ウマ娘ONE PIECEダービー~黄金の浮沈船は大海原を駆ける~   作:武藤 桜

6 / 13
第六話「海上レストラン・バラティエ! 剣士たちの敗北と新たなる誓い」

1 海の賞金稼ぎ、ヨサクとジョニー

ゴーイング・メリー号がシロップ村を出航して数日後。

 

東の海は今日も穏やかだった。

 

「腹減ったァァァ!」

 

船首でルフィが叫んだ。

 

「出航してから何回目よ、その台詞!」

 

ナミが海図から顔を上げる。

 

「だってよー! 海の上って、魚を捕まえないと食べ物が増えねえじゃねえか!」

 

「だから、食料の管理をしてるのは私でしょうが! 勝手に食べ尽くさないで!」

 

「ゴルシが昨日、食料庫の干し肉を全部食べたのも原因やと思うけどな」

 

タマモクロスが腕を組み、船の隅を指さした。

 

そこには、腹を膨らませて寝転がるゴールドシップがいた。

 

「おいおい、タマちゃん。人聞きが悪いな。俺様は干し肉の安全性を確認しただけだぜ」

 

「全部食べて何の安全性が分かるんや!」

 

「食べても死ななかった。つまり安全!」

 

「そういう問題ちゃうわ!」

 

「それに、マグロがなかったんだよなあ」

 

「マグロは非常食ちゃう!」

 

いつもの騒ぎが船上に広がる。

 

フェスタは手元のカードを切りながら、面白そうに笑っていた。

 

「この船では、食料が賭けの対象になる前に消えてしまうらしい」

 

「賭けの対象にするな!」

 

ナミが即座に釘を刺した。

 

そのときだった。

 

「おーい! そこの船!」

 

海上から、男の声が聞こえてきた。

 

ルフィたちが振り向くと、小舟に乗った二人組が近づいてくる。

 

一人は痩せた男、もう一人はがっしりした体格の男。どちらも海賊らしい格好をしていた。

 

「お前ら、海賊か!?」

 

ルフィが身を乗り出す。

 

「おうよ! 俺たちは賞金稼ぎのヨサクとジョニーだ!」

 

痩せた男が胸を張った。

 

「兄貴分のヨサク!」

 

「弟分のジョニー!」

 

二人は揃ってポーズを決める。

 

「……何や、そのポーズ」

 

タマモが首を傾げる。

 

ゴルシは感心したように頷いた。

 

「いいねえ! 名乗りのポーズってのは大事だ! 俺様もやろう!」

 

「やらんでええ!」

 

タマモのツッコミが飛ぶ。

 

ヨサクはルフィたちの船を見上げた。

 

「ところで、お前らの中に、ロロノア・ゾロって剣士はいねえか?」

 

「俺だ」

 

ゾロが顔を上げる。

 

「やっぱりか! お前の名は東の海でも有名だぜ!」

 

ジョニーが目を輝かせた。

 

「賞金稼ぎの間じゃ、知らねえ奴はいねえ!」

 

「へえ、ゾロって有名なんだな!」

 

ルフィは嬉しそうに笑った。

 

「まあな」

 

ゾロは平然と答える。

 

その横で、タマモが少しだけ胸を張った。

 

「ウチも二刀流の剣士や。覚えとき」

 

「おっ、あんたも剣士か!」

 

ジョニーはタマモの二本の刀に目を向ける。

 

「そりゃ頼もしい! この船、なかなか面白い連中が揃ってるな!」

 

「面白いというか、騒がしいだけや」

 

タマモはゴルシを横目で見た。

 

「おい、今、俺様を見たな?」

 

「他に誰がおるんや!」

 

ヨサクとジョニーは顔を見合わせ、苦笑した。

 

やがてヨサクは、メリー号の行く先を聞いて大きく頷いた。

 

「海上レストラン・バラティエか。なるほど、そりゃいい。腹を満たすなら、あそこに勝る場所はねえぜ」

 

「レストラン!?」

 

ルフィの目が輝く。

 

「飯が食えるのか!?」

 

「もちろんだ。海の上に浮かぶレストランで、腕の立つコックが揃ってる」

 

「よっしゃあああ! 行こうぜ!」

 

「待ちなさい! 食料の残りと相談してから――」

 

「飯だあああ!」

 

ルフィの歓声が、青い海に響き渡った。

 

2 海上レストラン・バラティエ

やがて、メリー号の前方に大きな船影が現れた。

 

魚のような形をした建物に、広い甲板。海の上に堂々と浮かぶその姿は、まさに海上レストランだった。

 

「うおおおおっ! でけえ!」

 

ルフィが目を輝かせる。

 

「ここがバラティエか!」

 

ヨサクが頷いた。

 

「ああ。腕の立つコックがいることで有名な店だ」

 

「よし! 食うぞ!」

 

「だから、財布と相談しなさいって!」

 

ナミが怒鳴る。

 

しかし、ルフィはもう聞いていなかった。

 

船を寄せ、真っ先にレストランへ飛び込む。

 

「すみませーん! 肉あるかー!」

 

「店に入るなり肉を要求する客なんて初めてだよ!」

 

ウソップが呆れる。

 

テイオーは店内を見回し、目を輝かせた。

 

「すごいね! こんな海の上にレストランがあるなんて!」

 

フェスタはカウンターや客席を眺める。

 

「なるほど。船そのものが店になっているのか。なかなか合理的だね」

 

そのとき、厨房から一人の料理人が姿を現した。

 

金色の髪に、片目を隠す前髪。口元には煙草。

 

黒いスーツを着た男は、無駄のない動きで皿を運び、客の注文をさばいていた。

 

「お待たせしました。ご注文の料理です」

 

男の名はサンジ。

 

バラティエで働く、腕利きのコックだった。

 

「おおっ! あんたが料理人か!」

 

ルフィが駆け寄る。

 

「俺、肉が食いてえ!」

 

「……注文するなら席についてください」

 

サンジは冷静に答えた。

 

「あと、食事をする前に金を払えるか確認した方がいいですよ」

 

「えっ、金いるのか?」

 

「当たり前でしょうが!」

 

ナミがルフィの頭を叩いた。

 

サンジはその声を聞いて振り向き、ナミの姿を見るなり、目を輝かせた。

 

「おお……! なんという美しい女性……!」

 

彼は一瞬で態度を変え、ナミの前に跪いた。

 

「お嬢さん、もしよろしければ、最高の料理をあなたのために――」

 

「はいはい、そういうのはいいから」

 

ナミは軽く受け流す。

 

そのときだった。

 

「……いい匂いがする」

 

低く、しかし妙に真剣な声がした。

 

サンジが振り向くと、そこには一人のウマ娘が立っていた。

 

白い髪。大柄な体格。落ち着いた表情。

 

そして、料理を見つめる瞳には、隠しきれない食欲が宿っていた。

 

オグリキャップである。

 

「……あの料理は、何という名前なんだ?」

 

オグリは、サンジが運んでいた肉料理をじっと見つめていた。

 

「こちらは本日のおすすめ、香草焼きの肉料理です」

 

