虎杖憑依RTAグリッチレス   作:鈴近

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幕間 五条

 朝っぱらからのノックに軽く返事。

 五条のいた休憩室に入ってきたのは虎杖だった。

 

「せんせーい。バケツプリン作ったら食べます?」

「え!? なにその夢みたいなやつ!!」

「正確には五号炊き炊飯器プリンですけど」

 

 ゴキュッと自分の喉が動いたのがわかった。確かめるように、おそるおそる虎杖に尋ねる。

 

「……つまり、ゼラチンで固めるわけではない?」

 

 ニコニコ笑う少年はあっさり肯定した。

 

「卵牛乳砂糖バニラエッセンスだけでできた、加熱済みプリンですよ」

「食べる! 食べる食べる!」

 

 たまらず五条は座っていた場所から立ち上がり、虎杖のもとへ駆け寄った。

 

 虎杖は料理がうまい。五条が地下室に匿っていた(断じて軟禁ではない)間も、一緒に食事ができるときは彼お手製の料理を提供してくれたものだ。

 

 素朴な家庭料理、というものは五条悟が羨んで余りあるものである。

 虎杖の作ったパウンドケーキは五条好みの甘さだったし、ホールケーキの型で水羊羹を作ってくれたこともあった。当然五条は直径12cmのワンホール水羊羹を一人で完食した。

 

「一人だと食事が餌になる」と彼は言ったので。つまりは五条のためだけに作られた「食の楽しみ」だったのだ。

 そのときからもう、五条の胃袋はがっちり掴まれている。それがわかっているからか、虎杖は気軽におすそわけに来るのだ。材料費を出そうとしては負けるが。

「だって俺のお給料出してるのは高専ですし~」とすっとぼけるこどもは案外したたかである。

 

「了解です。じゃあ先生の分タッパーに詰めてきますね。ちょっとゆるめにできちゃったので、硬めが好きだったら申し訳ないですが」

「どっちでも美味しくいただくから問題ないよ。ていうかもうできてんの!? いつの間に!?」

「寝てる間に仕込みました。ネットレシピのおかげです。胃のキャパが許すなら先生に半分くらい食べてもらいたいんですけど、どうでしょう」

「悠仁だいすき~!!」

「え~寵愛を投げ売りしていいんですか~?」

 

 ギュッと抱き締めて、ついでに腰を抱えあげてホールドした状態でぐるぐる回っても、このこどもは嫌がらない。「天井にぶつけないでね」程度のじゃれるような牽制を言ってくるだけ。

 

 素直でかわいい、いいこ。

 

 五条の心配も愛玩も嬉しそうに受け取って、少しのしょうがないなって顔をにじませながら、付き合ってくれる。おまけにたった数ヵ月でとっても強くなった。

 思春期特有のトゲトゲした空気をまとわずに、無邪気に慕ってくるこどもは存外かわいい。

 永遠になった後輩に、少しだけ、似ている。

 

 気づけば五条はぽつりと呟いていた。

 

「悠仁が後輩だったら、うんと可愛がったろうなあ」

「え、無理でしょ」

「……why?」

 

「あはは動揺してる」と笑うこどもは、緩んだ己の手のひらを剥がして音もなく着地する。こてっと首をかしげるしぐさの極端な幼さは相変わらずだが、六月よりもずいぶん人間らしくなった。

 

「先生のクソガキ列伝はあちこちから聞きましたけど、俺みたいなイイコチャンのことは全力でイビるか完全無視してたんじゃないですか?」

「は? いや、そんな……そんなことは……」

 

 あったかもしれない……。

 

 五条はフリーズした。あの頃の自分はやりかねない。

 

 ちょうど今、釘崎や真希が「鼻につく」と思っていることがちらちら見え隠れする以上のことを虎杖にしていた可能性大。完全無視ならともかく、気に入らないことを理由に粉々に破壊していたかも。

 断固として認めたくないけれど、学生時代の自分は今よりも相当トガッていたために、想像が容易い。

 

 いや今とて五条は新しい風の革命を推し進めるタカ派なのだが、牙だの爪だのの隠し方を覚えたのである。一人だけが強大な武力を持っていてもあまり意味がないらしいので。

 だからきっと、夢想通りの関係は築けなかっただろう。

 

 それを当の本人から指摘されるのは大いにショックだった。口もへの字に曲がるというもの。

 しかしながら、にまーっと笑みを深める虎杖は、初めて見るようないたずらっぽさを浮かべている。

 

「素敵な歳の取り方したってことですよ。先生はまだまだ少年の心があると主張するかもしれませんが、たまにバカやるとき以外は十分、ちゃんと大人です。先生の青春はばーっちり先生の今を作ってるんだから、俺みたいな余分なパーツを付け加えたら破綻しちゃいますよ」

「そりゃ僕はグレートティーチャーゴジョーだけどさあ……でも夢くらい見たっていいじゃん……」

 

 虎杖は「おやまあ」と目を丸めた。ぶすくれる五条が珍しいのだろうし、こういう甘えた振る舞いをしていることにも驚いている。

 自分でもなにやってんだか、と思わないでもないのだが、仕様のない「もしも」話に付き合わせたいくらいの感傷があった。

 ふっと眉を下げる虎杖の口から出てきたものは、五条が望んだものではなかったけれど。

 

「俺はまだ先生の影すら踏めてないんです。自分より弱い雑魚の戯言聞くタマじゃないでしょ。若い頃は余計に。又聞きでもわかりますよ、それくらいは」

「優しくないね」

「先生の感傷は先生が抱えてれば十分です。他人に触らせるものじゃないでしょう。先生だけに許されている呪いだ」

 

 そりゃ重くて動けないって言うのなら多少は手伝いますが、と虎杖は前置きして、

 

「俺はどっちかって言うと先生にバケモノの最強のままでいてほしいし。セーフティーでいてくれないと困りますもん。でも、俺の先生してくれる先生のことはすき」

 

 と言って、ナイショですよとはにかんだ。

 五条の喉からは謎の呻き声が出た。「ズルい……」と、頭が選別する前に言葉が飛び出る。

 

「そーです、ズルいんです。大人の余裕がある先生は、素直でかわいいですね」

 

 じゃあプリンとってきまーす。そう言い残して、虎杖は部屋を出ていった。

 

 

「にしても、なんでいきなりプリン?」

「まあ、差し入れです。みんな疲れてるし、消化にいいもの、かつプロテインと糖質補給できて大量生産できるもの、ってことで。俺は食って風呂入って寝たらだいぶ回復したから……」

 

 今めっちゃピザ食べたい。

 そう漏らした十五歳の生徒のために、五条は宅配ピザを奢ろうと決めた。最寄りのピザ屋はアツアツのピザを届けられるほど近くないが、それくらいいくらでも温め直せる。

 

 みんなで食べなね、の言葉を添えて、届いたそれを虎杖に渡した。




五条が店頭まで行って瞬間移動するほうが絶対早い やるわけがない
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