鬼滅の刃〜残花異聞〜   作:みしゃぬこ

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10話

「何をしている・・・」

 

 咲夜が帰ろうと水面から顔を上げた時だった。

 

 そこに誰かが立っている。

 

 暗い夜に紛れるように全身を黒い衣装に身に纏い、その顔に目のまわりを赤く化粧し怒りに満ちた表情をした特徴的な猿のお面をつけたその男を咲夜は知っていた。

 

 そして知っているからこそ動揺が隠せなかった。

 

「せ、先生?」

 

 いないはずの先生が静かに湖面の真ん中に立ち咲夜をジッと見据えていた。

 

 咲夜は動揺しつつも、震えながら返事をする。

 

「えっと・・・今は・・・日輪刀を手に入れようとしていて・・・」

 

「役目をこなすのに必要なのか?」

 

 その言葉を聞いた咲夜はびくりと肩を震わせた。

 

 そして震える声で言葉を紡いでいく。

 

「ひ、必要です・・・鬼・・・鬼を殺すのに日輪刀が必要だから・・・だから・・・」

 

「鬼を殺す・・・か。そんな必要はないはずだ」

 

「う・・・」

 

「鬼を殺す役目なら鬼殺隊に任せればいい。“宵“であるお前の役目には必要ないことだ。違うか?」

 

「それ・・・は・・・」

 

「・・・お前はなぜ鬼に執着している」

 

 その言葉に何も返事ができず、黙ってしまった私を見かねたのか、先生は幻滅したように肩を落とすと話題を変えた。

 

「・・・今悩んでるのは全集中の呼吸のことか」

 

「!・・・知ってるんですか?」

 

「知っている。そしてお前がなぜこれを会得できないかがわしには理解できん」

 

「・・・なんで・・・だって・・・」

 

「貴様があの里を出てからの戦い方を思い出せ。その理由をお前は知っているだろう」

 

 その言葉に咲夜の鼓動が早くなっていく。

 

 これは死んだはずの先生が目の前にいるからではない。

 

 これは自分が無意識に避けていることを見抜かれている恐怖だ。

 

「宵は暗殺部隊ではあらず。我らは影であり壁。影の中から影を殺し、押し寄せる波を跳ね返す壁。今の貴様のどこに壁になりえる矜持がある」

 

「・・・!」

 

「・・・お前は何をそんなに恐れている」

 

「私・・・私は・・・!」

 

 そう言って咲夜が否定しようと悲痛な表情で制御できない涙を流しながら前を向くと、そこに迫ってくる影があった。

 

 咲夜は咄嗟にその影の腕を掴むと、そのまま流れるように地面に投げつけ押さえつけた。

 

「え・・・あ・・・!」

 

 そこには死んだはずの顔があった。

 

「嘘・・・吉・・・郎」

 

 そこには鬼の襲撃で最初に殺されたはずの家族の姿があった。

 

 恐怖で固まった咲夜の隙をつき、吉郎と呼ばれた青年は咲夜の腹に一撃入れながら、先生の場所まで戻っていた。

 

 腹部を攻撃され、少し咳き込んだ咲夜はすぐに口元を拭いながら青ざめた顔で2人をみつめた。

 

「なんで・・・どうして!生きてるはずがない・・・あなたは・・・あの時・・・!」

 

 その言葉を遮るように先生が一歩前に出る。

 

「もういい。これ以上言っても今の貴様には理解できん」

 

 そう言って先生は刀をゆっくりと抜いていく。

 

 異常なまでの威圧感を感じ、咲夜も急いで同じように刀を抜いた。

 

 咲夜は恐怖で震えているのか刀からカタカタと音が鳴る。

 

「・・・この・・・腑抜けが!」

 

 先生がそれだけいうと次の瞬間その場で体を沈み込ませると一気に距離を詰め、咲夜に向け刀を振り下ろしてくる姿があった。

 

 咲夜は咄嗟に刀で防ぐも、衝撃で水面が激しく飛び散り、咲夜の膝が折れる。

 

「ぐ!」

 

 押し返せないほどの力に咲夜は耐えるしかなかったがそこに先生の蹴りが咲夜の胴を正確に撃ち抜いた。

 

 咲夜の体は二転三転しながら転がるがすぐに体を起こすと倒れていた場所に先生の太刀が地面に食い込むほどの衝撃で打ち下ろされた。

 

 咲夜は体勢と戦況を見るため一度距離をとる。

 

 だがそこに現れた影が咲夜の背後をとった。

 

「姉さん、なんでこんなに弱くなったの?姉さんはもっと強かったはずだよ!」

 

 その場所に突如現れたのは吉郎だった。

 

 彼は咲夜の背中を持っていた木刀で打ち据えた。

 

 咲夜は痛みで膝をつきながらも鞘で吉郎がいた場所を薙ぎ払うが、すでに彼の姿はなく、いつの間にか先生のそばまで戻っていた。

 

 咲夜は荒い息をつきながら鞘を杖がわりにかろうじて倒れないようにしていた。

 

「動揺、憔悴、恐怖。所詮、お前はその程度か」

 

 そういうと先生は鋭い眼光で咲夜を睨みつけ、斬りかかる。

 

 その攻撃を咲夜は防ぐ。

 

 そして咲夜にだけ聞こえるような声で先生は呟いた。

 

「・・・あの時、お前ではなくわしが逃げるべきだったか?」

 

 その言葉を聞いた咲夜の呼吸は動揺で徐々に早くなっていく。

 

 心臓の鼓動が速くなり、血が沸騰しそうなほど目まぐるしく身体中を駆け巡る。

 

「そうかもしれない・・・そのほうがよかったって今でも思ってる・・・だけど!」

 

 そう言って咲夜は刀を握り直し、先生の刀を力任せに弾いた。

 

 先生は数歩だけ後ろに下がると咲夜をジッと見据える。

 

 咲夜は、ゆっくりと立ち上がると、2人を涙ながらに睨みつけた。

 

「あの時の先生の最後の約束を破りたくない!これ以上、家族の口からそんな言葉を吐かせたくない!」

 

 咲夜の呼吸の音が徐々に変化していく。

 

「私は!あそこで死んだ“家族“たちのためにも!」

 

 咲夜の体が熱くそして細胞一つ一つが活性化していくのがわかる。

 

「私はあなたたちが無意味な死を遂げたわけじゃないと生きて証明したい!だからこれ以上!失望させるわけにはいかないの!!」

 

──咲夜は、あの時生き延びてから初めて隠れる戦いを捨てた。

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