソップが叫ぶ。

 

「けど、ゾロの言う通りだよ」

 

 テイオーがビビの手を握った。

 

「ボクたちはまだ負けてない。ここから出て、クロコダイルを止めればいいんだ!」

 

「テイオー……」

 

「そうだとも! 牢屋に閉じ込められたくらいで諦めるなんて、私の辞書にはない!」

 

 ゴールドシップが胸を張る。

 

「ちなみに、辞書は持ってるの?」

 

 ナミが尋ねた。

 

「ない!」

 

「じゃあ、載ってないのは当たり前でしょ!」

 

 タマモが盛大にツッコんだ。

 

 そんな中、タキオンは鉄格子と水槽の構造を観察していた。

 

「ふむ……水圧、ガラスの厚み、鉄格子の固定方式。なるほど、脱出できないように考えられているねえ」

 

「何か方法はないのか?」

 

 チョッパーが尋ねる。

 

「あるとも。例えば、外から鍵を開けてもらう」

 

「それができないから困ってるんだろ!」

 

「では、鍵を持つ者を呼ぶ」

 

「どうやって!?」

 

「さあ?」

 

「さあ、じゃない!」

 

 チョッパーの叫びが響いた。

 

 その頃、地上では――。

 

「……あれ?」

 

 ビビがいないことに気づいたサンジは、カジノの通路で足を止めていた。

 

「ビビちゃんがいない!? そんな馬鹿な!」

 

「落ち着け、サンジ」

 

 オグリが大きな斧を背負い直す。

 

「全員が地下に落ちたわけではない。私たちは別の通路にいたから、罠を免れたんだ」

 

「そうだねえ。チョッパーと私も、騒ぎの最中に別の通路へ回っていたからね」

 

 タキオンの声が、頭上の通気口から聞こえてきた。

 

「……タキオン?」

 

 サンジが天井を見上げる。

 

「どうやら地下の牢屋に閉じ込められているようだ。実に興味深い構造だよ。あとでじっくり調べたいねえ」

 

「今すぐ助けろォォォッ!」

 

 チョッパーの悲鳴が続く。

 

 サンジは額に手を当てた。

 

「つまり、ルフィたちが捕まっているんだな?」

 

「そのようだ。ナミたちも一緒だよ」

 

「くそっ……! ビビちゃんまで……!」

 

 オグリが周囲を見回す。

 

「まずは敵の注意を引きつけよう。私たちが騒ぎを起こせば、地下の牢屋へ向かう連中も動くはずだ」

 

「そうだな。チョッパー、タキオン! そっちは任せた!」

 

「任された!」

 

「おや、私は何をすればいいのかな?」

 

「勝手に実験するな! 以上!」

 

 サンジとオグリは、カジノの奥へと走り出した。

 

 一方、ビビは単身でクロコダイルを追っていた。

 

 地下へ落ちる直前、彼女はクロコダイルの行き先を目に焼きつけていたのだ。

 

「待ちなさい、クロコダイル!」

 

 彼女は通路の先に立つ男へ叫んだ。

 

 クロコダイルはゆっくり振り返る。

 

「まだ何か用か、王女殿下」

 

「あなたの計画を止める! この国を、あなたの好きにはさせない!」

 

「一人で何ができる?」

 

「一人でも、やるしかないのよ!」

 

 ビビは孔雀の羽根を模した武器を構えた。

 

「孔雀一連スラッシャー!」

 

 鋭い刃がクロコダイルへと迫る。

 

 だが、刃は彼の身体を切り裂くことなく、砂となった身体をすり抜けた。

 

「なっ……!」

 

 クロコダイルの身体が砂へと変わる。

 

「ロギア系の能力者を相手に、そんな攻撃が通用すると思ったのか?」

 

 砂の腕が伸び、ビビを弾き飛ばした。

 

「きゃあっ!」

 

 壁に叩きつけられたビビは、苦痛に顔を歪める。それでも立ち上がろうとした。

 

「まだ……!」

 

「もういい」

 

 クロコダイルは彼女を見下ろした。

 

「お前の勇気は認めてやる。だが、勇気だけで国は救えん」

 

 そのとき、遠くから爆音が響いた。

 

「なに?」

 

