虎杖憑依RTAグリッチレス   作:鈴近

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Part5

「核がどんな形をしているかと思えば、こうも『なにもない』とはな」

「んぁ? ……ワ!! 恐怖の面接!!」

 

 ビョンッと跳ね起きたときには上から宿儺の声が降ってきた状態。タイミング的に「許可なく見上げるな」ないかも。

 

 てか俺ガチ寝してたな? ヤッバ……冷や汗止まらん……。

 だって「あっ死ぬわ」と思ったときに意識遠のく感覚、めちゃくちゃ眠いときの寝落ちに酷似してるからぁ!! 

 

 あわあわテンパりながら、なんとか水面に正座した。あ、これあったかい。羊水? LCL? これがリアル屍山血河ってこと? 

 ほえーと感心してキョロキョロ見回していると、こっちをガン見している宿儺と目が合った。

 えっなに。無許可で見つめ合ったことで怒ったりする? しそう……。

 

 しかし、俺の想像に反して宿儺は怒らなかった。代わりにニヤァ~ッと笑う。きったねえ邪悪スマイルだな……普段自分には見えない虎杖フェイスでやられるとすごく戸惑う。

 あっ、なんか嫌な予感してきた。俺で愉悦されそう。

 

「小僧、顔を確認してみろ」

「鏡あるんですか?」

「水面でやれ」

 

 覗き込んだ瞬間に頭踏んづけてこないだろうな!? やれっつわれたからやるんですよ! 肩ポン頬突き引っ掛かったーみたいなことやったら怒るぞオラ! 

 後頭部をガードしつつ、恐る恐る赤い湖面に映るものを見た。

 

 マネキンのようなのっぺらぼうがいる。

 

 モンゴロイド特有の象牙色の肌ではなく、石膏像のように真っ白だ。目がなくて、ぎりぎり鼻の陰影があり、口は造形がばっちり。髪の毛はなし。ガードしている後頭部を改めて触っても毛の感触はなし。

 俺が首をかしげるとマネキンも首をかしげ、口を開けると以下同文。

 手を観察してみると指先まで真っ白だし、爪もピンクじゃない。赤血球に色が入ってないかもしれない。

 うーんこれは……

 

「白ハゲ素体モデル?」

 

 形容しがてぇ~~~~。そういえば全裸だし局部作り込みなしだったわ。健全でいいっすね。

 

 とはいえ、結構肩透かしだった。むしろ納得がいった。

 

 俺には、自分が虎杖悠仁ではないという自覚があった。

 しかし、ならば俺は誰だったのか? という問いに、ずっと答えられなかったのだ。

 

 生得領域にinしたときにどんな姿になるかすら考えないほど情報は皆無、それゆえに不安すらなかった。自分のアイデンティティについて考える必要がなかったからだ。

 肉体の雌雄不明、こころの性別不明、年齢不明、家族不明、出身地不明、生死不明。

 なーんもわからん。それなら目無し白ハゲにもなる。CVも中性的かつ抑揚のない合成音声になる……。

 

 強いて言うなら日本語ネイティブだろうという推測のみ確実か。そんでもってRTAへの情熱と執念はたっぷり。

 

「うーん……問題ないなあ」

 

 俺は身体を起こした。見上げれば宿儺がきょとんとしている。うわSSR。スクショ。

 彼は、俺がアイデンティティクライシスを起こして崩壊するのを期待していたのだろう。

 すまんな。発狂すらせんかったわ。発狂するために必要な自我もないんでしょ、知らんけど。最初からSAN値が0なら減りようもない。

 

 結論。で、だからなんだ、と。俺はこのRTAを完走したいだけだ。極論、「俺」に関する情報が虚無であることはアドだろう。考えなければならないことが減る。

 クリアしたあとどうなるかも考える必要がなくなった。「なにもない」なら帰る場所、帰りたい場所もない。今を精一杯生きて完走する、それがこの生の意味だろう。

 

