ウマ娘ONE PIECEダービー~黄金の浮沈船は大海原を駆ける~   作:武藤 桜

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投稿遅れてすみません。書き溜めてたのを一気に投稿します。これからもちょくちょく出すので良かったらコメントお願いします。


第五話「嘘つき少年ウソップ! シロップ村を襲う黒猫たち!」

1 シロップ村に響く「海賊が来たぞー!」

「海賊が来たぞーっ! 海賊が来たぞーっ!」

 

静かな朝のシロップ村に、少年の大声が響き渡った。

 

「海賊が来たぞーっ! 今度こそ本当だぞーっ!」

 

村の人々は窓から顔を出し、道を駆けていく少年を見て、呆れたように肩をすくめた。

 

「またウソップか……」

 

「毎日毎日、よく飽きないもんだな」

 

「そのうち、本当に海賊が来ても誰も信じなくなるぞ」

 

少年の名はウソップ。

 

長い鼻が特徴の、嘘とホラ話が得意な少年だった。

 

そして、その後ろからは――。

 

「ウソップ先輩! 今日も絶好調だね!」

 

「さっすがウソップ先輩! 海賊を追い払うなんて、かっこいい!」

 

「お前ら、俺様の活躍をよく見ておくんだぞ! 俺は八千人の部下を率いる大海賊になる男だからな!」

 

ウソップを慕う三人の子供たちが、目を輝かせてついてきていた。

 

その光景を、村へと続く坂道から眺めている者たちがいた。

 

「……何や、あれ?」

 

タマモクロスが眉をひそめる。

 

「海賊が来たって叫んでるけど、誰も慌ててへんな」

 

「つまり、あの少年の言うことが信用されていないということだね」

 

ナカヤマフェスタが、面白そうに口元を緩めた。

 

「嘘をつき続けると、いざというときに信じてもらえなくなる。なかなか厳しい賭けをしているじゃないか」

 

「賭けとか言うなよ。俺はあいつ、嫌いじゃないぞ!」

 

ルフィは少年の鼻を見て、にかっと笑った。

 

「おっ、鼻が長い!」

 

「そこに注目すんの!?」

 

ゴールドシップが即座にツッコむ。

 

「いやあ、いい鼻だな! あれなら遠くの宝箱も匂いで分かるんじゃねえか?」

 

「鼻で宝箱の匂いが分かるわけないでしょ!」

 

ナミが呆れた声を上げる。

 

「それに、ウソップって名前だったわね。あの子、村の人に迷惑をかけているのかしら?」

 

「まあ、話を聞いてみようぜ!」

 

ルフィはそう言うなり、坂道を駆け下りた。

 

「あっ、ちょっと! 勝手に行かないでよ!」

 

ナミが叫ぶ。

 

「待てや、ルフィ! また何かやらかす気やろ!」

 

タマモも慌てて追いかけた。

 

ゴルシはニヤリと笑い、棍棒を担ぐ。

 

「よーし! 新しい島の新しい住人! これは面白くなりそうだぜ!」

 

「面白くしなくていいから、普通にしてなさい!」

 

ナミの悲鳴を背に、一行はウソップのもとへと向かった。

 

2 ウソップとトウカイテイオー

「なあ、お前!」

 

「ん? 何だ、お前ら?」

 

ルフィに声をかけられ、ウソップは振り返った。

 

その隣では、トウカイテイオーが子供たちと一緒にいた。いつの間にか彼女もウソップの話に付き合っていたらしい。

 

「海賊が来たって、本当なのか?」

 

「も、もちろんだ! 俺は嘘なんかつかねえ!」

 

ウソップは胸を張った。

 

「俺は勇敢なる海の戦士! ウソップ様だぞ!」

 

「へえ! お前、海賊なのか?」

 

「ち、違う! 海賊じゃねえ! 海賊を追い払う側だ!」

 

「じゃあ、海賊が来たら戦うのか?」

 

「当然だ! 俺の八千人の部下がいれば、どんな海賊だって一網打尽だ!」

 

「八千人!? すげえな!」

 

ルフィは素直に感心した。

 

ウソップは一瞬、目を丸くした。

 

「……お、おう! そうだろう、そうだろう!」

 

「ねえ、ウソップ先輩!」

 

テイオーが笑いながら口を挟む。

 

「八千人って、昨日は五千人じゃなかったっけ?」

 

「テ、テイオー! 余計なことを言うんじゃねえ!」

 

「えへへ、ごめんごめん!」

 

テイオーは悪びれずに笑った。

 

彼女はウソップの大げさな話をすべて信じているわけではない。それでも、彼が子供たちを楽しませようとしていることは分かっていた。

 

ウソップは毎朝、海賊が来たと叫ぶ。

 

村人たちに嘘つきと笑われても、子供たちの前では胸を張ってみせる。

 

そんな彼の姿を、テイオーはどこか気に入っていた。

 

「ところで、お前らは何者だ?」

 

ウソップが尋ねる。

 

「俺はモンキー・D・ルフィ! 海賊王になる男だ!」

 

「海賊王!?」

 

ウソップの顔が引きつった。

 

「えっ、海賊なの!? お前ら、本物の海賊なのか!?」

 

「そうだぞ!」

 

ルフィは嬉しそうに答える。

 

「俺が船長で、こっちが剣士のゾロ!」

 

「……よろしく」

 

ゾロは眠そうに片手を上げた。

 

「こっちがタマモクロス! 二刀流の剣士だ!」

 

「よろしゅうな」

 

「黄金の浮沈船こと、ゴールドシップ様!」

 

「どんな肩書きだよ!?」

 

ウソップが叫ぶ。

 

「そして、こっちが航海士のナミ。こっちがナカヤマフェスタ!」

 

「よろしく。私は面白い勝負が好きなんだ」

 

フェスタは軽く会釈した。

 

「……なんか、すごい連中が来ちまったな」

 

ウソップが呆然としていると、ルフィがテイオーを見た。

 

「お前も海賊なのか?」

 

「ううん、ボクはテイオー! ウソップの友達だよ!」

 

テイオーは元気よく答えた。

 

「走るのが大好きなんだ! あと、ウソップの話を聞くのもね!」

 

