ウマ娘ONE PIECEダービー~黄金の浮沈船は大海原を駆ける~   作:武藤 桜

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第四話「オレンジの町決戦! 哀れな道化師と珍獣たちの島!」

「よっしゃ! 全員まとめて、バギーをぶっ飛ばすぞ!」

「勝手に仕切るなあああああ!」

オレンジの町に、ナミの怒声が響き渡った。

目の前には、派手な化粧に真っ赤な鼻、そして見るからに悪趣味な衣装を身につけた男――道化のバギー。

その周囲には、ナイフを構えた海賊たちと、剣を振り回す曲芸師カバジ、そして猛獣使いモージの姿があった。

「おいおいおい! なんだこの状況は! 俺様の町に勝手に入り込んで、好き放題暴れやがって!」

「いや、ここはお前の町じゃないだろ」

ルフィが即座にツッコミを入れる。

「うるせェ! このオレンジの町は俺様が支配してるんだよ!」

「だったら、町の人たちを怖がらせてるお前をぶっ飛ばせば解決だな!」

「話が通じねェ!」

バギーは顔を真っ赤にして怒鳴った。

その横では、ゴールドシップが鉄の棍棒を肩に担ぎ、ニヤニヤと笑っている。

「いやあ、いいねえ! 道化師が海賊団の船長とは、なかなか愉快な組み合わせじゃねえか! 次はピエロの鼻から花火でも出すのか?」

「誰がピエロだァ! この鼻は生まれつきだァ!」

「おっ、そこは気にしてんのか」

「黙れェェェェ!」

バギーの額に青筋が浮かんだ。

「全員まとめて、バラバラにしてやる! 野郎ども、やっちまえェ!」

「「「おおおおおおっ!」」」

バギー海賊団の海賊たちが、一斉に襲いかかってきた。

「来た来た来たァ! 宴会の始まりだァ!」

ゴルシは棍棒を振り回し、突っ込んできた海賊たちをまとめて吹き飛ばす。

「どりゃあああああっ!」

「ぎゃああああっ!」

「うわっ、あいつ一人で何人倒してんだ!?」

「しかも、なんであんなに楽しそうなんだよ!」

「おい、そこの赤鼻! 次はお前の番だぜ!」

「誰が赤鼻だァァァ!」

バギーは怒り狂い、両手からナイフを飛ばした。

しかし、ゴルシはそれをひょいひょいと避けると、逆に棍棒を振り下ろす。

「うおおおおおっ! 黄金の浮沈船、渾身の一撃ィ!」

「だから、その変な二つ名は何なんだァ!」

バギーは上半身をバラバラにして攻撃を回避した。

ゴルシの棍棒は地面を砕き、石畳に大きな穴を開ける。

「おっと、外したか!」

「へへへ! 俺様には物理攻撃なんざ効かねェんだよ!」

バギーの腕が宙を飛び、ゴルシの背後からナイフを突きつける。

だが――。

「そりゃあ、面白い能力だな!」

ゴルシは振り返るなり、飛んできた腕を棍棒で弾き飛ばした。

「だったら、腕を遠くに飛ばしてやればいいんじゃね?」

「俺様の腕をおもちゃみてェに扱うんじゃねェ!」

「お、腕だけに手応えありってか!」

「うるせェェェェ!」

バギーの怒鳴り声が、町中に響き渡った。

一方、別の場所では――。

「おらおら! どないしたんや、曲芸師! その程度でウチの相手が務まる思てんのか!?」

タマモクロスが、二本の刀を構えてカバジと対峙していた。

カバジは一輪車に乗り、曲芸じみた動きで剣を振るう。

「小娘が! 俺の曲芸剣術を甘く見るな!」

「誰が小娘や! ウチを誰やと思とんねん!」

タマモは地面を蹴った。

一瞬で間合いを詰め、左右の刀を交差させる。

「双閃・稲妻駆け(そうせん・いなずまがけ)!」

左右から放たれた斬撃が、稲妻のようにカバジへと迫った。

「なっ!?」

カバジは一輪車を急旋回させ、かろうじて斬撃を避ける。

だが、タマモは止まらない。

「逃がすかいな!」

右の刀で相手の剣を弾き、左の刀で一輪車の車輪を斬り払う。