 クロコダイルが顔を向ける。

 

 別の通路では、サンジが警備兵たちを蹴り飛ばし、オグリが斧を振るって行く手を塞ぐ敵を押し返していた。

 

「ビビちゃんに手を出すんじゃねえ!」

 

 サンジの蹴りが敵の武器を弾き飛ばす。

 

「ここから先には通さない!」

 

 オグリが斧の柄で床を打ち、敵の進路を塞いだ。

 

「グレート・アックス・スマッシュ!」

 

 振り下ろされた斧の衝撃に、警備兵たちがまとめて吹き飛ぶ。

 

「おいおい、店の備品を壊しすぎじゃないかい?」

 

 通気口から顔を出したタキオンが、妙なところを心配する。

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃねえ!」

 

 サンジが怒鳴った。

 

 騒ぎに気を取られたクロコダイルが、ほんの一瞬だけビビから視線を外した。

 

 その隙に、ビビは身を翻して逃げ出す。

 

「待て!」

 

 砂の腕が伸びる。

 

 だが、ビビはぎりぎりでそれをかわし、通路の向こうへと走り去った。

 

「……ふん。多少は骨があるらしい」

 

 クロコダイルは追いかけることなく、再び地下牢へと向かった。

 

 その頃、牢屋の中では事態がさらに悪化していた。

 

「おい、あの鍵は何だ?」

 

 ルフィが、牢屋の外に置かれた鍵を見つけた。

 

「本当だ! あれがあれば出られる!」

 

 ウソップが目を輝かせる。

 

「よし! 誰か取ってこい!」

 

「どうやってだよ!」

 

「手を伸ばせばいいだろ?」

 

「ここは水の中だぞ!」

 

 ルフィがゴムの腕を伸ばそうとした瞬間、鉄格子の向こうから巨大な影が現れた。

 

 大きな口。鋭い歯。水槽を悠々と泳ぐ巨大なワニだった。

 

「……おい」

 

 ゾロが嫌な予感を覚える。

 

「まさか、あれ……」

 

 ワニは大口を開けると、鍵をぱくりと飲み込んだ。

 

「「「ああああああああっ!?」」」

 

 一同の絶叫が水槽に響き渡る。

 

「鍵を食いやがったァァァッ!」

 

 ウソップが鉄格子に頭をぶつけた。

 

「よし! じゃあ、ワニを倒して鍵を取り返す!」

 

 ルフィが拳を握る。

 

「待て! ここで暴れたら水槽が危ない!」

 

 スモーカーが怒鳴った。

 

「じゃあ、どうすんだよ!」

 

「知るか!」

 

「お前も考えろよ!」

 

 ゴールドシップがバットを構える。

 

「巨大ワニか……。よし、私の新技を見せてやる!」

 

「やめろォォォッ!」

 

 スモーカーの制止もむなしく、ゴールドシップはワニに向かってバットを振りかぶった。

 

「ゴルシ式――ワニの蒲焼き三枚おろし!」

 

「料理名じゃねえか!」

 

 タマモのツッコミと同時に、ワニが大暴れした。

 

 尻尾が水槽の壁に激突する。

 

 ――ピシッ。

 

 嫌な音が響いた。

 

「……あ」

 

 全員の視線が、ひび割れたガラスへと向けられる。

 

「おい、ゴールドシップ……」

 

 ゾロの顔が引きつる。

 

「いや、違う! 私はまだ当ててない!」

 

「じゃあ誰がやったんだよ!」

 

「ワニだよ!」

 

 ゴールドシップがワニを指差す。

 

 次の瞬間――。

 

 バキィィィィンッ!