「へえ! 走るのが好きなのか!」

 

ルフィは目を輝かせる。

 

「じゃあ、今度競争しようぜ!」

 

「いいね! 負けないよ!」

 

二人はあっという間に意気投合した。

 

その横で、ゴルシがウソップの肩に腕を回す。

 

「なあ、鼻の長い兄ちゃん。お前、なかなかいいキャラしてるじゃねえか!」

 

「鼻の長い兄ちゃんって呼ぶな!」

 

「じゃあ、ウソップ鼻長兄ちゃん!」

 

「悪化してるだろうが!」

 

タマモは額を押さえた。

 

「……この船、まともな奴がおらんのか?」

 

「少なくとも、あなた以外はね」

 

ナミが即答した。

 

「誰がまともやねん!」

 

「自分で言ってるじゃない!」

 

そんなやり取りを聞いて、テイオーは楽しそうに笑った。

 

しかし、その笑い声の向こうで、ひとりの男が静かに一行を観察していた。

 

屋敷へと続く道の途中。

 

長い鼻と黒い髪、そして穏やかな表情をした執事が、こちらを見つめていた。

 

クラハドール。

 

カヤの屋敷に仕える、礼儀正しい執事だった。

 

その眼差しには、誰にも気づかれない冷たい光が宿っていた。

 

3 病弱な少女と、海賊の夢

ウソップの案内で、ルフィたちは村の外れにある大きな屋敷を訪れた。

 

そこに暮らしているのは、裕福な少女カヤ。

 

両親を亡くして以来、病弱な彼女は屋敷の中で療養生活を送っていた。

 

「カヤお嬢様! 今日は面白いお客さんを連れてきたぜ!」

 

ウソップが窓の外から声をかける。

 

「ウソップさん?」

 

窓が開き、白い服を着た少女が顔を覗かせた。

 

「こんにちは。あなたたちは……?」

 

「俺はルフィ! 海賊だ!」

 

「まあ……海賊さん?」

 

カヤは驚いたように目を瞬かせた。

 

「こいつ、海賊のくせに変な奴なんだぜ!」

 

ウソップが笑いながらルフィを指さす。

 

「おい、ウソップ! 変な奴って何だよ!」

 

「だって、お前、自分で海賊王になるって言ってるくせに、海賊らしい怖さが全然ねえじゃねえか!」

 

「海賊は怖くなきゃいけねえのか?」

 

「そ、それは……!」

 

ウソップが言葉に詰まる。

 

ゴルシが横から顔を出した。

 

「そうそう! 海賊たるもの、怖さより笑いを取らなきゃな!」

 

「お前は海賊じゃなくて芸人だろ!」

 

タマモが叫ぶ。

 

カヤはその光景を見て、くすくすと笑った。

 

病気を患ってから、彼女は屋敷の中で過ごす時間が長かった。ウソップが訪れてくれる日は、外の世界の話を聞ける大切な時間だった。

 

「ウソップさん、今日はどんなお話を聞かせてくれるの?」

 

「おう! 今日はな、俺がたった一人で百人の海賊を追い払った話だ!」

 

「昨日は五十人だったよね?」

 

テイオーが笑いながら指摘する。

 

「人数が増えてるじゃないか!」

 

「そ、それはだな……! 話が進むにつれて敵も増えるんだよ!」

 

「便利な設定だな、おい」

 

フェスタが感心したように頷いた。

 

カヤは笑い続けていた。

 

その笑顔を見たウソップは、どこか誇らしげに胸を張る。

 

彼の嘘は、誰かを騙して利益を得るためのものではなかった。

 

少なくとも、カヤと子供たちの前では。

 

彼は自分の話で、誰かを笑顔にしたかったのだ。

 

そんな時間を壊すように、屋敷の扉が開いた。

 

「カヤお嬢様。お客様がお見えになっていると伺いましたが」

 

姿を現したのは、執事のクラハドールだった。

 

「クラハドール……」

 

カヤの表情が少しだけ曇る。

 

クラハドールは眼鏡を押し上げ、ルフィたちを見渡した。

 

「海賊の方々ですか。申し訳ありませんが、お嬢様のお身体に障りますので、そろそろお引き取り願えますかな」

 

丁寧な口調。

 

隙のない物腰。

 

しかし、ウソップはその声を聞いた途端、表情を硬くした。

 

「……おい、クラハドール」

 

「何でしょう、ウソップさん」

 

「お前、何か隠してねえか?」

 

「……は?」

 

クラハドールの笑顔が一瞬だけ止まった。

 

「何をおっしゃっているのか、私には分かりかねますが」

 

「いや……何でもねえ」

 

ウソップは首を振った。

 

自分でも、何が気になったのか分からない。

 

ただ、クラハドールの笑顔が、いつもより不気味に見えたのだ。

 

その夜。

 

屋敷から離れた海岸では、黒い猫のような紋章を掲げた海賊船が、静かに島へ近づいていた。

 

船を率いる男は、長い爪のような武器を手にしていた。

 

百計のクロ。

 

かつて東の海で名を馳せ、姿を消したはずの海賊。

 

彼の狙いは、カヤの財産だった。

 

そして、その計画を実行するために、彼は何年も前から屋敷へと潜り込んでいたのだ。

 

クラハドールとして。

 

4 崖の上の密談

翌朝。

 

ウソップはいつものように、村の外れへと走っていた。

 

「海賊が来たぞーっ! 海賊が来たぞーっ!」

 

「またか、ウソップ!」

 

村人の声が飛ぶ。

 

「今度こそ本当だってば!」

 

「はいはい、分かった分かった!」

 

いつもと同じ反応。

 

しかし、その日だけは違った。

 

ウソップが海岸近くの崖を通りかかったとき、聞き覚えのある声が耳に入ったのだ。

 

「……屋敷を襲うのは、明日の夜だ」

 

ウソップは足を止めた。

 

崖の下には、数人の海賊が集まっていた。

 

その中にいたのは、見覚えのある執事服の男。

 

クラハドールだった。

 

「村人どもが邪魔をする可能性は?」

 

海賊の一人が尋ねる。

 

「問題ない。あの村の連中は、ウソップの嘘に慣れきっている。海賊が来ると叫んでも、誰も信じないだろう」

 

クラハドールは冷淡に答えた。

 

「……カヤお嬢様を始末し、財産を手に入れる。そうすれば、私は二度と海賊などという薄汚い生活に戻らずに済む」

 

「ククク……さすがクロ船長だ」

 

ウソップの顔から血の気が引いた。

 

クロ船長。

 

クラハドールが、海賊?