「な、何ィ!?」

バランスを崩したカバジが地面に転がった。

「曲芸は終いや! こっからはウチの独壇場やで!」

タマモは二本の刀を構え直す。

「双閃・白狐乱舞(そうせん・びゃっこらんぶ)!」

二刀が目にも留まらぬ速さで閃いた。

カバジの剣が弾き飛ばされ、彼の衣装が切り裂かれる。

「うわああああっ!」

最後の一撃でカバジは吹き飛び、建物の壁に激突した。

「ふぅ……。どや、これがウチの二刀流や!」

タマモは刀を納め、胸を張った。

そこへ、ゴルシの声が飛んでくる。

「タマちゃーん! こっちのピエロ、なかなかしぶといぞー!」

「誰がピエロやねん!」

バギーが反射的に叫んだ。

「お前や!」

「だから誰がピエロだァァァ!」

タマモは呆れた顔でため息をついた。

「……あかん。こいつら、相手しとるだけで頭痛なってくるわ」

 

1 猛獣使いと、勝負師の勘

「グルルルル……!」

唸り声とともに、巨大なライオンがナミとナカヤマフェスタの前に立ちはだかった。

猛獣使いモージの相棒、リッチーである。

「へえ。今度はライオンか」

フェスタは帽子のつばを指で持ち上げ、面白そうに目を細めた。

「ナミ、賭けをしないか?」

「こんなときに何言ってんのよ!」

「どっちが先にあのライオンを退かせられるか。私は勝負事が好きなんだ」

「私は命がけの賭けなんて大嫌いよ!」

「じゃあ、勝った方がバギーの宝を多くもらうってことで」

「乗った!」

ナミは即答した。

「……本当に分かりやすいな、君は」

フェスタは肩をすくめると、リッチーの動きを観察した。

ライオンは前脚を低く構え、今にも飛びかかろうとしている。

「正面から相手をする必要はない。あいつが飛びかかる瞬間、横に避ければいい」

「そんなこと、見れば分かるわよ!」

「では、君が先にどうぞ」

「なんで私が!」

言い争う二人に、リッチーがしびれを切らした。

「ガオオオオッ!」

猛獣が跳躍する。

ナミは悲鳴を上げて横に飛び退いた。

その瞬間、フェスタは落ちていた木箱を蹴り上げる。

木箱がリッチーの顔に直撃し、ライオンは着地に失敗して地面を転がった。

「今よ、ナミ!」

「言われなくても!」

ナミは棒を振り下ろし、リッチーの頭を思い切り叩いた。

「ぐおおおお……!」

リッチーは目を回して倒れた。

モージが口をあんぐりと開ける。

「リ、リッチーが……!」

「はい、私の勝ち」

フェスタが涼しい顔で告げる。

「なっ、私が先に叩いたでしょ!」

「木箱をぶつけたのは私だ。つまり、私の方が先に勝利条件を満たした」

「そんなの屁理屈じゃない!」

「勝負の世界では、屁理屈も立派な戦術さ」

「この女……!」

ナミはフェスタを睨みつける。

だが、フェスタは楽しそうに笑っていた。

「まあ、いいじゃないか。二人で倒したんだ。報酬は山分けでどうだ?」

「……最初からそう言いなさいよ」

「君がそう言うと思ってね」

二人はモージを取り囲む。

「さあ、あんたも降参しなさい!」

「お前たち、よくもリッチーを……!」

モージは悔しそうに拳を握ったが、目の前のライオンが気絶しているのを見て、ついに武器を捨てた。

こうして、バギー海賊団の幹部二人は倒された。

ナミはフェスタを横目で見る。

「……あんた、意外と使えるわね」

「それはどうも。君も、金が絡むと驚くほど勇敢だ」

「褒めてるの? それ」

「もちろん」

「……変な女」

「お互い様だろう?」

二人は顔を見合わせ、同時に笑った。

もっとも、その笑いが終わる前に、遠くからとんでもない怒声が響いてきた。

「おい、ナミィィィィ! てめェ、どっちの味方だァァァ!」

バギーが、怒りで顔を真っ赤にしていた。

 

