「オマエ悪魔か?」
順平をつついたあと、もそもそケーキ二つを食べていると宿儺が聞いてきたので、たっぷり熟考。
電話に出たふりをしつつよーく考える。外で宿儺と話すときはこうしないと不審者なのでね。
俺はぱちんと指を鳴らした。
「そうかも!」
頬に出てきたおしゃべり宿儺に閉口されてしまった。そんなー。スマホしまお。
ケーキんまい。順平が口つける前でよかったな。つけてても食ってたけど。
俺ケーキが廃棄されるのダメ。同じように人間が景気よく死ぬのは平気だけど、ハムスターがレンチンされるのは無理なんだよ~。
いや、しかし俺を悪魔と評するのは言い得て妙だ。俺は自らに課した契約に沿って生きているし、恐らくこの契約を破ると消失する。完走できなかったRTAは記録にも残らないので当然である。
他人を自分の都合のいいように操縦するのも(システムの恩恵あってこそだが)そこそこできるし、いい子ごっこも嘘つくのもめっちゃ得意。今回それで破滅に追いやろうとしてるからね。
狂人の自覚がある狂人は厄介ってことですか? そりゃ、真面目ないい人と比べれば「狂っている」の評価は妥当ですが……。
まあ、順平は縫い目さんいわく脳のデザインが非術師らしいからか、ルート選択して高専入りしても死亡フラグ乱立で、生存させようとするとずっと介護いるんだけどさ。ストレス死もあるくらいなんで。
死に方が豊富すぎる男、吉野順平。断末魔のパターンも多い。やたらデッドエンドが多いエロゲ主人公かな?
話を戻して。大前提としてゲームシステムという摂理にガチガチに縛られているため、俺をシステムに召喚された悪魔と考えるのは非常に正しい。
ルールに縛られつつも自分のイドのまま突き進んでるからな。欲求ももろもろ完備している。呪いじゃなくて悪魔ってのは本当に適切だよ。
さて、伊地知さんに報告するメールできたし、送信して精算して合流するか。ナナミンが生きてることをお祈り。
極稀に真人初エンカでナナミン死ぬんよ。
好感度とかは関係ない、真人が低確率覚醒したら死。ガラガラで圧死することはないのに……? そのタイミングで死ぬな!! と思ってるときほど死ぬ。致命的失敗のファンブルってそういうところあるよね。
おつらい。
……あ、大人だから子供だから問答どうしようかな。俺本人は別にどうとも思ってませんが……知らないところでナナミンが死んでるとめちゃくちゃ困るから本当に勘弁してほしいだけで。
だって七海健人は一級術師だもの。適材適所で仕事割り振っただけですから。まず上司から使い物にならないと判断されている呪術師(仮免)が俺だから。ねえ? 実績らしい実績がないまま爆弾抱えてるんだからそらそうよ。
それにしても、学生の頃から危険手当て当たり前の職でああいう風に子供扱いしてくれる人は貴重ですね。
たいていの子供は大人に反抗するようにできてるのでおとなしく守られてなんかくれません。呪術師やるやつに真面目ないい子は少ないんですよ! みんな死ぬから。三輪さんは……突然変異みたいな……。
五条先生みたいに無茶ぶり連発して金属鍛える勢いで鍛えていく方が死亡率低くなるので、親心と子心のぶつかり合いですね。ハハッ。
俺もこれから伊地知さんの胃を痛めるクソガキになるのでほんとゆるして~。
伊地知さん絡みは俺のほぼない良心が高確率で痛む。
こう思うってことは元の俺は社会人だったのかな? さすがに小学生ではないだろうと思ってたけど。
……それを考えると、子供(未成年を指す)を誘導して殺そうとしてるのバレたらマジの詰みだわ。ハロウィンまで生きてたいし、ぶりっ子がんばろ~っと。
なら順平をつつくなって? ばっかやろタイム短縮チャンスを逃す走者がいる? 日和るには早いですよ。
それに順平が真人じゃなくて高専に助けを求めたら九死に一生ある。
文字通り九回死んで一回生きる確率なのですっげえ低い。当たり前。高専の情報を得ることがまず無理難題なんでね。
人殺しデビューが今回だからか、ナナミンお祈りもあるからか、ちょっと緊張してきたなあ。順平のことは何回も殺してきたのに変なの。
……いや? これは順平殺しでガバ出した結果破綻することを考えてナーバスになっているだけだわ。なーんだ。良心が芽生えたり感傷に浸ってるわけじゃなくてよかった。
にしても、今さらチャートに不安を抱くとは……。自分の対応が選択肢制じゃないことがこのRTA最大のネックです。演技力必須。ったくもう。
ま、あらゆるすべての虎杖たちの運命の殺人枠は真人なんだけどね。初めては特別ってことですかね。ヤレヤレ。この神経質になってる感情学習して使えるようにしとくかー。
いつから演劇漫画になっていたんですか!?