 

「う、嘘だろ……」

 

思わず声が漏れた。

 

その瞬間、崖の小石が転がった。

 

「誰だ!?」

 

海賊たちが一斉に顔を上げる。

 

ウソップは慌てて逃げ出した。

 

「しまった! 気づかれた!」

 

「追え! あのガキを逃がすな!」

 

クロの冷たい声が、海岸に響き渡った。

 

ウソップは必死に走った。

 

だが、彼の足では海賊たちを振り切れない。

 

そのとき、道の向こうから聞き覚えのある声がした。

 

「おーい! ウソップ!」

 

ルフィたちだった。

 

「ルフィ! みんな!」

 

ウソップは息を切らしながら駆け寄った。

 

「大変だ! 海賊が来る! 本物の海賊が!」

 

「おう、そうか!」

 

ルフィは頷いた。

 

「……え?」

 

ウソップは目を丸くした。

 

「信じてくれるのか?」

 

「お前、今まで嘘ばっかりついてたけど、今は嘘をついてる顔じゃねえぞ」

 

ルフィはまっすぐにウソップを見た。

 

「それに、お前がそんなに必死なんだ。何かあったんだろ?」

 

ウソップは唇を噛んだ。

 

「……クラハドールが、海賊だったんだ。あいつはクロっていう海賊で、カヤを殺して財産を奪おうとしてる!」

 

「何やて!?」

 

タマモが声を上げた。

 

「カヤお嬢様を……!?」

 

テイオーの顔から笑顔が消えた。

 

「そんな……ウソップ、それ、本当なの?」

 

「ああ! 俺はこの目で見たんだ!」

 

ウソップは拳を握りしめる。

 

「村のみんなは信じてくれねえ。だけど、俺は絶対に止める! カヤも、村のみんなも、俺が守るんだ!」

 

ゴルシは、いつになく真剣な顔でウソップを見た。

 

「……へえ。いいじゃねえか」

 

「ゴルシ?」

 

「嘘つきだろうが何だろうが、守りてえもんがあるなら、そいつは立派な戦士だぜ」

 

ゴルシは棍棒を肩に担ぎ直した。

 

「なあ、ウソップ。お前の八千人の部下はどこだ?」

 

「……いねえよ」

 

ウソップは苦笑した。

 

「俺一人だ。いつだって、俺一人だったんだ」

 

「だったら、今日は俺たちがいる!」

 

ルフィが笑った。

 

「海賊が来るんだろ? だったら、ぶっ飛ばせばいい!」

 

「……ルフィ」

 

「そういうことや。ウチらも手ぇ貸したる!」

 

タマモが二本の刀を抜く。

 

「悪党が弱いもんを食い物にするんは、見過ごせへんからな」

 

ゾロも刀の柄に手をかけた。

 

「相手が何人いようが関係ねェ。斬り伏せるだけだ」

 

「ふふ。大きな勝負になりそうだね」

 

フェスタはカードをしまい、海岸の方へ視線を向けた。

 

「ただし、賭けの配当は勝ってから決めよう」

 

「こんなときまで賭けかよ!」

 

ナミが叫ぶ。

 

「もちろん。負けるつもりはないからね」

 

テイオーはウソップの隣に立った。

 

「ボクも一緒に戦うよ!」

 

「テイオー……!」

 

「ウソップがいつもカヤさんを笑顔にしてたの、ボクは知ってるもん。今度はボクたちが、カヤさんを守る番だよ!」

 

ウソップは震える拳を握りしめた。

 

「……よし!」

 

彼は顔を上げる。

 

「やってやる! 俺は勇敢なる海の戦士だ! クロの野郎をぶっ飛ばして、カヤを守ってみせる!」

 

ルフィは満面の笑みを浮かべた。

 

「よっしゃ! 決まりだな!」

 

こうして、シロップ村を襲う黒猫たちとの戦いが始まった。

 

5 黒猫海賊団、上陸

翌日。

 

海岸に、黒い帆を掲げた海賊船が姿を現した。

 

船から降りてきたのは、黒猫の紋章を掲げた海賊たち。

 

その先頭に立つのは、催眠術師ジャンゴ。

 

そして、クロネコ海賊団の幹部、シャムとブチ。

 

「さあて、クロ船長の命令どおり、屋敷を襲うとするか」

 

ジャンゴは奇妙な円盤を指で回しながら笑った。

 

「邪魔する奴は全員、眠らせてやるぜ!」

 

そのとき、海岸の道に一人の少年が立ちはだかった。

 

ウソップだった。

 

「ここから先へは行かせねえ!」

 

彼はパチンコを構え、海賊たちを睨みつける。

 

「お前らの好きにはさせねえぞ!」

 

「何だァ? ガキ一人で俺たちを止めるつもりか?」

 

シャムが嘲笑する。

 

「お前、村で毎日海賊が来たって騒いでる嘘つきだろ?」

 

「そうさ! 俺は嘘つきだ!」

 

ウソップは叫んだ。

 

「だけどな! 今回だけは嘘じゃねえ! お前らはこの村を襲いに来た海賊だ! 俺はそれを知ってる! だから、ここで止めるんだ!」

 

「ハハハハ! 何を言ってやがる!」

 

ブチが笑い飛ばす。

 

「お前一人で何ができる!」

 

「一人じゃねえよ!」

 

ウソップは後ろを振り返った。

 

そこにはルフィたちが立っていた。

 

「俺たちがいるぜ!」

 

ルフィが拳を鳴らす。

 

「海賊王になる男の船長、ルフィ!」

 

「剣士、ロロノア・ゾロ」

 

ゾロは刀を抜いた。

 

「二刀流のタマモクロス、参上や!」

 