2 道化の最終兵器

「おのれ、おのれ、おのれェ……!」

バギーは散らばった自分の部下たちを見回し、歯を食いしばった。

カバジは倒れ、モージは降参。

部下たちもゴルシとゾロに次々と蹴散らされ、残る者はわずかだった。

そして、ナミは自分の宝を盗もうとしている。

「ナミ! てめェ、俺様を裏切りやがったな!」

「裏切るも何も、最初からあんたの仲間になった覚えはないわよ!」

ナミは舌を出して笑った。

「それに、あんたの宝は全部いただくわ!」

「ふざけやがって……!」

バギーは懐から、小さな導火線付きの砲弾を取り出した。

その瞬間、周囲の海賊たちが歓声を上げる。

「バギー玉だ!」

「船長の特製砲弾だぞ!」

「町ごと吹き飛ばしてやれ!」

「おいおい、物騒なもん出してきたな」

ゴルシは棍棒を肩に担いだまま、砲弾を眺めた。

「爆発するんだろ? なら、俺様の出番じゃねえか?」

「ゴルシ、待て!」

ルフィが叫ぶ。

だが、バギーは砲弾を大砲へと装填した。

砲口は、町の広場に向けられている。

そこには、逃げ遅れた町の人々がいた。

「ヒャハハハハ! これが俺様のバギー玉だ! お前らも、この町も、まとめて吹き飛ばしてやる!」

「やめなさい!」

ナミが叫んだ。

「町の人まで巻き込む気!?」

「知ったことかァ! 逆らう奴は全員、ぶっ飛ばす!」

バギーは導火線に火をつけようとする。

そのときだった。

「――賭けの時間だね」

フェスタが、静かに呟いた。

彼女は砲身と導火線、そしてバギーの手元を見比べていた。

「ナミ、あの砲弾は大きい。撃たれたら、この広場の建物まで巻き込まれる。止めるなら、今しかない」

「分かってるわよ!」

ナミは地面を蹴った。

「バギー! あんたの宝なんて、もうどうでもいい!」

「何ィ!?」

「町の人を巻き込むのだけは、絶対に許さない!」

ナミは大砲へと駆け寄り、導火線を引きちぎった。

「なっ、てめェェェェ!」

バギーの顔が引きつる。

「俺様のバギー玉をォォォ!」

「うるさい! あんたの宝も砲弾も、全部私が管理してやるわ!」

「そんな管理があってたまるかァ!」

ナミは砲弾を抱えて走り出す。

フェスタがその背後で、ニヤリと笑った。

「いいね。勝負を降りるタイミングを知っているのも、立派な勝負師の条件だ」

「勝負師じゃなくて泥棒よ、私は!」

「そうだったね」

「そこは否定しなさいよ!」

その騒ぎの間に、ルフィはバギーの前へと進み出た。

「お前、町の人を殺そうとしたな」

いつもの能天気な表情が消えていた。

「海賊なら何をしてもいいってわけじゃねェぞ」

「……何を偉そうに!」

バギーは唇を歪めた。

「俺様は偉大なる海賊だ! お前みてェなガキに説教される筋合いはねェ!」

「だったら、ぶっ飛ばして分からせる!」

ルフィは拳を握りしめた。

「ゴムゴムの――!」

「待てェ!」

バギーは突然、懐から別のナイフを取り出し、ルフィへと飛びかかった。

だが、ルフィはその動きを見切っていた。

「ゴムゴムのピストル!」

伸びた拳がバギーの顔面に直撃する。

「ぶべらぁっ!?」

バギーの体が吹き飛び、地面を何度も転がった。

「ぐぬぬぬ……! おのれ、ゴム人間め……!」

「お前が悪いんだろ!」

「黙れェ!」

バギーはバラバラの実の能力で体を分離させ、両手のナイフを飛ばした。

ルフィは身をかがめて避ける。

その隙に、バギーの足が地面を蹴った。

「バラバラせんべい!」

分離した足がルフィの顔面へと飛んでくる。

「おっと!」

ルフィは両腕で防いだが、バギーの攻撃は続いた。

手、足、胴体が別々の方向から襲いかかり、ルフィを追い詰める。

「ヒャハハハハ! どうだ! 俺様のバラバラの実は無敵なんだよ!」

「確かに、変な能力だな!」

「変な能力だとォ!?」

「でもよ!」

ルフィは飛んできたバギーの足を掴んだ。

「足を掴まれたら、飛べねェんじゃねェのか?」

「なっ!?」

ルフィは思い切り引っ張った。

