虎杖憑依RTAグリッチレス   作:鈴近

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part7

 どうしてこうなった。なにがいけなかった。

 信頼できる相手だと、そう認識していた相手に命を握られながら、吉野は歯の根を震わせた。

 目の前には、あの呪術師が立っている。

 

 

「宿儺」

「なんだ、小僧」

「今のあなた、ここから一町の範囲にいる人間を何秒で細切れにできます?」

「チッ。……五秒かかる」

「ご回答ありがとうございます」

 

 ヒュッと風が切り裂かれる音。構えられた拳は素人目にもわかりやすく、寸分の隙もない。どうやれば逃げ出せるのかもわからない。

 

「じゃあだめですね。釣り合いが取れません。吉野順平にはここで死んでもらいましょう」

 

 穴という穴からあらゆる液体が噴き出す。膝から力が抜け落ちる。

 

 もう吉野の心は限界だった。自分の死がそこに立っていた。

 前も、後ろも、死で支配されている。

 全身の震えが止まらない。涙でぼやけた視界は恐怖を加速させる。

 

 耳元で、彼の声がする。自分の首に刃物をつきつける彼の。

 

「えー、それが人間のやること?」

「ま、ひど、ざ」

 

 震える喉は呼吸の動きだけで切り裂かれそうだった。

 

 呪術師はフッと口許を緩める。

 それが嘲りなのか、諦念なのか、憐憫なのか。吉野にわかるはずもない。

 

「善なる人情だけが人間の証左ですか? ヒトの悪性のみを抽出・凝縮した存在に説かれたい話ではありません」

 

 笑う男が地を蹴った。ピンク頭が迫ってくる。刃が喉を撫でる。真人の手のひらが首筋に触れる。

 

 

「よかったですね。お母様がミンチにならずに済みますよ」

 

 

 母の顔が頭をよぎった。

 あのうつくしい魂は、今夜も家で自分を待っているだろう。だが、それが失われないのなら────

 

 人を呪わば穴ふたつ。

 コストの踏み倒しができるのは強者だけ。

 

 自分は最初から最後まで弱者のままだった。弱いからいいように使われる。弱いから、力の振るい方すら間違えた。

 

 内臓が表に出て、表皮が裡にしまわれる。

 目玉がぐるりと裏返り、なにも見えなくなる。

 こどもが粘土に拳を叩きつけるように、無邪気な残酷さをもって。

 

 ぼくは ただの にく に

 

 

 記録

 2018年9月

 神奈川県川崎市 里桜高校

 特級呪霊一体と呪詛師一名を確認。

 集会中の全校生徒および教員が昏倒する事件が発生。暴行を受けた一名の生徒が後遺症を負う。

 死亡者一名 呪詛師・吉野順平

 

 

 

Part7

 

 

 

 九月です。新学期になりました。真人がポップしたので、ナナミンと合流して幼魚と逆罰編入ります。

 

 今まではなんやかんや原作のレールに乗ってきましたが、今回は外していく予定です。

 お忘れかもしれませんがこのRTAはany%。「なんでもあり」です。タイム短縮のためならレギュ違反以外なんでもやります。順平の呪詛師化と殺害とかね。

 

 時短とデスペナルティ回避に感傷は必要ありません。気合い入れていきます。

 

 まあ、彼、あの真人にホイホイ着いてった挙げ句話しかけるほど「ニブい」ので、丁寧に追い詰めていく必要があるでしょう。

 まったく、バイトバックレくんを見習ってほしい。だから死ぬんだよ。

 

 ミッションに必要なのは「透明な殺意」の維持です。抜き身のナイフかオートマタになるつもりでやります。では、いきましょう。

 

 

 

「ああ吉野さん、こんにちは。虎杖と申します。お伺いしたいことがあるのですが、今よろしいでしょうか?」

 

 外村相手に印を構えたとき、その男は現れた。吉野は、隣に立った彼が声を掛けてくるまで、足音ひとつ聞こえていなかった。

 整髪料で固められたピンク色の髪、青い丸サングラス、派手なストライプシャツ、爪先の尖った革靴。カツンと響く靴音は、余裕の象徴のようで。たいそう柄の悪い……いわゆるインテリヤクザのような風貌。

 

 当然吉野は警戒した。外村もそうだ。

 しかし、サングラスを外してニコッと笑った男は、人好きのする顔をしていた。気づけば吉野の肩からは力が抜けている。

 