タマモは二本の刀を構える。

 

「黄金の浮沈船、ゴールドシップ様の出番だぜ!」

 

ゴルシは棍棒を掲げた。

 

「その名乗り、必要だった!?」

 

ナミが叫ぶ。

 

フェスタは少し離れた位置で周囲を観察し、テイオーはウソップの隣に立った。

 

「さあ、始めようか」

 

フェスタが静かに言った。

 

「この勝負、どちらに賭けても面白くなりそうだ」

 

「賭けるな!」

 

ナミのツッコミが飛ぶ。

 

クロネコ海賊団が一斉に襲いかかってきた。

 

「ぶっ潰せェェェ!」

 

「来たな!」

 

ルフィが前に飛び出す。

 

「ゴムゴムのピストル!」

 

伸びた拳が海賊をまとめて吹き飛ばした。

 

「どりゃああああっ!」

 

ゴルシは棍棒を振り回し、突っ込んできた海賊たちを次々に薙ぎ払う。

 

「おらおら! 黒猫ども! ネズミ捕りの時間だぜ!」

 

「誰がネズミだァ!」

 

「猫なのにネズミ扱いされてるぞ!」

 

「うるせえ! やっちまえ!」

 

海賊たちが怒鳴りながら押し寄せる。

 

ゴルシは大笑いしながら棍棒を振るった。

 

「うはははは! いいねえ! 敵が多いほど燃えるってもんだ!」

 

一方、タマモはシャムとブチの前に立ちはだかった。

 

「二人まとめて相手したるわ!」

 

「小娘が!」

 

シャムが爪を振るう。

 

タマモは右の刀で爪を受け流し、左の刀を低く構えた。

 

「双閃・稲妻駆け!」

 

稲妻のような踏み込みから放たれた斬撃が、シャムの衣服を切り裂く。

 

「ぐっ!?」

 

そこへブチが飛び込んできた。

 

「よくもシャムを!」

 

「甘いわ!」

 

タマモは体を捻り、二本の刀で相手の攻撃を挟み込むように受け止めた。

 

「双閃・白狐乱舞!」

 

連続する斬撃がブチの武器を弾き、二人をまとめて後退させる。

 

「くっ……この小娘、何者だ!」

 

「ウチはタマモクロスや! 覚えとき!」

 

タマモは刀を構え直した。

 

「次はもっと本気で来いや!」

 

6 ゾロ対シャムとブチ、そしてジャンゴの催眠術

戦場の別の場所では、ゾロが海賊たちを相手にしていた。

 

「数だけは多いな」

 

ゾロは刀を振るい、迫り来る海賊たちを次々に倒す。

 

「だが、相手にならねェ」

 

「調子に乗るな!」

 

シャムがゾロの背後から爪を振るう。

 

ブチも正面から襲いかかった。

 

ゾロは二人の攻撃を受け止め、口元を歪める。

 

「二人がかりか。ちょうどいい」

 

「何だと!」

 

「まとめて相手してやる」

 

ゾロは三本の刀を構えた。

 

「三刀流――鬼斬り!」

 

鋭い斬撃が走り、二人は吹き飛ばされた。

 

「ぐああああっ!」

 

「な、何なんだ、こいつ……!」

 

そのころ、ジャンゴは戦場を見渡し、にやりと笑った。

 

「どうやら、ちょっと面倒な連中がいるみたいだな」

 

彼は円盤を取り出し、指先でくるくると回す。

 

「だが、俺の催眠術にかかれば、どんな奴だっておしまいさ!」

 

ジャンゴは円盤を掲げた。

 

「さあ、見ろ! この円盤を見ろ!」

 

海賊たちが次々と催眠状態に陥り、ふらふらと立ち上がる。

 

「さあ、もっと強くなれ! もっと暴れろ!」

 

その光景を見て、ゴルシが目を輝かせた。

 

「おおっ! 催眠術か! 面白そうじゃねえか!」

 

「ゴルシ、見るな!」

 

タマモが叫んだ。

 

だが、時すでに遅し。

 

ゴルシは円盤をじっと見つめていた。

 

「ぐるぐる……ぐるぐる……」

 

「おい、まさか……!」

 

ナミが青ざめる。

 

ゴルシは突然、両手を広げて叫んだ。

 

「俺様は……マグロだァァァァ!」

 

「はあ!?」

 

「マグロは海を泳ぐ! 海を泳いで宝を探す! つまり、俺様は海賊王だァァァ!」

 

「どんな理屈やねん!」

 

タマモが頭を抱える。

 

ジャンゴは目を丸くした。

 

「な、何だこいつ!? 催眠術が効いたのか、効いてないのか、どっちなんだ!?」

 

「効いてるんじゃない? いつもよりひどいし」

 

ナミが冷静に答える。

 

ゴルシはそのまま走り出し、海賊たちを追いかけ回し始めた。

 

「マグロ突撃ィィィ!」

 

「うわああああっ!」

 

「何だあの女ァ!」

 

「逃げろ! あいつは危険だ!」

 

ゴルシが海賊たちを蹴散らしていく。

 

ジャンゴは頭を抱えた。

 

「何で俺の催眠術が、あんな方向に作用するんだよ!?」

 

「ゴルシ、目ぇ覚まし!」

 

タマモが怒鳴る。

 

「マグロは寝てても泳ぐんだァァァ!」

 

「意味分からんわ!」

 

その騒ぎの隙に、ルフィがジャンゴへと飛びかかった。

 

「ゴムゴムのピストル!」

 

「うわっ!」

 

ジャンゴは慌てて避けたが、ルフィの拳が地面を砕いた。

 

「こいつ、催眠術が使えるんだな!」

 

「そうだ! 俺は催眠術師ジャンゴ様だ!」

 

ジャンゴは円盤を構える。

 

「今度こそ、てめえを眠らせてやる!」

 

「へえ! 面白そうだな!」

 

ルフィは円盤を見つめた。

 

「ぐるぐる……ぐるぐる……」

 

「そうだ……もっと見ろ……!」

 

ジャンゴは得意げに笑う。

 

その瞬間。

 

「ぐう……」

 