 

 水槽のガラスが砕け散った。

 

 大量の水が地下牢へと流れ込み、鉄格子の周囲を飲み込んでいく。

 

「うわあああああっ!」

 

「泳げ! とにかく泳げェェェッ!」

 

 ウソップが叫ぶ。

 

 スモーカーは海楼石の武器を手放さないようにしながら、水流に流されまいと必死に壁をつかんだ。

 

「お前ら! 勝手に沈むなよ!」

 

「沈みたくて沈んでる奴がいるかァ!」

 

 タマモがルフィの襟首をつかむ。

 

 ナミはフェスタに手を引かれ、テイオーはチョッパーを抱えて水面へと向かった。

 

「チョッパー、息を止めて!」

 

「分かってる! でも、僕はトナカイだぞ! 泳ぐのは得意じゃないんだ!」

 

「そこは頑張れ!」

 

 タキオンは水中でも妙に落ち着いていた。

 

「おお、これはすごい水圧だ! あとで記録を――」

 

「記録はいいから浮かべェェェッ!」

 

 ウソップの叫びに、タキオンもようやく水面を目指した。

 

 全員が必死に泳ぎ、どうにか水槽の外へと這い上がる。

 

 ずぶ濡れになったルフィは、地面に寝転がって大笑いした。

 

「ぎゃはははは! 面白かった!」

 

「何が面白いんだァァァッ!」

 

 スモーカーが怒鳴る。

 

「あと少しで全員溺れ死ぬところだったんだぞ!」

 

「でも、出られただろ?」

 

「お前のせいでこうなったんだ!」

 

 そのとき、ワニが大きく口を開いた。

 

 水と一緒に、鍵がぽろりと吐き出される。

 

「鍵だ!」

 

 ナミが飛びつき、鍵を拾い上げた。

 

「やった! これで本当に脱出できるわ!」

 

「……いや、もう牢屋は壊れているんだが」

 

 スモーカーが疲れ切った声でつぶやいた。

 

 誰も反論できなかった。

 

第4話 借りは一度きり! 煙の海兵と砂の王

 地下牢から脱出した一行は、地上へと戻った。

 

 そこで待っていたのは、傷つきながらも立ち続けるビビと、彼女を守るように立つサンジ、オグリだった。

 

「ビビちゃん!」

 

 サンジが駆け寄る。

 

「大丈夫か!? 怪我は!?」

 

「私は平気よ。それより、みんなは……?」

 

「全員無事だ!」

 

 オグリが答える。

 

「ただし、全員ずぶ濡れだ」

 

「誰のせいだと思ってんだ!」

 

 ウソップがゴールドシップを指差した。

 

「ワニだろ?」

 

「お前も原因の一つだ!」

 

 ゴールドシップは、なぜか誇らしげに胸を張っていた。

 

 そんな彼らを、スモーカーは黙って見つめていた。

 

 海賊と海兵。

 

 本来なら、決して相容れない存在だ。

 

 だが、今の状況は少し違った。

 

「……おい、麦わら」

 

 スモーカーが口を開く。

 

「何だ?」

 

「俺は海軍だ。お前たちは海賊だ。次に会ったら、今度こそ捕まえる」

 

「おう!」

 

「即答するな!」

 

 スモーカーは額を押さえた。

 

「だが、今回だけは見逃してやる」

 

 一同が目を丸くする。

 

「えっ!?」

 

 ナミが驚きの声を上げた。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

 ゾロが尋ねる。

 

「勘違いするな。お前たちを許したわけじゃない」

 

 スモーカーはクロコダイルのいた方向を睨んだ。

 

「王下七武海の肩書きを利用して、国を混乱に陥れている男がいる。海軍としても、見過ごせる話じゃない」

 

「つまり……クロコダイルを追うのね?」

 

 ビビが尋ねる。

 

「ああ。俺たちは俺たちのやり方で動く。お前たちも好きにしろ」

 

 スモーカーは部下たちに合図を送った。

 

「タシギ! 海兵を集めろ。クロコダイルの計画を調べる。ここで見聞きしたことを上に報告するぞ」

 

「はい、スモーカー大佐!」

 

 タシギは敬礼した。

 

 その場を去ろうとしたスモーカーが、ふと足を止める。

 

「……ゴールドシップ」

 

「おう、煙のおっさん!」

 

「次に会うまでに、焼き芋の話は忘れろ」

 

「なんでだよ!? 海軍の福利厚生に焼き芋を追加しようぜ!」

 

「そんなものを追加するわけがあるか!」

 

 スモーカーの怒声を背に、海兵たちは去っていった。

 

 ナミは大きく息を吐く。

 

「まさか、スモーカーに見逃されるなんてね……」

 

「借りを作ったってことか?」

 

 ゾロが尋ねる。

 