サンジは職業意識を取り戻し、丁寧に説明した。

 

「香草と香辛料を使い、肉の旨味を引き出しています」

 

「……そうか」

 

オグリは真剣に頷いた。

 

「それを、一つ」

 

「かしこまりました」

 

「いや、待ってくれ」

 

オグリは少し考えてから続けた。

 

「やはり、五つ頼む」

 

サンジの手が止まった。

 

「……五つ?」

 

「あと、パンとスープも頼みたい」

 

「……もちろん、喜んで!」

 

サンジの目が輝いた。

 

大量に食べる客は、料理人にとって腕の見せどころでもある。

 

「お嬢さん、あなたは実に素晴らしい食べっぷりをしてくれそうだ!」

 

「そうか? 私はただ、お腹が空いているだけだが」

 

オグリは不思議そうに首を傾げた。

 

そこへタマモがやって来た。

 

「オグリ!」

 

オグリは顔を上げた。

 

「タマモ? どうしてここに?」

 

「それはこっちの台詞や! あんた、また食べることばっかり考えとったんか!」

 

「いや、今は食事を注文しているところだ」

 

「見たら分かるわ!」

 

タマモは呆れたようにため息をつく。

 

しかし、その表情には懐かしさがあった。

 

「……相変わらずやな、オグリ」

 

「タマモも変わらないな」

 

オグリは穏やかに笑った。

 

二人は、ウマ娘の世界で互いを知る仲だった。

 

タマモは小柄ながらも負けん気が強く、オグリは寡黙でマイペース。しかし、食べ物を前にしたときのオグリの勢いだけは、誰にも止められない。

 

「なあ、タマモ」

 

「何や?」

 

「この料理、とてもおいしそうだ。一緒に食べないか?」

 

「……あんたなあ」

 

タマモは頭を抱えた。

 

「久しぶりに会った友達への第一声が、それかいな!」

 

「違うのか?」

 

「違わへんけど!」

 

サンジは二人のやり取りを見ながら、口元を緩めた。

 

「なるほど、お二人はお知り合いなんですね」

 

「せや。こいつはオグリキャップ。ウチの知り合いや」

 

「オグリキャップです。よろしく頼む」

 

オグリは丁寧に頭を下げた。

 

サンジは胸に手を当てる。

 

「サンジです。こちらこそ、よろしくお願いします。お二人のためなら、腕によりをかけて料理を作りましょう!」

 

「おお、ありがとう」

 

オグリは嬉しそうに頷いた。

 

「では、追加で十人前ほど――」

 

「増やすなああああ!」

 

タマモの絶叫が店内に響き渡った。

 

ゴルシはその光景を見て、腹を抱えて笑った。

 

「ぎゃははは! いいねえ! オグリ、さすがだぜ! 食欲の化身!」

 

「ゴルシ、あんたも食べる量を少しは考ええ!」

 

「俺様はマグロなら無限に食える!」

 

「誰もマグロの話なんかしてへんわ!」

 

バラティエには、早くもいつもの騒がしさが広がっていた。

 

3 腹を空かせた男と、海の恐怖

食事を終えたルフィたちが店内で騒いでいた頃、バラティエの入口では、別の騒ぎが起きていた。

 

「おい、聞いてんのか! 飯を食わせろ!」

 

入口に立っていたのは、ぼろぼろの服を着た男だった。

 

顔色は悪く、身体はやせ細り、今にも倒れそうな様子だった。

 

店員たちは警戒していたが、サンジは違った。

 

「……腹が減っているんですか?」

 

男は無言で頷いた。

 

「なら、座ってください。食事を出します」

 

「おい、サンジ! そいつは海賊だぞ!」

 

店員が声を上げる。

 

「海賊だろうが何だろうが、腹が減っている奴に飯を出すのがコックだ」

 

サンジはきっぱりと言った。

 

その言葉に、オグリが深く頷いた。

 

「そうだな。腹が減っていると、何も考えられなくなる」

 

「オグリはいつでも食べ物のことを考えてるやろ!」

 

タマモが即座にツッコむ。

 

サンジは男に料理を差し出した。

 

男は最初こそ遠慮していたが、一口食べると、まるで堰を切ったように食事をかき込み始めた。

 

「……うめえ……!」

 

涙を流しながら、男は皿を空にしていく。

 

「おかわり……!」

 

「はい、どうぞ」

 

サンジは次の皿を差し出した。

 

その様子を見て、ルフィは感心したように笑った。

 

「サンジ、お前、いい奴だな!」

 

「料理を出しただけですよ」

 

「いや、すげえよ!」

 

ルフィはテーブルを叩いた。

 

「俺もおかわり!」

 

「お前はさっき食べたでしょうが!」

 

ナミが怒鳴った。

 

男が食事を終えた頃、ようやく自分の名を名乗った。

 

「……俺はギン。クリーク海賊団の戦闘員だ」

 

その言葉に、店内の空気が変わった。

 

「クリーク海賊団だと……?」

 

ヨサクが顔を強張らせる。

 

「東の海で最大級の勢力を誇る海賊団じゃねえか!」

 

ジョニーも頷いた。

 

「船長の首領・クリークは、五千人もの部下を率いる大海賊だ。だが……」

 

彼はギンを見た。

 

「その幹部が、こんな姿になっているってことは……」

 

ギンは拳を握りしめた。

 

「……グランドラインで、俺たちは壊滅した」

 

「何だと?」

 

ゾロが顔を上げる。

 

「グランドラインで、何があったんだ?」

 

ギンはしばらく黙り込んだ。

 

そして、絞り出すように言った。

 

「……鷹の目だ」

 

「鷹の目?」

 

ウソップが首を傾げる。

 

「世界最強の剣士……ジュラキュール・ミホーク」

 

ギンの声が震えた。

 

「奴はたった一人で、クリーク海賊団の大艦隊を追い詰めた。船を次々と斬り裂き、俺たちの逃げ場を奪ったんだ」

 

「一人で……?」

 

テイオーが息を呑む。

 

「そんなことができるのか?」

 

「できるんだよ」

 

ギンは顔を伏せた。

 

「俺たちは、グランドラインの恐ろしさを思い知った……」

 

その話を聞き、ゾロの目が鋭くなった。

 

「……世界最強の剣士か」

 

彼は腰の刀に手を置いた。

 

「そんな奴が、この海にいるのか」

 

タマモも、静かに二本の刀の柄を握った。

 

「……世界最強、か」

 

彼女はゾロの横顔を見つめる。

 

二人とも剣士だ。

 

目指す場所は違えど、強さの頂点を見たいという気持ちは理解できる。

 

そのとき、店の外から大きな怒鳴り声が響いた。

 

「ギン! てめェ、どこへ行きやがった!」

 

ギンの顔が凍りつく。

 

「……船長」

 

海上に、ぼろぼろの海賊船が現れた。

 

その船には、無数の穴が開き、帆は破れ、船体は今にも沈みそうだった。

 

船の甲板に立つ大男が、怒りに満ちた声で叫ぶ。

 

首領・クリーク。

 