バギーの体がバランスを崩す。

「うおおおおっ!?」

そこへ、ルフィの拳が飛んだ。

「ゴムゴムの――バズーカ!」

両手の掌底がバギーの胴体を捉えた。

「ぶぎゃああああああっ!」

バギーは空の彼方へ吹き飛んでいった。

その姿が小さくなっていく。

「俺様の宝がァァァ! 俺様の海賊団がァァァ! 覚えてやがれェェェェ!」

最後まで宝の心配をしながら、道化師は遠ざかっていった。

ゴルシは空を見上げ、しみじみと頷いた。

「いやあ、見事な退場だったな。最後にもう一回、赤鼻をいじってやりたかったぜ」

「お前は少し黙っとれ!」

タマモが即座にツッコむ。

ゾロは刀を納め、倒れた海賊たちを見渡した。

「これで終わりか」

「そうみたいだな!」

ルフィは満面の笑みを浮かべた。

「よし! 次の島に行こうぜ!」

「ちょっと待ちなさい!」

ナミがすかさず割って入った。

「誰があんたたちと一緒に行くって言ったのよ!」

「え? 行かねェのか?」

「行かないわよ! 私は海賊なんて大嫌いなんだから!」

そう言いながら、ナミはバギーの宝箱を抱えていた。

フェスタはその横で、涼しい顔をしている。

「私は、しばらく同行してもいいと思っているよ。面白い賭けができそうだからね」

「ちょっと、フェスタ!」

「安心したまえ。宝の分け前については、きっちり交渉するつもりだ」

「そういう問題じゃない!」

ナミの叫びが、オレンジの町に響いた。

 

3 オレンジの町に残されたもの

戦いが終わると、町の人々が少しずつ広場へと姿を現した。

壊れた建物。砕けた石畳。倒れた大砲。

けれど、町の人々は生きていた。

それだけで十分だった。

「ありがとうございます……! 本当に、ありがとうございます!」

老人がルフィたちに頭を下げる。

「いや、俺たちは別に――」

「そうそう! 礼ならこの黄金の浮沈船に任せな!」

ゴルシが堂々と胸を張った。

「この町の危機を救った英雄、ゴールドシップ様の銅像を建てるなら、右手には棍棒、左手にはマグロを持たせてくれ!」

「何でマグロなんだよ!」

ルフィが笑う。

「そりゃあ、黄金の浮沈船だからな! 金色のマグロが似合うだろ!」

「意味が分からんわ!」

タマモが頭を抱えた。

ゾロは町の人々に軽く手を上げると、船へ戻る準備を始める。

「ルフィ。騒いでる暇があるなら出航の準備をしろ」

「おう!」

「……あんたたち、自由すぎない?」

ナミは呆れた顔をした。

フェスタが隣で笑う。

「自由なのは、いいことじゃないか。少なくとも、バギーみたいに他人を縛りつけるよりはね」

その言葉に、ナミは一瞬だけ黙った。

彼女は海賊を憎んでいる。

その理由を、今ここで誰かに話すつもりはなかった。

けれど、ルフィたちは少なくとも、町の人々から金品を奪うために戦ったわけではない。

それだけは分かった。

「……勘違いしないでよね」

ナミは顔を背けた。

「あんたたちが海賊として立派だなんて、これっぽっちも思ってないから」

「おう!」

ルフィは気にした様子もなく頷いた。

「でも、ナミ! お前、航海できるんだろ? 俺たちの船に乗ってくれよ!」

「嫌よ!」

即答だった。

「私は自分の目的があるの! あんたたちの船に乗る気はないわ!」

「そっか!」

「……あんた、本当に気にしてないわね」

「嫌なら仕方ねェだろ!」

あまりにあっさりとした返事に、ナミは調子を狂わされた。

フェスタはそんな彼女を見て、口元を緩めた。

「いい船長じゃないか。無理に仲間を縛りつけない」

「だから、船長って呼ぶな! 私は仲間じゃない!」

「はいはい」

「返事が軽い!」

こうしてナミとフェスタは、正式な仲間にはならないまま、ルフィたちと同じ船に乗ることになった。

もちろん、ナミの目的はあくまで自分の目的のため。

フェスタの目的は、面白い勝負を見届けるため。

そして、ルフィたちの目的は――次の島へ向かうことだった。

 

4 次の島へ! 黄金の浮沈船、船上で暴れる!