「そうね。でも、あの人はクロコダイルを放っておけないみたい」

 

 ビビは拳を握りしめた。

 

「私たちも急がなきゃ。クロコダイルは、王都アルバーナに向かうはずよ!」

 

「よし! じゃあ、アルバーナに行こう!」

 

 ルフィが叫ぶ。

 

「今度こそ、クロコダイルをぶっ飛ばす!」

 

「その前に、作戦を立てなさい!」

 

 ナミが怒鳴った。

 

「相手は七武海よ。砂を操る能力者で、普通の攻撃は通じない。まともに戦えば危険だわ」

 

「なら、私が砂を研究して弱点を――」

 

 タキオンが口を開く。

 

「タキオン、今は研究より移動が先だ」

 

 チョッパーが慌てて止めた。

 

「おや、残念」

 

 フェスタは銃を肩に担ぎ、砂漠の先を見据えた。

 

「それに、相手が七武海なら賭けの倍率は高い。ここで引き下がるのは、私の性に合わないね」

 

「フェスタ、あんたは本当に何でも賭けにするわね……」

 

 ナミが呆れたようにつぶやく。

 

 だが、そのときだった。

 

「――見つけたぞ」

 

 砂を巻き上げながら、一人の男が姿を現した。

 

 黒いコート。葉巻。左手の巨大な鉤爪。

 

 サー・クロコダイル。

 

「クロコダイル!」

 

 ビビが叫ぶ。

 

「わざわざ追ってきたのか!」

 

 ルフィが拳を握る。

 

「王女殿下を連れていく。お前たちには、ここで退場してもらおう」

 

 クロコダイルが砂を操る。

 

 ビビの足元が崩れ、砂の腕が彼女へと伸びた。

 

「きゃっ!」

 

「ビビ!」

 

 ルフィが飛び出す。

 

 ゴールドシップも地面を蹴った。

 

「させるかァァァッ!」

 

 ルフィの拳が伸び、砂の腕を弾き飛ばす。同時に、ゴールドシップが金属バットを振り抜いた。

 

「ゴルシ式――黄金バットォォォッ!」

 

 クロコダイルの身体が砂へと崩れ、打撃を受け流す。

 

「ほう……。お前たちが二人がかりで来るか」

 

 クロコダイルが目を細めた。

 

「一人でも二人でも関係ねえ! ビビに手を出すな!」

 

 ルフィが叫ぶ。

 

「そうだそうだ! 王女誘拐反対! 砂漠の治安を守る会、会長ゴールドシップ!」

 

「そんな会はない!」

 

 ナミが叫んだ。

 

 クロコダイルは鼻で笑う。

 

「威勢だけは一人前だな。だが、ここで俺を止められると思うな」

 

 砂が渦を巻き、周囲の地面を覆っていく。

 

 ルフィとゴールドシップは、ビビの前に立ちはだかった。

 

「みんな、先に行け!」

 

 ルフィが叫ぶ。

 

「何言ってんの、ルフィ!?」

 

 ナミが目を見開く。

 

「こいつは俺たちが止める! お前たちはアルバーナへ行け!」

 

「ルフィ……!」

 

 ビビが唇を噛んだ。

 

「でも、あなたたちだけじゃ……!」

 

「大丈夫だ!」

 

 ゴールドシップがバットを構える。

 

「こいつを足止めするくらい、私とルフィなら何とかなる! なんたって私は黄金の浮沈船! 沈んでも浮かび上がる女だからな!」

 

「自分で沈む前提にするな!」

 

 タマモが叫ぶ。

 

 ゾロはルフィを見つめ、静かに刀へ手をかけた。

 

「……分かった。ここは任せる」

 

「ゾロ!?」

 

 ウソップが驚く。

 

「クロコダイルを倒すのは、ルフィの役目だ。俺たちは王都へ向かう。あそこにも敵がいるんだろ?」

 

 ゾロはビビを見る。

 

 ビビは苦しそうにうなずいた。

 

「……ええ。クロコダイルの部下たちが、アルバーナで待ち構えているはずよ」

 

「なら、そいつらは俺たちが相手をする」

 

 ゾロが刀を抜く。

 

「タマモ、行くぞ」

 