ルフィは大きなあくびをした。

 

「眠くなってきた……」

 

「よし! 成功だ!」

 

ジャンゴが叫ぶ。

 

ところが、ルフィはそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「……ぐう」

 

「お、おい! 何で寝るんだよ!?」

 

「いや、催眠術関係なく眠かったんじゃない?」

 

ナミが呆れたように言う。

 

ジャンゴは目を見開いた。

 

「俺の催眠術はどこへ行った!?」

 

そこへ、ルフィが突然起き上がった。

 

「よし、目が覚めた!」

 

「早すぎるだろォォォ!」

 

ルフィの拳がジャンゴに直撃した。

 

「ぐはああああっ!」

 

ジャンゴは吹き飛び、地面に転がった。

 

「……この海賊団、まともな奴がおらんのか?」

 

タマモは深々とため息をついた。

 

7 ウソップの覚悟

戦いは、ルフィたちの優勢に進んでいた。

 

しかし、ウソップの胸には焦りがあった。

 

彼らが戦っているのは、海岸へ上陸してきた海賊たちだけではない。

 

クロは、屋敷を襲うために別働隊を動かしている。

 

カヤが危ない。

 

「くそっ……!」

 

ウソップはパチンコを構え、海賊の一人を狙う。

 

「必殺! 火薬星!」

 

弾が飛び、海賊の足元で爆発した。

 

「うわあっ!」

 

海賊が転倒する。

 

ウソップは息を切らしながら、もう一度パチンコを構えた。

 

「俺は……俺は逃げねえ!」

 

怖かった。

 

自分は本当の戦士ではない。

 

八千人の部下など、どこにもいない。

 

ルフィたちのような力もない。

 

それでも、カヤを守りたい。

 

村の人々を守りたい。

 

そして何より――。

 

いつも嘘をついている自分が、今日だけは本当のことを言ったのだと、証明したかった。

 

「ウソップ!」

 

テイオーが駆け寄ってくる。

 

「無理しないで! 危ないよ!」

 

「テイオー……!」

 

「一人で全部背負わなくていいんだよ!」

 

テイオーはウソップの手を握った。

 

「ボクもいる。ルフィたちもいる。だから、一緒に守ろう!」

 

ウソップは目を見開いた。

 

そして、ゆっくりと頷いた。

 

「ああ……!」

 

彼は顔を上げ、海賊たちを睨みつける。

 

「俺はウソップ! 勇敢なる海の戦士になる男だ!」

 

パチンコを構える。

 

「カヤにも、村のみんなにも、指一本触れさせねえ!」

 

「よく言った!」

 

ルフィが笑った。

 

「行くぞ、ウソップ!」

 

「おう!」

 

二人は並んで走り出した。

 

その姿を見て、ゴルシが大きく笑う。

 

「いいねえ! その調子だ、鼻長兄ちゃん!」

 

「その呼び方だけはやめろォォォ!」

 

「元気があってよろしい!」

 

「お前が原因だろうが!」

 

タマモの怒鳴り声が、戦場に響き渡った。

 

8 百計のクロ、正体を現す

一方、屋敷では。

 

クロが、カヤの寝室へと足を踏み入れていた。

 

「おはようございます、カヤお嬢様」

 

「クラハドール……?」

 

カヤは不安げに彼を見上げた。

 

「どうしたの? 今日は、いつもと様子が違うわ」

 

「……ええ。少々、予定が変わりましてね」

 

クロは眼鏡を外した。

 

「私は、あなたに仕える執事ではありません」

 

「え……?」

 

「私の本当の名は、クロ。かつて東の海で恐れられた海賊です」

 

カヤの顔が青ざめた。

 

「そんな……!」

 

「あなたの財産を手に入れるため、私は何年もこの屋敷に潜り込んでいた。今日、その計画を終わらせる」

 

クロは冷たく告げた。

 

「遺書を書いていただきましょう。あなたが亡くなった後、すべての財産が私のものになるように」

 

「いや……!」

 

カヤは震えながら後ずさった。

 

「やめて……!」

 

「無駄です」

 

クロはゆっくりと近づく。

 

そのとき、屋敷の外から声が響いた。

 

「カヤァァァァ!」

 

ウソップだった。

 

彼は戦いを抜け、必死に屋敷へと走っていた。

 

「ウソップ!?」

 

カヤが窓の外を見る。

 

そこには、パチンコを握りしめた少年がいた。

 

「カヤ! 逃げろ! そいつはクロだ! 本物の海賊なんだ!」

 

クロの顔から、表情が消えた。

 

「……まだ、あのガキが生きていたか」

 

彼は窓の外へ視線を向ける。

 

「ならば、先に始末するだけです」

 

クロは窓を開け、外へと飛び出した。

 

そして、ウソップの前に降り立つ。

 

「……ウソップさん」

 

穏やかな声。

 

だが、そこにはもはや執事としての優しさはなかった。

 

「あなたは、余計なことをしてくれましたね」

 

ウソップは震えた。

 

目の前にいる男は、今まで何度も顔を合わせた相手だ。

 

カヤのために働き、礼儀正しく振る舞っていた男。

 

しかし、その正体は冷酷な海賊だった。

 

「……俺は、お前を許さねえ」

 

ウソップはパチンコを構えた。

 

「カヤを傷つける奴は、俺が許さねえ!」

 

クロは冷たく笑った。

 

「勇敢なる海の戦士、ですか。笑わせてくれる」

 

彼は両手に、猫の爪のような武器を装着した。

 

「あなたのような臆病者が、私に勝てるはずがない」

 

「やってみなきゃ分かんねえだろ!」

 

ウソップは弾を放った。

 

しかし、クロは軽く身をかわした。

 

「遅い」

 

一瞬で距離を詰め、ウソップの腹部に蹴りを叩き込む。

 

「ぐあっ!」

 

ウソップは地面に転がった。

 

「ウソップ!」

 

テイオーが叫ぶ。

 

「この……!」

 

彼女が駆け寄ろうとした瞬間、クロの鋭い視線が向けられた。

 

「邪魔をしないでいただきたい」

 

クロが踏み込む。

 

だが、その前にゴルシが割って入った。

 