 俺はお行儀よく正座したまま宿儺に問う。

 

「終わり?」

「……ほんっっとにつまらんやつだな、オマエ。少しは狂乱するかと思ったが」

「えー。先生が呪詛師や怨霊になったり、突然虎杖ボディが華奢な美少女になったり、あなたが心から俺を愛したりしたら思う存分あわてふためきますが」

「気色悪いことを言うな」

 

 あ、ため息吐いてる~。恩知らずムーブしてないのにね。

 呪いに呆れられる虎杖の中の人ってなに? はあ!? 俺そこまで化け物とかへんなどうぶつじゃねーし! 

 ……盛りました。化け物かつへんなどうぶつかもしれません。

 俺には俺の美学(RTA)があるけど、そんなもんメタ思考を持ち込んでるから理解できることであって、基本的に意味不明な理由で自他関わらず命をポイポイ捨ててるわけわかんねーナマモノだったわ。認めたくねえ……。

 

 これ、バレていいの呪い相手だけだなあ。あと母(父)(縫い目)。逆に安心感ある。

 真面目な人間相手に俺の本気(端から見たら完全に狂気)を知られたら問答無用で処分だし、好感度がマントル到達してしまう。理解できないものは面白くないしキモいから排除するのが群れの常です。

 ああ無情。ため息吐きたいのはこっちの方。

 虎杖(真)だったら絶対相性悪い相手の方が安心できるの、この世のバグですよ。ただでさえネアカじゃないことから初対面マイナス補正かかってんのに~!! システム、見逃して! お願い! 

 

 閑話休題。

 俺が話の筋戻さなきゃいけないんですか!? できらぁ!! 

 

「えー、と。本題は別にあると思っていいんですか?」

「……まあそうだな」

 

 はい、ここからは想定内です。さっさと持ちかけられた契約にうなずいておしまい。

 完全な生得領域で宿儺に勝とうとするのはマジの無駄です。ちゃんと餌として時間制限以外の「誰も傷つけないし殺さない」もついてきてるのでOK。

 食い下がると「キンッ」でプレイヤーや読者すら知らない宿儺優位の縛りを勝手に結ばされます。

 

 あーまたつまんなそうな顔してんな。ダル……。

 宿儺のおもちゃは伏黒で足りるはずなんですけどね。はいはいサービスサービス。

 

「追加で俺になにかさせたいことあります? 多少の情報開示ならしますよ。俺の欲求やらなにやらがまるで不透明だから不気味なんでしょ」

 

 バシャバシャ音を立てながら立ち上がる。まったく移動していないので、宿儺はずっとふんぞり返っているし上座下座のままでした。

 宿儺は頬杖をついたまま顎を反らした。

 

「オマエの見透かすような物言いは不愉快だ。やめろ」

「そうですか。すみません。では開示が必要ないなら生き返らせてください、お願いします」

 

 解剖始まっている状態で起きたら……家入先生の反転術式がどこまでいけるかによるな。分の悪い賭けだ。早く起きるに越したことはない。

 ああ、暇だ。ロスは嫌いだ。出し惜しみも同じように。できることは早く実行してくれないかな。

 

 宿儺が俺に問いを投げた。俺はそれに答えた。これも忘れるのだろうか。まあ、どうでもいいことだ。

 

 

 

 

「俺はね。緻密な計算で組み上げられた美しい芸術が大好きです」

「それが破壊される瞬間も大好きです」

 

 ですが、もしあなたが俺の盤上をひっくり返して、全部の駒をぐちゃぐちゃにしたら……敵わない、無駄だとわかっていようと殺しにいくでしょうね。それだけ腹を立てたならぶち殺さないと気が済みません。

 

 

 抑揚のない口調に、初めて熱が宿った。宿儺は少し、本当に少しだけ──伏黒恵への興味が1とするなら0.2くらいの興味を、「それ」に抱いた。

 

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