虎杖憑依RTAグリッチレス   作:鈴近

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part1

 気づいたら虎杖悠仁だった。

 あっさりロックを通過したスマホのドキュメントには練習中のチャート。意識を集中することで見える馴染みの操作ウィンドウ、コントローラー操作と同じ要領で動く肉体。

 ならばやるしかあるまい。RTAを……。

 

 

 とまあ、そんなこんなでぶっつけ本番RTAは幕を開けた。タイム計測までもが操作ウィンドウの右下にリアル日付とゲームプレイ換算で出ているのだ。「やれ」という強烈な圧を感じる。やってやらぁ! (歓喜)

 

 UIを見れば、これが呪術廻戦のゲーム化第二弾であることはよくわかる。第一弾はアニメに合わせて八十八橋で終わるのだ。その基本シナリオに追加キャラだの性能調整(ナーフも上方修正も含む)だのをした上で渋谷事変終了までのメインストーリーを実装したのが第二弾のランドルト環ウロボロス(無印)。

 タイトルの雰囲気が違う? だがファントムパレードは公式。

 第一弾が2D格闘ゲームだったのが、第二弾から3DアクションRPGになったやつだ。3DCGなので衣装色替えはできるし、おまけアクセサリーはDLCで買える。乙骨先輩と里香ちゃんもDLCで買える。0のスキンや追加キャラは基本課金である。お買い上げありがとうございまーす。

 今回俺は強制虎杖操作だが、ゲームオリジナル主人公もいる。顔とモデルは固定で男女選択可。アクションできる恋愛SLGも可。とはいえ今は関係ないのでカットです。

 

 さて、虎杖ボディにぶちこまれたせいだかはよくわからないが、口を開けば立て板に水の多弁敬語しか話せなくなってしまった。キャラ変やばーい。しかも最初挙動ミスって脳直でしゃべりすぎましたね。ううん……。

 ニコニコ敬語の虎杖悠仁は虎杖悠仁じゃない。とっさに宿儺のせいで人格初期化されましたムーブをとったものの(罪をおっかぶせてすまん)、どこまで通用するものか。

 今一番気がかりなのは、伏黒くん放置による「宿儺に乗っ取られているのでは?」疑惑から五条先生への密告→デッドエンド。なので伏黒くんの好感度を上げることで丸め込んでいきたいです! 頑張ります! もともとチャートで好感度調整必須なのは伏黒くんだけなので問題ありません。ガバではありません。

 

 ……気絶暗転からの護送パート部分暇すぎるな……チャートの確認をできるのはメリットだが、PS2のリザルトロード時間のように長く感じる。時間を引き伸ばすとこうなるのか。先生今すぐ「死刑決まりました~!」してくれ。

 

「君の秘匿死刑が決定した」

 

 音声認識!? パチッと目覚めるまま、俺はとっさに「はあ……」と状況がまったくわかりません面をした。

 ガッチリ腕を固定している縄がチクチクして痛い。ロウ加工してほしい。

 

 

 説明パートは適当に聞き流す。

 倍速マクロなしか。明らかに「なんか違う」な事態が発生したときのためにフラグ管理は必要だが、ダルい。効率的じゃない。初回プレイだからスキップも無理だなこれ。あーあ。俺は最適化されたチャートを実行して乱数やプレミガバに一喜一憂するのが大好きです! 

 それにしても先生足長いな。虎杖ボディと座高合わせてるせいで足余ってる。軽四の後部座席に詰め込んでみたい。

「わかった? 確認したいことはある?」と声をかけられ、意識を戻す。いえまったく聞いてませんでしたね。とはいえ定型文はもう組み立ててある。

 

「つまりは俺がどうやっても壊せなかった産業廃棄物に適応したので、どうせなら全部搭載した上で俺ごと破壊しようってことですよね」

「そうだよ」

 

 俺はにっこりと笑った。アルカイックエンジェルスマイルだぞ、ありがたく見ろ。

 

「──素晴らしい!」

 

 はいここで大幅な同意と肯定を示すことで、じいちゃんこんがり火葬中にやる問答をカットです。あとは焼き場で指飲むだけです。

 

「最終的に俺が死ぬことで多くの命が救われるんですね。実にいいと思います」

 

 時短デメリットとして先生の好感度が引かれます。だが問題ない。

 おっ、あの五条悟が「マジかよこいつ」って顔してる。レアだ。スクショ撮れない? 撮れる? 撮りました。アルバムにしまっておこう。

 あー、腐っても教育者だからか、タイム短縮重視で死に向かって突っ走る俺になにか別のものが溜まっていますね。わかるわかる。しかしそんなものは気にしなくてよろしい。だって俺は言いましたよ、「全部任せる」「うまく使え」ってね。ハッハァ! 

 

 では仙台に帰って荷造りです。先輩たちのお見舞いは行きません。時短のためです。

 虎杖家って墓あるのかな。あったわ。これから管理できないけど俺が末代だから安心して♡

 さーて二本目の指飲んで宿儺出入りモード解禁していざ東京。ケガの心配をして、助命嘆願のお礼言って、殊勝な態度をとって、伏黒くんの好感度を稼ぎましょう。

 

 

 

 呪術高等専門学校の生徒は全員が曲者揃いの問題児だが、今度の転入生はそのどれとも毛色が異なる問題児だった。

 宿儺の器かつ受肉体であることは、まあどうでもいい。呪術界が有する最高戦力の五条であればいくらでも対処できる。問題なのは彼、虎杖悠仁の「現在の」性格、もしくは人格に他ならない。

 