「おっと。うちの鼻長兄ちゃんに、何してくれてんだ?」

 

ゴルシは棍棒を肩に担ぎ、クロを見下ろした。

 

「お前がクロか。なるほど、執事のフリして悪事を働くとは、なかなか趣味が悪いじゃねえか」

 

クロは目を細めた。

 

「あなたも、邪魔をするのですか」

 

「当たり前だろ!」

 

ゴルシはニヤリと笑う。

 

「弱いもんを踏みつける奴は、ゴルシちゃんがぶっ飛ばす!」

 

クロの姿が、かすかに揺れた。

 

次の瞬間。

 

「……遅い」

 

クロはゴルシの視界から消えた。

 

「なっ!?」

 

鋭い爪がゴルシの頬をかすめる。

 

ゴルシはとっさに棍棒を振ったが、クロはすでに背後へ回っていた。

 

「ちっ……!」

 

ゴルシは歯を食いしばる。

 

「こいつ、速えな!」

 

「百計のクロ。その名を覚えておきなさい」

 

クロは冷たく告げた。

 

「あなた方は、私の計画の邪魔をした。全員、ここで始末します」

 

9 タマモクロス、二刀流の真価

「そうはさせへん!」

 

タマモが駆けつけ、クロの前に立ちはだかった。

 

二本の刀を構え、鋭い目で相手を睨む。

 

「ウチの仲間に手ぇ出したこと、後悔させたるわ!」

 

「仲間……?」

 

クロは薄く笑った。

 

「海賊ごっこをしている子供たちが、私を止められるとでも?」

 

「ごちゃごちゃ言うてんと、かかってきいや!」

 

タマモは地面を蹴った。

 

「双閃・稲妻駆け!」

 

左右の刀が閃き、クロへと迫る。

 

だが、クロは身を捻って斬撃を避けた。

 

「遅い」

 

鋭い爪がタマモの肩を狙う。

 

タマモは左の刀で受け流し、右の刀で反撃した。

 

「双閃・白狐乱舞!」

 

連続する斬撃。

 

クロは後退しながら、そのすべてを紙一重でかわしていく。

 

「ほう……二刀流ですか」

 

「まだまだ、こんなもんやないで!」

 

タマモは一気に踏み込んだ。

 

「双閃奥義――疾風・白狐返し(しっぷう・びゃっこがえし)!」

 

右の刀で相手の攻撃を受け流し、左の刀で死角を突く。

 

さらに、体を回転させながら二本の刀を交差させる。

 

クロの袖が裂けた。

 

「……ほう」

 

クロの目がわずかに細くなる。

 

「今のは、少し驚きました」

 

「余裕ぶっとる場合かいな!」

 

タマモは追撃しようとした。

 

しかし、クロは一瞬で間合いを外し、タマモの脇腹へ蹴りを放った。

 

「ぐっ……!」

 

タマモは地面を滑り、片膝をついた。

 

「タマモ!」

 

ゴルシが叫ぶ。

 

「大丈夫や……!」

 

タマモは刀を支えに立ち上がる。

 

「こいつ……思った以上に厄介やな……!」

 

クロの強さは、これまでの海賊とはまるで違った。

 

力任せではない。

 

相手の隙を見抜き、最小限の動きで攻撃を避け、確実に急所を狙う。

 

その戦い方は、まさに長年の経験に裏打ちされたものだった。

 

「あなた方は、ここで終わりです」

 

クロが再び踏み込む。

 

その瞬間――。

 

「ゴムゴムのピストル!」

 

伸びた拳が、クロの横合いから飛んできた。

 

クロは大きく跳び退き、攻撃を避ける。

 

ルフィが、笑みを消して立っていた。

 

「……お前、強いな」

 

クロは眼鏡を押し上げる。

 

「あなたも、なかなか厄介な能力をお持ちのようだ」

 

「でも、カヤを傷つけるなら許さねェ!」

 

ルフィは拳を握りしめた。

 

「お前をぶっ飛ばす!」

 

10 黒猫海賊団との決戦!

クロとルフィの戦いが始まった。

 

クロは両手の爪を振るい、目にも留まらぬ速さで攻め立てる。

 

「杓死!」

 

その姿が揺らぎ、複数の残像がルフィたちの周囲を駆け抜けた。

 

「な、何だ!?」

 

ルフィが驚く。

 

次の瞬間、鋭い爪がルフィの腕を切り裂いた。

 

「ぐっ!」

 

「ルフィ!」

 

ナミが叫ぶ。

 

クロは止まらない。

 

「邪魔な者は、全員排除する」

 

彼は次々と攻撃を繰り出した。

 

ゴルシは棍棒を振り回して迎え撃つが、クロの速度についていけない。

 

「くっそ! ちょこまか動きやがって!」

 

「速いだけやない……攻撃の軌道も読みにくい!」

 

タマモが歯を食いしばる。

 

ゾロが前に出た。

 

「なら、動きを止めればいい」

 

彼は刀を構える。

 

「ルフィ、ゴルシ! 正面から追い回すな。あいつの進路を潰せ!」

 

「おう!」

 

「了解だぜ!」

 

ゴルシは地面を蹴り、棍棒を横薙ぎに振るう。

 

クロは跳び上がって回避した。

 

そこへタマモが踏み込む。

 

「双閃・稲妻駆け!」

 

二本の刀が交差し、クロの着地点を狙う。

 

クロは空中で体勢を変え、かろうじて避けた。

 

しかし、その先にはゾロが待ち構えていた。

 

「逃がすかよ」

 

ゾロの刀が閃く。

 

クロは後方へ跳び、地面に着地した。

 

「……なるほど。連携を覚えましたか」

 

「お前一人で好き勝手させるかよ!」

 

ルフィが拳を伸ばす。

 

「ゴムゴムのバズーカ!」

 

クロは正面からの攻撃を避けきれず、吹き飛ばされた。

 

「ぐっ……!」

 

だが、彼はすぐに立ち上がる。

 

「……この私が、こんなところで……!」

 

クロの顔が歪む。

 

長年積み上げてきた計画。

 