「言われんでも分かっとるわ!」

 

 タマモも二本の刀を構えた。

 

「ウチらが王都を切り開く。ルフィ、ゴルシ! 後からちゃんと追いついてこいよ!」

 

「おう!」

 

「おうとも! 帰ってきたら祝勝会だ! メニューは砂漠のワニ鍋!」

 

「勝手に決めるな!」

 

 ナミが叫ぶ。

 

 サンジはビビの前に立ち、深く頭を下げた。

 

「ビビちゃん。ここはルフィたちに任せて、俺たちは王都へ向かおう。君が救いたい国を、君自身の手で救うんだ」

 

「……ありがとう、サンジさん」

 

 オグリは大きな斧を背負い直した。

 

「私たちも行こう。ルフィたちが時間を稼いでくれるなら、その間にできることをしなければ」

 

「よし! ボクも全力で走るよ!」

 

 テイオーが槍を構える。

 

「敵が何人いようと、道を切り開けばいいんだね!」

 

「その通りだ。だが、焦るなよ」

 

 フェスタが銃を構え直す。

 

「賭けは、最後まで生き残った奴が勝つんだ」

 

「フェスタ、そういうところは頼もしいんだけどね……」

 

 ナミが苦笑した。

 

 チョッパーはルフィを見つめ、心配そうに声を上げる。

 

「ルフィ! 怪我したらちゃんと手当てするからな! 無茶しすぎるなよ!」

 

「おう! 待ってろよ、チョッパー!」

 

「君の言う無茶の基準が心配なんだがねえ」

 

 タキオンが肩をすくめた。

 

「クロコダイルの能力を調べられないのは惜しいが……まあ、帰ってきたらじっくり聞かせてもらおう」

 

「できれば生きて帰ってきてね!」

 

 チョッパーが叫んだ。

 

 ナミは最後にルフィとゴールドシップを振り返った。

 

「絶対に死ぬんじゃないわよ! あんたたちがいないと、誰が食料を無駄にするのよ!」

 

「そこかよ!」

 

 ルフィが笑う。

 

「安心しろ! 食料を無駄にするのは私の専門分野だ!」

 

「安心できる要素が一つもないわよ!」

 

 こうして、ゾロ、タマモ、ナミ、フェスタ、ウソップ、テイオー、サンジ、オグリ、チョッパー、タキオン、ビビ、カルーは、王都アルバーナへ向けて走り出した。

 

 残されたのは、ルフィとゴールドシップ。

 

 そして、砂漠の王を名乗る男――クロコダイル。

 

 クロコダイルは二人を見据え、静かに口を開いた。

 

「お前たちがここで俺を止めたところで、すでに歯車は回り始めている。反乱軍と国王軍は衝突する。アラバスタは戦火に包まれ、俺が手に入れる」

 

「うるせえ!」

 

 ルフィが拳を握る。

 

「お前が何を企んでようが関係ねえ! ビビが泣くようなことをする奴は、俺がぶっ飛ばす!」

 

「その通り!」

 

 ゴールドシップがバットを構えた。

 

「国を乗っ取る? 反乱を起こす? 砂漠をカジノにする? 好き勝手やりやがって! お前の悪事は、この黄金の浮沈船が沈めてやる!」

 

「最後の台詞は意味が分からんが……」

 

 クロコダイルは、ゆっくりと右手を掲げた。

 

「ならば、その意気込みごと砂に埋めてやろう」

 

 砂嵐が吹き荒れる。

 

 ルフィは帽子を押さえ、ゴールドシップはバットを握り直した。

 

 二人の目の前で、クロコダイルの身体が砂へと変わっていく。

 

「来い、麦わらのルフィ。黄金の浮沈船。お前たちがどれほど足掻こうと、この砂漠では俺が絶対だ」

 

 ルフィが笑った。

 

「やってみろ!」

 

 ゴールドシップもまた、にやりと笑う。

 

「その余裕、あとで後悔させてやるぜ!」

 

 砂漠の王と、海賊王を目指す少年。

 

 そして、常識破りの黄金のウマ娘。

 

 アラバスタ王国の運命を左右する戦いが、今、始まろうとしていた。

 

 ――アラバスタ編、激闘へ続く。

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