オレンジの町を出航した小さな船は、青い海を進んでいた。

船首ではルフィが腕を伸ばし、海鳥を捕まえようとしている。

「おーい! こっち来いよー!」

「やめときなさいよ! また変なことになるわよ!」

ナミの忠告もむなしく、ルフィの腕が海鳥へ伸びた。

だが、鳥はひらりと飛び去る。

ルフィの腕は勢い余って帆柱に巻きついた。

「うおおおおっ!?」

「何やっとんねん、あんたは!」

タマモが叫ぶ。

ゴルシは腹を抱えて笑っていた。

「ぎゃはははは! ルフィ、お前、鳥に振られたな!」

「うるせェ! 今のは練習だ!」

「何の練習だよ!」

ゾロは船の隅で昼寝をしている。

フェスタは船べりにもたれ、カードを指先で弄んでいた。

「さて、次はどんな島に着くのかな」

「知らねェ!」

ルフィは即答した。

「でも、面白い奴がいるといいな!」

「面白い奴なら、ここにいるだろ!」

ゴルシが自分を指さす。

「お前は面白いというか、騒がしいだけや!」

タマモのツッコミが飛ぶ。

「騒がしいのも才能だぜ、タマちゃん!」

「その才能、今すぐ海に捨ててこい!」

「やだね! 俺様の才能は沈まねェ! 何せ黄金の浮沈船だからな!」

「それ、船が沈むんか沈まんのか、どっちやねん!」

船上は今日も騒がしかった。

その一方で、ナミは海図を広げ、次の航路を確認していた。

フェスタが横から覗き込む。

「次はどこへ向かう?」

「……シロップ村方面よ。あくまで、私の目的に都合がいいから行くの」

「なるほど。つまり、しばらくは一緒ということだね」

「勝手に決めないで!」

「では、賭けをしよう。君が先に船を降りるか、私が先に飽きるか」

「そんな賭け、絶対に乗らない!」

「残念」

フェスタは笑った。

ナミはため息をつきながらも、海図を畳まなかった。

彼女はまだ、ルフィたちを信用していない。

それでも、彼らの船の上にいる間だけは、いつもの孤独とは少し違う空気が流れていた。

その空気をぶち壊すように、ゴルシが突然叫ぶ。

「よっしゃあ! 次の島でゴルシちゃん主催、第一回・海賊王杯を開催するぞ!」

「何よ、それ!?」

「優勝賞品は、海賊王の座!」

「勝手に人の夢を賞品にすんな!」

「じゃあ、マグロ一年分!」

「何でマグロにこだわるんだよ!」

ルフィが笑い、タマモが怒鳴り、ナミが頭を抱え、フェスタが面白そうに目を細める。

そして、ゾロは寝たまま呟いた。

「……うるせェ」

こうして、オレンジの町での戦いは終わった。

バギーは空の彼方へと吹き飛ばされ、彼の海賊団は壊滅。

ナミとフェスタは、まだ仲間とは言えない立場のまま、ルフィたちと航海を続けることになった。

次なる目的地は、シロップ村。

そこで彼らを待ち受けるのは、嘘つき少年と、海賊の襲来をめぐる騒動――。

そして、黄金の浮沈船が引き起こす、またしても予測不能な大騒ぎである。

 