海賊としての生活を捨て、執事として屋敷に潜り込み、財産を手に入れ、静かに暮らす。

 

それが、あと少しで叶うはずだった。

 

なのに、目の前の海賊たちがすべてを台無しにしようとしている。

 

「許さん……!」

 

クロは再び、杓死を繰り出そうとした。

 

しかし、その前にウソップが立ちはだかった。

 

「もう終わりだ、クロ!」

 

ウソップの手には、パチンコが握られていた。

 

「お前の好きにはさせねえ!」

 

クロは冷たく笑った。

 

「まだ分からないのですか。あなたのような臆病者に、私を止めることなどできない」

 

「……そうかもしれねえ」

 

ウソップは震えていた。

 

「俺は怖い。お前みたいな奴と戦うのは、今だって怖い!」

 

彼はパチンコを構え直す。

 

「でもな……!」

 

顔を上げる。

 

「怖くても、逃げたくねえんだ! 俺はカヤを守る! 村のみんなを守る! それが俺の決めたことだ!」

 

「ウソップ……!」

 

テイオーが息を呑む。

 

「だから、俺はここにいる!」

 

ウソップは弾を放った。

 

「必殺――火薬星!」

 

爆発が起こり、クロの足元を覆う。

 

クロが一瞬、体勢を崩した。

 

「今だ、ルフィ!」

 

「おう!」

 

ルフィは拳を握りしめ、全身を使って踏み込んだ。

 

「ゴムゴムの――!」

 

伸びた腕が大きく後ろへ引かれる。

 

「バズーカァァァ!」

 

両手の掌底がクロを捉えた。

 

「ぐあああああっ!」

 

クロは地面を転がり、動かなくなった。

 

静寂が訪れた。

 

やがて、クロネコ海賊団の海賊たちは、次々に武器を捨て始めた。

 

「船長がやられたぞ!」

 

「逃げろ!」

 

「もう戦えねえ!」

 

黒猫たちの敗北だった。

 

ゴルシは棍棒を肩に担ぎ、満足げに頷く。

 

「いやあ、いい勝負だったな! 最後は鼻長兄ちゃんが決めたってわけだ!」

 

「だからその呼び方やめろって!」

 

ウソップは顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

しかし、その表情には、これまでにない誇らしさがあった。

 

彼は逃げなかった。

 

そして、自分の手で大切なものを守るために戦ったのだ。

 

11 旅立ちの朝、カヤからの贈り物

戦いの後、シロップ村には平穏が戻った。

 

カヤは無事だった。

 

クロは倒され、黒猫海賊団の計画は失敗に終わった。

 

村人たちは、ウソップが本当のことを言っていたと知り、彼に謝罪した。

 

「ウソップ、すまなかったな……」

 

「お前が村を守ってくれたんだな」

 

「ありがとう、ウソップ!」

 

ウソップは照れくさそうに頭をかいた。

 

「べ、別に……俺は、当たり前のことをしただけだ!」

 

その横で、テイオーが満面の笑みを浮かべていた。

 

「ウソップ、かっこよかったよ!」

 

「お、おう! まあな!」

 

「本当に勇敢な海の戦士みたいだった!」

 

「みたいじゃねえ! 俺は勇敢なる海の戦士なんだ!」

 

「えへへ、そうだったね!」

 

二人は笑い合った。

 

その後、カヤはルフィたちを屋敷へ招き、感謝の気持ちを伝えた。

 

「皆さん、本当にありがとうございました」

 

カヤは深々と頭を下げた。

 

「あなたたちがいなければ、私はどうなっていたか……」

 

「気にすんな!」

 

ルフィは笑った。

 

「俺たちは海賊をぶっ飛ばしただけだ!」

 

「それが一番大変なことなのよ……」

 

ナミが呆れたように呟く。

 

カヤは微笑み、屋敷の外に停泊している船へと目を向けた。

 

「お礼として、皆さんに船を差し上げたいと思っています」

 

「船!?」

 

ルフィの目が輝いた。

 

「本当か!?」

 

「はい。屋敷に仕えていたメリーが設計を手伝ってくれた船です。皆さんの旅に役立てていただければ嬉しいです」

 

そこへ、執事のメリーが現れた。

 

「船はすでに海岸に用意してあります。皆様の航海が素晴らしいものになることを願っております」

 

ルフィは歓声を上げた。

 

「やったああああ! 船だ! 俺たちの船だ!」

 

ゴルシも両手を掲げた。

 

「ついに来たか! 黄金の浮沈船専用のマグロ運搬船!」

 

「違うでしょ!」

 

ナミが即座に叫ぶ。

 

「この船は、ちゃんとした海賊船よ! 変な用途に使わないで!」

 

「じゃあ、海賊王専用マグロ運搬船!」

 

「何も変わってない!」

 

タマモが腹を抱えて笑った。

 

「ほんま、あんたは懲りへんな!」

 

フェスタは船を眺めながら、静かに頷いた。

 

「悪くない船だね。これなら、面白い航海ができそうだ」

 

「お前まで乗る気満々じゃない!」

 

ナミが叫ぶ。

 

「私はまだ、あんたたちの仲間になったわけじゃないからね!」

 

「はいはい」

 

フェスタは笑って受け流した。

 

一方、ウソップは少し離れた場所で、船を見つめていた。

 

ルフィが彼の隣に立つ。

 

「なあ、ウソップ」

 

「……何だよ」

 

「お前も来いよ!」

 

ウソップの目が見開かれた。

 

「……え?」

 

「一緒に海へ出ようぜ! お前、勇敢なる海の戦士になるんだろ?」

 

ウソップは言葉を失った。

 

海へ出る。

 

自分の夢。

 

いつか勇敢なる海の戦士になること。

 

それは、ずっと心の中に抱えてきた夢だった。

 

けれど、いざ本当に誘われると、怖さが込み上げてくる。

 

「……俺は……」

 

ウソップは屋敷を振り返った。

 

カヤが、窓辺からこちらを見つめていた。

 

彼女は寂しそうに、しかし優しく微笑んでいる。

 

「ウソップさん」

 

カヤが静かに言った。

 

「行ってください」

 

「カヤ……」

 