東の海で恐れられる大海賊が、バラティエへと戻ってきたのだった。

 

4 鷹の目、来襲

クリーク海賊団の船が、バラティエの近くまで接近した。

 

部下たちは疲れ果て、食料も水もほとんど残っていない。

 

クリーク自身も傷だらけだったが、その眼差しにはまだ野心が燃えていた。

 

「おい! 飯を出せ! 船も直せ! 俺様はクリークだぞ!」

 

店員たちが怯え、バラティエの料理人たちが武器を手に取る。

 

「ふざけるな! 店を何だと思ってやがる!」

 

「食事を出せば、代金は払ってやる!」

 

クリークはそう言いながら、鎧のような装備を身につけていた。

 

「俺様はグランドラインから帰ってきたんだ! あの地獄を生き延びた男だぞ!」

 

ルフィはクリークを見て、眉をひそめた。

 

「……こいつが、さっきの話の海賊か?」

 

「そうだ」

 

ギンが苦しげに答える。

 

「クリーク船長は、どんな手段を使ってでも生き残る男だ。卑怯なことも、仲間を犠牲にすることも、ためらわない……」

 

そのときだった。

 

海の向こうから、小さな船が近づいてきた。

 

一隻の小舟。

 

その上には、一人の男が座っていた。

 

黒い帽子。鋭い眼差し。背中には巨大な十字架のような剣。

 

男は小舟を漕ぐこともなく、静かに海を進んでいた。

 

クリークの顔が引きつった。

 

「……まさか」

 

ギンは震えながら振り返る。

 

「鷹の目……!」

 

男は、ジュラキュール・ミホーク。

 

世界最強の剣士だった。

 

「……ここまで追ってきたのか!」

 

クリークの叫びに、ミホークは淡々と答えた。

 

「追ってきたわけではない。小さな船で暇を潰していただけだ」

 

「ふざけるな! 俺たちを追い詰めたのはお前だろうが!」

 

「お前たちが勝手に逃げ回っただけだ」

 

ミホークの声には、怒りも興味もなかった。

 

ただ、退屈そうだった。

 

ゴルシはその姿を見て、口笛を吹いた。

 

「おお……。なんか、すげえ雰囲気の奴が来たぞ」

 

フェスタはミホークの剣を見つめる。

 

「……あの剣。飾りではないね」

 

ゾロはすでに立ち上がっていた。

 

「……あいつだ」

 

タマモが横目で見る。

 

「ゾロ?」

 

「世界最強の剣士……」

 

ゾロの声は静かだった。

 

「俺が目指している場所に立つ男だ」

 

彼はミホークから目を離さなかった。

 

タマモもまた、胸の奥が熱くなるのを感じていた。

 

自分も剣士として強くなりたい。

 

いつか誰にも負けない力を手に入れたい。

 

ならば、世界最強の剣士が目の前にいる今、逃げる理由はない。

 

「……ウチも行く」

 

タマモは二本の刀を手に取った。

 

「ゾロだけに背負わせるわけにはいかへん」

 

ゾロは一瞬だけタマモを見た。

 

「……死ぬかもしれねェぞ」

 

「そんなもん、剣士やっとったら覚悟の上や」

 

タマモは笑った。

 

「それに、ウチはあんたに負けるつもりもないからな」

 

「……そうかよ」

 

ゾロは口元をわずかに緩めた。

 

二人は、ミホークの前へと歩み出た。

 

5 ゾロとタマモ、世界最強への挑戦

「おい、鷹の目!」

 

ゾロが声を張った。

 

「俺と勝負しろ!」

 

ミホークは、ゆっくりと視線を向けた。

 

「……私と?」

 

「そうだ! 俺は世界一の大剣豪になる男だ!」

 

ゾロは三本の刀を構える。

 

「そのために、お前を越える!」

 

ミホークはしばらくゾロを見つめた後、静かに立ち上がった。

 

「……なるほど」

 

彼は背中の巨大な剣には手をかけず、首から下げた小さな十字架のような短剣を取り出した。

 

「では、その覚悟を見せてみろ」

 

「ゾロ!」

 

タマモが声をかける。

 

「ウチもやる!」

 

「タマモ、お前……」

 

「二人で挑んだ方が勝てるかもしれへんやろ!」

 

タマモは二本の刀を構えた。

 

「それに、ウチも剣士や。世界最強を前にして、黙って見てるわけにはいかん!」

 

ミホークは二人を見比べた。

 

「二人がかりか。構わん」

 

その言葉を合図に、ゾロとタマモが同時に動いた。

 

「三刀流――鬼斬り!」

 

ゾロの三本の刀が、正面からミホークへと迫る。

 

同時に、タマモが側面から踏み込んだ。

 

「双閃・稲妻駆け!」

 

二本の刀が閃き、ミホークの逃げ道を塞ぐ。

 

左右と正面からの挟撃。

 

普通の剣士なら、受け止めることすら難しい攻撃だった。

 

しかし、ミホークは小さな短剣を一度だけ動かした。

 

キィン――!

 

金属音が響く。

 

ゾロの三本の刀が、すべて弾き返された。

 

「なっ……!?」

 

タマモも驚きながら、後退して体勢を整える。

 

「今のを、短剣一本で……!?」

 

ミホークは淡々と言った。

 

「悪くはない。だが、剣筋が素直すぎる」

 

ゾロは歯を食いしばった。

 

「だったら、これならどうだ!」

 

彼は再び踏み込む。

 

三本の刀を交差させ、連続して斬撃を繰り出す。

 

「三刀流――虎狩り!」

 

ミホークはその攻撃を軽くかわした。

 

タマモも、ゾロの動きに合わせて斬り込む。

 

「双閃・白狐乱舞!」

 

二本の刀が流れるように舞い、ミホークの左右を狙う。

 

しかし、ミホークは一歩も慌てなかった。

 

短剣が閃くたび、ゾロの刀が弾かれ、タマモの刃が軌道を逸らされる。

 

「くっ……!」

 

「何や、この人……!」

 

二人は息を切らし始めていた。

 

それでも、引き下がらない。

 

ゾロは刀を構え直し、タマモも足を踏みしめる。

 

「まだや……!」

 

タマモが叫ぶ。

 

「まだ、終わってへん!」

 

彼女は一気に踏み込んだ。

 

「双閃奥義――疾風・白狐返し!」

 

受け流しからの反撃。

 

ミホークの懐へ入り込む、タマモ渾身の技だった。

 

しかし――。

 

ミホークは短剣の柄でタマモの刀を弾き、その勢いを利用して彼女の体勢を崩した。

 

「……惜しい」

 

次の瞬間、短剣の峰がタマモの胸元を打った。

 

「がっ……!」

 

タマモの身体が吹き飛び、甲板へと叩きつけられた。

 

「タマモ!」

 

ゾロが叫ぶ。

 

「よそ見をするな」

 

ミホークの声と同時に、ゾロの胸元へ短剣が走った。

 

ゾロはとっさに三本の刀で防ごうとしたが、間に合わない。

 

鋭い衝撃が胸を貫く。

 