5 珍獣島――船長のいない船と、箱に入った男

その頃。

ルフィたちがオレンジの町を出航した後、少し離れた海域に、一人の男が漂着していた。

「……ここはどこだ?」

頭に大きな箱を被った男――ガイモン。

彼は、珍獣たちが暮らす島の森の中で、ぼんやりと空を見上げていた。

島には、奇妙な動物たちが暮らしている。

ライオンのような体に鳥の羽を持つもの。

キリンのような首を持ちながら、胴体はカバのようなもの。

そして、見たこともない形の生き物たち。

そんな珍獣たちを見て、ゴルシが目を輝かせた。

「おおおおおっ! 何だここ! 珍獣のテーマパークか!?」

「勝手に入場料を取ろうとすなよ」

タマモが即座に釘を刺す。

「いや、だって見ろよ! あの動物、顔が二つあるぞ! しかも片方、寝てる!」

「珍しい生き物がいる島なのね……」

ナミは興味深そうに辺りを見渡した。

フェスタも、普段より少しだけ真剣な顔をしていた。

「賭けの対象としては面白そうだけど……ここで動物を賭けの景品にするのは、やめておこう」

「お、フェスタにしてはまともなこと言うじゃねえか」

ゴルシが感心する。

「私だって、何でも賭けにすればいいと思っているわけじゃないさ」

そう言って、フェスタは森の奥へと視線を向けた。

そこには、箱を被った男が座り込んでいた。

「……ん? あの人、何してんの?」

ルフィが近づく。

「おーい! お前、何で箱なんか被ってんだ?」

「箱じゃねェ! これは俺の体だ!」

「えっ!?」

ルフィが目を丸くした。

ゴルシは男の周りをぐるぐる回り、箱を叩いてみる。

コンコン。

「ほほう。なるほど、これはなかなか頑丈な箱だ」

「だから箱じゃねェ!」

「じゃあ、宝箱か?」

「もっと違うわ!」

タマモは頭を抱えた。

「頼むから、初対面の相手をおもちゃにすな!」

ガイモンは深々とため息をつき、事情を語り始めた。

彼はかつて海賊だった。

この島に宝があると聞きつけ、仲間たちとともに上陸した。しかし、宝箱を開けようと崖を登った際、足を滑らせて落下。

体が宝箱にはまり込み、身動きが取れなくなってしまった。

仲間たちは宝を求めて彼を置き去りにし、島を去った。

それから二十年。

ガイモンは島に残り、珍獣たちを守りながら暮らしていたのだ。

「……二十年!?」

ナミが目を見開く。

「そんなに長い間、一人で……?」

「一人じゃねェよ。こいつらがいる」

ガイモンは珍獣たちを見回した。

彼の声には、どこか誇らしさがあった。

ルフィはガイモンをじっと見つめる。

「なあ、ガイモン。お前、宝が欲しいんだろ?」

「ああ。だが、もういいんだ。二十年も待ったんだ。今さらどうしようもねェ」

「そうか!」

ルフィはあっさりと頷いた。

「じゃあ、見に行こうぜ!」

「……は?」

「宝があるんだろ? だったら見に行こう!」

「お、おい! 待て! 俺の話を聞いてたのか!?」

「聞いてたぞ!」

ルフィは満面の笑みを浮かべた。

「だから、宝があるかどうか見に行くんだ!」

「そういう問題じゃねェ!」

ゴルシは拳を握りしめた。

「いいねえ! 二十年越しの宝探し! これは燃える展開だぜ!」

「お前は黙っとれ!」

タマモが怒鳴る。

フェスタはガイモンの顔を見て、静かに言った。

「結果がどうであれ、確かめる価値はある。そうだろう?」

ガイモンは少しだけ黙り込んだ。

それから、ゆっくりと立ち上がる。

「……そうだな。最後に一度くらい、自分の目で確かめてみるか」

 