 教え子の伏黒が出会った虎杖悠仁は、二年の禪院真希ほどの膂力を持つ以外、凡庸で善良な人間だったという。

 五条に言わせれば、二級以上の呪いがいる現場に死の恐怖を無視して突っ込んでくる一般人は十分イカれている。伏黒がフォーカスした部分が、彼の明るさと気の良さだったのだろう。

 

 しかし伏黒が好ましいと判断した人格はすべて吹き飛んだ。自己申告されたことが真実ならば、だが。

 

 当人すら「こんな感じじゃなかったと思うんですけどね~」と、やけに幼いしぐさで首を捻るほどで、唯一事前に接触していた伏黒は完全に別人と主張。となれば、原因は宿儺の指以外に考えられない。

 それはともかく、「使えるかどうかはそちらで判断しろ」と言われた通り、五条は虎杖悠仁の肉体を使えると判断した。上層部も同意した通り、宿儺の指二十本すべてを破壊できるチャンスは文字通り千載一遇。まさに奇跡だ。

 

 精神性も問題ないと言えばない。意思疏通の受け答えはつつがなく行うことができ、理解力も高い。善悪の判断は平均的な範囲。自分が置かれた悲惨な状況においても前向きだ。

 

 そう、前向き過ぎる。虎杖は過剰なまでに意欲的だった。

 

 一方的な死刑宣告、そしてこれまた一方的な執行猶予について、困惑することも反抗することもなく、ただ笑って同意した。それどころか、自身をごみ袋にすると言った五条を賞賛した。

 呪術師は全員イカれている。しかし、基本的に、自分たちは秩序の名目でエゴを振り回す側だ。生まれたときから思想教育をされている一族は特にそれが顕著だろう。

 そのため、一般家庭出身で、高専入学から呪いを学び始める学生は、「人を助ける」「人を守る」ために強くなり、遅かれ早かれ心が壊れるか、死ぬ。才能や術式が優れていても関係なく、恐怖や人類の尻拭いをするストレスに耐えきれなくなる。

 結果的に自分本位のまま、好き勝手に呪いを祓っていく側だけが残っていく。

 

 虎杖は紛れもなく善良だろう。そして、どうしようもなく狂っているのだ。あれが一種の記憶喪失や退行であるのならば、あまりにも先天的に呪術師に向いていた。普通に生きてきたはずの男の子がああもイカれているのは、さすがの五条も戸惑う。

 それでも、あのこどもは極端に無垢なまま、まっすぐに死んでいくだろう。五条たちが望んだ通りに。

 

 道具として恐ろしく使い勝手がいい。

 

 しかし、「人間であることを選べた五条悟」には、それが我慢ならない。自分があの短すぎる青い春によって生かされているように、エンディングが設定されたこどもにも、モラトリアムの青春を与えてやりたいのだ。

 押し付けでもエゴでも構いやしない。与えたいから与える。それで自分勝手に、いいことをしたと思っていたいだけだから。

 彼の唯一の肉親だという祖父が骨になっている最中の煙を見つつ、五条は鼻を鳴らした。

 

「それじゃあ納骨終わったらすぐに荷物まとめてもらうよ」

 

 シラフの状態でも死蝋化した人体のパーツをパクッといき、「これ五味のなに追加しても不味さを打ち消せないだろうなあ……」と口を押さえた虎杖。そこに上記の言葉を言うと、彼はぱちぱち目をまたたかせている。

 

「?」

 

 そういえば呪術高専への転入をまったく話していないし、東京へ行きます! すら言っていない。ようやく五条は気づいた。

 僕っていつもこうなんだよなー。まったく反省しないまま「メンゴメンゴ」と口を開きかけたところで、

 

「オマエはこれから呪術を学ぶ学校に行くんだよ」

 

 伏黒が遮る方が早かった。

 

「恵……せぇっかく僕がこれから悠仁にレクチャーしようとしてたのに!」

「あ、ふしぐろくん。一人で来たんですか? まさか歩いて?」

「車で来た」

「え? 無視? 無視なの~?」

 

 黙殺。伏黒だけに五条は睨まれた。

 そよ風のようなかわいい威嚇だが、まあ黙っておいてやろう。お口ミッフィーだ。自分はなんて優しいのだろう、と五条はひとつうなずいた。

 

「よかった……頭、どれくらい縫いました? 今も痛みますか?」

「気にしなくていい」

「あ、すみません。あんまり言われたら鬱陶しいものでしたね」

「……それも気にしなくていい」

「──こんなことになっても優しいですね。ありがとうございます」

 

 伏黒がぎゅっと眉を寄せ、なにかを言いかける。それよりも先に虎杖が言葉を続けた。

 

「ふしぐろくんが俺の助命を五条さんに願い出てくれたって聞いたんですよ。もう俺はふしぐろくんが信用してくれた、いい人間かもわからないのに、それでも生きてていいって思ってくれたんだなって。嬉しかった」

 

 ふにゃりと笑う表情は、図体に似合わない。覚束ない口で確かめるように呼んでくる名前は少しだけ舌足らず。

 

(ツボ押さえてんな……あれが天然なんだから恐ろしい子だよ……)

 

 伏黒は唖然としたあと、ぷいとそっぽを向いて「呼び捨てでいい」とだけ言った。

 あんなにまっすぐ信頼と好意を向けられるのは、恵にとってめちゃくちゃ居心地悪いだろうなあ。五条はそう思った。そして、とても青春だなとも思った。

 

 

「先生もまーぜーて♡」

「あ、五条さんは先生だったんですか」

「オマエの担任にもなる」

「あらーそこはかとない不安」

「最近の若い子ってアタリ強くない?」

「先生こそ、十代のトガってる頃に大人舐めまくってた人でしょう」

「悠仁鋭いね。ペロキャン並にベロベロだったよ」

 

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