「ぐああああっ!」

 

ゾロは血を吐き、膝をついた。

 

「ゾロ!」

 

ルフィが叫ぶ。

 

タマモは震える腕で地面を押し、何とか立ち上がろうとしていた。

 

「……まだ……!」

 

彼女は二本の刀を握りしめる。

 

「ウチは……まだ、倒れてへん……!」

 

ミホークはその姿を見つめた。

 

「……立つのか」

 

「当たり前や……!」

 

タマモは血を流しながら、再び刀を構えた。

 

「ウチは……剣士や……!」

 

ゾロも、よろめきながら立ち上がる。

 

「……俺は……世界一の剣豪になる……」

 

二人の目には、恐怖よりも決意が宿っていた。

 

ミホークは、ようやく背中の巨大な黒刀に手をかけた。

 

「ならば、見せてやろう」

 

その一振りが、二人の刃をまとめて弾き飛ばした。

 

ゾロとタマモの身体が、再び地面へと叩きつけられる。

 

二人はもう、立ち上がることができなかった。

 

6 敗北――それでも、折れない誓い

「ゾロ! タマモ!」

 

ルフィが二人のもとへ駆け寄った。

 

ゾロの胸からは血が流れ、呼吸は荒い。

 

タマモも同じように重傷を負い、二本の刀を握る手が震えていた。

 

「おい! しっかりしろ!」

 

ルフィが叫ぶ。

 

「……うるせェ……」

 

ゾロは苦しげに目を開けた。

 

「……まだ、終わってねェ……」

 

「何言ってんだ! もう十分だろ!」

 

「……違う……」

 

ゾロは歯を食いしばった。

 

「俺は……負けた……」

 

その言葉は、彼自身に向けたものだった。

 

世界最強の剣士に挑み、完膚なきまでに敗北した。

 

自分の力が、まだ届かないことを思い知らされた。

 

タマモも、震える声で呟いた。

 

「……ウチも……全然、届かへんかった……」

 

彼女は悔しそうに拳を握る。

 

「もっと強くならな……。このままやったら、何も守れへん……!」

 

ミホークは二人を見下ろした。

 

「剣士としての誇りを持ちながら、敗北を認める。その覚悟は見事だ」

 

彼は黒刀を背負い直した。

 

「ロロノア・ゾロ。お前の名は覚えておこう」

 

ゾロは顔を上げた。

 

「……必ず……お前を越える……!」

 

血に染まった声だった。

 

「いつか必ず、世界一の剣豪になってやる……!」

 

ミホークは静かに頷いた。

 

「その日を楽しみにしている」

 

そして、タマモへ視線を向けた。

 

「二刀流の剣士よ。お前も、己の弱さを知ったはずだ」

 

タマモは歯を食いしばる。

 

「……ああ……!」

 

「ならば、鍛え続けろ。敗北を恐れて刃を鈍らせるな」

 

ミホークは背を向けた。

 

「強さを求める限り、今日の敗北は終わりではない」

 

小舟に乗り、ミホークは静かに去っていった。

 

残された甲板には、重い沈黙が広がっていた。

 

ルフィは、動かない二人を見つめていた。

 

「……ゾロ。タマモ」

 

彼は拳を握りしめた。

 

「お前ら、絶対に強くなれよ」

 

ゾロはかすかに笑った。

 

「……当たり前だ……」

 

タマモも、痛みに耐えながら頷く。

 

「……ウチもや……。次は……絶対に負けへん……!」

 

ゴルシは、普段のふざけた表情を消して二人を見つめていた。

 

「……ああ。次は、あの鷹の目に吠え面かかせてやろうぜ」

 

その声は、いつもより静かだった。

 

テイオーはタマモの手を握り、涙をこらえていた。

 

「タマモ……。絶対に元気になってね」

 

「……泣くなや、テイオー……。ウチは……まだ終わってへん……」

 

タマモは、かすかに笑った。

 

「まだまだ……これからや……」

 

その日、二人の剣士は敗北した。

 

だが、夢を捨てたわけではない。

 

むしろ、その敗北こそが、彼らの新たな出発点となったのだった。

 

7 ナミの裏切り――消えたメリー号

ゾロとタマモは、バラティエの医務室へ運び込まれた。

 

二人とも命に別状はなかったものの、傷は深く、しばらくはまともに動けそうになかった。

 

「まったく……無茶しやがって」

 

ゴルシは医務室の扉にもたれかかり、珍しくため息をついた。

 

「二人とも、世界最強に挑むなんてな」

 

「……ゾロは、ずっと世界一の剣豪を目指してきたんだ」

 

ルフィが静かに言った。

 

「タマモだって、剣士として強くなりたいんだ。だから、あいつらの気持ちは分かる」

 

「せやけど、あの怪我は……」

 

テイオーは、眠っているタマモの手をそっと握った。

 

「……タマモ、痛かったよね」

 

タマモは返事をしない。

 

ただ、時折苦しそうに眉を寄せていた。

 

ウソップも心配そうに二人を見つめていたが、ナミの姿が見当たらないことに気づいた。

 

「……あれ? ナミは?」

 

「そういえば、さっきから見てないな」

 

フェスタが周囲を見回した。

 

「食事の後、店の外へ出ていったはずだけど」

 

そのとき、バラティエの従業員が慌てて駆け込んできた。

 

「大変だ! お前たちの船が……!」

 

「船がどうした!?」

 

ウソップが叫ぶ。

 

「メリー号がいなくなったんだ!」

 

一瞬、誰も言葉を発せなかった。

 

「……は?」

 

ルフィが目を丸くする。

 

「メリー号が?」

 

「海岸を見てきたが、船がない! それに、あのオレンジ色の髪の娘も見当たらないんだ!」

 

「……ナミか!」

 

ウソップが顔色を変えた。

 

「まさか、あいつ……!」

 

フェスタは静かに目を閉じた。

 

「……なるほど。そういうことか」

 

「フェスタ! お前、何か知ってるのか!?」

 

「確証はない。ただ、ナミはずっと自分の目的を優先していた。私たちと行動していたのも、彼女自身の都合があったからだろう」

 

フェスタは海の方を見た。

 

「彼女は、私たちが思っていた以上に海賊を信用していなかったんだ」

 

「……ナミが、船を盗んだ?」

 

ウソップは信じられないという顔をした。

 

「でも、あいつ……オレンジの町では一緒に戦ったじゃねえか!」

 

「一緒に戦ったことと、仲間になることは別だったんだろうね」

 

フェスタの声には、怒りよりも寂しさがあった。

 

彼女自身、ナミと過ごした時間を面白いと思っていた。

 

勝負を持ちかければ、すぐに食いつく。

 

金の話になれば、目の色を変える。

 

口では他人を信用していないと言いながら、危険な場面では誰かを助けることもある。

 

だからこそ、もう少し一緒に旅をしてみたかった。

 

「……追いかけよう!」

 

ウソップが拳を握った。

 

「メリー号は俺たちの船だ! ナミを放っておくわけにもいかねえ!」

 

テイオーが頷く。

 