6 二十年越しの宝箱

ガイモンの案内で、ルフィたちは島の崖へと向かった。

そこには、いくつもの宝箱が並んでいた。

「これだ。俺たちが二十年前に見つけた宝だ」

ガイモンの声が震えていた。

「……開けてくれ」

ルフィは頷き、宝箱を一つずつ開けていく。

だが――。

中身は、空だった。

一つ目も、二つ目も、三つ目も。

どの宝箱にも、宝は入っていなかった。

「……え?」

ガイモンの声がかすれる。

「そ、そんな……」

彼は別の宝箱を開ける。

やはり、空。

何度確かめても、結果は同じだった。

二十年。

彼がこの島で生き続けた理由。

仲間に裏切られた後も、いつか宝を手に入れるという希望。

それが、目の前で崩れ去った。

「……はは」

ガイモンは乾いた笑いを漏らした。

「そうか……そういうことか……」

彼は肩を震わせた。

「俺は……俺は、二十年も……」

ナミは言葉を失っていた。

フェスタも、何も言わなかった。

ゴルシは珍しく、ふざけることなくガイモンを見つめている。

やがてルフィが、口を開いた。

「……お前、もう宝なんかいらねェんだろ?」

ガイモンが顔を上げる。

「……ああ。もう、いらねェよ」

「じゃあ、いいじゃねェか!」

ルフィは笑った。

「宝がなくても、お前にはこいつらがいる!」

彼は珍獣たちを指さした。

「お前が二十年も守ってきたんだろ? だったら、それでいいじゃねェか!」

ガイモンは目を見開いた。

「……お前……」

「俺はそう思うぞ!」

ルフィは屈託なく笑った。

「それに、宝が欲しいなら、また探せばいい! 海にはいっぱいあるんだろ?」

「……簡単に言いやがって」

ガイモンは呆れたように笑った。

けれど、その目には少しずつ力が戻っていた。

「……そうだな。宝がなくなったからって、こいつらまでいなくなるわけじゃねェ」

ガイモンは珍獣たちを見渡した。

「俺は、こいつらと生きていく。それでいいんだ」

ゴルシが大きく頷いた。

「そうそう! 宝がなくても、人生は宝探しみたいなもんだぜ!」

「……お前が言うと、急に胡散臭くなるな」

ゾロがぼそりと呟く。

「何だとォ! 今、いいこと言っただろ!」

「自分で言うな!」

タマモのツッコミが飛んだ。

ガイモンは笑った。

二十年間、胸に抱えていた後悔が、すべて消えたわけではない。

だが、彼はようやく前を向くことができた。

ルフィたちは、そんなガイモンに別れを告げ、島を後にする。

「じゃあな、ガイモン!」

「おう! お前らも元気でな!」

「今度来るときは、珍獣たちのためにマグロを持ってきてやるぜ!」

ゴルシが大声で叫ぶ。

「何でマグロやねん!」

タマモが叫び返す。

「珍獣の中に魚食う奴がいるかもしれねェだろ!」

「その前に、あんたが食べる気やろ!」

「バレたか!」

「バレるわ!」

笑い声を残し、船は島から離れていった。

ガイモンは崖の上から、遠ざかる船を見送った。

「……面白い奴らだったな」

彼は珍獣たちの方を振り返る。

「さて、お前ら。今日も飯の時間だぞ」

珍獣たちが一斉に鳴き声を上げた。

島には、再び穏やかな時間が流れ始めた。

 

7 次なる航海へ

船は再び、広大な海を進んでいた。

ルフィは船首に立ち、遠くを見つめている。

「次はシロップ村だ!」

「その前に、航路をちゃんと確認しなさいよ!」

ナミが海図を広げて怒鳴る。

「分かってるって!」

「分かってない顔してるわよ!」

フェスタは船べりでカードを切りながら、二人のやり取りを眺めていた。

「賑やかな船だね」

「賑やかというか、騒がしいだけや」

タマモは疲れた顔でため息をつく。

「それに、ゴルシがおるからな……」

「おいおい、タマちゃん! 俺様がいなかったら、この船は退屈で沈んじまうぜ!」

「退屈で船は沈まんわ!」

「いや、退屈は海賊にとって最大の敵だからな!」

「どこの海賊の格言やねん!」

ゴルシは胸を張った。

「ゴルシ海賊団の格言だ!」

「お前、いつの間に船長になっとんねん!」

ルフィが笑いながら手を挙げる。

「じゃあ、俺が船長で、ゴルシが副船長だな!」

「おっ、いいねえ! 副船長ゴルシちゃん、爆誕!」

「勝手に決めるなああああ!」

ナミの叫びが海に響く。

ゾロは船の隅で寝ている。

フェスタは楽しそうに笑っている。

タマモは頭を抱え、ルフィとゴルシは次の島で何をするか、早くも騒ぎ始めていた。

こうして、オレンジの町での戦いと、珍獣島での一件は幕を閉じた。

一方で、海のどこかでは、彼らを追う運命が静かに動き始めていた。

シロップ村で待つ、嘘つき少年ウソップ。

そして、海賊の襲来によって試されることになる、仲間を守るという覚悟。

黄金の浮沈船とその仲間たちの航海は、まだ始まったばかりだった。

――つづく

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