残り二ヶ月弱の命だし、せっかく悪魔の称号をもらったんだから、悪魔らしくちゃーんと完走していきましょう。
そう。俺が生きる理由はタイム短縮と完走だけである。
よっしゃ気張っていこう! 殺意準備OKです! 俺、やれます!
「吉野順平が未登録の術師、もしくは推定呪詛師というのは」
「彼が一般人相手に印を結び呪力を練ったところを目撃しました。それでも遅咲きの無知な素人かもしれなかったので、詳しく話を聞こうと誘い込んでみたんです」
「続けて」
「他人の少ない場所で言葉でリラックスさせてから、少しずつ呪力の圧を上げてつっついてみたら全力で逃げられました。危機感知能力はかなりザルでしたよ。呪詛師だったとしても甘く見積もって三級くらい? ま、後ろめたいことがあるんでしょうね。具体的なアクションがあるまでは黒よりのグレーですが……どちらにせよ向いてませんよ、あの人」
虎杖はかちかちと爪を弄った。七海は沈黙をもって促す。
「術師向きの人間だったら、最初の一般人相手に出るのは式神じゃなくて拳です」
「──そうですね」
「あの感じだと学校関連で恨んでいる相手がいますね。単体なら無力化と生け捕りも可能だと思いますけど、七海さんはどうされますか。あの改造人間を作っている特級と吉野順平、関連性あると思います?」
七海は思考を整理する。
①あのツギハギは改造人間の脳を弄ることで、ただの人間に呪力を生成させることを可能にする。
②通常術式を持って生まれた人間は五歳から六歳の時点でそれが判明する。
③吉野順平の家系表層に術師はいない。
④彼が呪霊による怪死事件に触れたのは今回が初めて。
(……確率は五分五分だが、裏に奴がいるのならば……)
七海は虎杖を見下ろす。少年は自然体を保ち、七海の判断を待っている。
フウ、と、ひとつため息。
「では、虎杖くんにも手伝ってもらいます。くれぐれも自分の身を最優先に考えるように」
「はーい」
話が飛ぶんですけど、と虎杖が前置きした。
「檻を気に入る獣っているんでしょうか」
心理テストかなにかだろうか。七海は深く考えず、彼の言葉遊びに付き合うことにした。
「その檻が身の不自由と引き換えに快適であるなら、気に入るでしょう」
「じゃ、それが答えですね。抑圧と制限だけを課してくる檻は、シェルターじゃなくて、牢獄ですから。──宿儺が俺の檻を気に入ってくれたら楽なんだけどなあ」
「無理ですよ」
「ですよねー」
クツクツ喉を鳴らすこどもは、なるほど、五条から知らされていたように頑是ない。
だが、表層に浮かんで見える幼さだけが全容ではないだろう。七海はネクタイのノットに触れながら、彼がどう育つのかを夢想した。