「ボクも行く! ナミを見つけて、ちゃんと話をしよう!」

 

「待って!」

 

フェスタが二人を呼び止めた。

 

「私も行く。ナミがどこへ向かったのか、見当がつくかもしれない」

 

「フェスタも?」

 

「一緒に賭けをした仲だからね。途中で勝手に降りるなら、せめて理由くらい聞いておきたい」

 

彼女は小さく笑った。

 

「それに、あの船には私の荷物もある」

 

「……結局、そこかよ!」

 

ウソップが叫ぶ。

 

三人は急いで小舟を用意し、メリー号の後を追うことになった。

 

ルフィは医務室の方を振り返った。

 

「……ゾロとタマモは、まだ動けねえ」

 

「私たちが見ておくわ」

 

店の料理人が頷いた。

 

「お前たちは、船を取り戻してこい」

 

ルフィは強く頷いた。

 

「おう! ナミを連れ戻してくる!」

 

そして、ウソップたちが乗った小舟が、海へと漕ぎ出していった。

 

その先に何が待っているのか、まだ誰も知らなかった。

 

8 海上レストランの料理人――サンジとオグリ

ナミたちを追う小舟が出発した頃、バラティエでは別の問題が起きていた。

 

クリーク海賊団が、店を占拠しようとしていたのだ。

 

「おい、コックども! 食料を全部出せ!」

 

クリークが怒鳴る。

 

「船を修理するための資材もだ! 逆らえば、店ごと吹き飛ばしてやる!」

 

「ふざけるな!」

 

バラティエの料理人たちが武器を構えた。

 

「ここはレストランだ! 海賊のために店を明け渡す気はねえ!」

 

「ならば、力ずくで奪うまでだ!」

 

クリークは全身を鎧で覆い、槍を構えた。

 

その後ろには、疲れ切った部下たちが並んでいた。

 

ギンは、店内からその様子を見つめていた。

 

「……船長」

 

彼は、先ほど自分に食事を出してくれたサンジを思い出した。

 

空腹で倒れそうだった自分に、何も聞かずに料理を出してくれた男。

 

その恩を忘れたわけではない。

 

だが、クリーク海賊団の戦闘員として、船長の命令に逆らうこともできなかった。

 

「……俺は、どうすれば……」

 

ギンは拳を握りしめた。

 

そのとき、厨房からサンジが現れた。

 

「おい、海賊ども!」

 

彼は煙草をくわえたまま、クリークたちを睨みつける。

 

「飯が欲しいなら、まずは金を払え。食料も船も、ただで渡すつもりはない」

 

「貴様……!」

 

クリークの顔が歪む。

 

「俺様が誰だか分かっているのか!?」

 

「腹を空かせた客だろうが、武器を振り回す海賊だろうが、ここでは俺の料理を食う客だ」

 

サンジは一歩も退かなかった。

 

「ただし、店を壊す奴には飯を出さねえ」

 

オグリがサンジの隣に立つ。

 

「私も同意する」

 

「オグリ?」

 

「料理を作る人の気持ちは大切だ。食べ物を粗末にしたり、無理やり奪ったりするのはよくない」

 

オグリはクリークをまっすぐ見た。

 

「腹が減っているなら、きちんと頼めばいい。サンジは、きっと料理を作ってくれる」

 

「……お前たち、俺様に説教する気か?」

 

クリークは怒りに震えた。

 

「俺様は東の海の覇者、首領・クリークだぞ!」

 

「知らねえな」

 

サンジは冷たく答えた。

 

「俺は料理人だ。お前の肩書きなんざ関係ねえ」

 

「……いい度胸だ!」

 

クリークは槍を構えた。

 

その瞬間、サンジが前へ出る。

 

「オグリ、下がってろ」

 

「しかし……」

 

「ここは俺の仕事場だ。料理人のケンカに客を巻き込むわけにはいかねえ」

 

オグリは一瞬考え、それから頷いた。

 

「分かった。だが、危なくなったら私も手伝う」

 

「……ああ、頼む」

 

サンジは軽く笑った。

 

二人の間には、まだ出会ったばかりとは思えない、不思議な信頼が生まれ始めていた。

 

オグリは料理を愛する者として、サンジの信念に共感していた。

 

そしてサンジもまた、目の前の大食漢が単に食い意地の張った客ではなく、食べ物と料理人を大切にする人物だと理解し始めていた。

 

「さて……」

 

サンジは足を構えた。

 

「腹を空かせた客には飯を。店を壊す海賊には、蹴りをくれてやる」

 

クリーク海賊団との戦いが、始まろうとしていた。

 

9 クリーク海賊団、総攻撃

クリークの命令とともに、海賊たちがバラティエへ押し寄せた。

 

「ぶっ潰せェ!」

 

「店を奪え!」

 

「食料を全部持っていけ!」

 

店内はたちまち戦場と化した。

 

「おおっ、やっと本格的な海賊退治か!」

 

ゴルシが棍棒を構える。

 

「お前、さっきまで医務室の前にいたんじゃないのか?」

 

ルフィが尋ねた。

 

「ゾロとタマちゃんは寝かせておいた方がいいだろ。だったら、俺様たちが暴れる番だ!」

 

「よっしゃ! 俺もやるぞ!」

 

ルフィが拳を鳴らす。

 

「俺たちでこいつらを追い返す!」

 

バラティエの料理人たちも武器を手に取り、海賊たちに立ち向かった。

 

ゴルシは棍棒を振り回し、海賊たちをまとめて吹き飛ばす。

 

「どりゃああああっ!」

 

「うわあああ!」

 

「何だ、あの女!?」

 

「黄金の浮沈船、出航だァァァ!」

 

「船の名前みたいに叫ぶな!」

 

ウソップがいないため、いつものツッコミ役が減っていた。

 

それでも、ゴルシの暴走にナミがいない分、店内は比較的平和……とは言い難かった。

 

「おい、ゴルシ! 店を壊すなよ!」

 

ルフィが叫ぶ。

 

「分かってるって!」

 

ゴルシは棍棒を振り下ろした。

 

海賊たちが吹き飛び、その後ろにあったテーブルが粉々になった。

 

「壊してるじゃねえか!」

 

「敵だけ狙ったつもりだったんだがな!」

 

「つもりで店を壊すな!」

 

一方、サンジは足技で海賊たちを圧倒していた。

 

「ほらよ!」

 

蹴りが海賊の顎に決まり、男が宙を舞う。

 

「次!」

 

別の海賊がナイフを振り回す。

 

サンジは軽く身をかわし、回し蹴りで相手を吹き飛ばした。

 

「料理人にナイフを向けるとは、いい度胸だな」

 

「ぎゃあああ!」

 

オグリもまた、料理人たちを手伝いながら海賊を制圧していた。

 

彼女はサンジの邪魔にならないように動き、倒れた海賊の武器を取り上げていく。

 

「武器は危ない。これは預かっておく」

 

「お、お前、何者だ……!」

 

「オグリキャップだ」

 

「名前を聞いてるんじゃねえ!」

 

オグリは首を傾げた。

 

「そうか。では、あとで説明しよう」

 