「こちらの方は? お知り合いで?」

「あ……担任の……」

 

 つまらなそうに、男はひとつうなずいた。

 

「へえ、教員。学校の先生って激務だと聞いていましたが、いち生徒の家の前で待ち伏せなんて、意外と暇なんですね」

「なんだあんたは! いきなり失礼だな! それに吉野は今俺と話をして」

「ああ、いえいえ、私は中高の教員は特別尊敬しています。思春期で自我が出てきた子供四十人弱を詰め込んだ教室で授業、指導、果てには部活動顧問……頭が下がる思いです」

 

 胸に手を当てて軽く頭を下げる姿は芝居がかっていたが、不思議とその男に似合っていた。スポットライトの下にいても通用するだろうと思わせるような、堂に入った振る舞いだ。

 

 吉野は感心した。言葉ひとつ、振る舞いひとつで外村を黙らせたことにも。

 見るからに若く、二十歳そこそこにしか見えないのに、彼にはオーラがあった。身長以上に大きく見えるような……。

 

 口の端が釣り上がる。男の唇が綺麗に弧を描く。

 

「一クラス四十人もいるんですもの。二、三人がスケープゴートになっても仕方がないですよね。毎年違う生徒たちを受け持って出荷していくんですから。いちいち入れ込んでいては鬱だの癌だの怖いですしねぇ」

 

 それは、明確に毒を含んだ言葉だった。外村を怯えさせるために向けた切っ先だった。

 

 吉野はごくりと唾を飲む。

 恐怖はある。しかしそれ以上に興奮している。今、大嫌いな存在が、的確に追い詰められ、やり込められようとしていた。男は映画のヒーローのようだった。

 

 ゆるりと彼の頭が横に振られる。

 空気が軽くなったような気がした。男と相対していた外村は露骨に呼吸を乱している。どれだけその青ざめた顔が脂汗にまみれていても、吉野の心は憐れみを抱かなかったが。

 

「ま、そんな事情は生徒からしてみれば知ったこっちゃありません。助けてくれなかった先生のことは一生憎みます。当然でしょう? なによりも大切な自分の人生を、よってたかってめちゃくちゃにされてるんですから……おや、すごい汗。早く学校に戻られてはいかがです?」

 

 

「ケーキはお好きですか? お夕飯に差し障りがなければ、奢らせていただきますが」

 

 外村は逃げていった。吉野は、高揚に酩酊するような心地で、あっさりとうなずいた。

 

 

「あの、イタドリ……さんの、聞きたいことって……?」

「そう構えなくても大丈夫ですよ。取って食いやしませんから。この格好だって演出のひとつです」

 

 くすくすと喉を震わせる仕草は、先ほど見せた威圧的な姿と真逆のものだった。女形のたおやかさとも似たその身のこなしに、吉野は一瞬見とれてしまう。

 もしかしたら本当に役者なのかもしれない。

 ドキドキと胸が高鳴る。でも、それなら、自分のような平々凡々な人間になにを聞きたいのだろう──? 

 

「答えられることなら、なんでも答えますよ」

「そうですか。ありがとうございます。では──」

 

 

 あなた、未登録の呪術師ですよね。

 

 術式も有している。先天的に刻まれた術式をこの歳まで隠し通すというのは並みのことではありません。つまり最近目覚めたという推測ができます。

 なにより先刻、あの教員相手に呪力を練っていた。一般人を呪う術師は呪詛師としてブラックリストに載ります。今回は未遂なのでまだ見逃せますが、問題はあなたが今まで「見つからなかった」ことです。

 

 誰に……いえ、「何」から教わって、その力を開花させましたか? 包み隠さず、正直に答えていただけると、とても助かるのですが……。

 

 

 ぞる、と。なにかが渦巻くのを感じた。気づけば吉野は全速力で喫茶店を飛び出していた。

 

 そして、息も絶え絶えに家の前へたどり着き、気づく。

 奴は吉野の自宅を把握している。ならば当然、学校も、家族構成も。

 少年はなにもかもに絶望した。すがれる相手は「あの人」しか残っていなかった。自分のすべてを肯定すると言って、吉野に復讐の術を与えてくれた、つぎはぎの目立つあの人しか……。

 

 

 

「うん、うまくいきました。俺も役者ですね」

 

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