「あなたがいつも話してくれた冒険のお話。私は大好きでした。だから……今度は本当に、あなた自身が冒険をしてきてください」

 

ウソップは唇を噛んだ。

 

「……俺は、嘘ばっかりついてきた」

 

「ええ」

 

カヤは頷いた。

 

「でも、昨日のあなたは違いました。あなたは本当に、私たちを守ってくれたんです」

 

彼女は微笑む。

 

「だから、信じています。あなたなら、きっと立派な海の戦士になれると」

 

ウソップの目に涙が浮かんだ。

 

「……カヤ……!」

 

彼は鼻をすすり、顔を上げる。

 

「分かった! 俺は行く! 世界中を冒険して、勇敢なる海の戦士になってやる!」

 

「おう!」

 

ルフィが笑う。

 

「じゃあ、決まりだな!」

 

「ウソップ先輩、いってらっしゃい!」

 

子供たちが駆け寄り、ウソップに抱きついた。

 

「絶対に帰ってきてね!」

 

「俺様が帰ってきたときには、世界中の海賊が俺の名前を知ってるぞ!」

 

ウソップは胸を張った。

 

「そして、部下は八千人どころか、八万人だ!」

 

「増えてるじゃないか!」

 

テイオーが笑った。

 

「えへへ! ボクも一緒に行くよ!」

 

「……え?」

 

ウソップが振り向く。

 

テイオーは元気よく拳を突き上げた。

 

「ボクも、もっといろんな世界を見てみたい! ウソップと一緒なら、絶対楽しいよ!」

 

「テイオー……!」

 

ウソップは驚き、それから大きく笑った。

 

「よし! なら、お前も俺の冒険の仲間だ!」

 

「うん!」

 

二人は拳を合わせた。

 

こうして、嘘つき少年ウソップと、明るく元気なトウカイテイオーが、ルフィたちの旅に加わることになった。

 

12 メリー号、出航!

翌朝。

 

青い海に、真新しい船が浮かんでいた。

 

船首には羊の頭を模した飾り。

 

白い帆が風を受け、船体は朝日を浴びて輝いている。

 

その船の名は――ゴーイング・メリー号。

 

「おおおおおおっ!」

 

ルフィは目を輝かせ、船へと飛び乗った。

 

「すげえ! これが俺たちの船か!」

 

「やったな、ルフィ!」

 

ウソップも歓声を上げる。

 

「俺たちの冒険の始まりだ!」

 

ゴルシは船首に立ち、両手を広げた。

 

「見ろよ、この勇姿! この船こそ、黄金の浮沈船の名にふさわしい!」

 

「船の名前はゴーイング・メリー号や!」

 

タマモが叫ぶ。

 

「ゴルシ号に改名しようぜ!」

 

「させるか!」

 

「じゃあ、ゴーイング・マグロ号!」

 

「もっと悪化させるな!」

 

ナミは頭を抱えた。

 

ゾロは船の上で大きく伸びをする。

 

「……ようやく、まともな船が手に入ったな」

 

「お前、さっきから寝てただけだろ!」

 

ウソップがツッコむ。

 

フェスタは甲板の手すりに寄りかかり、海を眺めていた。

 

「さて、次はどんな勝負が待っているのかな」

 

「勝負じゃなくて、航海よ!」

 

ナミが叫ぶ。

 

「航海も立派な勝負だよ。海と風と、自分たちの運とのね」

 

フェスタは楽しそうに笑った。

 

テイオーは船首へ駆け寄り、風を受けて両腕を広げる。

 

「わあっ! 気持ちいい!」

 

ウソップもその隣に立った。

 

「見てろよ、テイオー! これから俺たちは、世界中を冒険するんだ!」

 

「うん! 楽しみだね!」

 

ルフィは船首に立ち、遠くの水平線を見つめた。

 

「よーし! 出航だァァァ!」

 

「帆を上げろ!」

 

ウソップが叫ぶ。

 

「風向き確認! 進路は東!」

 

ナミが指示を出す。

 

「おう!」

 

ルフィが舵のそばで声を上げる。

 

「行くでー!」

 

タマモが帆を引き、ゾロが船の揺れに合わせて立ち位置を変える。

 

ゴルシはなぜか船首にまたがり、海に向かって叫んでいた。

 

「行くぜ、メリー号! 目指すは海賊王! そして、マグロの楽園だァァァ!」

 

「最後の目的、いらないから!」

 

ナミの怒声とともに、ゴーイング・メリー号は港を離れた。

 

岸辺では、カヤと村の人々が手を振っている。

 

「ウソップさーん! いってらっしゃーい!」

 

「みんな、元気でなー!」

 

ウソップは大きく手を振り返した。

 

その顔には、もう怯えた様子はなかった。

 

彼はまだ、強い戦士ではない。

 

本当の冒険がどれほど厳しいものなのかも知らない。

 

それでも、彼は自分の足で一歩を踏み出した。

 

嘘ではなく、自分の夢を叶えるために。

 

そして、船の上では――。

 

「おい、ルフィ! あの島、何だか変な形してるぞ!」

 

ゴルシが遠くを指さす。

 

「どこだ!?」

 

ルフィが身を乗り出す。

 

「見ろよ! 島の形がマグロに似てる!」

 

「どこがだよ!」

 

ウソップが叫ぶ。

 

「いや、よく見れば……!」

 

テイオーが目を凝らす。

 

「見えないよ!?」

 

「見えるだろ! ほら、あそこが頭で、あそこが尾びれ!」

 

「もうええわ!」

 

タマモのツッコミが炸裂した。

 

フェスタは腹を抱えて笑い、ゾロは早くも寝床を探している。

 

ナミは海図を握りしめ、深いため息をついた。

 

「……この船、大丈夫なのかしら」

 

しかし、彼女の口元にも、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。

 

こうして、ゴーイング・メリー号の最初の航海が始まった。

 

次に彼らが向かうのは、海上レストラン・バラティエ。

 

そこで待ち受けるのは、黒足の料理人サンジと、食いしん坊のウマ娘オグリキャップ。

 

そして、海の厳しさを思い知らされる、思いもよらぬ出会いだった。

 

――つづく。

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