そう言って、海賊をひょいと持ち上げ、店の外へ放り出した。

 

「うわああああっ!」

 

サンジは思わず振り返った。

 

「……あの体格で、あんなに軽々と……」

 

「どうした、サンジ?」

 

オグリが尋ねる。

 

「いや……お前、見た目以上に力があるんだな」

 

「そうか? 普通だと思うが」

 

「……普通じゃねえよ」

 

サンジは苦笑した。

 

そのとき、クリークが大きな銃を構えた。

 

「ふざけやがって……! まとめて吹き飛ばしてやる!」

 

「おい、あの武器はまずいぞ!」

 

ルフィが叫んだ。

 

クリークは銃口を店内へ向けた。

 

「ダイヤルを上げろ! 店ごと吹き飛ばせ!」

 

「やめろ!」

 

ギンが叫ぶ。

 

「船長! この店には、俺たちに飯を食わせてくれた人間がいるんだ!」

 

「黙れ、ギン!」

 

クリークは怒鳴った。

 

「俺様の命令に逆らうのか!」

 

ギンは拳を握りしめた。

 

「……俺は……」

 

サンジがギンを見つめる。

 

「お前……」

 

ギンは苦しそうに顔を伏せた。

 

恩を受けた相手を傷つけたくない。

 

しかし、船長に逆らえば、仲間たちも自分もどうなるか分からない。

 

その葛藤が、彼の心を締めつけていた。

 

10 ギンの葛藤と、サンジの信念

クリークは、ギンの迷いを見抜いていた。

 

「ギン! 貴様、何をためらっている!」

 

「……船長」

 

「俺様の命令を聞け! この店を奪い、食料を手に入れる! それが生き残るための最善の方法だ!」

 

ギンは拳を震わせた。

 

「……ですが、船長。ここには……」

 

「黙れ!」

 

クリークは銃を向けた。

 

「逆らうなら、貴様も敵だ!」

 

その瞬間、サンジが前に出た。

 

「……ギン」

 

彼は静かに呼びかけた。

 

「お前、さっき飯を食ったとき、泣いてたな」

 

ギンは目を見開いた。

 

「……!」

 

「腹が減って、死にそうだったんだろ。だから俺は飯を出した。それだけだ」

 

サンジは煙草をくわえ直す。

 

「だがな。飯を食わせたからって、お前が俺の味方になる必要はねえ」

 

「サンジ……」

 

「自分がどうしたいか、よく考えろ。誰かの命令に従うだけじゃなく、自分で決めろ」

 

ギンは、言葉を失った。

 

クリークが怒り狂う。

 

「黙れェェェ! 海賊に説教するんじゃねえ!」

 

彼は武器を構え、サンジへと突進した。

 

「死ねェ!」

 

サンジは体をひねり、クリークの攻撃をかわす。

 

「お前の相手は俺だ!」

 

蹴りがクリークの脇腹に決まる。

 

しかし、クリークは鎧で攻撃を受け止め、反撃を放った。

 

「甘いわ!」

 

大きな槍がサンジへ迫る。

 

サンジは跳び上がり、空中で体を回転させた。

 

「ほらよ!」

 

強烈な蹴りがクリークの頭部を捉える。

 

クリークはよろめいたが、倒れなかった。

 

「……ちっ、硬いな」

 

サンジが舌打ちする。

 

「サンジ!」

 

オグリが声をかけた。

 

「私も加勢する!」

 

「いや、まだだ!」

 

サンジはクリークを睨む。

 

「こいつは俺が止める。お前は店の人たちを守ってくれ!」

 

オグリは一瞬だけ迷い、それから頷いた。

 

「分かった。だが、無茶はするな」

 

「……ああ」

 

オグリは再び戦場へ戻った。

 

その背中を見送りながら、サンジは思った。

 

このウマ娘は、ただ食べることが好きなだけではない。

 

誰かのために動ける。

 

そして、相手の意思を尊重できる。

 

そんなところが、少しだけ自分と似ている気がした。

 

11 ルフィ対クリーク――海賊の誇り

戦いは激しさを増していた。

 

ルフィはクリークの武器を避けながら、何度も拳を叩き込む。

 

「ゴムゴムのピストル!」

 

拳がクリークの鎧に直撃する。

 

しかし、クリークは倒れなかった。

 

「効かねえなァ!」

 

彼は鎧の仕込み武器を使い、ルフィを追い詰める。

 

「どうだ! 俺様の武器は無敵だ!」

 

「うるせえ!」

 

ルフィは拳を握りしめた。

 

「武器が強くても、お前が偉いわけじゃねえ!」

 

クリークは怒り狂い、爆発する槍を振るった。

 

「黙れェェェ!」

 

爆発が起こり、ルフィは吹き飛ばされる。

 

「ルフィ!」

 

ゴルシが叫ぶ。

 

ルフィは地面に転がったが、すぐに立ち上がった。

 

「……いてて」

 

彼は顔を上げる。

 

「お前、武器ばっかりだな」

 

「何だと?」

 

「自分の力で戦えよ!」

 

ルフィは真正面からクリークに向かっていった。

 

「ゴムゴムのバズーカ!」

 

両手の掌底がクリークの胸部を捉える。

 

クリークの身体が後退した。

 

「ぐっ……!」

 

ルフィはさらに踏み込む。

 

「お前は、腹が減って困ってる奴を助けるんじゃなくて、他人から奪うだけだ!」

 

「黙れ!」

 

クリークが槍を振り下ろす。

 

ルフィはそれをかわし、伸びた腕でクリークの武器を絡め取った。

 

「俺は海賊王になる!」

 

拳を引き絞る。

 

「だから、お前みたいな奴には負けねえ!」

 

「ゴムゴムの――!」

 

強烈な一撃が、クリークの鎧を打ち砕いた。

 

「バズーカァァァ!」

 

クリークは甲板を転がり、動かなくなった。

 

海賊たちの動きが止まった。

 

「船長が……!」

 

「クリーク船長が負けた……!?」

 

ルフィは荒い息を吐きながら、クリークを見下ろした。

 

「……これで終わりだ」

 

ゴルシが棍棒を担ぎ直す。

 

「よっしゃ! クリーク海賊団、これにて閉店!」

 

「ここはレストランや!」

 

タマモの声が聞こえた気がして、ゴルシは思わず振り返った。

 

だが、タマモはまだ医務室で治療中だった。

 

「……ああ、いかん。タマちゃんのツッコミが聞こえてきた」

 

「幻聴がするほど騒がしいのか、お前は!」

 

ルフィが笑った。

 

そのとき、ギンがゆっくりとクリークのそばへ歩み寄った。

 

彼は倒れた船長を見下ろし、しばらく黙り込んだ。

 

「……船長」

 

ギンの声は震えていた。

 

「俺は……もう、あんたの命令に従うだけじゃいられない」

 

クリークは返事をしない。

 

ギンは深く頭を下げ、サンジへと向き直った。

 

「……飯を、ありがとうございました」

 

サンジは短く頷いた。

 

「次は、自分で食う飯を探せ」

 

「……はい」

 

ギンは仲間たちとともに、クリーク海賊団の船へと戻っていった。

 

バラティエは守られた。

 

そして、海賊たちの脅威は去った。

 

12 目覚めた剣士たち

戦いが終わった頃、医務室ではゾロが目を覚ましていた。

 

「……ここは……」

 

「バラティエの医務室や」

 

タマモが、隣の寝台から答えた。

 

「……タマモ?」

 

ゾロは顔を向ける。

 

タマモは全身に包帯を巻かれ、顔色も悪かった。

 

「お前も、まだ寝てろ」

 

「……あんたもな」

 

二人はしばらく黙っていた。

 

ミホークに敗北した感覚が、まだ身体に残っている。

 

自分たちの剣が届かなかったこと。

 

相手は、ほとんど本気を出していなかったこと。

 

それでも、二人は生きている。

 

そして、夢も残っている。

 

「……悔しいな」

 

ゾロが呟いた。

 

「……せやな」

 

タマモは天井を見上げた。

 

「ウチ、あんなに何もできへんとは思わんかった」

 

「俺もだ」

 

ゾロは拳を握ろうとして、痛みに顔をしかめた。

 

「……次は、勝つ」

 

「当たり前や」

 

タマモは静かに頷く。

 

「ウチも、もっと強くなる。次はあの鷹の目に、ウチらの剣を届かせたる」

 

ゾロはタマモを見た。

 

「……お前、まだ俺と一緒に挑むつもりか?」

 

「何や、嫌なんか?」

 

「そうじゃねえ」

 

ゾロは目を閉じた。

 

「……頼りにしてるってことだ」

 

タマモは少し驚いた後、笑った。

 

「……そうか。なら、次も一緒に行ったるわ」

 

そのとき、医務室の扉が開いた。

 

ルフィが顔を出す。

 

「おっ! 目が覚めたのか!」

 

「……ルフィ」

 

「クリークは倒したぞ!」

 

ルフィは満面の笑みを浮かべた。

 

「サンジもすげえ強かったし、オグリもめちゃくちゃ食ってた!」

 

「最後の情報、いるか?」

 

ゾロが呆れたように言った。

 

「大事だろ!」

 

「何が大事やねん……」

 

タマモはため息をついた。

 

ルフィは二人の寝台のそばへ来て、真剣な顔になった。

 

「……ゾロ、タマモ。俺、決めたぞ」

 

二人が顔を上げる。

 

「俺は海賊王になる。そのためには、もっと強い仲間が必要だ」

 

ルフィは拳を握った。

 

「お前らが世界一の剣士を目指すなら、俺はお前らを信じる。だから、絶対に強くなれよ!」

 

ゾロは口元を緩めた。

 

「……言われなくてもな」

 

タマモも頷いた。

 

「ウチもや。今度こそ、絶対に負けへん」

 

ルフィは笑った。

 

「よし!」

 

その笑顔を見て、二人の胸に再び力が戻ってくる。

 

敗北は終わりではない。

 

夢を諦めない限り、まだ先へ進めるのだ。

 

13 サンジ、旅立ちを決める

クリーク海賊団との戦いが終わった後、バラティエには静けさが戻った。

 

店内の片付けを手伝っていたルフィは、サンジの姿を探していた。

 

厨房では、オグリがサンジの手伝いをしていた。

 

「サンジ、この野菜はどう切ればいい?」

 

「おっ、そこは薄く切ってくれ。火が通りやすくなる」

 

「分かった」

 

オグリは包丁を手に取り、真剣な表情で野菜を切り始めた。

 

その隣には、食べ終わった皿が山のように積まれていた。

 

「……オグリ。さっき食べたばかりじゃなかったか?」

 

サンジが尋ねる。

 

「うん。だが、料理を作るとまたお腹が空くんだ」

 

「……そうか」

 

サンジは苦笑した。

 

「じゃあ、片付けが終わったら何か作ってやるよ」

 

「本当か!?」

 

オグリの目が輝いた。

 

「ありがとう、サンジ!」

 

その様子を見て、サンジは思わず笑った。

 

食べることが好きで、料理を大切にし、誰かのために働ける。

 

オグリは、彼にとって不思議と居心地のいい相手だった。

 

そこへルフィが飛び込んできた。

 

「サンジ! 俺たちの仲間になれよ!」

 

「……は?」

 

サンジは包丁を持ったまま固まった。

 

「お前、何を言ってるんだ?」

 

「お前、料理がうまいだろ! 俺たちの船に乗ってくれ!」

 

「いや、俺はここで働いてるんだが……」

 

「一緒に冒険しようぜ!」

 

ルフィはまっすぐに言った。

 

「俺は海賊王になる。そのためには、うまい飯を作れるコックが必要なんだ!」

 

サンジは呆れたように笑った。

 

「……お前、そんな理由で俺を誘ってるのか?」

 

「そうだぞ!」

 

「正直すぎるだろ……」

 

オグリが横から口を挟む。

 

「サンジ。私は、君の料理をもっと食べてみたい」

 

「オグリまで……」

 

「君の料理はおいしい。だから、もっとたくさんの人に食べてもらうのもいいと思う」

 

オグリは真剣な表情だった。

 

「それに、君は誰かがお腹を空かせていたら、放っておけない人だ。海に出ても、きっと同じことをするだろう」

 

サンジは言葉を失った。

 

その言葉は、彼自身が心の奥で考えていたことでもあった。

 

いつか、世界中の海が交わるという伝説の海――オールブルーを見つけたい。

 

それは、彼がずっと抱いてきた夢だった。

 

しかし、ゼフたちへの恩がある。

 

このレストランを離れることに、ためらいがあった。

 

「……俺には、まだやることがある」

 

サンジは静かに言った。

 

「ここで世話になった人たちへの恩も返しきれていない」

 

「だったら、恩を返してから行けばいい!」

 

ルフィがあっさり言う。

 

「えっ?」

 

「お前がここで働いてきたことも、飯を作ってきたことも、みんな知ってるんだろ? だったら、ちゃんと話せばいいじゃねえか!」

 

「……簡単に言ってくれるな」

 

サンジは苦笑した。

 

だが、その言葉が胸に残った。

 

その夜、サンジはゼフと話をした。

 

そして、長い時間をかけて、自分の夢を伝えた。

 

ゼフは最初こそ悪態をついたが、最後には背を向け、短く言った。

 

「……行け」

 

「……ゼフさん」

 

「いつまでここに居座るつもりだ。てめえの夢を追いかけるんだろうが」

 

ゼフは振り返らなかった。

 

「この店のことは心配するな。てめえは、てめえの人生を生きろ」

 

サンジは唇を噛みしめた。

 

「……ありがとうございます」

 

その声は、少し震えていた。

 

翌朝。

 

サンジは荷物をまとめ、オグリとともにルフィたちの前に立った。

 

「……俺も、船に乗る」

 

ルフィの顔が輝いた。

 

「本当か!?」

 

「ああ。オールブルーを探すためにな」

 

サンジは笑った。

 

「ただし、飯を粗末にする奴がいたら、容赦しねえぞ」

 

ゴルシが手を挙げる。

 

「はい! 質問! マグロは食べ物を粗末にしたことになりますか!」

 

「お前はまず、食料庫の管理から学べ!」

 

サンジの蹴りが飛ぶ。

 

ゴルシはひらりと避け、笑いながら甲板へ走っていった。

 

「ぎゃははは! 新しいコックも面白い奴だぜ!」

 

「面白くない!」

 

サンジが叫ぶ。

 

オグリは微笑みながら、荷物を持った。

 

「これからよろしく頼む、サンジ」

 

「ああ、よろしくな。オグリ」

 

こうして、黒足のサンジとオグリキャップが、ルフィたちの一行に加わることになった。

 

14 ナミを追って――それぞれの思い

一方その頃。

 

ナミが奪ったメリー号は、海を進んでいた。

 

甲板では、ナミが海図を広げ、進路を確認していた。

 

彼女の隣にはフェスタがいる。

 

「……本当に、あの人たちを置いてきてよかったのかい?」

 

フェスタが尋ねた。

 

ナミは顔を上げなかった。

 

「私は最初から、あいつらの仲間じゃないわ」

 

「それは聞いたよ」

 

「なら、口を出さないで」

 

ナミの声は冷たかった。

 

だが、フェスタは彼女の横顔を見ていた。

 

その表情には、迷いがあった。

 

「……君には、何か理由があるんだね」

 

「……」

 

「話したくないなら、無理には聞かない。ただ、私を巻き込んだ以上、行き先くらいは教えてもらいたいものだ」

 

ナミはしばらく黙っていた。

 

やがて、海図の一部を指さす。

 

「……ココヤシ村よ」

 

「そこに何がある?」

 

「……私の目的があるの」

 

それ以上、ナミは話さなかった。

 

フェスタは頷き、海へ視線を戻す。

 

「分かった。なら、そこまでは付き合おう」

 

「……どうして?」

 

「賭けの途中だからさ」

 

フェスタは笑った。

 

「勝負の結末を見届けずに降りるのは、私の趣味じゃない」

 

ナミは呆れたようにため息をついた。

 

「……本当に変な女」

 

「よく言われるよ」

 

その頃、別の小舟では、ウソップとテイオーが必死にメリー号を追いかけていた。

 

「ナミィィィ! 待てえええ!」

 

ウソップが叫ぶ。

 

「船を返せえええ!」

 

テイオーも手を振る。

 

「ナミ! フェスタ! 話をしようよー!」

 

しかし、メリー号との距離はなかなか縮まらない。

 

「くそっ……! あいつ、何でこんなに航海がうまいんだよ!」

 

「ナミは航海士だからね!」

 

「分かってるよ!」

 

ウソップは歯を食いしばった。

 

「……でも、あいつをこのまま行かせるわけにはいかねえ」

 

テイオーは彼の横顔を見た。

 

「ウソップ……」

 

「ナミは、俺たちと一緒に戦ったんだ。オレンジの町でも、バラティエでも……。なのに、何も言わずに行っちまうなんて……」

 

ウソップは拳を握りしめた。

 

「俺は、ちゃんと話がしたいんだ」

 

テイオーは微笑んだ。

 

「うん。きっと、ナミにも何か理由があるんだよ」

 

「……そうだな」

 

ウソップは再び櫂を握る。

 

「だから、追いつくんだ!」

 

小舟は波を切り、メリー号を追い続けた。

 

15 再出航――バラティエを後にして

数日後。

 

バラティエの港に、ゴーイング・メリー号とは別の船が用意された。

 

ゾロとタマモは、まだ完全には回復していなかった。

 

ゾロは胸に包帯を巻き、タマモも身体のあちこちに包帯を巻いたまま、何とか立ち上がれる程度だった。

 

「……ほんま、情けないな」

 

タマモが呟く。

 

「世界最強に挑んで、あのザマや」

 

「……情けないと思うなら、強くなるしかねェ」

 

ゾロは短く答えた。

 

「次は勝つ。それだけだ」

 

タマモは頷く。

 

「……ああ」

 

ルフィは二人の肩を叩いた。

 

「無理すんなよ! 傷が治ったら、また一緒に戦おうぜ!」

 

「……お前に言われるまでもねェ」

 

ゾロが笑う。

 

タマモも口元を緩めた。

 

「ウチもや。次は、あの鷹の目に一太刀浴びせたる」

 

ゴルシが船首で腕を組む。

 

「そのときは俺様も応援するぜ! ゴルシちゃん特製の必勝マグロを用意してやる!」

 

「いらんわ!」

 

タマモのツッコミが響いた。

 

サンジは厨房から食料を運び、オグリはその隣で大きな袋を抱えていた。

 

「サンジ、食料はこれで全部か?」

 

「ああ。しばらくは持つはずだ」

 

「分かった。では、出航したら食べてもいいか?」

 

「……一気に食べるなよ」

 

「努力する」

 

「努力じゃなくて、ちゃんと約束しろ!」

 

オグリは首を傾げた。

 

「……分かった。なるべく気をつける」

 

サンジは苦笑した。

 

フェスタとナミ、ウソップとテイオーの姿はまだ戻っていない。

 

それでも、ルフィは空を見上げていた。

 

「……ナミたち、どこへ行ったんだろうな」

 

「さあな」

 

ゾロが答える。

 

「だが、あいつが自分の目的を持ってるのは確かだ」

 

「……うん」

 

ルフィは拳を握った。

 

「俺は、あいつを仲間だと思ってる。だから、いつかまた一緒に旅をしたい」

 

ゴルシはニヤリと笑った。

 

「なら、追いかけるしかねえな!」

 

「おう!」

 

サンジが船の準備を終え、オグリが最後の食料を積み込む。

 

こうして、ルフィたちはバラティエを後にすることになった。

 

目的地は、ナミが向かったココヤシ村。

 

そこに何が待っているのか、まだ分からない。

 

だが、ルフィは迷っていなかった。

 

ナミを連れ戻す。

 

仲間として、一緒に旅をする。

 

そのために、海へ出るのだ。

 

「よーし! 出航だァァァ!」

 

ルフィの声が、海に響き渡った。

 

帆が風を受け、船がゆっくりと港を離れる。

 

バラティエの料理人たちが手を振り、サンジは一度だけ振り返った。

 

「……ゼフさん。行ってきます」

 

オグリも、静かに頭を下げる。

 

「お世話になりました」

 

船は青い海へと進み始めた。

 

ゾロとタマモは、甲板で海を見つめていた。

 

二人の傷はまだ痛む。

 

だが、その胸には新しい誓いがあった。

 

いつか必ず、世界最強の剣士を越える。

 

そのために、強くなる。

 

一方、ナミとフェスタ、ウソップとテイオーも、それぞれの思いを抱えて航海を続けていた。

 

仲間とは何か。

 

信じるとは何か。

 

そして、夢を追うとはどういうことなのか。

 

答えはまだ、誰にも分からない。

 

けれど、彼らの航海は続いていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。